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第二話 魔法使いの秘薬
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しおりを挟む読書なんて柄じゃない。しかも読む本はバリバリのロマンス小説。眠くなりそうだ。
しかしそれもいいと思いなおす。このところ全く眠れない。時々息が苦しくなるくらい辛くなる。こんな眠くなる状況なら眠れるはずだ。
そう思って本を読み始めたらすぐに護衛騎士が入ってきた。二番隊はアリシアの担当で人手不足のため隊長も護衛に入っているらしい。
だからと言って護衛など気にするものではない。
ティアは知らぬ顔で読書に集中しようとする。だが集中は簡単に途切れる。
ティアの座る椅子から正面の方のドアの横に彼の姿があるのだ。いやでも目に入る。
銀髪青眼、騎士の白い制服を着て真っすぐ立っている。その顔が何だか曇っているように見える。どうかしたのだろうか?
第一王女の護衛が仕事ならここしばらく姿が見えないのは無理もない事だ。アリシアの生活はほとんど城内の自室とその周辺。外にはあまり出ない。
行動範囲が著しく少ないがそもそも姫とは普通そう言うものなのだと説教された事もある。
―――ルウド……
このところ姿を全く見ていなかった。声も聞いていない。
愛しさがこみあげて近づいて抱きつきたくなったがそんな事は出来ない。
ここから動けず声すらも掛けられずに苦しくて息が詰まる。
「―――――――…っ…」
「……姫様?どうされました?」
ルウドが慌てて駆け寄ってきた。苦しそうな姫の背をさすってくれる。
「……何でもないわ。平気よ」
「全くそのようには見えません。医者を呼びましょう」
「……少し横になっていれば大丈夫だから」
「……姫………」
心配そうにルウドが見つめる。
アリシアだからこんなに優しいのか、ティアだったらきっとこんな顔はしないだろう。
「ルウド、手、貸して」
ルウドの手を取って嬉しそうに顔に寄せる。
「気持ちいい…」
「…‥姫…」
なんだか心地よくて睡魔が襲ってくる。ルウドが傍にいてくれるのでなんだか安心して楽になる。たとえ彼が見ているのがアリシアであったとしても。
「………ねえルウド…‥」
「……はい?」
「白薔薇姫、そんなに嫌い?不良品だから…」
「……何を…‥?」
「……いらないの?消えてしまった方がいいの?」
ルウドの目が驚愕して見開かれ、言葉もなく姫を見つめる。
ティアはずっと言いたかった言葉を吐きだし、気分が楽になって眠りに落ちる。
「……ティア様…?何でそんな?…‥馬鹿な…?」
ルウドは困惑して混乱した。
「ハリス、ティア姫が…」
「ルウド、どうしたんだ?姫の護衛はどうした?」
「数人付けて来た。姫は今眠ってる」
まさか任務を放棄して逃げて来たわけではあるまいがハリスは自然苦々しい表情になる。
「多少意表を突かれただろうが任務は任務、本日はこのままで行って貰うぞ」
今回の護衛任務の指揮権はハリスにある。二番隊は借り受けの形だ。
「喧嘩しようがなんだろうが彼女から目を離さないでくれ」
「分かっている、だが何故ティア姫はあんなに弱っているんだ?何かの病気なのか?」
「……弱ってって…君…」
「……いらないとか嫌いとか、何でそんな事言うんだ?」
「ルウド…」
君が構ってあげないからだ、と言いたかったがハリスは黙る。姫の内実などハリスが言うべきことではない。
「本当に医者を呼ばなくていいのか?」
「だったらちゃんと付いててあげればいいでしょう?」
「……姫様…、アリシア様」
金髪の姫様が隣の部屋から出てきた。ティア姫と瓜二つだがやはり雰囲気が違う。
「ティアは強そうに見えて結構もろいわよ。ちゃんと傍で見ていてあげないとたちまち弱って消えてしまうわ」
「アリシア様、怖いこと言わないください…」
「薔薇は庭師がこまめに見て守っていないとあっという間に枯れて落ちてしまうのよ?それでいいの?ルウド」
「……任務に戻ります」
ルウドが颯爽と出て行った。ハリスはにが笑うしかない。
「ちょっと大げさすぎませんか?消えるなんてそんな…」
「それだけ思いが深いのよ、見てれば分かるでしょう?ずっとほって置いたけど命にかかわってくるならもうほってはおけないわ」
「……そんな命にかかわるなんて」
「全くお馬鹿さんねハリス、だからあなたは駄目なのよ?恋をなめるんじゃないわよ」
「……すいません」
流石はティア姫様の姉姫、気性は穏やかな方だと聞いていたがいい方はきつい。やはり姉妹という所か。
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