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2、甘い視線と嫉妬の応酬
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──どうしてこんなことになったのか。
地味に生きてきたはずの私が、今や社交界の華たちに囲まれている。華やかすぎる彼らと一緒にいると、まるで舞踏会の中心に放り込まれた気分だ。いや、実際に今、舞踏会のど真ん中にいるのだけれど。
「リリア、ダンスの相手は僕だよね?」
王太子エドワードが優雅に手を差し出してくる。
「え、えっと……」
戸惑う私を横目に、アルバートが笑みを浮かべた。
「待てよ、エドワード。リリアは僕と踊る約束をしたんだ」
「そんな話、聞いた覚えがないが?」
エドワードが淡々と反論する。けれどアルバートは余裕の笑みを崩さない。
「今したよ?」
「勝手なことを言うな」
そのまま睨み合う二人を見て、私は思わず後ずさった。すると、横からノアが割り込んでくる。
「ちょっとちょっと、二人とも怖い顔しないでよ。リリアは可愛いんだから、紳士的に扱わなきゃ」
「ノア、貴様は黙っていろ」
珍しく低い声を出したエドワードに、ノアが目を丸くする。
「え? 王太子殿下がそんな嫉妬深いこと言うなんて、意外だな~」
「嫉妬などしていない」
「へぇ? じゃあなんで俺にそんなに敵意向けるの?」
「……お前がリリアにベタベタしすぎるからだ」
「それは君たちもじゃない?」
ノアが肩をすくめると、今度はレオンがため息をついた。
「くだらん」
「レオン!」
「リリアは俺がエスコートする」
そう言って私の手を取るレオンに、場の空気が凍りつく。
「おい」
「待て」
「ちょっと、レオン?」
次の瞬間、彼はぐいっと私を引き寄せた。
「お前たちみたいに甘い言葉を囁くことはできないが、リリアを守るのは俺の役目だ」
「誰が決めた?」
「リリア自身の意志は?」
アルバートとエドワードが問うけれど、レオンは動じない。
「リリアは断らない」
「……レオン?」
私が戸惑っていると、彼は私の耳元にそっと囁いた。
「お前は誰かに取られると困る」
「……え?」
「だから、俺のそばにいろ」
今までずっと冷静だったレオンが見せたこの態度に、私は思わず赤くなる。
「ずるい」
ぽつりと呟いたのはエドワードだった。
「お前だけがリリアの手を取るのを許されると思うなよ」
その言葉を皮切りに、再び彼らの視線が交錯する。舞踏会は華やかに続いているというのに、私の周りだけ異様な雰囲気だった。
舞踏会が終わった後、私は屋敷に帰るとどっと疲れを感じた。
「なんなの……?」
思わずベッドに倒れ込む。まさかこんなにも執着されるなんて、思ってもみなかった。
「お嬢様、お手紙が届いております」
侍女のエミリアが手紙を差し出すと、そこには美しい筆跡が並んでいた。差出人を見ると──エドワード、アルバート、レオン、ノアの四人!?
「……怖い」
こんなに熱心に手紙を書かれるなんて、普通はありえない。
一通ずつ開封してみると、それぞれの個性が出ていた。
エドワード:「次の舞踏会では、誰にも邪魔されず君と踊りたい。僕の隣にいるのが当然だと理解してくれるだろう?」
アルバート:「リリア、今度こそ二人きりの時間を作ろう。誰にも邪魔されない場所で、君の可愛い顔を独り占めしたい」
レオン:「お前は俺のものだ。他の男の甘い言葉に惑わされるな」
ノア:「ねえリリア、今度こそ僕のものになってくれない? ……って、冗談じゃないよ?」
「ど、どうすれば……」
彼らの独占欲がむき出しになってきている。私はただ地味に生きていきたいだけなのに……。
そのとき、ノックの音が響いた。
「リリア」
「えっ……レオン!?」
戸を開けると、そこには冷たい瞳をしたレオンが立っていた。
「……お前、俺以外の手紙を読んでいたな」
「え?」
「顔が赤い」
そう言って私の顎をすっと持ち上げる。
「他の男の言葉で浮かれるな」
「べ、別に浮かれてなんか……!」
「だったら、俺の言葉だけを信じろ」
彼の瞳は真剣だった。
「お前を誰にも渡したくない」
その瞬間、心臓が大きく跳ねた。
「でも……」
「リリア?」
戸惑う私に、彼はじっと視線を落とした。
「……お前が俺以外を選ぶなら、そいつごとこの世から消してやる」
「!?」
冗談なのか、本気なのかわからない。けれど、彼の目は鋭く光っていた。
「……怖がるな。俺はただ、お前を守りたいだけだ」
優しく額に口づけられて、私は息を飲んだ。
「リリア、次の舞踏会でも俺のそばにいろ。約束しろ」
「……うん」
気づけば、頷いてしまっていた。
でも──
この独占欲は、レオンだけじゃない。
彼の気配が去ったあと、私はもう一度他の手紙を見た。
エドワード、アルバート、ノア──
彼らの愛情もまた、異常なほど強く、甘く、危ういものだった。
「……どうしよう」
私は、どこへ行っても逃げられないのかもしれない。
地味に生きてきたはずの私が、今や社交界の華たちに囲まれている。華やかすぎる彼らと一緒にいると、まるで舞踏会の中心に放り込まれた気分だ。いや、実際に今、舞踏会のど真ん中にいるのだけれど。
「リリア、ダンスの相手は僕だよね?」
王太子エドワードが優雅に手を差し出してくる。
「え、えっと……」
戸惑う私を横目に、アルバートが笑みを浮かべた。
「待てよ、エドワード。リリアは僕と踊る約束をしたんだ」
「そんな話、聞いた覚えがないが?」
エドワードが淡々と反論する。けれどアルバートは余裕の笑みを崩さない。
「今したよ?」
「勝手なことを言うな」
そのまま睨み合う二人を見て、私は思わず後ずさった。すると、横からノアが割り込んでくる。
「ちょっとちょっと、二人とも怖い顔しないでよ。リリアは可愛いんだから、紳士的に扱わなきゃ」
「ノア、貴様は黙っていろ」
珍しく低い声を出したエドワードに、ノアが目を丸くする。
「え? 王太子殿下がそんな嫉妬深いこと言うなんて、意外だな~」
「嫉妬などしていない」
「へぇ? じゃあなんで俺にそんなに敵意向けるの?」
「……お前がリリアにベタベタしすぎるからだ」
「それは君たちもじゃない?」
ノアが肩をすくめると、今度はレオンがため息をついた。
「くだらん」
「レオン!」
「リリアは俺がエスコートする」
そう言って私の手を取るレオンに、場の空気が凍りつく。
「おい」
「待て」
「ちょっと、レオン?」
次の瞬間、彼はぐいっと私を引き寄せた。
「お前たちみたいに甘い言葉を囁くことはできないが、リリアを守るのは俺の役目だ」
「誰が決めた?」
「リリア自身の意志は?」
アルバートとエドワードが問うけれど、レオンは動じない。
「リリアは断らない」
「……レオン?」
私が戸惑っていると、彼は私の耳元にそっと囁いた。
「お前は誰かに取られると困る」
「……え?」
「だから、俺のそばにいろ」
今までずっと冷静だったレオンが見せたこの態度に、私は思わず赤くなる。
「ずるい」
ぽつりと呟いたのはエドワードだった。
「お前だけがリリアの手を取るのを許されると思うなよ」
その言葉を皮切りに、再び彼らの視線が交錯する。舞踏会は華やかに続いているというのに、私の周りだけ異様な雰囲気だった。
舞踏会が終わった後、私は屋敷に帰るとどっと疲れを感じた。
「なんなの……?」
思わずベッドに倒れ込む。まさかこんなにも執着されるなんて、思ってもみなかった。
「お嬢様、お手紙が届いております」
侍女のエミリアが手紙を差し出すと、そこには美しい筆跡が並んでいた。差出人を見ると──エドワード、アルバート、レオン、ノアの四人!?
「……怖い」
こんなに熱心に手紙を書かれるなんて、普通はありえない。
一通ずつ開封してみると、それぞれの個性が出ていた。
エドワード:「次の舞踏会では、誰にも邪魔されず君と踊りたい。僕の隣にいるのが当然だと理解してくれるだろう?」
アルバート:「リリア、今度こそ二人きりの時間を作ろう。誰にも邪魔されない場所で、君の可愛い顔を独り占めしたい」
レオン:「お前は俺のものだ。他の男の甘い言葉に惑わされるな」
ノア:「ねえリリア、今度こそ僕のものになってくれない? ……って、冗談じゃないよ?」
「ど、どうすれば……」
彼らの独占欲がむき出しになってきている。私はただ地味に生きていきたいだけなのに……。
そのとき、ノックの音が響いた。
「リリア」
「えっ……レオン!?」
戸を開けると、そこには冷たい瞳をしたレオンが立っていた。
「……お前、俺以外の手紙を読んでいたな」
「え?」
「顔が赤い」
そう言って私の顎をすっと持ち上げる。
「他の男の言葉で浮かれるな」
「べ、別に浮かれてなんか……!」
「だったら、俺の言葉だけを信じろ」
彼の瞳は真剣だった。
「お前を誰にも渡したくない」
その瞬間、心臓が大きく跳ねた。
「でも……」
「リリア?」
戸惑う私に、彼はじっと視線を落とした。
「……お前が俺以外を選ぶなら、そいつごとこの世から消してやる」
「!?」
冗談なのか、本気なのかわからない。けれど、彼の目は鋭く光っていた。
「……怖がるな。俺はただ、お前を守りたいだけだ」
優しく額に口づけられて、私は息を飲んだ。
「リリア、次の舞踏会でも俺のそばにいろ。約束しろ」
「……うん」
気づけば、頷いてしまっていた。
でも──
この独占欲は、レオンだけじゃない。
彼の気配が去ったあと、私はもう一度他の手紙を見た。
エドワード、アルバート、ノア──
彼らの愛情もまた、異常なほど強く、甘く、危ういものだった。
「……どうしよう」
私は、どこへ行っても逃げられないのかもしれない。
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