地味令嬢を馬鹿にした婚約者が、私の正体を知って土下座してきました

ほーみ

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「私は……私は彼を愛しているのです!」

 クラリス・ベルモントの悲痛な叫びが王宮の大広間に響き渡った。

 エドワードを庇うように立ちはだかる彼女。しかし、その姿を見た貴族たちは、冷ややかな視線を向けるばかりだった。

「愛……?」

 私は小さく呟き、彼女を見据える。

「クラリス・ベルモント。あなたが彼を愛していることと、彼の罪は何の関係もありません」

「で、ですが……! 彼はきっと騙されたのです! 誰かが彼を陥れたのに違いありません!」

「誰かが?」

 私は冷笑し、手に持っていた証拠の書類を掲げた。

「これは、彼が直筆で署名した違法取引の契約書です。さらに、裏で動いていた密偵の証言も取っています」

 クラリスの顔が青ざめる。

「そ、それは……」

「彼が自らの意思で行ったことは、明白です。あなたがどれほど愛を語ろうとも、それが彼の罪を軽くすることにはなりません」

「……っ!」

 クラリスは何かを言い返そうとしたが、言葉に詰まり、拳を握り締めた。

 エドワードも俯いたまま震えている。

 ああ、彼は今、気づいたのだろう。

 「貴族社会では、失脚した者に救いの手を差し伸べる者はいない」という現実に。



「判決を下す」

 裁判官の低い声が響く。

「エドワード・グラハム侯爵には、すべての爵位および財産を剥奪し、地下牢に収監のうえ、後日正式な刑を執行するものとする」

 その言葉が告げられた瞬間、エドワードの顔が絶望に染まった。

「そ、そんな……」

 彼は崩れ落ちるように床に座り込んだ。

 騎士たちが彼の腕を掴み、無理やり立ち上がらせる。

「やめろ! 俺は貴族だぞ! こんな扱いが許されるはずが……!」

「……お前はもう貴族ではない」

 アルベルト殿下の冷たい声が彼を断罪する。

「貴族としての誇りを捨て、国を裏切った時点で、お前はただの犯罪者にすぎない」

「う、うあぁぁぁ……!」

 エドワードの叫びが響く。

 もはや、彼の味方はどこにもいない。

 騎士たちはそんな彼を引きずるようにして大広間を後にした。

 だが、その瞬間だった。

「待って!!」

 再び、クラリスの叫びが響いた。

 彼女はエドワードに駆け寄り、すがるように彼の腕を掴んだ。

「お願い! 私も一緒に行くわ!」

 会場がざわめく。

「……クラリス?」

 エドワードが困惑した表情で彼女を見つめる。

「私、あなたを見捨てたりしない! 一緒に罪を償いましょう!」

 その言葉に、私は目を細めた。

(なるほど、彼女はまだ気づいていないのね)

 クラリスは、まだ自分が貴族社会に残れると思っているのだろう。

 だが、現実は甘くない。

 彼女の実家であるベルモント商会も、すでに捜査対象となっている。

 このままでは、彼女もいずれエドワードと同じ運命を辿ることになるだろう。



 エドワードの裁判が終わった翌日、私は王宮の一室にいた。

 向かいには、アルベルト殿下とオーウェン公爵。

「セシリア、君に伝えることがある」

 アルベルト殿下の表情が険しくなる。

「実は、今回の件にはまだ裏がある」

「裏……?」

「エドワードの取引の背後には、他国の貴族が関わっていた可能性がある」

「……!」

 私は思わず息をのんだ。

「つまり、これは単なる貴族の失脚劇ではなく、国際的な陰謀ということですか?」

「そういうことだ」

 アルベルト殿下は真剣な表情で頷く。

「君には、この件のさらなる調査を頼みたい」

「……承知しました」

 私は静かに頷いた。

 エドワードの罪はすでに確定した。

 だが、これで終わりではない。

 この事件の背後には、もっと大きな陰謀が潜んでいる。

 真の敵は、まだ姿を現していないのだから――。

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