あのとき必要だったのはほんのちょっとの勇気だったんだ

千暁

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5.じわじわとわかってきたこと

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「僕は環ちゃんがあのとき新宿の交差点で事故に遭うことを知っていた。2回目の人生だしね。知っていてメッセージを送ったし、あのラウンジに呼び出しもした。でも賭けだったよ、環ちゃんの『戻りたいあの瞬間』が僕らといた時期とは限らないし、僕と出会わなかったかもしれないんだから。覚えてる?僕と環ちゃんは誕生日が1日違いだって。僕は一昨日が誕生日で昨日またこの時期に戻ってきて3回目の人生を送っている。」

「知ってた…?私が事故に遭うことも知ってた…?昨日戻ってきたってことはラウンジには誰も来なかった…?」

混乱する私を見てもケリーは動揺一つせず淡々と話を続けた。

「35歳って人生の岐路だよね。転職しようにも未経験の職種には採用されにくくなるし、求人数も減るし、女性は高齢出産とも言われたりする。思い通りにならない生活の中で『あの頃に戻りたいな』ってふと思ったりすることもある。何故かはわからないけど、35歳で人生をやり直せる人間が一定数いるらしいんだよね。やり直しが出来る人間って僕はなんとなく感じるんだ。環ちゃんがそうだと気付いたのは環ちゃんが東京に行く時の送別会だったよ。」

ケリーの話はよくわからなかったが、いつかの二次会で私とケリーが付き合えばよかったという話になった時にケリーがなんとも言えないような顔をしていたことを思い出した。

「そういえば二次会で私達が付き合えばよかったって話になったとき、ケリーは変な顔してたよね。」

「うん、たぶん環ちゃんとは深い関係になるとわかってたんだよね僕だけ。環ちゃんはまだ全然そう思ってなくてもね。」

まじまじとケリーの顔を見る私をチラッと見て続けた。

「環ちゃんは旦那さんのことを好きだった?すごくすごく好きでない限り、やり直しのこの人生でまた彼と出会うことって難しいんだよね。なんとなく先の人生がわかっていると知らず知らずのうちに都合の悪いことは別の選択をしがちなんだ。これは理解出来る?」

「それはなんとなく…わかる。夫のことはすごくすごく好きとかではないけど、大きな不満もなかったかな。でも暮らしていくうちに友人関係みたいになっていつからか子供を持つことはないだろうなとも思っててさ。」

状況がわからないながらも彼の言いたいことが少し理解でき始めたことに安堵して夫婦生活の話までしてしまった。

ケリーはフフっと笑いながら言った。

「なんか面白いな。今27歳なのに環ちゃんの思考は35歳のまんまで。」

「あー確かに。そっか8歳も若返ったのか。不思議~。あと、時間を巻き戻した?ケリーと私が同じ時期に戻ってきてることも不思議。」

「それはね…環ちゃんの頭にも残るように意識して言った言葉があるしね。伊達に人生2回目やってなかったよ。覚えていてくれてありがとう。僕らが27歳の時に僕が言った言葉を。」

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