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火の神殿へ
火の神殿へ⑤
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朝食後、モイスに連れて来られたのは、火の神殿近くの洞窟だった。
暗がりの中、周囲を照らすのは、前を行く長身の男が持つ手燭の炎と、マリの懐中電灯の明かりのみ。
二人分だけの足音が洞窟の中に反響し、まだ午前中だと言うのになかなか不気味だ。
(モイスさんが悪人だったら、私簡単に殺されるんだろうな。怖い怖い)
「――火の神さんは質実剛健とでも言うんでしょうか。男の中の男という感じですわ」
「ふぅん……。コミュニケーションが取り辛い感じ?」
「そんな事ありまへんけどね」
世間話をしながら一時間程下方に向かって進むと、だんだん気温が上がってきた。暑いと言ってもいいくらいだ。
「下ってどうなってるの? 妙に暑いんですけど」
「もうじき聖域に着きますんで、ご自分の目で見はったらどうでしょ」
「この暑さの原因は聖域にあるのか……」
何千段にも及びそうな程に長い階段を只管下る。
思ったよりも長時間歩かされ、しだいに額や首に汗をかいてきた。見た目度外視で首にタオルを巻き、更に歩くと、ギョッとするような光景が目に映った。視界いっぱいに広がったのは、朱色に近い赤だ。下の層は、一本の道を挟む様に溶岩が流れている危険地帯。
火の神はこんな危険なところにいるのだろうか。
防衛本能からか進みたくなくなる感情を抑え、なんとか階段を下り切ると、道の向こう側に大男が立っているのが見えた。筋骨隆々で、〇ュー・ジャックマンも真っ青な肉体だ。
しかも風貌は日本的な頑固親父の様なので、非常にとっつきにくそうである。
その大男の前に、モイスが畏まる。
「火の神ウルカヌス様。選定者様をお連れしました」
この男が火の神らしい。マリはモイスにならってペコリとお辞儀し、名を名乗る。
「初めまして。私の名前はマリ・ストロベリーフィールド。宜しく」
「火の神ウルカヌスである。選定者よ。お主にまた会えた事、嬉しく思う」
「生憎だけど、私は前世の記憶なんて持ち合わせてないよ。当然ウルカヌスさんの事も覚えてないから、前世のカミラとのやり取りを前提として話さないでね」
マリの生意気な言葉に、火の神は野太い声で笑った。
「ハハハ。その態度、表情はカミラを思い起こされるがな。まぁ、初対面として接するよう気を付けるとしよう」
火の神は意外と接しやすい性格をしてそうだ。
安心しつつ、マリは目的のうち一つについて口にした。
「魔王が出現しているのは知っているよね? 勇者に力を貸してほしい。直ぐにじゃなくても、魔王と戦う時が来たら、アイツを助けてくれないかな?」
「勿論そのつもりだ。何時でも呼ぶがいい」
「……有難う」
いかにも強そうな姿をしている火の神の協力を取り付ける事が出来た。グレンにとってこれは、魔王との戦いに向けた、大きな一歩になるだろう。
「ウルカヌス様。さっそくで申し訳ありませんが、風の神様の様子を見せていただいても?」
関西弁を引っ込めたモイスが、目的のもう一つを頼む。アレックスと共にマリ達の世界へと渡ってしまった風の神が今頃どうしているのかについては、マリも気になるところだ。
「メルクリウスは精神が未熟なのだ。許してやってほしい」
火の神はそう言いながら、大きく丸い岩の前まで行く。それは不思議な岩だった。ツルリとした表面には薄っすらと青い炎が揺らめいでいる。見た目からして普通であるはずがない。
ウルカヌスはそれに右手をかざし、目を閉じる。
すると、岩の表面に女性の石像のアップが映った。
「うわっ!? えええ!? これ、自由の女神!!」
「ふむ……これはオブジェか。……それにしてもここは様々な気配がひしめく混沌とした街であるな。少し探索してみるか」
映像は自由の女神から、タイムズスクエアに変わり、道を行くニューヨーカーの顔を次々と映す。
「ここがマリ様が暮らしていた世界? 人間の数が半端ない……。それにこの高い建物……。建築の技術力が高すぎますわ」
ニューヨークの風景を初めて見たらしいモイスは、いつも細めている目を見開いて、不思議な岩を見つめている。
だがそれはマリも同様だ。見知った風景に目が釘付けになる。
映像は徐々にマリの生活圏に近付く。マリが通う高校を通り過ぎ、最寄りにある男子校の前まで来る。
ここはアレックスが通う高校だ。
どういうわけか、門の前に生徒達が集まっている。誰かを取り囲んでいるのだろうか。
この男子校にしては珍しい光景なので首を傾げるが、疑問は直ぐに解けた。
男子生徒達を掻き分ける様に飛び出して来たのは、艶やかな金髪の美少女だったのだ。少年達はこの子に興味を持ち、集まっていたのだろう。
彼女はとんでもなく足が速いようで、追いかける男子高生たちをグングン引き離して行く。
「この女が風を司るメルクリウスである」
「嘘!?」
ウルカヌスの言葉に驚く。風の神と示された少女は、ブランド物のワンピースを着ているし、髪も流行りのスタイル。どこをどう見ても、金持ちの家の少女にしか見えない。
「ニューヨークに渡ってから数日しか経ってないのに、馴染みすぎ!」
暗がりの中、周囲を照らすのは、前を行く長身の男が持つ手燭の炎と、マリの懐中電灯の明かりのみ。
二人分だけの足音が洞窟の中に反響し、まだ午前中だと言うのになかなか不気味だ。
(モイスさんが悪人だったら、私簡単に殺されるんだろうな。怖い怖い)
「――火の神さんは質実剛健とでも言うんでしょうか。男の中の男という感じですわ」
「ふぅん……。コミュニケーションが取り辛い感じ?」
「そんな事ありまへんけどね」
世間話をしながら一時間程下方に向かって進むと、だんだん気温が上がってきた。暑いと言ってもいいくらいだ。
「下ってどうなってるの? 妙に暑いんですけど」
「もうじき聖域に着きますんで、ご自分の目で見はったらどうでしょ」
「この暑さの原因は聖域にあるのか……」
何千段にも及びそうな程に長い階段を只管下る。
思ったよりも長時間歩かされ、しだいに額や首に汗をかいてきた。見た目度外視で首にタオルを巻き、更に歩くと、ギョッとするような光景が目に映った。視界いっぱいに広がったのは、朱色に近い赤だ。下の層は、一本の道を挟む様に溶岩が流れている危険地帯。
火の神はこんな危険なところにいるのだろうか。
防衛本能からか進みたくなくなる感情を抑え、なんとか階段を下り切ると、道の向こう側に大男が立っているのが見えた。筋骨隆々で、〇ュー・ジャックマンも真っ青な肉体だ。
しかも風貌は日本的な頑固親父の様なので、非常にとっつきにくそうである。
その大男の前に、モイスが畏まる。
「火の神ウルカヌス様。選定者様をお連れしました」
この男が火の神らしい。マリはモイスにならってペコリとお辞儀し、名を名乗る。
「初めまして。私の名前はマリ・ストロベリーフィールド。宜しく」
「火の神ウルカヌスである。選定者よ。お主にまた会えた事、嬉しく思う」
「生憎だけど、私は前世の記憶なんて持ち合わせてないよ。当然ウルカヌスさんの事も覚えてないから、前世のカミラとのやり取りを前提として話さないでね」
マリの生意気な言葉に、火の神は野太い声で笑った。
「ハハハ。その態度、表情はカミラを思い起こされるがな。まぁ、初対面として接するよう気を付けるとしよう」
火の神は意外と接しやすい性格をしてそうだ。
安心しつつ、マリは目的のうち一つについて口にした。
「魔王が出現しているのは知っているよね? 勇者に力を貸してほしい。直ぐにじゃなくても、魔王と戦う時が来たら、アイツを助けてくれないかな?」
「勿論そのつもりだ。何時でも呼ぶがいい」
「……有難う」
いかにも強そうな姿をしている火の神の協力を取り付ける事が出来た。グレンにとってこれは、魔王との戦いに向けた、大きな一歩になるだろう。
「ウルカヌス様。さっそくで申し訳ありませんが、風の神様の様子を見せていただいても?」
関西弁を引っ込めたモイスが、目的のもう一つを頼む。アレックスと共にマリ達の世界へと渡ってしまった風の神が今頃どうしているのかについては、マリも気になるところだ。
「メルクリウスは精神が未熟なのだ。許してやってほしい」
火の神はそう言いながら、大きく丸い岩の前まで行く。それは不思議な岩だった。ツルリとした表面には薄っすらと青い炎が揺らめいでいる。見た目からして普通であるはずがない。
ウルカヌスはそれに右手をかざし、目を閉じる。
すると、岩の表面に女性の石像のアップが映った。
「うわっ!? えええ!? これ、自由の女神!!」
「ふむ……これはオブジェか。……それにしてもここは様々な気配がひしめく混沌とした街であるな。少し探索してみるか」
映像は自由の女神から、タイムズスクエアに変わり、道を行くニューヨーカーの顔を次々と映す。
「ここがマリ様が暮らしていた世界? 人間の数が半端ない……。それにこの高い建物……。建築の技術力が高すぎますわ」
ニューヨークの風景を初めて見たらしいモイスは、いつも細めている目を見開いて、不思議な岩を見つめている。
だがそれはマリも同様だ。見知った風景に目が釘付けになる。
映像は徐々にマリの生活圏に近付く。マリが通う高校を通り過ぎ、最寄りにある男子校の前まで来る。
ここはアレックスが通う高校だ。
どういうわけか、門の前に生徒達が集まっている。誰かを取り囲んでいるのだろうか。
この男子校にしては珍しい光景なので首を傾げるが、疑問は直ぐに解けた。
男子生徒達を掻き分ける様に飛び出して来たのは、艶やかな金髪の美少女だったのだ。少年達はこの子に興味を持ち、集まっていたのだろう。
彼女はとんでもなく足が速いようで、追いかける男子高生たちをグングン引き離して行く。
「この女が風を司るメルクリウスである」
「嘘!?」
ウルカヌスの言葉に驚く。風の神と示された少女は、ブランド物のワンピースを着ているし、髪も流行りのスタイル。どこをどう見ても、金持ちの家の少女にしか見えない。
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