あたしは蝶になりたい

三鷹たつあき

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自分勝手に死を覚悟しても意味はない

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あたしは可能な得る限り視線を動かして周りにいるみんなの状況を確認した。みんなあたしのすぐ傍にいてくれるからみんなの顔をよく見渡せた。誰もなにも喋らない。みんなそれぞれ色んな想いであたしの顔を見つめているのが分かった。みんなもある程度察しているのだろう。これがあたしとの最期の時間であるということを。

 果歩ちゃんが自分のほっぺたとあたしのほっぺたを擦り合わせるように近づいて語りかけてきてくれた。

「優江。絶対死んだりしないでね。わたしは優江のいない生活なんて考えられないよ。小学生のときからずっと一緒だったもんね。中々こんなこと言う機会もないけどわたし優江が大好き。勉強が大嫌いなわたしでも毎日優江に会うために学校に行っていたんだよ。優江は可愛かったよ。面白かったよ。そして一緒にいると、とても楽しかったよ。

それに優江は優しかったものね。わたしは頭が悪いから優江の存在の大切さを分かってなかったんだね。こんなに大事な優江の存在を感謝しきれていなかったんだね。今更だけど優江はわたしにとってとても大切な人だよ。どうもありがとうだね。わたし、優江がいるのが当たり前だと思っていたよ。いつまでもわたしの傍にいてくれるものだって。甘えん坊だね。自分勝手だったね。高校が違う学校になっても優江はいつでもわたしの傍にいてくれるものだって思い込んでいたよ。

わたしは優江のことを一番大切な存在だと思っていたよ。優江に子供が出来たって聞いたときは自分のことみたいに嬉しかったよ。優江のおなかから出てくる子ならきっと岳人君みたいに可愛い子なんだろうなって思っていた。優江はめちゃくちゃ喜ぶだろうなって思っていた。優江の喜ぶ顔を見るのがとても楽しみだった。優江が喜んでいたらわたしも一緒になって喜びたいなって思っていた。

だから、お願い。返事をして。いつもみたいに優しい優江の笑顔を見せて。優江が元気になってくれるならわたしの命を半分あげるから。わたしの命を使って。そしていつもの優江に戻ってよお。」
 
不思議なものね。体を動かすことも出来ないあたしだったけど、果歩ちゃんのほっぺたの暖かさを感じることは許された。それに何故か果歩ちゃんの口にしていることがなんとなく理解が可能だった。彼女の口の動きを読み取った訳でもない。

だけど、果歩ちゃんの言葉がとても優しいのもだと理解した。優しい彼女の性格と、彼女が手を握り合わせてなにかを祈っている姿から彼女がなにを祈っているのかが、あたしにも伝わった。きっと自分の命を削ってでもあたしが助かるように神様にお願いしてくれているのね。どうもありがとう。果歩ちゃんの想いはしっかりあたしにも届いているよ。

だけど悲しいね。神様はそういう願いはあんまり聞き入れてくれないみたい。あたしも昔、そんな想いを持っていた。だけど、それは叶えられることは無かったの。ほっぺたを寄せ合っているあたし達の横に美羽ちゃんも来てくれた。あたしの左手を彼女の両の手で強く握ってなにかを祈っているようだった。いつもはクールな美羽ちゃんが声を出して泣いているのがあたしにも分かった。流れ出る涙も鼻水も抑えることなく彼女は泣いていた。あたしの名前をずっと呼び続けているのが分かった。ああ、あたしは罪深い女だ。大切な友人ふたりをこんな気持ちにさせてしまって。

ごめんね。どうも有難うね。って言いたかったけどやっぱりあたしは口を開くことが出来ない。そうなのだ。あたしが死を受け入れたとしてもそれは全く自分勝手なことなのだ。あたし以外の優しい人々は今でもあたしの死を拒否し続けている。あたしはもっと頑張らなくてはいけないのか。だけど正直、疲れてしまったよ。ごめんね果歩ちゃん、美羽ちゃん。一番自分勝手なのはあたしだよ。ふたりをとても悲しませてしまうかもしれないけど、あたしはもう自分がどうなってしまうのかも分からないよ。
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