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第二話 魔法使いの秘薬
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しおりを挟むルウドと二人きりで監禁されてもちっとも嬉しくない。むしろ嫌だ。
「全く最近の貴方は何です?あちらこちらに迷惑ばかりかけて。人の幸せの邪魔するどころか、爆薬を投げ込むわ、おかしな薬で人を弄ぶわ。全く落ち着きのない。何なのですか?何が不満でこんな事ばかりしているのですか?他にやること有るでしょう、あなたお姫様なんですから?読書とか花嫁修業とか、お相手探しとかもっと時間を有効に使ったらどうなのです。薬品の製造が何の役に立ちます?あなた別に医者になるわけでもないでしょう?変なものばかり造っては人に迷惑ばかりかけて。もう少し姫様らしい生活できないのですか?一体何考えているのです?」
「……‥」
「幼少の頃から大切にお預かりしてお育てした姫様がこんな悪さばかりする姫になってしまって私は悲しいですよ、陛下にも会わせる顔がない。姿ばかりはアリシア様とそっくりなのに性格だけ正反対なんて。それもこれも私の育て方が悪かったと言えばそれまでなのですが」
「………」
「聞いているのですか姫!何か不満があるならちゃんと言って下さいといつも言っているでしょう?何なのですか?私に不満でもあるんですか?はっきり言いなさい!」
不満ならあるに決まっている。いつもいつも何かと言えば姉と比べて、ティアの気持ちなんか何一つ分かっていない。
そもそもこんな関係だから鈍いルウドが分かるわけない。
ズバリ言ってやればいいのだかそれで分かってくれるかどうかなんてわからない。
この彼が答えてくれるなどとは思っていない。
「聞いているのですか?姫様」
「……聞いているわよ、うるさい教育係さん」
「何ですその言い方」
「言った通りよ、いつもいつもべらべらと煩いったら。そんなんだからもてないのよ。デリカシーの欠片もないし。このままじゃずっと独身ね、可哀相。私の心配なんかしてる場合じゃないわねえ?」
「なっ、余計なお世話です!私は騎士なんだから別に妻など必要ないんです!薔薇の世話で忙しいんですからほっといて下さい」
「負け惜しみね、毎日パーティのお客さまだってたくさん素敵な人いるでしょうにお気の毒」
「姫だって毎回連れ歩くのは手近の騎士でしょう?いい加減よその国の方と交流を深めたらどうですか」
「余計なお世話よ、なによ一緒に踊ってくれた事もないくせに!毎回出たくもないパーティに出て見たくもないもの見せられる私の気持ちなんて貴方に分かるものですか!交流なんて兄と姉がやってるわよ!どうでもいいわ」
「どうでもいいわけありますか!あなたとお会いしたくてわざわざやってくる方だっているのですよ?ちょっとくらいお相手して差し上げてもいいじゃないですか」
「差し出がましいのよ!そんな気になれないって言っているでしょう?」
「…何故アリシア様のように普通にお相手を見つける事が出来ないのですか?普通に恋でもすれば少しは落ち着くでしょうに……」
「……‥」
ティアは情けなくて笑えてきた。この男はどこまでティアを見ていないんだ。人を恋も知らない子供扱いして……。
「……も…いいわ…‥」
「……姫様?」
「何も分かってないルウドなんか嫌い。もうほっといて」
「…ティア様……‥!」
突然薬品を嗅がされてルウドは倒れた。
薬品は使用量さえ間違えなければうまく使える。ゾフィーの造った薬品だが嗅がせるだけなら害にならない。
「……馬鹿…‥」
椅子に寄りかかったまま寝ているルウドの銀髪をそっと撫でる。
そばにいてもいなくても苦しくて仕方がない。どうしようもない。
ドオン、とものすごい音がして慌ててその方向へ向かうとティア姫の部屋だった。ドアが壊されている。
「うわあああっ、隊長!大丈夫ですか?」
中を見るとルウドが椅子の上で気絶していた。
「ルウド………とにかくティア姫を捜せ!急げよ」
隊員がバタバタと廊下を走っていく。ハリスはルウドの傍に行き顔を軽く叩く。
「ルウド、大丈夫か」
「……ハリス………私が何を分かっていないんだ?」
「……何?」
「ティア姫に言われた」
「…喧嘩したのか?」
「……大人げなかった」
バツが悪そうにルウドが言う。
「ついムキになり過ぎた」
「そうか、今姫を捜してるから。早く謝るんだぞ?」
ハリスも姫を捜すために部屋を出る。姫の行くところと言えば魔法使いの塔だが今はいかないだろう。とすると薔薇園とか庭園とか。
ハリスは薔薇園に行ってみる。薔薇の間を進んでいくと何かが足に引っ掛かった。
「――――えっ?うわっ…?網?」
ハリスの足に絡みついているのは白い網だ。網はハリスの両足に絡み引張られる。
「――――えええっ?」
「やっと捕まえたわ、もう逃がさないわよ、ハリス」
「……ティア様……怖いなあもう……」
ヘラりと笑って見せるが背中に冷たい汗が出た。
怖い笑みを見せるティア姫だがちょっぴり目尻が赤い気がする。しかし余計な事は言わない方が賢明である。
ティア姫が何やら怪しげな薬品を持って近づいてきた。
「ふふふ、てっとり早く吐いてもらうわよ、何日もあんな状況真っぴらなのよ!」
「…一日も持ちませんものねえ。毎日ドアを壊されてはたまりませんし」
しまった、姫の額に青筋が見える。
「全く口の軽い男ねえ……そんなのに使う薬がもったいないわ」
「だったらやめて下さいよ?」
「聞きたい事は喋らないじゃない」
「……そんな……」
ハリスは怪しげな薬品を掛けられ、いつもにも増してぺらぺらと喋りまくった。
「それで私が狙われてるって?迷惑だわ」
例の機密を聞いたティアの感想である。
「でもまああのスパイの件で色々対策もとれますし心の準備も出来ますし大丈夫ですよ。ルウドにも言ってありますから安心してパーティに出ていらして下さい。ルウドも大切な姫様の事ですから気を引き締めて護衛にあたるでしょう。良かったですねえこれで始終ずっと一緒にいられますよ、ルウドを独占出来てもう寂しくなんか無いですねえ。この件が済むまで仲良くしてくださいねえ」
笑うハリスはジワリと嫌な汗をかく。口の滑りがよすぎて姫様の逆鱗に触れる言葉がぼろぼろ出てくる。
「早く姫様の気持ちが彼に通じるといいですねえ」
「……薬が切れるまでそこでぶら下がってなさい」
ハリスは網ごと木に吊るされ、ティアにはとっとと立ち去られた。あの方向は魔法使いの塔だろう。
バン、とドアが開いてティア姫がどかどかと入ってきた。
「くやしいいいいいいいっ!優男にまで馬鹿にされてなんなのよ!大体ルウドが悪いのよ!デリカシーなさすぎ!」
ティア姫が暴れている。またか、とゾフィーは思った。
「きいいいいっ!何が求婚者よ馬鹿にして!みんな大嫌いよ!復讐してやるわ!」
全部姫の誤解で妄想である。誰も馬鹿になどしていない。
だが姫は結局ルウドの言う事しか聞かない。そのルウドは無責任にも適当な事しか吹き込まない。どうせまた姉姫様と比べられたに違いない。
「くううっ、こうなったらもうあれよ!あれを試してやる!みんな困ればいいんだわ!」
何だろう?ゾフィーは不安になり、ティア姫のいる部屋をちらりと見る。
「ふ、ふふふっ、先日開発した新薬!これなら皆が正直ものになれるのよ、皆が皆ルウドのような正直ものになったらどんな事になるか、楽しみだわ、うふふ、あはははっ、ほほほほほほ!」
姫が新薬を持って高笑いしている。狂化学者だ。
頼むから周囲を巻き込むのはやめて欲しい、とゾフィーは心の中だけで懇願した。
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