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第二話 魔法使いの秘薬
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しおりを挟む目が覚めるとルウドがいた。心配そうにティアを見ている。
「御気分はいかがですか?どこも苦しくないですか?」
上体を起してくれて飲み物と薬を渡された。
「医者に相談して軽い安定剤のようなものを頂いてきました。飲んでください」
「……有難う…」
ルウドが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。そう言えば今のティアはアリシアだ、だからこんなに優しいのか。
なんだか複雑で笑えてきた。ルウドがいると分かっていればこんな事引き受けなかった。
全く馬鹿馬鹿しい…。
「ルウド、有難う、もういいから下がって頂戴」
「…何を言うのです姫様、あなたの護衛が仕事ですよ?けして目を離すなときつく言われております」
「隊長の貴方が誰に?」
「この件の指揮権は三番隊長にあるのですよ、だからホントに今回彼は人が変わったように真面目にきりきり働いてます」
「……」
それも気になる。特に何か事が起こったわけでもないのにハリスは神経を尖らせている。何かティアの知らない情報を隠し持っているのかもしれない。
「……気になるわね…」
ちらりとルウドに視線を向ける。彼に聞いたところで知っていても教えてはくれないだろう。大体あの口の軽い男の黙りこくる情報って……?
「あの、姫様、何かいけない事を企んでいませんか?あまり無体な事をなさらないで下さいよ?」
「……まさか。悪さなんてするはずがないわ、ティアじゃあるまいし。ほほほほほ!」
「………そうですか……」
ルウドは何故か落胆した。
やはりあの薬を使うとしたらルウドではなくハリスだ。確実に何かを隠している。
この状況を打開するためにはまず情報を手に入れる事が先決だ。
明日にでも彼を吐かせよう。
「ところで姫様、先ほど言っていたことですが」
「何かしら?」
「白薔薇姫が嫌いとかそんな事は絶対ありません。不良品などと失礼な事、思った事はないしましてや消えてしまったら悲しいに決まっているでしょう?二度とそんな馬鹿な事を言わないでください」
「……そう。でも怒って避けていたじゃない」
「避けてはいません、真面目に仕事していただけです。先日は浮かれて異変の一つにも気付きませんでしたので」
「……」
「それに悪質な悪戯で怒ってはいましたがいちいち根に持ったりしませんよ?子供の悪戯にいちいち過剰反応してどうするんです。まあティア姫には多少のお仕置きが必要かと思っていますが」
「……へえ……」
「全く何だってあんな危ない薬物を扱う趣味をお持ちになってしまったのか。アリシア様のように部屋で音楽や読書などを嗜むたおやかな姫になって欲しかったのに。それも世話した者の責任と言われてしまえばそうですが」
この男、やはり酷い。相手がアリシアだと思っているのかぺらぺらとルウドは愚痴る。
「全く姫の造った怪しげな薬で実験されるもの達の事も少しは考えて欲しいですよ。何かの役に立つならまだしも迷惑しかかからないでしょうに。つまらない薬を造って悪名広げるより、良いお相手を見つけるための方策など練っていらっしゃればよろしいのに。
このままでは引き取り手が現れませんよ。大切にお育てした姫がそんな恥さらしな事、私は許せませんね」
「……もう黙んなさい…」
ティアは黙らせる薬を使ってルウドを黙らせた。
「……ルウドって…あの口なんとかならないのかしら?」
「なりません。アリシア様、覗き見はやめませんか?」
「嫌よ、気になるじゃないティアが」
「……でももういいでしょう、ほら、ティア様ふて寝してしまいましたよ」
「ああもう詰まんない。押しが弱いんだから私の妹なのに」
「……」
護衛のハリスは黙ってアリシアに着き従うしかない。
「……ねえハリス、何か隠してる事があるの?」
「……何のことですか?」
「妹の事なら私にも聞く権利はあるでしょう?」
「……‥」
翌日、ハリスの口を割ろうと画策していたティアは出鼻をくじかれた。
「ちょっと、何でルウドなのよ!ハリスはどうしたの?」
「本日から入れ替わりました、すいませんね私で」
「……」
逃げられた、しかし諦める気はない。ティアはハリスの駐屯部屋へ向かうべく立ち上がる。
「お待ちなさい、どこへ行くのです?」
「どこへ行こうと私の勝手よ!護衛は黙って着いてくればいいのよ」
「そんなつもりはありません。人材不足なんですからこれ以上人手も増やせないんです。姫にうろちょろ歩きまわられると迷惑です。今日から当分私が付きっきりで貴方の管理をさせていただきます。逃げても時間の無駄ですのでそのおつもりで」
「……なんですって?」
「食後は魔法使いの塔へ行くのでしょうが今日から当分はお控えください。代わりに色々と為になる本や面白そうな本をたくさん用意しました。さあ、お茶を入れて差し上げますから大人しく読書に勤しみましょう?私もお付き合いします」
「………・」
テーブルに分厚い本を山積みに置いてルウドがにこやかに言った。
それは堂々とした、まぎれもない監禁だ。一体城内で何が起こっているのだ?
これはただ事ではない。
ティアは外へ出ようとするがドアが開かない。
「外からカギを掛けました。今日一日部屋で大人しくしていて下さい」
「ちょっと!こんなの嫌よ!許さないわ!だれか!開けなさい!」
「誰も開けはしませんよ?ちなみに陛下の許可は取ってあります。さあ心おきなく勉強して下さい」
にこやかに笑うルウド、なんだか不気味だ。
ティアはさらに慌ててドアを叩く。
「ちょっと!開けないと後が酷いわよ!何でルウドなのよ!冗談じゃないわ!開けなさいよ馬鹿―――っ!」
「姫様、そろそろ諦めなさい」
「嫌よ――――っ!開けてよ―――!」
「そんなに私と二人きりが嫌ですか?昨日は寂しがっていたのに、まったく…」
ルウドはティアの元に行き、肩を掴む。
「ななななな、何するのよ―――?」
「サッサと席に着きなさい。ついでにここ最近の貴方の悪行の説教もして差し上げますよ」
「いや――――!」
ルウドをティアの元にやって当分部屋で監視と言う提案を出したのは他でもないアリシアだ。その為護衛はハリスに入れ替わった。
ハリスはまんまとティアに吐かされる危機を逃れたが今度はアリシアに責められる難を背負った。部屋で二人きりで睨まれれば吐かずには済ませられない。
「さあ話しなさい、こんな状態ティアでなくたって嫌よ。納得できなきゃ回避するわよ?それで何かあったら、あなた責任とれるわけ?」
「……勘弁して下さい…話しますけど機密なんでここだけの話にしてください」
「分かったわ」
「実はティア姫様に見合いの話があるのです」
「……それのどこが機密なのよ?」
「ええと、先日スパイが紛れ込んでいたという話は?」
「ティアが言っていたわ。身元保証があっても信用できない人物もいるとか」
「その通りです、スパイはティア様がたまたま見つけたのですが結局逃げられてしまいました。身元保証があったので調べましたが全部出たらめでした。保証人の王妃様のご友人の方も知らないと申されまして」
「保証手形を簡単に手に入れる方法があるってことね、何だか怖い」
「唯一彼女と接触のあったグルエリ卿を問い詰めたところ彼女はスパイ、ということしか知らないと言われまして。何でも国を渡り歩くスパイとか」
「ホントにいるのねそんな人、すごいわ」
「アリシア様、問題はそこではありません。彼女が持ち帰った情報です。彼女は誰かの依頼
を受けてここに来たのは間違いありません。どこかの国の誰かに、です。
そして彼女が消えて一月、他国からの打診がありました、それも三件、別々にです」
「それが見合い?」
「他国の皇子様がよりにも寄ってティア様に、いきなり同時に三件も。不審過ぎます」
「……ええと、ティアの見合いなら前々から来ていたはずよ?噂高い白薔薇姫だもの」
「最近は悪名ばかりが噂されて陰では恐ろしい魔女などと囁かれて敬遠されていましたが。そもそも一度会った者は二度と会いたいとは言わないそうで」
「……あの子にはお見合いって無理よね。そもそも家はそう言う事は進めない主義だし」
「そうです、ですから王はいつも通りに姫と結婚したければ姫の心を射止める事だと返答したのです」
「……じゃあ来るの?この国に」
「来られますよ、スパイを使って下調べし、やばい薬を造る姫の情報を買い、姫様を手に入れようと企んでいるかもしれない人達が」
「……気をつけないと誘拐されるかも」
「ティア姫には当分大人しくして居て貰いたいですが」
「ルウドが付いててなんとかなるといいわね…」
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