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第十話 薬品の効能と大きな弊害
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しおりを挟む「お兄様、街は落ち着いたのですか?状況はどうなっていますの?」
昼食の席で開口一番にティアに聞かれた。
やはり関わる事を辞める気はないらしい。
「薬は街に流しているのだから重症者の心配はない。あとは街役人が犯人を見つけるだろう。ティアが心配する事はないよ」
「黒幕の目星は付いているの?早く押さえないと街の騒ぎは収まらないのではなくて?」
「……君が口を挟むべき問題ではない」
パラレウスは冷製スープとパンケーキを食べながら素知らぬ顔で言う。
朝食や晩餐はメニューが決まっていて一家が皆同じものを食べるが軽めの昼食は個人でリクエストできる。
昼は何かと忙しいので特に食堂まで出向かなくても部屋で食べる事も出来る。
本日食堂には王と王妃は居なかった。皇子も忙しかったが息抜きに食堂へ食事に来た。
食堂には妹達が居てそれぞれ好きなモノを食べていた。
ティア姫はスープパスタなどを食べながらパラレウスを睨んでいる。
これでは息抜きも出来ない。
「……ティア、それよりも旅の準備はしているのか?他国へ出向くのだから相手に失礼があってはいけないよ。ダンスの練習もしているのだろうね?」
「好きで行くわけでもないのにそんなに張り切らないわ。全く忙しいのに。大体他国へ訪問が良くて何故街へ出るのはいけないのよ」
「街は安全ではないし、皇女が街へなど出てはいけないよ」
「つまんないわ」
「ティア、訪問より先に例の件頼んだわよ」
野菜スープを飲んでいたアリシア姫がぼそりと言った。
「……別に私じゃなくてもミザリーお姉さまに頼めばいいじゃない」
「私はあなたに頼んだのよ」
「………わかったわよ…」
ティアは口をつぐんで食事を進める。
パラレウスはこっそりため息を吐いた。
魔術師の塔でルウドは休憩していた。
例の商人を求めてあちこち歩き回って少々疲れた。
だが結局例の商人は見つからなかった。なのでしばし時間を置くことにしたのだ。
「副作用ありの怪しげな薬のお陰でゾフィー殿の薬は今の所増産には及ばなさそうです。しかしその副作用を消す薬が大量に必要になるかも知れません」
「その薬は病院で事足りるようならそれでいいでしょうが…。結局医者にかかる事になるならどちらの薬でも同じでしょうに」
「さあ……?副作用がどのくらい続くかによると思います。よほどのことがない限り医者の方にはかからず我慢する患者が増えそうです」
「薬代を安くする訳にはいきませんし、困ったものです」
街で買える薬師の薬は街人にも買える値段だが国管轄の病院の薬は高い。
何しろ材料に貴重なモノが多く、簡単に増産できる代物ではないのだ。
特に今回の毒消しは魔法使いゾフィーの造る貴重な薬。王が許可せねば病院で使えない貴重な薬だ。貴族が眉をひそめて渋る程度には高い。一般人に買える薬ではない。
「まあなんにせよ、街人が助かるならいいんですけどね」
王の許可が下りて魔法使いの薬が街に流れた事でとりあえず王家への不審も免れるだろう。ただ同時期に現れた謎の商人がとても気になるが。
ルウドはふと顔をあげ書物棚の方を見る。そこには幽霊が居て触れもしないのに物珍しげに本を見ている。
「……」
「……」
ゾフィーは見えているのかいないのか、そしらぬ顔でお茶を飲んでいる。
「この本興味深いわ。ゾフィーの専門書ね。面白そう。でも触れない。ああっ、でも読んでみたいわ」
「………」
ゾフィーは何も言わなかった。なのでルウドも黙っていた。
「ねえこれ取って広げてくれない?読ませてよ?」
「……」
何故幽霊なのにそんな物に興味を持つのだろう?そもそも幽霊は今の物に興味などもつものなのか?
「ルウド、無視しないで聞いてよ」
「………」
ルウドは仕方なく立ち上がり本棚にある本を取る。
「ゾフィー殿、この本読ませて貰っても?」
「……どうぞ」
普段本などの興味の示さないルウドが珍しい事を言ったにも関わらずゾフィーは何も言わず返答した。
ルウドは席に座り、本を捲る。ルウドにはまるで分らない本の内容を魔女が傍らで嬉しそうに眺めている。
ゾフィーは何故かこちらに視線を向けないようにしている。
微妙な空気が流れる。
「ルウドさん、戻って来てるってー?」
しばらくしてパティーが入ってきた。ドアの向こうから顔を出して驚いたようにルウドを凝視する。
「ルウドさんお帰りなさい―…?後ろについているの何?幽霊?昼間っから?すごい、どこで付けてきたの―?」
「……いやこの幽霊は、幽霊ではないのだけど…、ロヴェリナという大昔の魔女で…」
「ええっ?魔女―?すごいや、ゾフィーとどっちがすごいの―?」
「……さあ?」
キラキラと目を輝かせている子供を一瞥し、ゾフィーは諦めた様に溜息をついてルウドとロヴェリナに目を向けた。
やはり彼にはしっかり見えていたようだ。
「パティー、それは幽霊よりもっとたちの悪い過去の遺物というやつです、余り関わるものじゃない。その遺物が何故ルウド隊長に取り付いているのです?」
魔女が顔を上げて抗議する。
「酷いわ、ゾフィーが相手にしてくれないからでしょう?ルウドは優しいから邪魔にしたりしないのよ」
「………」
優しい訳ではない、ただ諦めていただけだ。とルウドは言いたかったが黙っていた。
そもそも魔女を払う方法など知らない。
「ルウドさん、魔女を甘やかしてはいけません、居心地がよすぎるとなかなか成仏してくれませんよ」
「分かっています……」
しかしそれでもあの顔と雰囲気によって冷たくあしらう事が出来ないのだと十分痛感していた。故に諦めるしかない。
「ゾフィー、ルウド帰ってきた?あら?」
昼食を終えたティア姫が戻ってきた。
ルウドが居るのを確認して、その手元に広げている本を珍しげに見る。
「ゾフィーの本に興味があるの?珍しいわね?」
「……いや、私が見たいわけではなかったのですが」
ルウドは本を閉じて棚に戻した。何しろ姫が戻ってきた途端に魔女が消えてしまったので。
「誰かいたの?」
「パティーはいましたが」
「ふうん……」
「それより、ティア様、最近製造していた姫の栄養剤の事ですが」
「……なに?」
「まさか街に流しているなんてことはないでしょうね?」
「……ゾフィーの薬が街に出せるのにどうしてそんな事するのよ?」
「ゾフィー殿の薬だけではとても間に合いません。しかし薬師とて今必死に材料を捜し製法を取得しようとしているのです」
「ゾフィーの薬の製法では駄目なのね」
「薬師と魔法使いは違いますから。ゾフィー殿の薬は薬師には造れるものではありません」
「私が造った薬でも駄目なのね」
「貴方の薬はゾフィー殿の製法が元となっているのでしょう?そんな物を表に出す訳にはいきませんよ」
「……そう言う事になってしまうのね、やっぱり」
姫は残念そうに息を吐く。
ルウドは疑惑の視線を姫に向ける。
「……ティア様、まさか…?」
「出さないわよ。元々そんな事が目的で造った薬でもないし」
「……そうですか…‥」
ルウドはほっとしたが何か今の会話に引っ掛かるものを感じて姫を見る。
「……今日はずっと研究室に籠って勉強していたのよ。今からもう一息調べ物をしてくるから夕食前までほっておいてくれていいわよ」
ティア姫はなぜかそそくさと逃げるように部屋を出て行った。
―――――怪しい…。やはり何か隠しているような気がする。
「……全く困った子よね、あんな難しい古文書解読しようとするんだから。しかも成し遂げてしまうのだからたちが悪いわ」
魔女が再び現れた。
「どうして姫の前には現れないのですか?きっとティア姫は喜びますが」
「今の私を具現化させる魔力の源はあの子の中にあるゾフィーの魔力なの。早い話、ついてる当人に姿を見せる事は出来ないの」
「……そうですか」
実の所ルウドには良く分からない。なのでそういう事なのだとただ納得しておいた。
「あのねルウド、具現化した私よりも危険なのはあの記述書なのよ実は。まさかあの子が本当に解読するとは思わないから今まで気にしなかったけど。意味の分からない古文書を解読して良く分からない薬品をとりあえず造ろうとするのはとても危険よ?何が起こるか分からないし。成功しても失敗しても面倒な事になるわ。だってあれに書かれているのはどれも今の製薬技術ではあり得ない薬品ばかりですもの」
「―――――そんな…」
「外に出して噂になっても困るでしょう?そろそろ止める頃だと思うの」
「そうですね」
「あの本、燃やしちゃってもいいわ。そうでないとあの子、諦めなさそう」
「それは……」
ルウドに価値が分からなくともゾフィーには分かるだろう。きっとゾフィーはそんな事を許すはずもない。
あれは多分魔法使いの宝ともいえる代物だろうから。
「ルウド、ティアを危険に巻き込みたくなかったらこれ以上魔法薬品に深入りさせない事が先決よ?」
「分かりました」
ルウドは微笑む。
魔女はルウドの宝を知っている。だからこそ、忠告に現れたのだと分かった。
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