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第一話 とある恋の物語
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しおりを挟むジュリアがいない。昨日までいたのに今日になって姿を消した。
昨日の食事の約束にも来なかったし、何かあったのかと心配になって部屋を訪ねたがもぬけの殻になっていた。
周囲の客達に聞いて回ったが何故かみんな口をそろえてそんな女性は知らないと言われた。警備隊にも聞いて回ったが皆一様に口をそろえて何も知りませんと言われた。
なぜだ?どうして?ありえない。昨日は確かにいたのだ、どうして皆彼女が最初から居なかったように振舞う?
ルウドの知らない何かがあったのだ。彼女に何があった?
ルウドは真相を究明すべくハリスの元へ向かう。彼ならばジュリアについて何か知っているに違いない。
ハリスの駐留部屋に向かうと彼は珍しくも部下に指示を出し、真面目に仕事をしていた。
いつも余裕のしぐさの彼にしては余裕がない。
「いいか、不審者がいたら構わず声をかけろ、見逃すなよ?大事な事だからな!」
三番隊の仕事は主に城内警備。王族や主要人物のいる部屋のドアの辺りに配置するのが仕事だがそれほど気を張る仕事ではない。そもそもドアの前で始終緊張し続けるなど不可能である。
「失礼、ハリス。ちょっといいだろうか?」
「・・・ルウド・・」
ハリスは気まずそうにルウドを見た。
彼の部下達は即座に持ち場へと走って行って部屋はあっという間にもぬけの殻になる。
「・・・私の所には何の通達もないが、この隊だけやけに忙しそうだな」
「まあ、ちょっとね。内密で処理しなければならない仕事があってね。それはそうとどうかしたかい?」
「先日相談したジュリアさんの事なんだ。とても信じられない話なんだが突然消えてしまったんだ。なぜ、どうなっているのかさっぱりわけが分からない。ハリス、何か知らないか?」
「・・・」
縋るような目をルウドに向けられてハリスは居心地悪そうに身じろぎする。
「ルウド、もういないという事は国元へ帰られたのではないかな?突然用事で帰京する人もたまにおられるし」
「そんな、昨晩は彼女と食事の約束をしていたんだ。私に黙って、いきなりそんな・・・」
「まあそんな事もあるよ」
「そんな馬鹿な。ではなぜお客も護衛も皆彼女を知らないと言うんだ?昨晩何かあったとしか思えない。一体何が起きたんだ?」
「・・・たまにいるね、そういうお客も・・・」
ハリスは苦しい言い訳をした。ますます怪しい。
「ハリス、俺には言えない事なのか?」
「聞かなくてもいい事ってあると思うよ?」
「本当に私の耳に入れなくていいことか?」
ルウドがじりじりと詰め寄るとハリスが視線を逸らして笑ってごまかす。
「困ったな、一応隊の機密なんだけど・・」
「なに?」
女性の秘密が隊の機密などとはただ事ではない。
「俺だって隊長だ、機密は守る。教えてくれ」
「ええと、その・・・」
「じれったいわねえ。はっきり言ってやりなさいよ!」
「・・・姫」
入口からティア姫が現れた。
「あの女はスパイ、この城には情報収集に来たのよ。あなたの事はただの暇つぶし」
「スパイ?そんな馬鹿な・・?」
ルウドがまじまじとハリスを見ると気まずそうに頷いた。
「早くに気付いた姫様に調査と監視を依頼されていてね。彼女が白状して逃げ出した後は、考慮すべき問題の対策を取っていたのだ」
「問題?」
「まあとにかく考えうる対策をね」
「この国に他国が欲しがる情報など。ホントに彼女が?」
「どこかの国に依頼されてきたのよ。だから問題なんでしょう?他国がうちの何を知りたかったのか、それが分からないから。一番傍にいた人は何も気付かないでご機嫌取りして喜んでいたし」
「ひ、姫様っ、そのような事を言っては・・・」
「‥‥分かった、私の隊も協力するから何時でも要請してくれ。無理に聞きだしてすまなかったな」
ルウドは何も考えられず、よろよろと部屋を出て行った。
ハリスは哀れなルウドを見送ることしかできなかった。
「・・・姫様・・傷心の彼を責めちゃいけません、そっとしておいてあげましょうよ?」
「知るもんですか、勝手に裏切られて落ち込んだだけでしょう?」
「可哀想と思うなら少しは優しくして差し上げて下さいよ?」
「自業自得でしょう?憐れむ気も起きないわ」
「・・・ティア様、ルウドがそんなにお嫌いですか?」
「違うわよ、ルウドが私を嫌いなのよ」
赤い薔薇は消えてしまった。
ルウドはぼんやりと川縁に座り、落ち込んでいた。
気落ちする彼を心配してちらちら様子を見る城の人達もいたが声をかける人はいない。
―――あのジュリアがスパイ・・・。
けして職業差別する気はないがスパイではもう二度と会う事はないだろう。
「ルウド、何時までそうしているつもり?」
「ほっておいて下さい」
ルウドの後ろで身じろぎする気配がする。わざわざ振り向かなくても分かる。
ティア姫だ。白薔薇姫と呼ばれる清楚可憐な意地悪姫。
「さっさと仕事に戻りなさい。そんなとこにいたら邪魔よ」
「あいにく仕事は休みです。誰にも迷惑かけてないのですからどこにいようが私の勝手です」
「だからってそんなとこで沈んでても何も事実は変わらないわよ?」
「分かっていますよ、私など暇つぶしの相手をさせられた程度のもので」
「そんなにあの人が好きだったの?」
ティア姫がルウドの横に座ってキラキラとルウドの顔を覗き込む。
一見罪のない綺麗な笑みと取れるがこの姫に限ってそれはあり得ない。
「恋も知らない子供には分からない事です。無意味にからかわないで下さい」
姫の顔が凍りつき、険悪な目つきになる。
「大人の事情にただの冷やかしで関わらないで頂きたい。あなたに関係ない事でしょう?ほっておいて下さい」
「分かったわ、なら勝手に自爆していなさい」
姫は何かをパラパラと落してから、走り去って行った。
何を落したのかと後ろを向くと遠くの薔薇園の方で泣きそうな顔をしてこちらを見ている騎士と目があった。
指の触れる何かを見つけて取って見るとそれは小さな白い玉。姫が首飾りにつけていたものだ。
「・・・・」
いやな予感がして立ち上がると転がる玉を踏みつけた。
「―――――っ!」
ルウドの足元で玉が発光し大きな爆発音を奏でる。さらにその衝撃で転がる数個の玉も爆発した。
「くやしいいいいいっ!ばかにしてえええええっ!」
ティア姫が飛び込んできて部屋で暴れ出した。魔法使いゾフィーは困る以外に対策の打ちようもない。
「・・・・またですか・・・」
原因は分かっている。どうせまた白薔薇姫の庭師が何か暴言を吐いたのだろう。
報復されると分かっていていつもいつも懲りない御仁である。
「こうなったら徹底抗戦よっ!反乱を起してやる!」
「何故そんな過激な方向に突っ走るのですか?穏やかに話し合いましょうよ?」
「何を話し合うのよ!話し合うことなんてないわ!グレてやる!」
被害をこうむるのは周囲の者たちである。ここで姫を止めておかないと騎士達の非難の的になってしまうがゾフィーに止めようがない。
白薔薇を愛しんで大切に育てた庭師は薔薇姫の気持ちが全く分かっていない。
姫の暴挙の原因のほとんどがルウドに起因しているが当人全く気付いてない。
「さあ協力なさいゾフィー、存分に踊らせてやるわ!」
悪魔のような笑みを見せる姫にゾフィーは身を震わせた。
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