意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第三話 白薔薇姫と三人の求婚者

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 山と湖に囲まれた小国マルス王国には三人の姫がいる。
 聡明でたおやかな姫アリシアと明るく活発で愛らしい姫ミザリー、そして白薔薇のように清楚可憐と噂されるティア姫。
 特に目を引く特産物などない田舎の国だが三人の王女は国に誇れるの宝とも言える。

 その宝が欲しくて他国の皇子たちはここの王に色々交渉を持ちかけているが王は子供達には自分で相手を見つけさせる主義らしい。どの国にも同じような返答をしたそうだ。

 すなわち、姫が欲しくば自分で当人に交渉し承諾を得よと。

 なので自らこの国へきて姫にお会いするしかない。
 手紙や贈り物など意味がないのだ。それ位皆している事だし実際姫が手紙を読んでいる可能性も低い。いくら高価な贈り物をしても名前すら認知されていない可能性が高い。

 だから彼はこの国にきた。
 現在王の子供達は皇子を筆頭に婚約者となる相手を捜すため、月に一度はパーティが模様され、身元の確かな客人の長期滞在を許されている。
 とはいえ彼とて余り長い滞在は出来ないがせめて姫に認知される位の結果は出して国へ帰りたい。でなければ訪問の意味がない。

 ―――しかし‥‥

 彼は深いため息をつく。
 ここへ来て数か月、いまだに目的の姫に逢う事が出来ない。自ら何度も姫の部屋へ訪問してもいつもいない。何故か姿さえ拝めない。
 
何度王に接見を求めたいと思ったが、この件に王も王妃も一切協力しないから自らの力で何とかするようにと訪問の際に言われた。この条件を呑めないなら姫を諦めなければならないそうだ。

 この城の何処かにいるはずなのだから自分の足で捜し回るしか術がない。
 次のパーティこそは白薔薇姫様の相手となりたい。






 三人の皇子たちはすでに城に入っていた。ほぼ同時期にティア姫への求婚を申し込んで同じ時期に城へ来た。王への謁見もほぼ同時期。

 マルクス=トゥエルグ エルグ国第三皇子
 カイン=リィオン ギイ国第五皇子
 バルト=エルガルド エルガルド第六皇子

 年も同じ十八歳の彼らはライバル心むき出しだ。誰が先に姫の心を射止めるかと賭けまでしている。
 城内でも彼らの噂は流れ、密かに賭けまでする者が現れたが彼らはまだ姫の姿さえ捉えていない。
 王の助けも得られず困った三人は宛がわれた客室で相談する。

「姫が見つからないのではどうにもならないだろう?パーティの席には現れると思うがそれでは遅すぎる」

「やはり王族の誰かに助けて貰う方が?」

「それはルール違反だ。だがその辺に沢山いる護衛隊達に助言を求めてはどうか?」

「もう聞いたが分からないと言われた。この国の者は姫の求婚者に対してどうも非協力的だ」

「しかしなぜこうも姫は捕まらないのだ?もう三か月以上捜し回ってもお目にかかっていないという者にも会ったぞ」

「もしかして我々は迷惑がられているのか?」

「分からない、我々の事を知っているのかも判らない」

「ここまで来て姫に一目も会えずに帰るなど恥さらしな事は出来ない」

「全くだ、何としてもパーティまでにお会いしなければ」

「虱潰しにあたるしかないな。これはもう運しかない」

「結局自分の足しかないのか…」

 皇子たちは溜息を落す。
 国を繋ぐ政略結婚ならば簡単に姫を手に入れる事ができたはずなのにこの国の王族は恋愛結婚をさせるという。恋愛結婚がこんなに厄介だとは思わなかった。







 三番隊長ハリスは護衛任務で薔薇園にいた。すると何人もの男達が別々に声をかけてきた。

「ハリス隊長、こんな所で何を?」

「ああちょっとね……スティア殿下」

 あちこちで護衛任務をするハリスは姫を捜して右往左往している彼とは時折話す仲となっていた。彼もまたティア姫目的なので滅多な事は言えないが。

「殿下はやめて下さいよ?スティアでいいです」

 金髪の二十歳の青年はさわやかに笑う。好青年だ。

「ここにいるという事は休憩ですか。私はティア姫様を捜しながら散歩です。もう何度ここを通ったことか…」

「はあ…まあ、何と言っていいか…」

「お気になさらず。私は諦める気はありませんから。必ずやティア姫様を見つけてみせます」

「‥‥」

 スティアはめげることなく薔薇園を通過していった。
 ハリスは困った顔で彼を見送るとひょっこりティア姫が薔薇の隙間から顔を出した。頭に帽子とタオル、虫に刺されないようばっちり庭師の格好をしている。

 誰もこんな姫を想像できない。見つかるわけがない。
 姫は薔薇の手入れをしていたのだが何だか苦々しい顔をしてハリスの元へ来た。

「またあの男?しつこいわねえ。困るのよ」

「…何か顔を合わせてまずい事があるのですか?先程の三皇子はまだ何ともいえませんから近づくのは止めますがスティア殿下はもういい加減シロだと思いますし会って差し上げるくらいは良いのでは」

「ホントに差し出がましいわねえ貴方は。ホント煩い」

「‥‥嫌ならルウドに代わりますよ。薔薇園の管轄はルウドでしょう?」

「やめてよ、薔薇の手入れなんかしていたらすごい口挟まれるに決まってるでしょ。気晴らしなのに冗談じゃないわ」

「まあそれはそうですねえ…」

「とにかくあの人には会えないわ。別件でやばいのよ。もういい加減諦めてくれないかしら。あなた何とかならないの?」

「なりませんし、出来ません。彼もまた私などより身分の高い皇子様ですから」

「厄介の種を全て追い払う方法はないかしら?」

「滅多な事をするとあらゆる所からお叱りを受けますよ?」

「なんとかならないのかしら?」

「お相手さえ見つかれば後は静かになりますよ。アリシア様のように」

「‥‥」
「‥‥すみません、余計なこと言いました」
 
ティア姫ならば気持ちに踏ん切りさえつけば相手など簡単に見つかるだろう。
だがそれが出来ないから彼女は苦しむのだ。









 薔薇園でティア姫を捜しまわった後、スティアは庭へ出てやたら目立つ男達を見る。
 黒髪、茶髪、金髪。賑やかにも我先にと周囲にティア姫の情報を聞き回り迷惑をかけている男達はどこかの国の皇子だろう。
 スティアとしてはライバルが増えて尚更焦る。彼らのあの騒ぎならティア姫を見つけてしまうような気がする。先に見つけられたらどうしよう?
 やはり彼ら同様派手に捜しまわった方が得策なのだろうか?

「どうかなさいましたか?フィリップ殿下」

「ルウド隊長」

 ぼんやり派手な人たちを見ていたスティアに声をかけてきたのは二番隊長だ。ティア姫を捜していると彼にも何故かよく出会う。彼は貴人の護衛が仕事なのでどこにでもいる。

「・・・私は何か間違っているのでしょうか?これだけ捜してもお目にすら掛かれないなんて」

「‥‥ああ、ええと」

「もっと派手に捜しまわった方がいいのでしょうか?このままではあの派手なライバル達に先を越されてしまう。私などこの通りただのさえない皇子だし、特出するところなど一つもないから、だからこそ誰よりも早く姫さまとお知り合いになりたかったのに」

「‥そんな、冴えないなどと、そのような事はけして‥‥」

「いいえ、いいのです。やはり私のような冴えない皇子は父の言うとおりの妻を娶るしかすべはないのです。恋愛結婚をさせるというこの国の方針に憧れて父に猶予を貰い挑戦権を頂いたわけですがやはり私などには勿体無い権利だったのです。でもせめて噂高い白薔薇姫様には一目でもお会いしたかった」

「諦めてしまわれるのですか‥‥?」

「諦めたくはありませんがもうそれほど時間が残されていません。次のパーティが終わったら一度国へ戻らねばなりません。国で状況を聞かれて進展がないと知られたらもう無駄だとここには来られなくなります」

「‥‥」

 ルウドが心配そうにスティアを見ている。基本的に騎士達にもこの件の協力は仰げない。
 そもそも彼らには貴人達の警護と言う重要任務がある。
「‥‥ティア様は元々そんなに外へ出るタイプではありません。たまに外に出ますが大体は室内で研究です」

 ルウドが周囲を気にしながら声を潜めて言う。

「研究、ですか?」

「勉強、ですね」

 スティアはルウドを見てパッと顔を綻ばせる。

「有難うございます」

 この騎士は時折そう言うヒントをくれる。そう言えば薔薇が好きだというヒントも彼がくれた。
 スティアは嬉々として走り出す。もちろん城内にである。





 彼を見送ってふと横を見ると泣きそうな顔をした部下と目があった。

「たたたたた、隊長!なんてことを。こんな事、姫が知ったら‥‥」

「協力はしてない。少々ヒントを出す位何でもないだろう?このままでは埒が明かない」

「隊長はあの方を密かに応援して居られるのですか?」

「好青年じゃないか、何か問題あるか?」

「‥‥いいえ!でもっ、余りおおっぴらに協力しない方が‥‥」

「うん?分かってるよ。他の皇子たちに示しが付かないからな」

「‥‥そうですよ、また姫様の怒りを買います」

 部下は疲れたようにとぼとぼと所定の位置に戻っていった。
 ルウドには彼の心も計り知れない。
 そして目線を三人の皇子たちに移す。彼らにはある嫌疑がかかっているが今の所誰も疑わしい行動を起こしてはいない。相手が他国の皇子だけに迂闊な事は出来ない。

「‥‥」

 ルウドはふと薔薇園の方に目を向ける。なぜか薔薇が気になったので庭園で任務中の部下を一通り見まわしてから薔薇園の方に向かう。

「‥‥これは‥‥」

 ルウドの見守る美しい薔薇園の数か所が歪に変化している。枯れた枝が切れているのはいいが若枝まで切れている。一体どれだけ水をやったのか知れないが水の重みで薔薇の花弁が幾つか落ちている。落ちた薔薇が泥でぐちゃぐちゃだ。
 ルウドは息をもらす。こんな事をするのは一人しか心当たりがない。

「‥‥まったくあの姫は、ロクな事をしない」

 ルウドはただちに姫の捜索に向かう。ティア姫は今ハリスが付いているはずだ。

「ティア姫!どこです!ハリス、姫はどこへ行った?」

 姫の部屋をバンと開け、中を見るとハリスしかいない。

「‥‥君が鬼のような顔をして歩きまわっているから雲隠れしてしまったよ」

 そのルウドの後ろから例の皇子たちがわらわら現れ、ハリスの顔が曇る。

「ティア姫はどこにいるんだ?」

「居ないじゃないか?」

「近くにいるのか?」

「‥‥皇子様がた‥‥」

 鬼のような顔をしたルウドがティア姫の名を呼びながら歩きまわっているので何事かと後から付いてきたのだ。

「ここは姫様の部屋か?」

「そうは見えないぞ?嫌に質素だ」

「隠れ家とか?」

「‥‥」

「ルウド、姫は当分出てこないだろうから。今は諦めた方がいい」

「そうするよ‥‥」

 ルウドは肩を落とす。そして皇子たちを引率して庭園へ戻る。







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