意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第二話 魔法使いの秘薬

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「新薬を開発するわ!」

 数日前からそう言ってティア姫は調剤室にこもった。三回の食事の時間以外はここの所ずっと引きこもっている。
 その間は周囲に害がなく平和で静かな日々を送る事が出来るが後が怖い。
 新薬が出来れば誰かが実験台にされる。
 平和な日々を送る騎士達の内心は不安で一杯に違いない。

 そんな魔法使いゾフィーも時には魔法使いらしく調剤もする。
  王宮魔法使いなので城の人達の依頼で腰痛や腹痛の薬なども造るがたまには使用上注意すべき薬品を調剤してみたりする。そう言う薬はけして公にはせず、こっそり効果を試したりする。
 天才と誉れ高い彼の隠れた趣味でありささやかな楽しみだ。

「ふふふ、完成だ」

 調合した無色透明の液体を緑白色の丸い小瓶に入れる。

「あら、何の薬が出来たの?」

「最高の薬です。これさえあればあらゆる生き物の長きにわたる悩みが解消されるという一品です」

「……そう…?」

 隣のテーブルで調合をしていたティアが不満そうに緑白色の小瓶を見る。

「……ねえゾフィー、あなた魔法使いだから基本どんな薬も作れるのでしょう?」

「はい、まあ何でも作れますよ?一応国専魔術師の規則がありますから余りやばい薬は出来ませんが」

「やばい薬の基準が分からないわ」

「一般に人の命を取る毒物ですね」

「じゃあ人を意のままに操る媚薬とかは良いわけ?」

「うーん、駄目ではないですけど所詮薬ですからねえ。効果が消えた後の事を考えると色々ねえ」

「記憶を消してしまえばいいのよ」

「それも永遠ではないですよ?いずれ思い出すものです」

「永遠って無いの?」

「それはありません。例えばですね、ティア様が誰かに薬を使って永遠に思い通りに出来たとします。その誰かはそれで確かに姫のモノですが、姫はそれが薬の効果と最初から知っているでしょう?偽物である事を知っていて貴方は彼と永遠に過ごせますか?年を重ねる毎に辛くなって心が壊れてしまいますよ?」

「……私そんなに弱くないわ」

「媚薬に頼らねばならないほど苦しんでいる人が強そうには見えませんよ?」

「永遠なんて私には絶対手に入らないわ。薬を使いでもしなければ無理よ。別に永遠でなくてもいいのよ?ただの一時でも……一瞬だっていいわ……」

「…‥ティア様……」

 いつも元気な姫様に悲しげな顔をされるとゾフィーは弱い。嫌おそらく城内外の男全てが弱くなる。

「…分かりました、媚薬を調合しましょう。弱い薬ですから効果は短いものになりますが」

「ホント?有難う」

 姫はニッコリほほ笑む。この笑顔は姉姫様と全く同じだ。

 マルス国の白薔薇姫と呼ばれる第三王女ティア様は明るく気さくで冴え渡る美貌と輝きを持つ自国他国の男達の憧れの的だが城内の一部の者達からは意地悪姫と言われ恐れられている。

 それでも求婚する男など後を絶たないほどで彼女も選り取り見取りなはずなのだがよりによって彼女の思い人は意地悪姫と言って姫の外見など意に介さない部類の者だった。
 何でよりによって彼なんだ?と思うが仕方がない。彼は元々姫を愛しんで育てたものだ。

「…でもそんな物を使う前にちゃんと話し合いをされた方がいいですよ?」

「この間すごく怒らせてから口もきいてくれないもの。あれだって私のせいじゃないのに…」

「……」

 ルウドは自分の口のせいでティア姫の報復を受けたがルウド自身は全然分かっていない。
 どうせいつもの嫌がらせだろうと怒りここの所姫の傍には全く近づきもしない。

 二人の仲が余計こじれた。
  簡単なびっくり玉などを造って姫に差し上げてしまったゾフィーは少なからず責任を感じていた。
  あれだって寂しげな彼女を慰めるために造った一品だったのに…。なかなかうまくいかないものである。




「ゾフィーどの!いらっしゃいますか!」

 外からドアを叩く音がする。

「はいはい、今行くよー」

 部屋を出て外のドアを開けると騎士達が数人いた。

「おや、どうかしましたか」

「ティア姫様はまだおられますか?そろそろダンスレッスンの時間なのですが?」

「そういえばそうだったわね」

 ティア姫が出てきて面白くもなさそうに言う。

「次のパーティの為の準備だそうよ。馬鹿馬鹿しい、パーティなんて参加したい人がすればいいのよ、私はちっとも楽しくないわ」

「…‥姫様、そんな…」

 最近姫は沈みがちだ。そんな寂しそうな様子を見て騎士達が次々に声を上げる。

「ティア様!私でよければいつでもお相手いたします!」

「お、俺だって!何時でも準備出来てます!」

「私とて喜んでお相手しますよ!」

「僕だって待てます!」

「俺だって!」

「……分かったわよ、うるさいわね」

 ティア姫はとっとと魔術師の塔を出て行った。
 騎士達も慌てて後を追う。
  彼らはそもそも姫の護衛をする為に来ていたのだが魔術師の塔の中へは煩いからという理由で姫によって入室禁止にされていた。ずっと外で待っていたのだ。
 
  ゾフィーは塔に戻り調剤部屋に入る。入って何か違和感を感じて周りを見る。

「…………?」

 今造った透明の液体が入った緑白色の小瓶が見当たらない。

 ……まさか姫が?

 具体的な効能など全く教えていないのだから誰かを実験台にする事は間違いない。

「………」

 魔法使いは瞑目した。









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