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臨書の人
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しおりを挟む十六時で勤務を終えた私は、横断歩道を渡って歩道へと向かう。
お城のある公園の脇に、廃線になった線路を利用した遊歩道があり、そこを抜けていくと家までの近道になるからだ。
もっと涼しい時期や学校のある時期は、犬の散歩をする人や、下校する生徒がいるのだけれど、日中の暑さが色濃く残っているせいか、私以外に遊歩道を歩く人の姿はない。
赤煉瓦のアーチ型のトンネルを歩きながら、帰り際の井田さんとのやり取りを思い出す。
三人の子供がいる主婦の井田さんが〝お疲れさま〟の挨拶代わりに『実家暮らしのフリーターは気楽でいいわね』と、私に言う。
それにもつい『すみません』と、謝ってしまう自分が嫌になる。
「好きでフリーターになったわけじゃないんです」
井田さんの前では口にできない言葉を、煉瓦造りの短いトンネルの中で呟いてみた。
私の声が小さいからか、トンネルが短いからか、声は反響することもなく、そのまま空気に溶けていく。
そんな自分によくわからない苛立ちを抱えながらトンネルを抜けて、家路を急いだ。
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