意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第二十九話 魔女ロヴェリナの遺産

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  突然の姫様の訪問に皆が固まる中、ルウドも固まった。
 この社交会場の中でそもそも何の用でここに姫が現れたのか?
 全くいい予感がしなかった。

「あっ、姫様、ごきげんよう・・・」

 全員が立ち上がり、姫に一礼する。姫の横から現れた騎士が慌てて頭を下げた。

「お客様方、突然申し訳ありません。お楽しみのところに水を差してしまい…」

 第一騎士団の副長が慌てながら姫のフォローをしている。とても珍しい光景である。

「何か慌てている様子ですがなにかありましたか?」

「いやいや、お客様方を騒がすほどの事では……、その‥‥ルウドさん、ちょっと…」

「あ、はい」

 姫がルウドを睨んでいる。何か言いたそうではあるが友人たちの前では憚られる。

 「少し席を外します。皆さんは私にかまわず食事を進めていてください」

 「・・・・・はい・・」

 ルウドは姫と騎士を連れてそそくさと部屋を出た。
 廊下はまずいので空いた部屋に入る。





「それで?何してるのよ私のところにも来ないで」

「仕事ではないのですから必要ないでしょう?」

「城に帰って来たなら挨拶はすべきじゃないの?」

「・・・それは明日でも良いかと。今は友人たちと交友していますし」

「貴族の友人?全く知らなかったけどいつの間にどこから現れたのかしら?」

「少々のご縁で知り合ったのですよ。別に姫には関係ないでしょう?」

「私を優先できないほどの大切な友人ね。関係ないなんて酷い言い方よくも出来たものね」

「ただの事実ですが、そんな大げさな」

「あなたに関係することが私に関係ない事なんてないわ」

「何故ですか?何かするつもりなら止めて下さい。あなたが彼らに何かするとあなたの評判がまた地に落ちるだけですよ。わざわざ自分の首を絞めるようなことは止めて下さい。
 あなた曲りなりにもこの国のお姫様でしょう?」

「失礼ね。ずっと待っていたのにやっと帰って来たと思ったらその言い草?ほかにもっと言い方はないわけ?この朴念仁!」

「―――――― !」

 ルウドとティア姫はにらみ合う。

「――――ああああああ、あの!二人ともこの辺で!ルウドさんも友人が待っているでしょう?姫様、もうこの辺で!もう十分でしょう?」

 二人の間に寒い空気を感じたマクレイが必死でとりなす。

「部外者は黙ってなさい!」

 姫ににらまれてマクレイは石になった。

「…ティア様、私はまだ友人たちの相手があるので今日のところは引いてください。つづきは明日にしてください」

「気に入らないわ。はなから私がお客様に何かするという前提で言ってるわね」

「何もする気はないのなら大人しくお帰りください」

「―――――ルウド、私はこの国の姫よ」

「え?そうですね、はい」

「来賓への挨拶は王族の義務なのにのけ者扱いはあんまりでしょう?ルウドの友人は紹介も出来ない人達なわけ?」

「そんなことはありません」

「なら紹介しなさい」

「‥…しかし」

「そんなに信用無いわけ?私は」

「日頃の行いが悪すぎるからでしょう?」

「相手はちゃんと選ぶわよ。いきなり見知らぬ人に危害加えるわけないでしょう」

「‥…本当ですか?」

「当然でしょう?」

「・・・・・・・」
 





  第一騎士団副隊長ロディアス=マクレイは本日の仕事に大変な理不尽さを感じていた。

 ――――なぜ私が子供の相手をせねばならない?それもとびきり我が儘で理不尽な子供の相手を・・・

 姫の相手をしたいという第一騎士がいなかったからだ。仕方なく自分が貧乏くじを引いた。引いたところで姫の暴挙を止めることはできなかった。

 ――――もう勝手にしてください!

 もはや投げやりな気持ちで客室のドアを開けた。
 件の二人が中へ入ると客人たちが席を立つ。










「突然の訪問で驚かせてしまったわね。ごめんなさい。私はこの国の第三皇女ティアよ。よろしくお見知りおきくださいね」

 姫がにっこり微笑み、お客たちは息を飲む。
 顔色の悪いルウドがお客の紹介をする。

「・・・姫様。彼らはグランツ伯爵の縁者で孫息子ダミアン様と彼の婚約者ミーミア嬢。ダミアンの従妹グロリア嬢とミーミアの友人コレット嬢です」

 名を呼ばれて一人づつ姫に一礼する。

「あとはロズと私でパーティに参加したのです。目的などありません、ただお城のパーティを楽しみたいという理由です」

「・・・・へえ、たしかにそのようね。私はまたルウドが浮気を見せつける目的で現れたと思ったけれどね」

 なぜか姫は何の落ち度もない客人ロズを睨みつける。

「――――何を言っているのですか?浮気って何のことですかっ!不穏なことを言うのは止めて下さい!」

「気に入らないわ」

「ななななな、何がですか?」

「それにしてもグランツ伯なんてルウドの口から初めて聞いたわ。どこで知り合ったのよ?」

「オーレイ伯爵のご友人でそこから」

「・・・ビルディ=オーレイ伯爵ね。随分と仲良くなったのね、伯爵家にお泊りして、一緒に生活して、後継ぎにでもなるつもり?」

「おかしなことを仰らないでください」

「まあいいわ、今日のところはこれで見逃してあげる。お客様には罪はなさそうだし」

「・・・・あるわけないでしょう?」

「聞きたいことは明日からじっくり聞かせてもらうから。これで退散してあげる」

「・・・・そうですか」

「―――だけどルウド、浮気は許さないから」

「・・・・・・・・・」

 冷や汗のルウドを尻目にティア姫は部屋を後にした。
 マクレイは姫の後に続く。






 


 嵐は何とか去った。
 しかし客人たちのルウドを見る目が変わった。

「・・・・・・・・」

「ルウドさん、お姫様と随分親密なようで」

「というかもう恋人なのでは?」

「浮気はダメって…‥そうなのですね」

「そういうことなら先に言っておいて欲しかったですわ」

「・・・すいません、いえ違います。恋人だなんて恐れ多い。その、仕事上親密なのは認めますが」

「姫様はとてもただ事ではない様子でしたよ?」

「あの方はいつもあんな感じなので、どうかお気になさらず」

「けしてルウドさんに手を出すなとしっかり釘を刺していったようですが」

「・・・・・・」

 ルウドは言葉に詰まった。
 客人たちは姫の所業に気分を害したようでもなくただ楽しく会話をしている。

「フフフッ、可愛らしい姫様でしたね、毎日お会いできるって幸せなことですね」

「・・・・そうですね・・」

 外見だけは見目麗しい姫は中身の荒々しさを知らない人達には可憐で可愛らしい姫様にしか見えない。それはそれで幸せなことだ。
 意地悪姫の内情を知っているルウドはまた明日から始まる試練を思いふと笑みがこぼれた。




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