悪役令嬢に転生したけど、何か攻略対象が全員おかしい

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「ならば、話を聞こう――セシリア」

　アレクセイの紅い瞳が、じっと私を見つめる。
　この学院で唯一、私に対して異常な執着を見せず、冷静に状況を分析している人物――それが彼だった。
　私は彼に賭けることにした。

「……場所を変えましょう。ここでは話しにくいですわ」

「そうだな。私の部屋に来い」

「っ……！」

　私は思わず息をのんだ。

（第二王子の部屋！？ そんなの、見つかったらスキャンダルどころの話じゃ――）

「安心しろ。誰にも気づかれぬように手を打ってある」

　その言葉に、私は覚悟を決めた。

（……もう、ここまで来たら腹を括るしかないわね）

　こうして、私はアレクセイの部屋へと向かうことになった――。





「驚いたな。まさか、お前がそこまで気づいているとは」

　アレクセイの部屋で、私はこれまでの異変について語った。

　攻略対象たちの異常な執着
　本来のヒロインであるリリアの不安定な状態
　そして、学院の記録に残されていた“忘れられた王妃”の物語

　アレクセイは黙って私の話を聞いていたが、話が終わると彼は深く息を吐いた。

「……やはり、この世界は歪んでいるな」

「アレクセイ様も、何か知っているんですか？」

　彼はしばらく沈黙した後、静かに口を開いた。

「……お前は、この世界がゲームの世界であると考えているのだろう？」

「っ！？」

　思わず心臓が跳ねる。

（どうして、この人がそんなことを……！？）

　彼は私が“前世の記憶”を持っていることを知らないはず。
　それなのに、まるで私の秘密を見透かしたかのような言葉を投げかけてきた。

「なぜ……？」

　私が警戒するように問いかけると、アレクセイは静かに笑った。

「私もまた、“この世界が作られたものである”と認識しているからだ」

　その瞬間、私の思考が止まった。

（この人……この世界がゲームであることを、知っている！？）

「どういうことですの？」

　震える声で尋ねると、アレクセイは窓の外を見つめながら言った。

「……私は、時折“記憶にないはずのこと”を思い出すのだ。まるで、別の自分が経験したかのような記憶を」

「それは……まさか……」

「私が知る限り、この世界は何度も繰り返されている。そして、その度にお前が悲劇的な結末を迎えている」

　――ゾクリと、背筋が凍る感覚がした。

「……私が？」

「そうだ。お前は必ず、攻略対象たちの間で争いが起こり、最終的に破滅する運命を辿る。そして、リリアはその混乱の中で闇堕ちし、この国は崩壊する」

「そんな……！」

　ゲームのシナリオにはそんな展開はなかったはず。
　なのに、アレクセイはこの世界が“ループしている”と言っている。

「どうして、それを知っているんですか？」

「……わからない。だが、私の中には確かに“前のループ”の記憶の断片が残っている」

　アレクセイは静かに目を閉じた。

「そして、一つだけ確実に言えることがある」

「……？」

「今回のループは、明らかに今までと違う。」

「違う？」

「そうだ。お前が転生したことによって、今までの流れが大きく変わった。そして、攻略対象たちの異常な執着も、以前のループでは見られなかったものだ」

「……じゃあ、これは私が転生したせいで？」

「そうかもしれん。だが、それだけではない」

　アレクセイは静かに私を見つめる。

「この異常な執着には、別の要因が絡んでいる」

　その言葉に、私は息をのんだ。





「……別の要因？」

　アレクセイはゆっくりと頷いた。

「この学院には、ある“呪い”がかけられている可能性が高い」

「呪い……？」

「そうだ。特定の人物に対して、異常な執着を生み出す“狂愛の呪い”――」

　私は思わず震えた。

「そんなものが、本当に……？」

「可能性としては十分にある。そもそも、攻略対象たちは元々、お前にそこまで執着するはずがない」

　それは確かにそうだ。
　本来なら彼らはヒロインであるリリアを愛するはず。
　なのに、今は私に執着している。

「つまり、何者かが“狂愛の呪い”を使い、攻略対象たちの感情を歪ませた？」

「その可能性が高い。そして、その呪いをかけたのは――」

　アレクセイは少し間を置き、静かに言った。

「……リリアかもしれない」

　私は息を呑んだ。

「リリア……が？」

「正確には、“リリアを利用した何者か”かもしれないがな」

　確かに、リリアの精神状態は不安定だった。
　彼女は本来ヒロインとして愛されるはずなのに、誰も自分を見てくれない。
　その絶望から、無意識に呪いの力に手を伸ばしてしまった可能性もある。

「でも、リリアにそんな力があるとは思えませんわ」

「そうだな。だからこそ、“誰かがリリアを利用している”可能性を考えなければならない」

　もしそれが本当なら、この学院にはまだ見えていない“黒幕”がいる。
　そして、私はその策略に巻き込まれた……？

（……このままじゃ、本当にまずいわね）

「セシリア」

　アレクセイはゆっくりと手を差し出した。

「私と手を組め。お前が破滅しないように、この異常なルートを打破するために」

　私は迷った。
　でも、今の私に選択肢はない。

「……わかりました。アレクセイ様、私に協力してください」

　私は彼の手を取った。
　その瞬間――

　ゴゴゴ……ッ！！

　何かが、音を立てて崩れ始めた。

「っ……！？」

「……どうやら、何者かが動き出したようだな」

　この世界の異常を作り出した“黒幕”が、私たちの行動に気づいたのかもしれない――。