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第二話 魔法使いの秘薬
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しおりを挟むもちろんティアは実験した。しかし期待した効果は得られなかった。
あらゆる生き物の悩みが解消されるというからどんなすごい薬かと楽しみだったのだが…。 やはり使い方を聞いておいた方が良かったか。
目の前の煩い騎士五人ばかりに効能を試してみたがいきなりぱったり気絶しただけで他に変調は見られなかった。面白くない。
「ティア様、居られますか?」
「あらちょうどいい所に、ゾフィー。この薬なんだけど」
部屋に入った魔法使いは中の惨状を見て息を漏らす。
ティア姫の持つ薬は霧吹きに入っているので使われた量も小量。だから気絶するだけで済んだのだ。
「姫様、それはそのように使う薬ではありません。別の薬と組み合わせて使うものです」
「どう言う事?」
「例えばですね、猛毒とまぜれば毒は無効となります、薬と混ぜればそれは毒となります。さらに先日姫が開発した口が滑りやすい薬と混ぜれば口数が減る薬となります。媚薬と混ぜれば恐らく強烈に人嫌いになる薬になるでしょう」
「つまり混ぜた薬と全く別の効果を出す薬ってことね」
「量によって効果が違ったりしますので確実な効果はあまりいえません。ですがそれは単品ではかなりの猛毒です。ちょっと霧吹きで掛けただけで彼らのように気絶してしまう、悪くすればショック死です。くれぐれも使用方法を誤りませんよう」
「…‥それは…悪かったわ…」
ティアは心配そうに倒れたままの騎士達を見る。いつも煩い彼らだが幾らなんでも殺す気はない。
「……彼ら、このままで大丈夫なの?」
「この毒を中和出来れば大丈夫です。何か中和出来る物があればいいのですが」
「……じゃあこれを」
「何ですこれ?」
「口が滑る薬、使えば静かになるのかしら?」
「そうかもしれませんね…」
ゾフィーは騎士達に薬を嗅がせた。それだけで、すぐに彼らは意識を戻した。
「分かったわ、これから気を付ける事にするわ」
「……えっ、姫様?それ私の薬…‥」
「少しだけよ、あとは返しておくわ。心配ご無用」
ティアは部屋を出て塔の調合部屋へ向かう。
先日調合した自白薬は確かに成功だった。スパイに使用しまんまと役に立った。だがそれだけだ、元々口の滑りやすい城の連中にあんな物を飲ませればますます煩くなるだけだ。
新薬に意味はない。むしろ黙らせる薬の方が有効である。
しかしこの薬なら、もっと色々試せる。使い方を誤らなければ面白い薬である。
「……ティア様、御一人ですか?」
途中の廊下で声を掛けられ足止めされた。ハリスだ。
「護衛の騎士はどうなさいました?」
「全員倒したわ」
「……あなたの護衛騎士達ですよ?そんなことしちゃいけません」
「聞きたいんだけど、五人も必要なのかしら?」
「必要だから付けているのです。何度も説明したでしょう?」
「……城内は警備隊が隅々まで始終目を光らせているのに私に五人も必要?私自分の身くらい自分で守れるわ。私につけるくらいならお兄様やお姉さま達の方にもっと使った方がいいでしょう?」
「ダメです、うちの隊は姫様の護衛を重視します。貴方が狙われている可能性が高いと推測した上での警戒です。ゾフィーどのは魔法使い、自分の窮地は自分で何とか出来るでしょう。でもあなたは別です」
例のスパイ事件以降から三番隊隊長ハリスは神経を尖らせている。以前はこんなに真面目ではなかった気がするが一体どうしたのだろう?
「ちょっと気の張り過ぎじゃないかしら?狙われているなんて分からないし、今日明日の話じゃないでしょう?あんまり張り切り過ぎると疲れて気を抜いた時狙われるわよ?」
「ご忠告有難うございます、気をつけます」
ハリスは全く聞き入れてない。ティアは諦めた。
「騎士達なら身体が動けるようになったら追いかけてくるでしょ?」
「どこへ行かれるのです?おともします」
ハリスが真面目な顔で着いてきた。いつものへらへらした空気がない、いつもはそれが苛付いていたが真面目に着いてこられるのも微妙である。
「……悪かったわね」
姫の護衛は彼らの仕事である。迷惑だからと拒まれても彼らが困るのだろう。
仕事でなければ意地悪姫の護衛など誰もする訳がない。
「…‥ねえハリス、ルウド、まだ怒ってる?」
「え、まさか。そんな大人げない。何時までも怒ってはいないでしょう」
「でも最近全然見かけないわ。きっと私が嫌いで姿を見せないのよ」
「彼には別の任務があるのですよ?貴方が嫌いなんてそんな馬鹿な事あるわけないでしょう?」
「嘘よ、そんなの信じない」
「……姫様…」
ルウドが冷たい。数年前まで傍で口煩かったのにいつの間にか一定の距離を置かれているような態度で関わって欲しくなさそうな口調だ。ティアが近づいてもはねつける様な言動で、関わりたくもなさそうだ。
―――きっと薔薇姫が不良品で気に入らないのよ…
ルウドは現在騎士をしているが元々庭師の息子だ。庭師の薔薇作りを見たり手伝ったりして薔薇造りも好きだ。
そんな彼に任されたのは白薔薇の苗と三番目の姫君。薔薇の世話と姫君の護衛が仕事として任されたが白薔薇姫の教育に失敗した。
失敗作を目にすると彼は眼を逸らす。
「……ねえハリス、庭師に見捨てられた薔薇はどうなるのかしら?」
「―――…ティア様…?」
もうどうしていいのか分からない。庭師は薔薇を見てくれない。
もう永遠に、確実に、気持ちだけ置き去りにされて……。
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