意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第一話 とある恋の物語

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 のんびりとした空気の療養に最適な国、マルス公国。資源と言えば自然に湧く温泉に山の幸と湖の魚。大した産業もなく大きな国でもなくただのド田舎でしかない刺激のない国だ。他国が欲しいと思う程の要素は特になさそうなのに何故か一目置く人達がいる。
 全く理解できなかったがそこはそれ、仕事は仕事なので退屈なりに一月、この国に来て調べる事は一通り調べ上げた。
 仕事が大方済んでやることがないので田舎騎士を相手に遊ぶことにした。
 最初の見た目から目星を付けて怜悧そうな男を選んだつもりだったがこの騎士、蓋を開ければただの純朴な田舎者だ。いい年をして女の扱いを全く知らないようで一生懸命ご機嫌を取ろうとしている。全く面白見にかける男だ。
 ジュリアが薔薇園を散歩していると、白薔薇の傍にいる男を見つけた。

「ランジール様、何をされていらっしゃるの?」

「・・ジュリアさん、薔薇の手入れを少々。しっかり見てないとすぐに虫に食われて枯れてしまうので」

 騎士のはずである彼のその姿は田舎者の庭師丸出しである。
 折角姿だけはいい男なのだから騎士らしくキリリとしていればいいのにと思ったが口には出さない。

「ランジール様はよほどに白薔薇がお好きなのですね」

「はい、ずっと世話して見守って来ましたから」

「まあ、私、白薔薇に妬けてしまいますわ」

「ジュリアさん・・・そんな、薔薇は薔薇です、貴方にはあなたの美しさがあると思います」

「まあお上手ね?嬉しいわ。私薔薇は赤が好きですけど白も好きになれそう」

「それは良かった」

 満面の笑みを浮かべるランジールと別れ、ジュリアは一人庭園の方へ進む。
 庭園では様々な人達が様々な目的を持って交流を図っている。田舎騎士の面白くもない弁舌を聞くよりずっと有効である。
 辺りを見回していると、金髪の若い娘が騎士を連れてにこにこしながら寄ってきた。

「こんにちは、ジュリアさん。はじめまして、私ティアと申します」

「まあ、第三王女様!白薔薇姫様。はじめてお目にかかりますわ。私の名はもう知っていらっしゃいますのね?」

「ええ、うちの田舎者がお世話になっているようで」

「田舎者だなんてそんな。ランジール様は素晴らしい騎士でいらっしゃいますわ」

「そうかしら?まあいいわ。そんな事に興味はないし」

 ジュリアはあいまいに笑う。
 美しい金髪の白薔薇姫はとても清楚で綺麗な笑みを浮かべる。とても友好的で優しそうに思えるのに何故だろう?ジュリアの六感が危険を感知している。

「ジュリア様、私この国から出た事がないから余所の土地の事は知りませんの。ジュリア様は大きな国の都会からいらしたのでしょう?私ぜひお話を聞かせていただきたいと思っていたの。ジュリア様、お願いできますかしら?私の部屋でお茶を飲みながら珍しい話をお聞きしたいですわ。わがままかしら?」

 姫が澄んだ瞳でジュリアを見つめ、若い娘らしくおねだりをした。可愛らしい姫にせがまれては流石のジュリアもそう無下にはできない。

「我儘なんてそんな、宜しいですのよお話くらい。私もあと数日でここを立つ予定ですからそれまでの間なら何時でもお話いたしますわ」

「わあ、よかった!有難うジュリア様」

 純粋に喜ぶティア姫を見て悪い気がするものがいるわけない。
 ジュリアがティアと仲良く話しながら部屋へ向かう道すがら、付き添いの騎士が目を逸らしながら一言も口をきかない事と周囲の通りすがりの護衛隊らしき人達がジュリアに哀れな視線を送っている事に当人は全く気付いていなかった。




 ティア姫の私室は広い。姫の私室なのだから広いに決まっているが特にこの姫の部屋は装飾がシンプルで余計なモノが一切置いていないので余計に広く見える。この姫の部屋で唯一飾りとなるのは部屋の端々に飾られている色取り取りの薔薇くらいだ。
 華美な装飾が嫌いな姫が黙って色取り取りの薔薇を飾らせているのはやはり姫も薔薇は好きなのだとハリス隊長は密かに思っている。実際姫もバラには危害を及ぼさない。
 ハリスは部屋の隅のドアの近くに立ち、黙って二人を見守っている。



「お茶をもう一杯どうぞ、ジュリアさん」

「有難う、でも何だか申し訳ないわ。ティア様自ら入れて下さるなんて。召使はいらっしゃらないの?」

「メイドは忙しいんです。ようがなければわざわざ呼ばないの。お茶くらい私だって入れられるもの。自分で出来る事は自分でしなくちゃ」

「ま、素晴らしい御心がけです事」

「お姫さまだって出来る事は沢山あるのよ?どこかの皇子と結婚するだけが義務じゃないの。沢山勉強して国を守ることだってできるわ」

「姫様の夢ですね?素晴らしいです」

「お菓子もあるの、貰いものだけどどうぞ?」

「有難う」

「私籠の鳥で世間知らずだから今は本や聞いた話でしか世界の事は知らないけれど、いつか城の外へ出て直に世界を見知りたいわ」

「姫様なら出来ますとも」

「そのまえにジュリア様にいろいろ教えて頂きたい事があるわ」

「まあ何でも聞いて下さいな」

「じゃあねえ・・・」

 なぜだか姫様の目がきらりと光る。

「ジュリア様はどうしてこの城にいらしたの?」

「まあそれは旅行ですわ。世俗の疲れを洗い流して来いと言われまして」

「目的はあるでしょう?お仕事は何?」

「まあお仕事だなんて。ちょっとしたスパイ活動ですのよ?この国の情報を欲しがる方がいましてね」

 ぺろりと仕事内容を吐いてしまったジュリアは驚いて口を押さえた。
 なぜ?口が勝手に?そんな馬鹿な…?

「組んでる方がいらっしゃるでしょう?何者ですか?」

「そんな、組んでるなんて、グルエリ卿は外交の仕事で来られているのです。仕事がやりやすいように幾つか情報を流しましたが」

 口を開いた途端にぺらぺらと言葉が漏れ出てジュリアは焦った。
 どうなっている?私の口?何故こんなに滑るのだ?

「なるほどねえ、情報って高く売れるの?」

「それはもう、重要な情報ほど高く売れるものですよ?そこはもう取引の腕に尽きますね」

「この国の情報は高く売れそう?」

「それを欲しがる方々によっては価値が高くなるのですよ?」

「どんな情報が手に入ったのかしら?」

「それは‥‥」

 だらだらと嫌な汗を出してジュリアは自分の口をきつく押さえた。
 駄目だ、これ以上、話してはいけない。
 身の危険を感じたジュリアは席を立ち、ベランダ側に下がる。

「ジュリアさん?駄目よ、ここ二階なんだから逃げられないわよ?」

 口を押さえたままジュリアは首を横に振る。ジュリアの目にはもはや純粋な姫は悪魔の手先と化していた。
 一つしかないドアの傍には哀れな視線をジュリアに送る騎士が立っている。

 ―――なに?なんなの?どういうことよっ?

 ともあれあっさり口を割ってしまったジュリアはもうこの城には居られない。スパイとばれてしまった以上捕まれば処分は免れない。

「どうせ捕まれば口を割らされるわ。そうそう、最後にひとつ個人的な質問だけど、お馬鹿な田舎騎士の味はどうでした?」

「刺激一つもない詰まんない味だったわ」

 ジュリアはベランダのガラスを突き破って外へ飛び降りた。





 ハリスはベランダから逃げたジュリアの所在を捜す。
 もちろんベランダ下の木々の間にも兵隊を配置していた。見つければすぐに捕えるだろう。ガラスの音を聞いて外の配置していた兵が入ってきたのでただちにスパイを追えと指示を出した。
 ハリスは割れたガラスを片づけながら動かない姫の様子を窺う。

「姫様、怪我などしておりませんよね?」

「してないわ」

「姫様が調合された新薬、大した効き目でしたね。すごいぺらぺら喋ってましたよ」

「・・・そうね、余計な事まで聞くんじゃなかったわ」

「・・・ええと、人には好みと言うものがありましてね。一概に個人的感想などというものは案外頼りないものでしてね」

「煩いわよ、黙んなさい」

「‥‥ハイ」



 その後、他の警備兵達とも協力体制をとりスパイの捜索を行ったが結局ジュリアは見つからなかった。
 あの状況下でどうやって逃げたものか、流石はスパイと言う所だ。

「荷物は全部置いて行きましたから重要な書類などは無事だと思いますがスパイがどの程度情報を掴んでいたのかが問題ですね」

「パーティの席でそんな難しい話はしないと思うけど。他国がスパイ使ってまで知りたがる情報って何なのかしら?」

「・・・うーん、そうですねえ」

 ちょっとやば過ぎる薬を調合するお姫様の情報なら結構重要かもしれない。ならば目下姫の師匠とされる魔法使いの情報が重要か?

「何にしろ他国のスパイなどは又現れるかもしれない。警備強化は必要ですね」

 特に白薔薇姫とか。

「グルエリ卿はどうするのよ?」

「彼は外交官ですよ、滅多な事は言えませんし今回外交手段に情報収集したかも知れませんが証拠がありません。スパイが消えたので何かを感じているかも知れませんが」

「スパイの噂を流したら仕事だけしてとっとと帰るんじゃないかしら?」

「そうですね、下手に勘ぐられる前にトンズラするでしょう」

「―――それで、ルウドは・・・」

「時間が解決するのを待つしかありません。何も言わず暖かく見守っていてあげましょう」

「・・・」







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