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第三話 白薔薇姫と三人の求婚者
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しおりを挟む魔術師の塔の中でスティアは困っていた。
アリシア姫は隣室で調剤中である。
スティアは調剤の役には立たないので控え室で休んでいるのだが、気分的には全く休まらない。
何だか姫について誤解が多々ある気がする上に明らかに悪事以外の何ものでもない行為の助手をしてしまった。
これは大丈夫なのか?後が怖くないか?皇子達に危害を及ぼすなど…。いやしかし姫は彼らの弱みを大量につかんだ。あれだけの事をされたらもう関わりたくないはずだ。
―――どうしたらいいんだ?
逃げた方がいいかもしれない、だがスティアはそんな事をする為に来たのではない。
悩んでいると外から声がした。入口を開けるとルウド隊長がいた。
「スティア殿、ティア姫はおられるのですか?」
「‥‥ティア姫、様ですか?」
「そうです、いるのでしょう?―――出てきなさい!姫!」
ルウドは中に入って調剤部屋のドアを叩く。
「出てきなさい!逃げても無駄です!全くまた訳の分からない悪さをして!何故そんな事ばかりするのです!他国人にとんでもない事をして!今度という今度はもう許しませんよ!何考えているのです!大人しく投降なさい!」
「あああああ、ルウド隊長、私も悪いのです。黙って協力したのですから」
「とんでもない。悪いのは姫だけです。貴方は手伝わされただけでしょう?いいのですよ姫を庇わなくても。責任の所在をはっきりさせなくては。悪いのは姫だけです」
「そんな‥‥」
「ティア姫!」
「‥‥うるさいわね、騒がないでよルウド」
調剤部屋のドアが開いて姫がノロノロと出てきた。ちらりとスティアを見てぼそりと呟く。
「悪かったわね、噂通りのティア姫でなくて」
スティアはどうとも言えない。
ルウドはバン、と姫を挟んで壁に手を付く。
「―――それで、姫?今回の所業は何なのですか?いい訳があるなら言ってみなさい!」
「まあルウド、怖い顔。怒ってるみたい」
そっと彼の頬に手を添えようとするティア姫の手をルウドは無情にもペッと跳ねのけた。
「怒っているのです!今度という今度はもう許しません!」
「許さなかったらどうなるの?」
「監視を徹底します、もう手加減なんか絶対しません」
「‥‥手加減、道理で大人しいと思ったわ」
「お二人のお邪魔をしてはいけないと思ったのが間違いでしたね。邪魔でも何でももう目を離しません」
「二人って‥‥彼ただの助手なんだけど?」
「助手でも何でも貴方みたいな意地悪姫の相手して下さる貴重な方ですよ。今度のダンスの相手もして下さるでしょう?大切になさい」
「‥‥そんなつもりは‥‥」
「私ももういい加減貴方のお守から解放されたいですよ。とりあえず次のダンスの相手はしなくて済んでせいせいしますね」
「どう言う事よ?」
「アリシア姫様から頼まれていたのですが相手がいるなら必要ないですから」
「‥‥酷い‥」
「姫?」
「‥‥あの二人はシロだったわ。もう一人いるけど期待は薄そう。なんだか頭悪そうだったし詰まんない噂流したらすぐ帰りそうだもの」
「‥‥何?」
「私だって始終ルウドの監視なんて御免よ。早く終わらせて。もうほっておいて」
ルウドの腕を跳ねのけて、ティア姫は調剤部屋に籠ってしまった。
スティアはおろおろするしか出来なかった。
姫が調剤部屋に籠ってしまったのでスティアが説明する羽目になった。
だが説明と言ってもスティアは姫の助手をしていただけなので細かい事情など分からない。
「ティア姫様は薬品の実験をされていました。実験対象に様々な質問をされていましたが薬品の効果を調べるためと思っていました」
「まあ十九八九そうですよ。ちょっとだけ別の意図があったかもしれないですが」
ルウドが困ったように笑う。質問をされているスティアの方が何か知らない事があるような気がしてすっきりしない。
「ティア姫様はやはり求婚者たち皆が迷惑なのでしょうか?」
「えっ?そんな事は」
「最初から名前も教えて下さらなかったし‥‥色々私の知らない事があるようですね、ルウド隊長」
「‥‥そ、そんな事ないですよ。ただ今回のあの三人は、内密ですがとある嫌疑がかかっていまして警戒が強くなっていただけなのです。監視体制に不満があったのでしょう。
それであの三人が潔白なら状況を打開できると思ったのですね」
「そんな事が」
「まあ警戒態勢は変わりませんし姫の監視も変わりませんが」
「監視なんて‥‥嫌がっていましたよ?」
「姫の監視は一層厳しくします。野放しにしていたらロクな事をしない。何より姫の身を守るためです。手は抜きません」
ルウドは笑っていたがその笑顔が尚一層非情に見えた。
そして彼は報告の為に魔法使いの塔を出て行った。
「‥‥」
スティアはますます思い悩む。部屋に引きこもった姫は妙に静かだ。
―――――なんだろう?何かが引っ掛かる。
今日一日の姫の行動、言葉などに意味がなさそうに見えて何かある。
「ただ今戻りました」
魔法使いゾフィーが戻ってきた。彼を見てスティアは深刻な顔になる。
「‥‥あの、カイン殿は?」
「うん、大分落ち着きましたよ。体に異常はないのだから大丈夫ですよ」
「そうですか‥‥」
しかし彼の精神的な痛手は相当なものだろう。
「姫様はどうされました?」
「隣室に引きこもってしまいました。ルウド隊長が来ていたのですが、彼のお叱りが効いたのでしょうか?」
「‥‥」
「この国の護衛隊長は随分姫様に遠慮がないのですね。監視なんてそんなはっきりと。この国の人達は皆そうなのでしょうか?」
「いいえ!そんな事はないですよ!あの姫様とルウド隊長が特殊なのです。ルウド隊長もあの姫さまでなければそんなにズケズケ言いませんから!護衛隊などは隊長ほど姫様に物を言えませんからいつも泣き寝入りです」
「ティア姫様とルウド隊長が特殊ですか?どういう関係なのです?」
「‥‥あ、ええと‥‥ティア姫‥?」
「ルウド隊長がそう言っていました」
「そうですか」
ゾフィーが肩を落とす。
「なんとなくそんな気がしていたので大して驚きませんでしたが、ルウド隊長の態度の方が驚きました。ダンスの相手をしなくてせいせいするなんて、ティア姫相手に簡単に言えませんよね」
「ルウド隊長はまたそんな事を‥‥」
「お守は御免とか言っていましたが?」
スティアはゾフィーを見上げる。ゾフィーは困ったように口を開く。
「‥‥ルウド隊長は元々庭師でティア姫の守番です。薔薇園の白薔薇と同じように大切にティア姫様を守ってきたのですが、最近姫様が反抗期で」
「‥‥反抗期‥‥?」
「ルウド隊長を怒らせる事ばかりしているのです」
「それはまた何故?」
「私には分かりません」
ゾフィーは調剤部屋のドアの前に立ちドアを叩く。
「姫様、ティア姫様」
「‥‥なによ?」
「例の薬、出来ましたよ?どうしますか?」
「‥‥ちょうだい」
「分かりました」
もとの客室に戻るとスティアの白い視線と合った。
「また薬ですか?」
「私は姫様の味方なのですよ。悲しい顔をされるのが嫌なのです」
「悲しい顔、ですか?」
するとバンと調剤部屋のドアが開いた。
「ゾフィー!余計なこと言うんじゃないのよ!」
「‥‥姫様」
「スティア!あなたももういいわ。あの薬は広範囲には危なくて使えないもの。助手は必要なくなったの」
「そうですか、でも私はまだティア姫様に用があります」
「私は用なんか無いわ」
「私はあなたに求婚しに来たのですよ」
「ダンスの相手ならいらないわ。何が求婚よ、私の事なんか知りもしないで。無駄だからとっとと国へ帰りなさい。私は結婚なんかしないわ」
「‥‥ティア姫」
姫は魔法使いから薬を受け取るととっとと塔を出て行ってしまった。
「‥‥手ごわいな」
スティアは苦笑する。
ゾフィーは心配そうに彼を見る。
「あの、姫様は今不安定な状態ですし反抗期真っ盛りですけどそれでも‥‥?」
「なんとなく状況は分かりましたし姫の事も少しは分かりました。ダンスのお相手は今回は諦めましょう。一度国へ帰って報告せねばなりません。
それからまた改めてティア姫様にお会いしにお伺いする事にしましょう。姫を諦める気はないですから」
二コリと彼は笑う。
騙されて扱き使われて悪事に加担させられて、結構ひどい扱いをされていたにも拘らず全く怒る様子もなくめげる様子もない。スティア殿下も姫に劣らず手ごわそうだ。
―――先程渡した媚薬、姫は誰に使う気だろう?
ゾフィーはますます思い悩む。
部屋でこっそり泣く姫が不憫でつい何でも姫の望みを叶えてしまう。
あの薬がさらなる混乱を引き起こしそうな予感がした。
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