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第三話 白薔薇姫と三人の求婚者
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しおりを挟む「実験をするわ」
そうアリシアに言われて訳も分からず付いて行ったが実際何をするのか分からなかった。
彼女に言われた事をしてから経過を見るだけだ。
しかし――――
「ああ、ジニアス様、私、私もう待てませんわ。私を早く貴方様のものにしてくださいませ。奥様とはいつ別れるのですか?」
「ああ済まない。私の奥方は気立てが良くて美しくて料理上手で非の打ちどころがなく若さ以外ではすべて君に勝っているので別れる事など出来ないのです。貴方には若さしかない。その寿命もまた短い。一時の戯れなのです」
「そんな!嘘だと言って下さい!私との事が一時の戯れだなんて!そんな酷い事!」
「今さらな事でしょう?分かっていて恋に走ったあなたも罪。私達の罪はただのひと時、この時が過ぎれば忘れ去られる戯れですよ?」
「そんな!あんまりですわああああ!」
婦人は泣いて去って行った。
「‥‥あの二人、不倫だったのね。それはともかく効能がまだ不十分だわ。もう少し濃度を増やしてもいいかしら」
「‥‥」
今の二人の会話のどこに薬の効果があったのかがスティアにはいまいち分からなかった。
言うとおりに動けと言われるだけで薬の事など説明して貰えない。
身体に害にはならないからと怪しげな液体を散布する手伝いをさせられたが本当に害ではないのかと不安になる。
「どうも個人の差という壁は越えられないわね。同じように効き目がないと意味がないのだけど」
「‥‥あのう、アリシア様‥‥」
「何よ?黙って言う事聞くんでしょ?余計なこと言うならもう使ってあげないわよ?」
「‥‥いいえ‥‥何も」
「ならとっとと行くわよ。まだ検証が必要だわ。いい実験材料があるのを思い出したわ」
アリシアは足早に歩きだす。
「‥‥」
今何か怖い事を聞いたような?それ以前に今自分がしている事と言うのは?
スティアの不安は増大する。何か今やばい事してないか?自分。
とはいえ姫に捨てられるのは嫌なので何も考えないように努める事にした。
エルグ国第三皇子マルクス=トゥエルグは同時期にきた他国の皇子達と張り合ってティア姫を捜し回っていた。
国の威信をかけて何としても誰よりも先にティア姫を見つけなければ!
他にも皇子は沢山いるがあの二人よりも先に姫とお近付きにならなければ。
条件は同じなら姫はまず外見を重視するだろう。外見ならば他の二人よりも自分が一番勝っている。
まだ若い世間知らずの姫君には自分のような風貌の男が一番受け入れられやすいのだ。
―――勝てる!姫に会いさえすれば!
この城に来てからロクな情報も得られず足で捜しまわるしかない状況だが彼は楽観していた。
出会うのは最早運命のなせる技だ。そして出会えば必ず彼女は恋に落ちるはず。
マルクスはそれを信じ、ひたすら彼女を捜す。
そして、彼は彼女に出会う。
「――――あなたは…」
白い薔薇の園に彼女はいた。サラサラの金髪、淡雪の肌、若草のドレス。
白薔薇を愛でる姿は儚く淡く夢のようだ。
それでも近付けば振り向き、緑色の瞳が怪訝に揺らめく。
「‥‥私はエルグ国第三皇子マルクスと申します。白い薔薇のごとき姫、一目お会いしたいとずっとお探し申し上げておりました」
「‥‥まあ‥‥」
「やっとお会いできて嬉しゅうございます」
姫は恥じらう様に視線を外す。
「‥‥私も‥‥」
世間知らずの若い姫らしくポッと頬を赤く染める。
マルクスはなかなか姫が姿を見せない訳が分かった気がした。
ティア姫は恥ずかしがり屋さんで奥ゆかしい方なのだ。なのに皇子達が派手に捜し回っているから怖がって隠れてしまったのだ。
まさにうわさ通りの清楚可憐な姫さまだ。
マルクスは彼女が怖がらないよう控え目に声をかける。
「ティア姫様、宜しければ少しだけ私にお時間を頂けないでしょうか?少しだけでも私とお話をして頂けませんでしょうか?」
「‥‥え‥‥」
「私は貴女にお会いする為にこの国へ来たのですよ」
「そうですか‥‥それじゃ、部屋で、少しだけ‥‥」
「お部屋へご招待して頂けるのですか。それはこの上ない幸せです」
「それじゃ、こちらへ‥‥」
姫は慎ましやかにも薔薇の間を擦りぬけ、人目に触れない道を選んで城に入り、とある部屋の一つに入った。
その部屋はシンプルな部屋で、テーブルと椅子しかない部屋だ。
「ティア様、この部屋は?姫様の部屋ではありませんよね?」
「もちろんよ、ここは客室だもの」
「‥‥そうですよね?」
部屋に入って何か姫の声色が変わった気がしたがマルクスは不穏には思わなかった。人目がなくなり二人きりになったので恥ずかしくなくなったのだと思った。
姫はニッコリほほ笑み椅子の一つを指し示す。
「今お茶でも入れますわ、どうぞお座り下さい」
「そんな、姫さまがお茶を?勿体無い!」
「まあ、大切なお客様ですもの。当然ですわ」
マルクスが大人しく座ると、ティア姫はお茶を持ってきた。
「さあどうぞ?」
「有難うございます、何だか夢みたいだな」
マルクスはお茶を飲む。
すぐ横にいる姫の微笑みを夢心地で見たまま、彼の意識は途切れた。
「少しずつ濃度を増やしていくわ、人体がどれくらい耐えられるかきっちり調べておく必要があるのよ」
「‥‥くれぐれも、ほどほどに」
「今後の為よ、大事な事って分かるでしょ?」
「それは、そうですが‥‥」
目を開けるとティア姫ともう一人いた。
「‥‥君は確か‥‥?何故いるんだ?」
「‥‥あっ‥‥」
確かスティアという名のどこかの国の皇子だ。
マルクスは身体を動かそうとして異変に気がついた。椅子に縛りつけられている。
「何だこれは…‥?」
「あら、おはようございます、皇子様」
「貴方は‥‥ティア姫?なのか‥‥?」
姫はすでに実験用の白衣に着替えていた。テーブルには沢山の怪しげな薬品と道具類。
「もちろんそうよ?マルクス様」
姫は薬品を持ってにこにこと笑いながら彼に近づく。
「う、嘘だ!そんなわけない!偽物だ!誰だお前は?近づくな!」
マルクスはこの状況から自分の身に起こる危険を察知して怯えた。
「まあひどい、自分から近づいてきてその言いよう。ティアは傷付いてしまいますわ」
「本物の姫はどうした!どこへやったのだこの魔女め!」
「‥‥」
白衣の魔女はマルクスに何かを吹きかけた。
「うわっ!何をしたこの魔女!返答によっては容赦せんぞ!」
「‥‥何が魔女よ。ことごとく馬鹿男ね。噂を信じて勝手な夢見て現実が思いどおりでなかったら逆切れ?馬鹿みたい。心配しなくてもあなた一番ティア姫の逆鱗に触れるタイプよ?なんかもう存在するなって感じ?」
「‥‥姫様‥‥そんな‥‥」
「きっと今まで顔だけで世の中渡ってきたバカ息子タイプよ。うちの三番隊隊長みたいな?見てるといらいらして踏み潰してやりたくなるのよ。虫唾が走るわ」
「‥‥なんなんだ?」
魔女の横にいるスティアは目が泳いでいる。
「あなた、国に何人恋人がいて?」
「ほんの十人ほどだが」
「じゃあ奥さんと愛人は?」
「妻は五人、愛人は三人」
「お子さんは?」
「三人」
「不倫もしてるでしょう?」
「ほんの遊びで三人ほど」
「ちなみに他国で手をつけた女性の数は?」
「二十人は下らないな」
「――――――すごい!」
「スティア!感心してんじゃないわ馬鹿」
「すすすす‥‥すいません…」
マルクスは嫌な汗をかいた。何故こんなにもぺらぺらと秘密が口から漏れ出るのだ?ありえない。
「―――貴方、ここへ来た目的は何?」
「そりゃもう他国にも噂高い白薔薇姫を陥落させて私が誰よりもいい男だという証明をするのだ。何よりも自慢になるしな」
「―――――問題外だわ、下らない」
魔女は軽蔑しきった視線で一瞥し、テーブルの薬品に目を移し片付け始める。
「‥‥姫様?」
「こんな薄っぺらい男、実験の価値がないわ。人選を誤ったわ」
「それじゃ実験は?」
「他をあたるわ」
「‥‥他、ですか‥‥」
スティアは落胆した。
「―――おい、私をどうするつもりだ?こんな事をしてただで済むと思うなよ!」
「―――まあ、なにがただで済まないのかしら?恋人十人、妻五人に愛人三人、さらに遊びで不倫三人。他国には二十人は下らないそうね?世間に密告したらさぞかし楽しい事になりそうよね?」
「――――!」
「そんな男が白薔薇に手出ししようなんてしていたと聞いたらうちの家族も騎士も身内は皆怒り狂いそう。早めに荷物纏めて出て行った方がいいのではなくて?」
「その前にお前の口を封じればいい事だ!」
「まあ怖い、じゃあ踊り死にして捕えられて叩きだされなさい」
魔女は怪しげな薬品をマルクスに容赦なく振りかけた。
「何をした―――――っ?」
マルクスは縛られたまま椅子ごと激しく踊り出した。
「うわあああああっ?」
「いくわよ、また実験体捕まえなきゃ。早くしないとうるさい連中に見つかるわ」
「‥‥」
非情にもマルクスを置いて二人は出て行った。
ドアが閉まるときっちり鍵のかかる音がして彼は泣きたくなった。
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