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4.バルドへイム王国
4.君の涙を見ると胸が苦しくなるんだ グランツside(1)
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俺はグランツ・バルディーニ。公爵家の次男だ。
魔力量が多くコントロールが難しかったので、父の勧めで4歳から鍛錬を騎士団でするようになった。最初は体力もなかったこともあり、毎日がきつかった。だが、弱音は吐かなかった。
鍛錬指導してくれたのは今注目を浴びているバルデック男爵、後の騎士団長だ。
とにかく筋肉が熱い!
言葉も熱い!
そして、家族に甘い!
騎士団に入り浸るようになってから半年ほど経ったある日、バルデック男爵が血相を変えて急遽帰宅した。どうやら奥方が産気づいたので付き添うのだという。すでに一人ご息女がおられるが、「今から家族が増えるのが楽しみだ」と同僚たちと話しているのを目にしていた。なのできっと喜びに満ちた笑顔で報告してくれるだろうと皆で話していた。
翌日、奥方が出産の際に出血がひどく、儚くなられたと聞いた時は……誰も何も言葉にできず立ちすくんだ。
奥方の葬儀に参列をすることとなり、父上と兄上で墓所に向かった。奥方は多くの方から好かれていたようで、墓所の周りには馬車がひしめき合い列をなしている。少し離れた木陰からひっそりとこちらを見ている人たちが見えた。女性は涙を流し立っているのもやっとという様子で、隣の男性に支えられていた。男性が涙をぬぐうため、ファシネーターのベールが捲られお顔がちらりと見えたが、かの女姓はバルドへイム王国の王女テレシア・バルドへイムその人だった。
(そういえば、ゴードンさんの奥方サツキ様とテレシア王女はご学友だったか。サツキ様は“渡り人”で、今の国王とテレシア様の仲に割って入ったとかなんとか当時言われていたけど、実際は二人の仲を取り持ったんだったな。さすがに国王両陛下が葬儀参列は……まずいよな)
“渡り人”とは異世界から転移してきた人のことをいい、サツキ様は胸のあたりを大きなリボンが結ばれた濃紺の“制服”に身を包まれたお姿でこちらの世界にやってきた。
サツキ様は歯にものを着せぬ話し方をされる方で、女性から絶大なる支持を得られていた。
いつも感情を表に出さず、冷静に物事を見る癖がついていた俺は、子供らしからぬ大人びた思考であたりを見回していた。
葬儀というものは負の感情が少なからず渦巻くものだが、今日はとても穏やかだ。悲しみの声は聞こえるが、黒く濁った声は聞こえない。
「本日は、サツキの最後のお別れにお越しくださり、ありがとうございます」
ゴードンさんが皆に聞こえるよう大きな声で挨拶を述べる。目の周りは赤く腫れている。
「俺はサツキと出会ってからずっと幸せでした。サツキが神のみもとへ帰ってしまい、寂しくつらい気持ちでいっぱいですが、大切な家族を残してくれました。長女のソフィアとこの度生まれましたエルサです。今後とも温かく見守ってください」
ゴードンさんの隣にはサツキ様と同じ黒髪ストレートに黒目の少女と彼女に抱きかかえられている赤子がいた。赤子はゴードンさんと同じく栗色癖っ毛の髪のようだ。涙をこらえているソフィア嬢の顔に手を伸ばし、かわいい声を発している。
そう、とてもかわいい声だ。
胸がざわめく。
もっと近くに寄って顔を見てみたい。
こんな感情久しくなかった。
挨拶を終えたゴードンさんに向かって、人をかき分けゆっくりと歩みを進める。
胸が締め付けられる。
その顔を、声を、俺は――。
「おう、グランツ。来てくれたのか。ありがとうな。ソフィアとエルサだ。ソフィアはお前と同い年だ。エルサは……先日生まれたばかりだ」
ゴードンは笑顔で家族を紹介してくれた。ソフィア嬢はサツキ様にそっくりだ。少しつり目だが、意思のしっかり持った淑女になるだろう。
そして、彼女が抱えている赤子のエルサ嬢に視線を移す。
トクン……トクン……
ああ……。心臓の音がうるさい。
わかっている。
こんなに感情が揺さぶられるなんて……。
深呼吸をし、ゆっくりと顔をのぞいてみた。
「ッ!!!!」
声にならない。
感情が一気にあふれて鼓動が激しくなる。
胸がキュッとなり、服を握りしめた。
この愛らしいヘーゼル色の瞳。
ところどころにアンバーのような光彩が見える。
――間違いない――
俺はこの出会いに感謝した。
「エルサ嬢。俺が必ず守るから。ずっと笑っていてくれ」
魔力量が多くコントロールが難しかったので、父の勧めで4歳から鍛錬を騎士団でするようになった。最初は体力もなかったこともあり、毎日がきつかった。だが、弱音は吐かなかった。
鍛錬指導してくれたのは今注目を浴びているバルデック男爵、後の騎士団長だ。
とにかく筋肉が熱い!
言葉も熱い!
そして、家族に甘い!
騎士団に入り浸るようになってから半年ほど経ったある日、バルデック男爵が血相を変えて急遽帰宅した。どうやら奥方が産気づいたので付き添うのだという。すでに一人ご息女がおられるが、「今から家族が増えるのが楽しみだ」と同僚たちと話しているのを目にしていた。なのできっと喜びに満ちた笑顔で報告してくれるだろうと皆で話していた。
翌日、奥方が出産の際に出血がひどく、儚くなられたと聞いた時は……誰も何も言葉にできず立ちすくんだ。
奥方の葬儀に参列をすることとなり、父上と兄上で墓所に向かった。奥方は多くの方から好かれていたようで、墓所の周りには馬車がひしめき合い列をなしている。少し離れた木陰からひっそりとこちらを見ている人たちが見えた。女性は涙を流し立っているのもやっとという様子で、隣の男性に支えられていた。男性が涙をぬぐうため、ファシネーターのベールが捲られお顔がちらりと見えたが、かの女姓はバルドへイム王国の王女テレシア・バルドへイムその人だった。
(そういえば、ゴードンさんの奥方サツキ様とテレシア王女はご学友だったか。サツキ様は“渡り人”で、今の国王とテレシア様の仲に割って入ったとかなんとか当時言われていたけど、実際は二人の仲を取り持ったんだったな。さすがに国王両陛下が葬儀参列は……まずいよな)
“渡り人”とは異世界から転移してきた人のことをいい、サツキ様は胸のあたりを大きなリボンが結ばれた濃紺の“制服”に身を包まれたお姿でこちらの世界にやってきた。
サツキ様は歯にものを着せぬ話し方をされる方で、女性から絶大なる支持を得られていた。
いつも感情を表に出さず、冷静に物事を見る癖がついていた俺は、子供らしからぬ大人びた思考であたりを見回していた。
葬儀というものは負の感情が少なからず渦巻くものだが、今日はとても穏やかだ。悲しみの声は聞こえるが、黒く濁った声は聞こえない。
「本日は、サツキの最後のお別れにお越しくださり、ありがとうございます」
ゴードンさんが皆に聞こえるよう大きな声で挨拶を述べる。目の周りは赤く腫れている。
「俺はサツキと出会ってからずっと幸せでした。サツキが神のみもとへ帰ってしまい、寂しくつらい気持ちでいっぱいですが、大切な家族を残してくれました。長女のソフィアとこの度生まれましたエルサです。今後とも温かく見守ってください」
ゴードンさんの隣にはサツキ様と同じ黒髪ストレートに黒目の少女と彼女に抱きかかえられている赤子がいた。赤子はゴードンさんと同じく栗色癖っ毛の髪のようだ。涙をこらえているソフィア嬢の顔に手を伸ばし、かわいい声を発している。
そう、とてもかわいい声だ。
胸がざわめく。
もっと近くに寄って顔を見てみたい。
こんな感情久しくなかった。
挨拶を終えたゴードンさんに向かって、人をかき分けゆっくりと歩みを進める。
胸が締め付けられる。
その顔を、声を、俺は――。
「おう、グランツ。来てくれたのか。ありがとうな。ソフィアとエルサだ。ソフィアはお前と同い年だ。エルサは……先日生まれたばかりだ」
ゴードンは笑顔で家族を紹介してくれた。ソフィア嬢はサツキ様にそっくりだ。少しつり目だが、意思のしっかり持った淑女になるだろう。
そして、彼女が抱えている赤子のエルサ嬢に視線を移す。
トクン……トクン……
ああ……。心臓の音がうるさい。
わかっている。
こんなに感情が揺さぶられるなんて……。
深呼吸をし、ゆっくりと顔をのぞいてみた。
「ッ!!!!」
声にならない。
感情が一気にあふれて鼓動が激しくなる。
胸がキュッとなり、服を握りしめた。
この愛らしいヘーゼル色の瞳。
ところどころにアンバーのような光彩が見える。
――間違いない――
俺はこの出会いに感謝した。
「エルサ嬢。俺が必ず守るから。ずっと笑っていてくれ」
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