おとぎの国のお一人さま

Ayabusa

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【第一章】アペリティフ ―はじまり―

生き甲斐を見誤っていた、ってこと

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10月の、夕日の美しい日だった。美葉は、荷物をまとめ、シュトゥットガルトの部屋を出た。

待ってました、と、ばかりに、今夜にでも、あの美しい音大生が、真也の食事を作りにやってくるだろう。
真也と二人で探した部屋。これからは毎日、真也のために、自分が料理してきたキッチンに、あの女が我が物顔で立ち、使うのだ。


キッチンの用品を揃え、毎日、朝、昼、晩と、真也のために、真也が喜ぶメニューを作り続けた、何気ない日常の歴史。

パンは食べた気がしないんだよな。

そう言う真也のために、ご飯やパスタ、時には手打ちうどんを作り、それを喜んで食べる真也の様子が生き甲斐だった。
いつしか、声楽のレッスンには通わなくなり、その代わりに、スーパーや市場に買い物に行く回数が増えた。

プレミエ(初上演)のゲネプロは、真也の家族ということで、毎回、招待で劇場に行き、見学することができた。
劇場で、世界各国、様々な国からやってきた歌手に混じって対等に歌う真也を、どれほど誇らしく思って見ていたことだろう。でも、


あれは、なんだったんだろう。

今は、そう思う。


あんなものを生き甲斐にしていた自分に、今は後悔しかない。
真也の成功や活躍を、自分のことのように思っていた。
だけど、もはやそれは、違う女にとって代わられたのだ。若く、美人という才能は、いとも簡単に、美葉が真也と共にしてきた年月も、苦労も超えた。
あっ、という間に。

私、バカみたい。

玄関の扉を出て、美葉は、泣き笑った。

それから、隣町に住む、大学時代の友人の家で2
か月程世話になり、その時、たまたま見つけたファルツのワイナリーレストランの求人に応募した。

うまく採用が決まり、ファルツでの新しい生活が始まったのは、まだ、葡萄の木々も、ただの枯れ枝にしか見えない2月だった。











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