あたしは蝶になりたい

三鷹たつあき

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JCの制服

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息苦しい日は時間が過ぎるのが遅かったけれど、笑えるようになってしまえば一日はとても短く感じる。時間とは不思議なものだね。人の気持ちとはもっと不思議なものだね。今日が終わるのが切ないとも思うし、新しい明日を心待ちにする気分にもなる。部屋に閉じ籠っていたときには、早く時間が過ぎて欲しいと願っていたけど、決して明日が待ち遠しいとは思えなかった。 
 
 明日はいよいよ中学校の入学式だ。楽しみと緊張感が混じり合う。あたしはまだ青春を謳歌することが許されるのだろうか。
 
 ついこの間卒業した小学校は真に楽しかった。今でもよく想い出す。果たして明日から始まる世界は楽しいと感じさせてくれるのだろうか。昔からそうだ。はじめの一歩を踏み出すには、いつも足がすくんじゃう。飛び込んでしまえばいつも世界は眩いのにね。
 
 多分、想像がつかないから怖いのだろう。先が見えないから怖いのだ。確約された未来があれば、こんな苦い思いはしないですむのだろうか。
 
 不安ばかり抱えていても仕方がない。前を向かなくちゃ。再び陽が昇れば、世界は変わるのだ。今日は早く寝よう。なるようにしかならないのだから。
 
 随分と早く目が覚めてしまった。まだ朝刊さえも届いていない。朝のテレビは退屈だし。どこの局もニュースしかやっていないし、その事件の話は昨日の夜に聞きましたよ、という内容しか流れない。
 
 登校するまであと二時間は暇がある。仕方がないから制服に着替えることにする。白いブラウス、グレーのスカート、赤いリボンに青のブレザー。幼い頃からずっとこの制服に憧れてきた。子供でもなければ大人でもない。子供だと言えば子供扱いされるし、大人だと言い張れば大人扱いされる。中学生とはそんなものだと思っていた。
 
 おしゃれが上手ではないあたしでも、この制服を着れば可愛らしく見えるのではないかとときめいていた。制服は随分大きかったね。中学生はすぐに身長が伸びるからと大きめのサイズを選んだのだから仕方ないか。でも、正直全然可愛くない。これでは制服を着ているというより、被っていると言った感じだ。
 
 せめてワンポイントだけでもおしゃれをしたいけど、お気に入りの赤いヘアピンはやめておこう。小学生のときは割と自由だったけど、中学校は校則が厳しいだろうから。
 
 それから三十分くらい経った頃、やっと家族が目を覚ます。のんびりしているなあ。入学式にはお母さんと岳人が出席してくれるから、それなりに準備というものがあるだろうに。お母さんはあたしの制服姿を見てちょっとだけ笑った。岳人は、
 
「優江。とっても似合うよ。大人みたいだね。」
 
そう言って褒めてくれた。
 
 家を出る前に写真を撮ってもらった。ほとんどの写真に岳人も入り込んできた。いいよ。一緒に写りたいもんね。しばらく寂しい思いをさせてしまったものね。記念の写真は一緒がいいよね。あたしより岳人の笑顔の方が眩しかった。ずっと笑っていたよ。に~って。
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