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第三話 白薔薇姫と三人の求婚者
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しおりを挟むカイン=リィオンは庭園にいた。
姫君の捜索は第一だが庭園での情報収集も重要だ。庭園に集まる様々な人達との交流を図る。ただ足で走り回るだけでは能がない。
庭園の護衛騎士達は余り情報を出してくれないが大臣達は割と姫の情報ならぺらぺらと話してくれる。まるで自分の娘か孫の話でもするように楽しげである。
「第三王女はどのような御方ですか?」
「ティア姫様か。とてもお元気な姫さまで」
「元気すぎじゃよ、困ったものじゃ」
「じゃじゃ馬だがいい姫だよ。悪戯が過ぎるけどなあ」
「優しいがあれで嫁にいけるのか心配だな」
「頭がよすぎるのも困りものじゃ、釣り合いのとれる男を捜すのが難しい」
「なまじ恋愛結婚も難しいものだの」
「普通の男にあの姫は無理じゃないか」
老年の大臣達は言いたい放題だが姫の情報は的確に仕入れる事が出来た。
何やら噂の姫君とはずいぶん違いがあるようだ。
―――なるほど、頭のいいじゃじゃ馬か。
カインはそこで好奇心がくすぐられた。ただの噂どおりの清楚可憐な普通の姫君なら特に興味を持たなかったが、普通でないなら見てみたい。
国主の命令でこの国の姫に求婚して来いと言われ来たが彼自身は実はあまり乗り気ではなかった。
他国のお姫様の噂など何処にでもある。それが国の威信と交易の為なら噂は派手に尾ひれをつけて世界中に飛び回る。
派手な噂を信じて直接本人に会うとがっかりと言う事も稀にある。
―――――おや?あれは……?
ふと顔を上げると流れる金髪が目に映る。人々の間を抜けて消え去っていく。
「‥‥ティア姫?」
カインはすかさず後を追う。金髪の女性はカインの前から消えたり現れたりしながら人の間をすり抜け、小道をすり抜け、城に入って逃げていく。
「‥‥お待ちください!」
まるでカインを誘う様に彼女は逃げて行き、そしてとある一室へ入っていく。
「失礼、入りますよ」
中へ入ると金髪の女性がいた。カインは勝ち誇ったように笑う。
「ティア姫、やっとみつけた。はじめまして、私はカイン=リィオンと申します」
「‥‥そう」
姫は詰らなさそうにカインを見る。
清楚可憐な白薔薇姫、確かにその姿は噂どおりの姫の様だ。
「姫様、一目お会いしたいとずっとお探ししておりました。ぜひ私とお話を‥‥」
「いいわよ、ただし‥‥」
「えっ?」
姫が何かの液体を軽くふきかける。とたんカインは眩暈がして気を失った。
目を開けるとカインは吊るされていた。腕と腰が縄でくくられ吊りあげられている。
驚いて辺りを見ると金髪の青年と目があった。青年は哀れな視線を何故か向けてくる。
「‥‥君は確か、フィリップ?」
彼はにが笑い、ふっと視線を逸らす。
「‥‥君?何を?」
「‥‥私は無力なんです。勘弁して下さい」
「何を言って‥‥?」
「スティア!試験体と慣れ合うんじゃないわよ!情が移るじゃない」
スティアの反対側を見ると白衣姿の女性がいた。声からしてティア姫と分かる。
いやそれよりも‥‥、試験体?
眼鏡とマスクをした白衣の女性が怪しげな薬品を持ってカインの傍に寄ってきた。
この状況からして自分の身に迫る危険を感じて自然身体が緊張する。
「何をする気だ?」
「お話がしたいんでしょう?幾らでも話させてあげるわよ?」
彼女は怪しげな薬品をカインに吹きかけた。
「何だこれは?なにをした!」
「すぐに効果が表れないのが難点かしら。これも個人差があるのよね」
「その個人差を薬品の強弱で埋めるわけですか?」
「そうできたらいいけど、いちいち調べないと分からないでしょう?あまり強いとショック死する人も出る訳だし、難しいのよ」
「やはり団体の席で使用するのは無理があるのでは‥‥?」
「‥‥まあ考えるわ」
二人はカインを無視して良く分からない会話をし、結論が出るとカインに目を移す。
「な、なんだ?」
「そう言えば名前を聞いていなかったわね」
「カイン=リィオンです。先ほど言ったではないですか?」
「そうだったかしら。覚えてないわ。それで何しに来られたのだったかしら?」
「噂の姫を見るためですよ!王の命令で姫を落して来いと言われたんです!噂の姫になど興味はないですがほんの遊びのつもりですよ。田舎娘にもたまには掘り出し物がありますからね。都会の女には飽きてきたところですしたまには違う畑の物も味わってみたいじゃないですか」
「‥‥へえ、そういうものなのね」
姫の目が据わっている。カインは自分の口を押さえたかったが手は縄で縛られたままだ。
「うちの者から大分情報を貰っているようね?」
「この国の大臣は大らかで国政に関する事は呆れるほど口が堅いのに姫様がたの事になると聞かない事まで喋りますよ。皇子は奥手で控えめすぎて遊びが足らないとか、王女アリシア様は本の読み過ぎで運動不足だとか、ミザリー様は食べすぎでまた一段とふくよかになったとか、ティア姫の悪戯は最近酷過ぎるとか」
「‥‥」
「庭師がちゃんと監視していないから姫は意地悪を止めないんだ、全く最近の若い者は根回しが悪くていかん。管理不行き届きもいいとこだ、とか」
「・・・へえ、ところであなた。スパイからこの国の情報などを買った事はある?」
「あははは、そこまでする情熱は私にはありませんよ?この田舎に何があるのです?」
「そんな感じね‥‥」
姫はフウ、と息をつく。その姫をスティアがおろおろと見ている。
「もういいわ‥‥」
「えっ、それじゃ、縄を解いても‥‥」
「何を言うのよ?まだ試していない薬品がこんなにあるのよ?順番に行くわ」
「‥‥そうですか‥‥」
見ると姫の後ろのテーブルには沢山の怪しげな小瓶が沢山ある。
「‥‥まさか、あれ全部‥‥?」
「大丈夫、死にはしないわよ。ちょっと役に立ちなさい」
「―――――!」
彼は更に薬品を吹きかけられる。
暴れても縄は取れない。彼女の助手らしい彼は哀れな視線を送るだけで助けは期待できない。
カインは自分の哀れな末路を悟ってしまった。
―――おかしい…
バルト=エルガルドは異変に気がついた。つい先ほどまで一緒に姫を捜し回っていたマルクスとカインがいない。
三人は先を争って姫を捜し回っていたのでバルトとてあの二人の目のいかない場所などをこそこそと嗅ぎ回ったりしていた。その間にいつの間にか二人の姿が見えなくなったのだ。
「‥‥」
二人が姫を見つけ出しバルトに隠れてこっそり会っているのかと推測すると気が焦る。
あの強引な二人に迫られて姫は今頃困っているのではないか?
それはいけない、早く助け出さなければ。
この国へきて城内の人達に聞いたところティア姫は噂どおりの淑やかな優しい方らしい。
白い薔薇のような真っ白で清楚で大人しくそれでいて可憐な姫。
バルトの理想通りの姫だ。噂を聞きつけ是非にと王に頼みこんでこの国へ来た。
今まで他国も自国も渡り歩いて様々な姫に会ってきたが恐らくティア姫ほどバルトに目に適う姫はいないだろう。一度遠くから見かけたが噂どおりの清楚可憐な姫だった。
これは運命だ。お会いして必ず姫を手に入れる!
バルトは近くの騎士に尋ねる。
「マルクスとカインを見かけなかったか?見当たらないんだが?」
「バルト様‥‥―――ええっ?それは大事ですね、今上官に報告してきます!」
彼は近くにいた上官に報告する。上官の彼はたしかルウド=ランジール隊長だ。
彼は慌ててバルトの元へ駆けよってくる。
「つい先ほどまでいらしたのに、おかしいですね。警備はあちこちくまなく配備されているのですから誰かの目には入っているはず‥‥すぐ調べます!」
「待て隊長。あの二人は姫を捜していたんだからティア姫の所にいるかもしれない。私も行く、姫が心配だ」
「えっ、しかし‥‥」
「緊急事態だぞ、姫があの二人に困らされていたらどうするんだ。早く助けて差し上げないと可哀想だろう?」
「え‥‥分かりました‥‥」
ルウドは困ったように足を止めたが戸惑いながらも先へ進む。
複雑な顔をして走っていくルウドの後を追いつつも、バルトの脳裏には困っている姫を助ける頼りがいのある自分、という構図が出来ていて自然に顔がにやけた。
「うわああああああああっ!ああああっ!」
その異常な光景にルウドは苦々しく顔をそむけ、バルトは驚いてクギ付けになった。
椅子に手足を縛られたままのマルクスは椅子ごと激しく踊り狂っている。何故かぐるぐる回転して全身でごろごろ転がる。
「はあっ、はあっ、も‥‥もう許し‥‥!」
マルクスは涙と汗でビショビショでしかもあちこち血が滲んでいる。
幸い先程魔法使いにもらった薬が残っていたのでルウドはそれを彼に吹きかける。
すると彼は次第に動きを静めて行き、最後に椅子ごと床に伏した。
「‥‥マルクス殿下、あの‥‥」
とにかく椅子の縄を切り解いた。何となく詳細が分かったので何とも声が掛け辛い。
「くっ‥‥!魔女が!あのふざけた魔女が!」
「少し安静になさってください、マルクス様」
「魔女って何だ?姫はどうした?」
バルトが部屋の中を見渡すが痕跡もない。マルクスの背をさすりながらルウドは背筋が寒くなる。
魔女って‥‥どうするんだ?誰か代わりに説明してくれ。
普通にそれが姫だと言えば国際問題だ。
「どういうことだ?この城には魔女がいるのか?魔法使いはいると聞いたが?」
バルトが怪訝そうにルウドを見る。これは最早知らないでは済まされない。
「‥‥魔法使いの数十代前の魔女が城内に現れては誰かを実験すると言う噂は頻繁に聞いておりましたが‥‥、犠牲者に会ったのは初めてです」
ルウドは苦しい言い訳をした。
「何でも大変な美女だそうで、城内で実験中に突然お亡くなりになったとか」
「ほほお、美人の幽霊か。マルクス、どうだった?」
「‥‥幽霊なのか?確かにティア姫かと思いこんで付いて行ったが、本人から名を聞いてはいない。美人だったから姫だと思って‥‥?」
まだ薬の効果もあるのだろう、マルクスはまんまと混乱した。
「とにかくお疲れでしょう。部屋に戻ってお休みください」
今一納得いかなさそうなマルクスはルウドの部下に送られていった。
しかしまだもう一人いる。ルウドはとても嫌な予感がした。
「まだカインが見つかっていない」
バルトが厳しい視線をルウドに送る。
「‥‥あとは私がお探ししますから、お部屋にお戻りください」
「いいや、そんな訳にいかない。カインが姫の所にいるかもしれないだろう?」
「そうですね」
まずい、きっと彼もろくな目に遭ってはいない。どうやって言い訳するんだ?
「早く行こう、姫が困っていたらどうするんだ」
「‥‥はい」
ルウドは重い腰を上げる。バルトはとにかく姫に会いたいらしくとてもルウドには止められない。もうなる様になれと思うしかない。
「ルウド」
城内を歩いているとハリスがやってきてバルトに聞こえないよう耳打ちする。
「カイン様が見つかった。開いていた客室で吊るされていた。体に異常はないがあれは姫にやられたようだ。部屋に戻して今ゾフィーどのに見て貰っている」
「分かった」
「どうした?」
バルトが怪訝そうに二人を見る。
「カイン様が見つかりました。お部屋に行かれますか?」
とたんバルトが苦々しい顔になった。
「‥‥いや、いい。それよりも姫の居場所は…?」
「私はカイン殿の様子を見て参りますので、バルト様は部屋にお戻りになられては?」
「‥‥園に戻る」
「そうですか?ではお気をつけて」
当ての外れたバルトが仕方なく踵を返す。
とりあえずバルトへの言い訳は逃れる事が出来たがカインをなだめる仕事が残っている。
「あの姫は何がしたいんだ?全く面倒ばかり起こしてくれて。目なんか離すべきじゃなかった」
「済まない、スティアどのが居るからそうそう悪さはしないと思っていたのだが」
「ティア姫が他国の皇子をいちいち気づかったりするのか?もっとよく考えるべきだった」
「‥‥」
カインの部屋へ入ると彼はもがき魘されていた。
「ああああっ、魔女‥‥魔女があああっ!うわああああ!もうやめてくれえええっ!」
「カイン様、しっかりなさってください、落ち着いて」
ゾフィーにしがみついてカインは怯える。
「はらわたが裏返るような得体のしれない猛毒を次々と!俺は‥‥俺の身体はもう‥‥!黒い虫にたかられた様に汚れてしまったああ!もうお婿に行けない!」
「落ち着いて下さい。虫なんかいませんよ、魔女もいません。すべて幻覚ですよ?悪夢です、悪夢を見たのでしょう?」
カインが驚いたようにルウドを見つめる。
「‥‥夢、なのか?」
「そうですよ、悪夢ですよ。早く忘れた方がいいです」
「‥‥夢‥」
カインは少しばかり落ち着き、ぶつぶつと下を向いて呟く。
「弱みを次々吐かされて、すべての個人情報を暴露させられたあれも?」
「‥‥」
ルウドとハリスは部屋を出る。カインは体に異常はないのだから少し休めば落ち着くだろう。
「―――少し目を離し過ぎたのではないかハリス?あの姫に遠慮なんかしていてはとんでもない事になる。一体何を目論んでいるのか知らないが野放しにするべきではなかったんだ」
「‥‥悪かったよ。姫の事に関してはもう君に任せるよ。私は周囲の厳重警戒に専念するから」
「とにかく姫を捕まえてくる」
「うん、がんばって」
ルウドは心なし元気になって走り出す。
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