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4.バルドへイム王国
2.騎士団に入ります!
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さてさて……。
本日はお日柄もよく!……ん?違った。本日は春の訪れを喜ぶ陽気に恵まれ、多くの王宮管轄機関や商店、各ギルドで新規雇用者の入所式が行われております。
私、エルサも本日!騎士団の入所式に参加しております!
騎士団の制服に身を包み、感無量!
ただ、なぜか私の制服はスカートなのですが……。お父様、制服の手配を間違ったのかしら?
「――であるからして……」
先ほどから長い長い、“為になる”お話が続いているのだが……終わる気配がなく、あちこちから欠伸を漏らす人が目につく。
(あのおじさん、とてもお話が好きな人なのね。私には話の内容がいまいちわからないのが申し訳ないわ。周りの皆さんは、昨日は夜更かししちゃったのね……)
物事をいいように解釈をするエルサは、話の内容を聞き流しながらかかとを1センチ浮かして筋トレに励んでいる。
勿論、周りにはばれていない。
(私の配属先はどこかしら?お父様と一緒がいいのだけど、我儘はだめね。配属先で先輩方に鍛えてもらえるのが楽しみだわ)
部隊配属されるとしか思っていないあたりがエルサらしい。
3か月ほど前、騎士団へ一家で赴き、困惑気味の近衛隊副隊長カリス・ゾルダックと対面した時のこと。
眉間にしわを寄せ、腕組みしたゾルダック副隊長は、深い深いため息をついた。
「……それで?隊長、どうゆうご用件でご家族とこちらへ?」
(おいおい!一家総出ってどういうことだよ!何か問題持ちかけてくる気満々だろ)
ゴードンが面倒ごとを持ち込んできていると危険察知したゾルダック副隊長は、苛立ちを懸命に抑えていたのだが、若干声が低い。
「カリス!末娘のエルサを入隊させたい!どこの部隊にしようか!俺と一緒でもいいよな!」
勝手に話を進めるゴードン。入隊するのに試験が必須なのだが、この男には常識が備わっていないらしい。
「隊長、まずは試験を受けるのが正規の手順です。更には、申し込みを申請いただかねば話にもなりませんが」
務めて冷静に話をするゾルダック副隊長。若干目が座っている。
「そうだったか!ではすぐに書類に記入し、すぐに試験を受けさせよう!」
「……試験は3週間後に予定しておりますが」
「そうだったか!エルサ、3週間後だそうだ!」
「はい!わかりました!お父様」
「まずは申込用紙にご記入を……」
“今すぐ試験“を回避できたことに安堵した副隊長は申込書を手渡す。
(とりあえず記入してもらって帰っていただこう。よし!何も問題は起こっていない)
エルサが申込書に氏名を記入し、希望欄に差しかかった時、サッと申込書を奪うソフィア。
そして、ゾルダック副隊長に淑女の笑みで“お願い”をする。
「副隊長殿、少しお時間よろしいかしら」
一瞬キョトンとした副隊長だが、ソフィアの意図を察知し笑顔で返答する。
「勿論でございます、ソフィア様。隣の控室で少しお話ししましょう。隊長とエルサ様はこちらでお待ちください」
何が起こっているかわかっていない二人をその場に残し、ソフィアはセレナとゾルダック副隊長と共に風のごとく隣室へ向かう。
「お姉さまは何をお話しするのでしょうね、お父様」
「そうだな……。エルサの良さをアピールしに行ったんじゃないか?」
「え~。ここでしてくれてもよかったのに~」
「ソフィアは照れ臭いんだろう。察してやれ」
「ふふふ。お姉さま、“ツンデレ”ですからね。そういえば!お父様!鍛錬のために新しい木刀を購入したいのです」
ズレた二人はソフィアの行動に独自の解釈で納得し、お茶を飲みながら鍛錬話に花を咲かせた。
一方、ソフィアとセレナはゾルダック副隊長とエルサの入隊希望について話を進める。
「ゾルダック副隊長、父とエルサが失礼いたしました」
「いえいえ。いつものことですから。お顔をあげてください。それより、エルサ様のことを話し合いましょう」
深々と頭を下げたソフィアとセレナに、苦笑しながら今後の相談を促すゾルダック。
ゴードンの暴走は今に始まったことではない。暴走を事前に止める、突っ走るのを制止する、何もなかったことにする。それが自分の仕事の大半だと認識している。
「そう言っていただいて助かります。エルサの今後ですが、騎士団への入隊……と言いますか、騎士団の雑用で採用していただけないかと。こちらを飲んでいただけましたら、このセレナももれなくお付けいたします。何かと役立ちますわよ」
ソフィアもまた、ゴードンとエルサの尻ぬぐいは自分の仕事と認識しているので先々を読んで先手を打つことに長けている。勿論、交渉に関してもだ。
「セレナ嬢を!よろしいのですか?セレナ嬢は」
ゾルダック副隊長はちらりとセレナに視線を向ける。その視線は……少し熱を帯びているが、セレナは目を伏せ気味なので気が付かない。
そのゾルダックを見て、口の端をニヤリとあげながらソフィアは続ける。
「セレナはエルサ付きの侍女ですもの。当然ですわ。ね、セレナ」
「勿論でございます、ソフィア様」
そう言って、シルバーブロンドのポニーテール、シルバーの目をしたセレナは頷く。
「っ!!!」
ゾルダックが頬を赤くし、言葉に詰まっているのを見てソフィアは思う。
(いっちょ上がり!)
セレナは容姿端麗、仕事もできる。騎士団の中にセレナに懸想する者がいるのも把握している。その中に、ゾルダック副隊長が含まれているのもソフィアは調査済だ。
(これで、エルサの就職も確定ね。騎士団に入隊は危険だからさせたくないけど、文官になれるような頭脳がないから、どうしようかと思案していたのよね。うまく納まってよかったわ)
かくして、エルサの就職が確定。試験にはエルサの名前が書かれていたらゾルダックが処理をする。こちらの思惑通りに事が進み、ソフィアは笑いが止まらなかった。
入所式後、セレナに騎士団雑務係に引きずられていったエルサは頬を膨らませ拗ねていたが、“この仕事、どちらが早くきれいにできるか競争です”と言われ楽しく仕事をしているようだ。一連の報告を受けたソフィアは、セレナの働きに満足し気前よく追加ボーナスを手配した。
本日はお日柄もよく!……ん?違った。本日は春の訪れを喜ぶ陽気に恵まれ、多くの王宮管轄機関や商店、各ギルドで新規雇用者の入所式が行われております。
私、エルサも本日!騎士団の入所式に参加しております!
騎士団の制服に身を包み、感無量!
ただ、なぜか私の制服はスカートなのですが……。お父様、制服の手配を間違ったのかしら?
「――であるからして……」
先ほどから長い長い、“為になる”お話が続いているのだが……終わる気配がなく、あちこちから欠伸を漏らす人が目につく。
(あのおじさん、とてもお話が好きな人なのね。私には話の内容がいまいちわからないのが申し訳ないわ。周りの皆さんは、昨日は夜更かししちゃったのね……)
物事をいいように解釈をするエルサは、話の内容を聞き流しながらかかとを1センチ浮かして筋トレに励んでいる。
勿論、周りにはばれていない。
(私の配属先はどこかしら?お父様と一緒がいいのだけど、我儘はだめね。配属先で先輩方に鍛えてもらえるのが楽しみだわ)
部隊配属されるとしか思っていないあたりがエルサらしい。
3か月ほど前、騎士団へ一家で赴き、困惑気味の近衛隊副隊長カリス・ゾルダックと対面した時のこと。
眉間にしわを寄せ、腕組みしたゾルダック副隊長は、深い深いため息をついた。
「……それで?隊長、どうゆうご用件でご家族とこちらへ?」
(おいおい!一家総出ってどういうことだよ!何か問題持ちかけてくる気満々だろ)
ゴードンが面倒ごとを持ち込んできていると危険察知したゾルダック副隊長は、苛立ちを懸命に抑えていたのだが、若干声が低い。
「カリス!末娘のエルサを入隊させたい!どこの部隊にしようか!俺と一緒でもいいよな!」
勝手に話を進めるゴードン。入隊するのに試験が必須なのだが、この男には常識が備わっていないらしい。
「隊長、まずは試験を受けるのが正規の手順です。更には、申し込みを申請いただかねば話にもなりませんが」
務めて冷静に話をするゾルダック副隊長。若干目が座っている。
「そうだったか!ではすぐに書類に記入し、すぐに試験を受けさせよう!」
「……試験は3週間後に予定しておりますが」
「そうだったか!エルサ、3週間後だそうだ!」
「はい!わかりました!お父様」
「まずは申込用紙にご記入を……」
“今すぐ試験“を回避できたことに安堵した副隊長は申込書を手渡す。
(とりあえず記入してもらって帰っていただこう。よし!何も問題は起こっていない)
エルサが申込書に氏名を記入し、希望欄に差しかかった時、サッと申込書を奪うソフィア。
そして、ゾルダック副隊長に淑女の笑みで“お願い”をする。
「副隊長殿、少しお時間よろしいかしら」
一瞬キョトンとした副隊長だが、ソフィアの意図を察知し笑顔で返答する。
「勿論でございます、ソフィア様。隣の控室で少しお話ししましょう。隊長とエルサ様はこちらでお待ちください」
何が起こっているかわかっていない二人をその場に残し、ソフィアはセレナとゾルダック副隊長と共に風のごとく隣室へ向かう。
「お姉さまは何をお話しするのでしょうね、お父様」
「そうだな……。エルサの良さをアピールしに行ったんじゃないか?」
「え~。ここでしてくれてもよかったのに~」
「ソフィアは照れ臭いんだろう。察してやれ」
「ふふふ。お姉さま、“ツンデレ”ですからね。そういえば!お父様!鍛錬のために新しい木刀を購入したいのです」
ズレた二人はソフィアの行動に独自の解釈で納得し、お茶を飲みながら鍛錬話に花を咲かせた。
一方、ソフィアとセレナはゾルダック副隊長とエルサの入隊希望について話を進める。
「ゾルダック副隊長、父とエルサが失礼いたしました」
「いえいえ。いつものことですから。お顔をあげてください。それより、エルサ様のことを話し合いましょう」
深々と頭を下げたソフィアとセレナに、苦笑しながら今後の相談を促すゾルダック。
ゴードンの暴走は今に始まったことではない。暴走を事前に止める、突っ走るのを制止する、何もなかったことにする。それが自分の仕事の大半だと認識している。
「そう言っていただいて助かります。エルサの今後ですが、騎士団への入隊……と言いますか、騎士団の雑用で採用していただけないかと。こちらを飲んでいただけましたら、このセレナももれなくお付けいたします。何かと役立ちますわよ」
ソフィアもまた、ゴードンとエルサの尻ぬぐいは自分の仕事と認識しているので先々を読んで先手を打つことに長けている。勿論、交渉に関してもだ。
「セレナ嬢を!よろしいのですか?セレナ嬢は」
ゾルダック副隊長はちらりとセレナに視線を向ける。その視線は……少し熱を帯びているが、セレナは目を伏せ気味なので気が付かない。
そのゾルダックを見て、口の端をニヤリとあげながらソフィアは続ける。
「セレナはエルサ付きの侍女ですもの。当然ですわ。ね、セレナ」
「勿論でございます、ソフィア様」
そう言って、シルバーブロンドのポニーテール、シルバーの目をしたセレナは頷く。
「っ!!!」
ゾルダックが頬を赤くし、言葉に詰まっているのを見てソフィアは思う。
(いっちょ上がり!)
セレナは容姿端麗、仕事もできる。騎士団の中にセレナに懸想する者がいるのも把握している。その中に、ゾルダック副隊長が含まれているのもソフィアは調査済だ。
(これで、エルサの就職も確定ね。騎士団に入隊は危険だからさせたくないけど、文官になれるような頭脳がないから、どうしようかと思案していたのよね。うまく納まってよかったわ)
かくして、エルサの就職が確定。試験にはエルサの名前が書かれていたらゾルダックが処理をする。こちらの思惑通りに事が進み、ソフィアは笑いが止まらなかった。
入所式後、セレナに騎士団雑務係に引きずられていったエルサは頬を膨らませ拗ねていたが、“この仕事、どちらが早くきれいにできるか競争です”と言われ楽しく仕事をしているようだ。一連の報告を受けたソフィアは、セレナの働きに満足し気前よく追加ボーナスを手配した。
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