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「セ、セシリア! 待ってくれ!」
エドワードが震えた声で私を呼び止めた。しかし、私は一切振り返らず、静かにその場を後にした。
この時点で、すでにエドワードの運命は決まっている。
彼が関わっていた違法取引の証拠は十分に揃えてある。それを王宮に提出すれば、彼の爵位も地位も失われるだろう。いや、それどころか、最悪の場合、彼は処刑される可能性すらある。
私に許しを請うたところで、何も変わらない。
――それに、私は彼を許すつもりなど、毛頭なかった。
翌日、私は王宮の執務室にいた。
向かいには、アルベルト殿下。彼の隣には、王国の司法を司るオーウェン公爵が座っていた。
「ふむ……エドワード・グラハム侯爵が、ベルモント商会と手を組んで禁制品の取引を行っていた、か」
オーウェン公爵が証拠書類に目を通しながら、低く唸る。
「これが事実ならば、グラハム侯爵家の存続は難しいな。エドワード本人だけでなく、彼の父も責任を問われることになるだろう」
「ええ。しかも、彼はすでに違法行為だけでなく、王族に対する裏切り行為も画策していたようです」
私は新たに手に入れた情報を付け加えた。
調査を進めるうちに、エドワードが他国と密かに接触し、王国の軍事機密を流そうとしていた事実が発覚したのだ。
これが事実ならば、彼の罪は単なる違法取引にとどまらない。反逆罪として扱われ、確実に死刑が確定する。
「……ふざけた話だな。己の欲のために国を売るとは」
アルベルト殿下が忌々しげに呟く。
「すぐに動いたほうがよさそうですね」
「そうだな。オーウェン公爵、直ちに逮捕命令を出してくれ」
「承知しました、殿下」
こうして、エドワード・グラハム侯爵の運命は決まった。
その日の夕方。
王都の貴族街にあるグラハム侯爵家の屋敷に、王国騎士団が突入した。
「王の命により、エドワード・グラハム侯爵を逮捕する!」
彼の屋敷に響き渡る騎士団長の声。
慌てて逃げようとするエドワード。しかし、すでに周囲は完全に包囲されており、逃げ場などなかった。
「ち、違う! これは陰謀だ! 誰かが俺を陥れようとしているんだ!」
必死に叫ぶエドワード。しかし、騎士たちは淡々と彼を拘束し、連行した。
その光景を、私は少し離れた場所から見つめていた。
これで終わり――ではない。
私は静かに呟いた。
「まだ、彼には地獄を味わってもらわないとね」
そう、これはまだ始まりにすぎないのだ。
エドワードが逮捕された翌日。
王宮の大広間にて、貴族たちが集められ、エドワードの罪が公表されることになった。
裁判という形を取るが、もはや結果は決まっている。
王宮の高位貴族たちが見守る中、拘束されたエドワードが連行されてきた。
「エドワード・グラハム侯爵、お前は違法取引および国家反逆の罪により、裁かれることとなる」
裁判官が厳かに告げると、会場にどよめきが走った。
「反逆罪……!? 本当なのか?」
「もし事実ならば、死刑も免れないぞ……!」
エドワードは、絶望的な表情で震えていた。
「ち、違う……俺はそんなつもりじゃ……」
「証拠は揃っている。お前に言い逃れはできん」
裁判官が冷たく言い放つ。
そして、私はゆっくりと歩み出た。
「セ、セシリア……!」
エドワードが私を見る。
彼の目は、完全に恐怖に染まっていた。
「私に何か?」
私は静かに問いかける。
「頼む……助けてくれ……! 俺は、お前の婚約者だったんだぞ……!」
婚約者だった?
笑わせないでほしい。
私は冷たい視線を向け、ゆっくりと告げた。
「あなたが私を捨てたとき、すでに私たちの関係は終わっています。今さらすがりつかれても、私はあなたを助けるつもりはありません。」
「そ、そんな……!」
エドワードが崩れ落ちる。
絶望に打ちひしがれる彼を、私は見下ろした。
「地味でつまらない女、でしたか?」
「ぐっ……」
私の言葉に、エドワードは何も言えなくなる。
もう遅い。
あなたは、自らの行いの報いを受けるだけ。
「判決を下す。エドワード・グラハム侯爵には、すべての爵位および財産を剥奪し――」
裁判官の声が響く。
しかし、その瞬間――
「待ってください!!」
突然、会場の端から叫び声が響いた。
全員の視線が、その声の主に向けられる。
そこに立っていたのは――
「クラリス・ベルモント!?」
そう、エドワードの新たな婚約者であるクラリス・ベルモントだった。
彼女は必死の形相で駆け寄り、エドワードの前に立った。
「彼を助けてください!! 彼は無実です!!」
必死に訴えるクラリス。しかし、王族や貴族たちは冷ややかに見つめていた。
「今さら何を言っても無駄です。彼の罪は明白」
「それでも! 私は……私は彼を愛しているのです!」
その言葉に、エドワードが驚いたようにクラリスを見る。
彼女が本気で言っているのかどうか、私にはわからない。
だが、一つだけ確かなことがある。
――これで終わりではない。
地獄は、まだまだ続くのだから。
エドワードが震えた声で私を呼び止めた。しかし、私は一切振り返らず、静かにその場を後にした。
この時点で、すでにエドワードの運命は決まっている。
彼が関わっていた違法取引の証拠は十分に揃えてある。それを王宮に提出すれば、彼の爵位も地位も失われるだろう。いや、それどころか、最悪の場合、彼は処刑される可能性すらある。
私に許しを請うたところで、何も変わらない。
――それに、私は彼を許すつもりなど、毛頭なかった。
翌日、私は王宮の執務室にいた。
向かいには、アルベルト殿下。彼の隣には、王国の司法を司るオーウェン公爵が座っていた。
「ふむ……エドワード・グラハム侯爵が、ベルモント商会と手を組んで禁制品の取引を行っていた、か」
オーウェン公爵が証拠書類に目を通しながら、低く唸る。
「これが事実ならば、グラハム侯爵家の存続は難しいな。エドワード本人だけでなく、彼の父も責任を問われることになるだろう」
「ええ。しかも、彼はすでに違法行為だけでなく、王族に対する裏切り行為も画策していたようです」
私は新たに手に入れた情報を付け加えた。
調査を進めるうちに、エドワードが他国と密かに接触し、王国の軍事機密を流そうとしていた事実が発覚したのだ。
これが事実ならば、彼の罪は単なる違法取引にとどまらない。反逆罪として扱われ、確実に死刑が確定する。
「……ふざけた話だな。己の欲のために国を売るとは」
アルベルト殿下が忌々しげに呟く。
「すぐに動いたほうがよさそうですね」
「そうだな。オーウェン公爵、直ちに逮捕命令を出してくれ」
「承知しました、殿下」
こうして、エドワード・グラハム侯爵の運命は決まった。
その日の夕方。
王都の貴族街にあるグラハム侯爵家の屋敷に、王国騎士団が突入した。
「王の命により、エドワード・グラハム侯爵を逮捕する!」
彼の屋敷に響き渡る騎士団長の声。
慌てて逃げようとするエドワード。しかし、すでに周囲は完全に包囲されており、逃げ場などなかった。
「ち、違う! これは陰謀だ! 誰かが俺を陥れようとしているんだ!」
必死に叫ぶエドワード。しかし、騎士たちは淡々と彼を拘束し、連行した。
その光景を、私は少し離れた場所から見つめていた。
これで終わり――ではない。
私は静かに呟いた。
「まだ、彼には地獄を味わってもらわないとね」
そう、これはまだ始まりにすぎないのだ。
エドワードが逮捕された翌日。
王宮の大広間にて、貴族たちが集められ、エドワードの罪が公表されることになった。
裁判という形を取るが、もはや結果は決まっている。
王宮の高位貴族たちが見守る中、拘束されたエドワードが連行されてきた。
「エドワード・グラハム侯爵、お前は違法取引および国家反逆の罪により、裁かれることとなる」
裁判官が厳かに告げると、会場にどよめきが走った。
「反逆罪……!? 本当なのか?」
「もし事実ならば、死刑も免れないぞ……!」
エドワードは、絶望的な表情で震えていた。
「ち、違う……俺はそんなつもりじゃ……」
「証拠は揃っている。お前に言い逃れはできん」
裁判官が冷たく言い放つ。
そして、私はゆっくりと歩み出た。
「セ、セシリア……!」
エドワードが私を見る。
彼の目は、完全に恐怖に染まっていた。
「私に何か?」
私は静かに問いかける。
「頼む……助けてくれ……! 俺は、お前の婚約者だったんだぞ……!」
婚約者だった?
笑わせないでほしい。
私は冷たい視線を向け、ゆっくりと告げた。
「あなたが私を捨てたとき、すでに私たちの関係は終わっています。今さらすがりつかれても、私はあなたを助けるつもりはありません。」
「そ、そんな……!」
エドワードが崩れ落ちる。
絶望に打ちひしがれる彼を、私は見下ろした。
「地味でつまらない女、でしたか?」
「ぐっ……」
私の言葉に、エドワードは何も言えなくなる。
もう遅い。
あなたは、自らの行いの報いを受けるだけ。
「判決を下す。エドワード・グラハム侯爵には、すべての爵位および財産を剥奪し――」
裁判官の声が響く。
しかし、その瞬間――
「待ってください!!」
突然、会場の端から叫び声が響いた。
全員の視線が、その声の主に向けられる。
そこに立っていたのは――
「クラリス・ベルモント!?」
そう、エドワードの新たな婚約者であるクラリス・ベルモントだった。
彼女は必死の形相で駆け寄り、エドワードの前に立った。
「彼を助けてください!! 彼は無実です!!」
必死に訴えるクラリス。しかし、王族や貴族たちは冷ややかに見つめていた。
「今さら何を言っても無駄です。彼の罪は明白」
「それでも! 私は……私は彼を愛しているのです!」
その言葉に、エドワードが驚いたようにクラリスを見る。
彼女が本気で言っているのかどうか、私にはわからない。
だが、一つだけ確かなことがある。
――これで終わりではない。
地獄は、まだまだ続くのだから。
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