意地悪姫の反乱

相葉サトリ

文字の大きさ
17 / 200
第三話 白薔薇姫と三人の求婚者

5

しおりを挟む







 魔術師の塔の中でスティアは困っていた。
 アリシア姫は隣室で調剤中である。
 スティアは調剤の役には立たないので控え室で休んでいるのだが、気分的には全く休まらない。

 何だか姫について誤解が多々ある気がする上に明らかに悪事以外の何ものでもない行為の助手をしてしまった。
 これは大丈夫なのか?後が怖くないか?皇子達に危害を及ぼすなど…。いやしかし姫は彼らの弱みを大量につかんだ。あれだけの事をされたらもう関わりたくないはずだ。

 ―――どうしたらいいんだ?

 逃げた方がいいかもしれない、だがスティアはそんな事をする為に来たのではない。
 悩んでいると外から声がした。入口を開けるとルウド隊長がいた。

「スティア殿、ティア姫はおられるのですか?」

「‥‥ティア姫、様ですか?」

「そうです、いるのでしょう?―――出てきなさい!姫!」

 ルウドは中に入って調剤部屋のドアを叩く。

「出てきなさい!逃げても無駄です!全くまた訳の分からない悪さをして!何故そんな事ばかりするのです!他国人にとんでもない事をして!今度という今度はもう許しませんよ!何考えているのです!大人しく投降なさい!」

「あああああ、ルウド隊長、私も悪いのです。黙って協力したのですから」

「とんでもない。悪いのは姫だけです。貴方は手伝わされただけでしょう?いいのですよ姫を庇わなくても。責任の所在をはっきりさせなくては。悪いのは姫だけです」

「そんな‥‥」

「ティア姫!」

「‥‥うるさいわね、騒がないでよルウド」

 調剤部屋のドアが開いて姫がノロノロと出てきた。ちらりとスティアを見てぼそりと呟く。

「悪かったわね、噂通りのティア姫でなくて」

 スティアはどうとも言えない。
 ルウドはバン、と姫を挟んで壁に手を付く。

「―――それで、姫?今回の所業は何なのですか?いい訳があるなら言ってみなさい!」

「まあルウド、怖い顔。怒ってるみたい」

 そっと彼の頬に手を添えようとするティア姫の手をルウドは無情にもペッと跳ねのけた。

「怒っているのです!今度という今度はもう許しません!」

「許さなかったらどうなるの?」

「監視を徹底します、もう手加減なんか絶対しません」

「‥‥手加減、道理で大人しいと思ったわ」

「お二人のお邪魔をしてはいけないと思ったのが間違いでしたね。邪魔でも何でももう目を離しません」

「二人って‥‥彼ただの助手なんだけど?」

「助手でも何でも貴方みたいな意地悪姫の相手して下さる貴重な方ですよ。今度のダンスの相手もして下さるでしょう?大切になさい」

「‥‥そんなつもりは‥‥」

「私ももういい加減貴方のお守から解放されたいですよ。とりあえず次のダンスの相手はしなくて済んでせいせいしますね」

「どう言う事よ?」

「アリシア姫様から頼まれていたのですが相手がいるなら必要ないですから」

「‥‥酷い‥」

「姫?」

「‥‥あの二人はシロだったわ。もう一人いるけど期待は薄そう。なんだか頭悪そうだったし詰まんない噂流したらすぐ帰りそうだもの」

「‥‥何?」

「私だって始終ルウドの監視なんて御免よ。早く終わらせて。もうほっておいて」

 ルウドの腕を跳ねのけて、ティア姫は調剤部屋に籠ってしまった。
 スティアはおろおろするしか出来なかった。





 姫が調剤部屋に籠ってしまったのでスティアが説明する羽目になった。
 だが説明と言ってもスティアは姫の助手をしていただけなので細かい事情など分からない。

「ティア姫様は薬品の実験をされていました。実験対象に様々な質問をされていましたが薬品の効果を調べるためと思っていました」

「まあ十九八九そうですよ。ちょっとだけ別の意図があったかもしれないですが」

 ルウドが困ったように笑う。質問をされているスティアの方が何か知らない事があるような気がしてすっきりしない。

「ティア姫様はやはり求婚者たち皆が迷惑なのでしょうか?」

「えっ?そんな事は」

「最初から名前も教えて下さらなかったし‥‥色々私の知らない事があるようですね、ルウド隊長」

「‥‥そ、そんな事ないですよ。ただ今回のあの三人は、内密ですがとある嫌疑がかかっていまして警戒が強くなっていただけなのです。監視体制に不満があったのでしょう。
 それであの三人が潔白なら状況を打開できると思ったのですね」

「そんな事が」

「まあ警戒態勢は変わりませんし姫の監視も変わりませんが」

「監視なんて‥‥嫌がっていましたよ?」

「姫の監視は一層厳しくします。野放しにしていたらロクな事をしない。何より姫の身を守るためです。手は抜きません」

 ルウドは笑っていたがその笑顔が尚一層非情に見えた。
 そして彼は報告の為に魔法使いの塔を出て行った。

「‥‥」

 スティアはますます思い悩む。部屋に引きこもった姫は妙に静かだ。
 
―――――なんだろう?何かが引っ掛かる。

 今日一日の姫の行動、言葉などに意味がなさそうに見えて何かある。

「ただ今戻りました」

 魔法使いゾフィーが戻ってきた。彼を見てスティアは深刻な顔になる。

「‥‥あの、カイン殿は?」

「うん、大分落ち着きましたよ。体に異常はないのだから大丈夫ですよ」

「そうですか‥‥」

 しかし彼の精神的な痛手は相当なものだろう。

「姫様はどうされました?」

「隣室に引きこもってしまいました。ルウド隊長が来ていたのですが、彼のお叱りが効いたのでしょうか?」

「‥‥」

「この国の護衛隊長は随分姫様に遠慮がないのですね。監視なんてそんなはっきりと。この国の人達は皆そうなのでしょうか?」

「いいえ!そんな事はないですよ!あの姫様とルウド隊長が特殊なのです。ルウド隊長もあの姫さまでなければそんなにズケズケ言いませんから!護衛隊などは隊長ほど姫様に物を言えませんからいつも泣き寝入りです」

「ティア姫様とルウド隊長が特殊ですか?どういう関係なのです?」

「‥‥あ、ええと‥‥ティア姫‥?」

「ルウド隊長がそう言っていました」

「そうですか」

 ゾフィーが肩を落とす。

「なんとなくそんな気がしていたので大して驚きませんでしたが、ルウド隊長の態度の方が驚きました。ダンスの相手をしなくてせいせいするなんて、ティア姫相手に簡単に言えませんよね」

「ルウド隊長はまたそんな事を‥‥」

「お守は御免とか言っていましたが?」

 スティアはゾフィーを見上げる。ゾフィーは困ったように口を開く。

「‥‥ルウド隊長は元々庭師でティア姫の守番です。薔薇園の白薔薇と同じように大切にティア姫様を守ってきたのですが、最近姫様が反抗期で」

「‥‥反抗期‥‥?」

「ルウド隊長を怒らせる事ばかりしているのです」

「それはまた何故?」

「私には分かりません」





 ゾフィーは調剤部屋のドアの前に立ちドアを叩く。

「姫様、ティア姫様」

「‥‥なによ?」

「例の薬、出来ましたよ?どうしますか?」

「‥‥ちょうだい」

「分かりました」

 もとの客室に戻るとスティアの白い視線と合った。

「また薬ですか?」

「私は姫様の味方なのですよ。悲しい顔をされるのが嫌なのです」

「悲しい顔、ですか?」

 するとバンと調剤部屋のドアが開いた。

「ゾフィー!余計なこと言うんじゃないのよ!」

「‥‥姫様」

「スティア!あなたももういいわ。あの薬は広範囲には危なくて使えないもの。助手は必要なくなったの」

「そうですか、でも私はまだティア姫様に用があります」

「私は用なんか無いわ」

「私はあなたに求婚しに来たのですよ」

「ダンスの相手ならいらないわ。何が求婚よ、私の事なんか知りもしないで。無駄だからとっとと国へ帰りなさい。私は結婚なんかしないわ」

「‥‥ティア姫」

 姫は魔法使いから薬を受け取るととっとと塔を出て行ってしまった。






「‥‥手ごわいな」

 スティアは苦笑する。
 ゾフィーは心配そうに彼を見る。

「あの、姫様は今不安定な状態ですし反抗期真っ盛りですけどそれでも‥‥?」

「なんとなく状況は分かりましたし姫の事も少しは分かりました。ダンスのお相手は今回は諦めましょう。一度国へ帰って報告せねばなりません。
 それからまた改めてティア姫様にお会いしにお伺いする事にしましょう。姫を諦める気はないですから」

 二コリと彼は笑う。
 騙されて扱き使われて悪事に加担させられて、結構ひどい扱いをされていたにも拘らず全く怒る様子もなくめげる様子もない。スティア殿下も姫に劣らず手ごわそうだ。

 ―――先程渡した媚薬、姫は誰に使う気だろう?

 ゾフィーはますます思い悩む。
 部屋でこっそり泣く姫が不憫でつい何でも姫の望みを叶えてしまう。
 あの薬がさらなる混乱を引き起こしそうな予感がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生令嬢はやんちゃする

ナギ
恋愛
【完結しました!】 猫を助けてぐしゃっといって。 そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。 木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。 でも私は私、まいぺぇす。 2017年5月18日 完結しました。 わぁいながい! お付き合いいただきありがとうございました! でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。 いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。 【感謝】 感想ありがとうございます! 楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。 完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。 与太話、中身なくて、楽しい。 最近息子ちゃんをいじってます。 息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。 が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。 ひとくぎりがつくまでは。

迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた

月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。

崖っぷち令嬢の生き残り術

甘寧
恋愛
「婚約破棄ですか…構いませんよ?子種だけ頂けたらね」 主人公であるリディアは両親亡き後、子爵家当主としてある日、いわく付きの土地を引き継いだ。 その土地に住まう精霊、レウルェに契約という名の呪いをかけられ、三年の内に子供を成さねばならなくなった。 ある満月の夜、契約印の力で発情状態のリディアの前に、不審な男が飛び込んできた。背に腹はかえられないと、リディアは目の前の男に縋りついた。 知らぬ男と一夜を共にしたが、反省はしても後悔はない。 清々しい気持ちで朝を迎えたリディアだったが……契約印が消えてない!? 困惑するリディア。更に困惑する事態が訪れて……

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~

夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」 婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。 「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」 オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。 傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。 オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。 国は困ることになるだろう。 だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。 警告を無視して、オフェリアを国外追放した。 国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。 ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。 一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

とめどなく波が打ち寄せるように

月山 歩
恋愛
男爵令嬢のセシルは、従者と秘密の恋をしていた。彼が従者長になったら、父に打ち明けて、交際を認めてもらうつもりだった。けれども、それを知った父は嘘の罪を被せて、二人の仲を割く。数年後再会した二人は、富豪の侯爵と貧困にあえぐ男爵令嬢になっていた。そして、彼は冷たい瞳で私を見下した。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

処理中です...