200 / 200
第二十九話 魔女ロヴェリナの遺産
6
しおりを挟む突然の姫様の訪問に皆が固まる中、ルウドも固まった。
この社交会場の中でそもそも何の用でここに姫が現れたのか?
全くいい予感がしなかった。
「あっ、姫様、ごきげんよう・・・」
全員が立ち上がり、姫に一礼する。姫の横から現れた騎士が慌てて頭を下げた。
「お客様方、突然申し訳ありません。お楽しみのところに水を差してしまい…」
第一騎士団の副長が慌てながら姫のフォローをしている。とても珍しい光景である。
「何か慌てている様子ですがなにかありましたか?」
「いやいや、お客様方を騒がすほどの事では……、その‥‥ルウドさん、ちょっと…」
「あ、はい」
姫がルウドを睨んでいる。何か言いたそうではあるが友人たちの前では憚られる。
「少し席を外します。皆さんは私にかまわず食事を進めていてください」
「・・・・・はい・・」
ルウドは姫と騎士を連れてそそくさと部屋を出た。
廊下はまずいので空いた部屋に入る。
「それで?何してるのよ私のところにも来ないで」
「仕事ではないのですから必要ないでしょう?」
「城に帰って来たなら挨拶はすべきじゃないの?」
「・・・それは明日でも良いかと。今は友人たちと交友していますし」
「貴族の友人?全く知らなかったけどいつの間にどこから現れたのかしら?」
「少々のご縁で知り合ったのですよ。別に姫には関係ないでしょう?」
「私を優先できないほどの大切な友人ね。関係ないなんて酷い言い方よくも出来たものね」
「ただの事実ですが、そんな大げさな」
「あなたに関係することが私に関係ない事なんてないわ」
「何故ですか?何かするつもりなら止めて下さい。あなたが彼らに何かするとあなたの評判がまた地に落ちるだけですよ。わざわざ自分の首を絞めるようなことは止めて下さい。
あなた曲りなりにもこの国のお姫様でしょう?」
「失礼ね。ずっと待っていたのにやっと帰って来たと思ったらその言い草?ほかにもっと言い方はないわけ?この朴念仁!」
「―――――― !」
ルウドとティア姫はにらみ合う。
「――――ああああああ、あの!二人ともこの辺で!ルウドさんも友人が待っているでしょう?姫様、もうこの辺で!もう十分でしょう?」
二人の間に寒い空気を感じたマクレイが必死でとりなす。
「部外者は黙ってなさい!」
姫ににらまれてマクレイは石になった。
「…ティア様、私はまだ友人たちの相手があるので今日のところは引いてください。つづきは明日にしてください」
「気に入らないわ。はなから私がお客様に何かするという前提で言ってるわね」
「何もする気はないのなら大人しくお帰りください」
「―――――ルウド、私はこの国の姫よ」
「え?そうですね、はい」
「来賓への挨拶は王族の義務なのにのけ者扱いはあんまりでしょう?ルウドの友人は紹介も出来ない人達なわけ?」
「そんなことはありません」
「なら紹介しなさい」
「‥…しかし」
「そんなに信用無いわけ?私は」
「日頃の行いが悪すぎるからでしょう?」
「相手はちゃんと選ぶわよ。いきなり見知らぬ人に危害加えるわけないでしょう」
「‥…本当ですか?」
「当然でしょう?」
「・・・・・・・」
第一騎士団副隊長ロディアス=マクレイは本日の仕事に大変な理不尽さを感じていた。
――――なぜ私が子供の相手をせねばならない?それもとびきり我が儘で理不尽な子供の相手を・・・
姫の相手をしたいという第一騎士がいなかったからだ。仕方なく自分が貧乏くじを引いた。引いたところで姫の暴挙を止めることはできなかった。
――――もう勝手にしてください!
もはや投げやりな気持ちで客室のドアを開けた。
件の二人が中へ入ると客人たちが席を立つ。
「突然の訪問で驚かせてしまったわね。ごめんなさい。私はこの国の第三皇女ティアよ。よろしくお見知りおきくださいね」
姫がにっこり微笑み、お客たちは息を飲む。
顔色の悪いルウドがお客の紹介をする。
「・・・姫様。彼らはグランツ伯爵の縁者で孫息子ダミアン様と彼の婚約者ミーミア嬢。ダミアンの従妹グロリア嬢とミーミアの友人コレット嬢です」
名を呼ばれて一人づつ姫に一礼する。
「あとはロズと私でパーティに参加したのです。目的などありません、ただお城のパーティを楽しみたいという理由です」
「・・・・へえ、たしかにそのようね。私はまたルウドが浮気を見せつける目的で現れたと思ったけれどね」
なぜか姫は何の落ち度もない客人ロズを睨みつける。
「――――何を言っているのですか?浮気って何のことですかっ!不穏なことを言うのは止めて下さい!」
「気に入らないわ」
「ななななな、何がですか?」
「それにしてもグランツ伯なんてルウドの口から初めて聞いたわ。どこで知り合ったのよ?」
「オーレイ伯爵のご友人でそこから」
「・・・ビルディ=オーレイ伯爵ね。随分と仲良くなったのね、伯爵家にお泊りして、一緒に生活して、後継ぎにでもなるつもり?」
「おかしなことを仰らないでください」
「まあいいわ、今日のところはこれで見逃してあげる。お客様には罪はなさそうだし」
「・・・・あるわけないでしょう?」
「聞きたいことは明日からじっくり聞かせてもらうから。これで退散してあげる」
「・・・・そうですか」
「―――だけどルウド、浮気は許さないから」
「・・・・・・・・・」
冷や汗のルウドを尻目にティア姫は部屋を後にした。
マクレイは姫の後に続く。
嵐は何とか去った。
しかし客人たちのルウドを見る目が変わった。
「・・・・・・・・」
「ルウドさん、お姫様と随分親密なようで」
「というかもう恋人なのでは?」
「浮気はダメって…‥そうなのですね」
「そういうことなら先に言っておいて欲しかったですわ」
「・・・すいません、いえ違います。恋人だなんて恐れ多い。その、仕事上親密なのは認めますが」
「姫様はとてもただ事ではない様子でしたよ?」
「あの方はいつもあんな感じなので、どうかお気になさらず」
「けしてルウドさんに手を出すなとしっかり釘を刺していったようですが」
「・・・・・・」
ルウドは言葉に詰まった。
客人たちは姫の所業に気分を害したようでもなくただ楽しく会話をしている。
「フフフッ、可愛らしい姫様でしたね、毎日お会いできるって幸せなことですね」
「・・・・そうですね・・」
外見だけは見目麗しい姫は中身の荒々しさを知らない人達には可憐で可愛らしい姫様にしか見えない。それはそれで幸せなことだ。
意地悪姫の内情を知っているルウドはまた明日から始まる試練を思いふと笑みがこぼれた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
起きたら猫に!?~夫の本音がだだ漏れです~
水中 沈
恋愛
(猫になっちゃった!!?)
政務官の夫と大喧嘩した翌朝、目が覚めたら猫になっていたアネット。
パニックになって部屋を飛び出し、行き着いた先は夫、マリウスの執務室だった。
(どうしよう。気まずいわ)
直ぐに立ち去りたいが扉を開けようにも猫の手じゃ無理。
それでも何とか奮闘していると、マリウスがアネット(猫)に気付いてしまう。
「なんでこんなところに猫が」
訝しそうにするマリウスだったが、彼はぽつりと「猫ならいいか」と言って、誰の前でも話さなかった本音を語り始める。
「私は妻を愛しているんだが、どうやったら上手く伝えられるだろうか…」
無口なマリウスの口から次々と漏れるアネットへの愛と真実。
魔法が解けた後、二人の関係は…
死ぬ瞬間にだけ、愛してほしい
しょくぱん
恋愛
「代わって。死なない程度に、ね?」
異母姉リリアーヌの言葉一つで、エルゼの体は今日もボロボロに削られていく。
エルゼの魔法は、相手の傷と寿命を自らに引き受ける「禁忌の治癒」。
その力で救い続けてきたのは、初恋の人であり、姉の婚約者となった王太子アルベルトだった。
自分が傷つくほど、彼は姉を愛し、自分には冷ややかな視線を向ける。
それでもいい。彼の剣が折れぬなら、この命、一滴残らず捧げよう。
だが、エルゼの寿命は残りわずか。
せめて、この灯火が消える瞬間だけは。
偽りの聖女ではなく、醜く焼けた私を、愛してほしい。
妹のために愛の無い結婚をすることになりました
バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」
愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。
婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。
私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。
落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。
思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる