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あの時、決意して本当に良かったと思う。私の未来の為に費やしたこの一年間は、かけがえのない時間となった。

「ここまでほんっっとうに長かったわ……でも、私にとって有意義な時間だったのも確かよ」

婚約破棄を行う為に必要な書類や手続き等、それらは思っていたよりも多く大変だった。
また同時にダグラス達の動きを気にしないといけなかった為、頭が痛くなることも多々あった。主に彼等の痛い発言によってだったが。

「お疲れ様。これからは穏やかに過ごせそうだね」
「そうだといいけど……」
「その反応はまだ何か問題がある、て感じだね」
「まあ、ね。昨日で手続きを終えたって言ったけど、実はその場にダグラス本人は居なかったのよ」
「…彼は事の重大さを理解してないようだな」

ケイトが頭を抱えるのは無理もない。
この国における貴族の婚約は必ずどこかで王家が関与する。
婚約を結ぶ時は、両家の印を押された書物を受理する際に王家が携わる事が多い。偶に仲を取り持つ事はあるそうだけど、近年そういった事例は起きて無いと言われているほど稀な事らしい。
そして婚約の解消、破棄においては王家が直接関与してくる。
書類を渡し受理を待つ婚約の時とは違い、解消や破棄の場合は当事者、両家当主、王家、宰相が集い話し合いをする。婚約の解消や破棄が妥当であるか、内容に相違が無いか、相手の尊厳を不当に害する事無いか、慎重に話が為される。

「実際に正式な手続きを踏んで、改まった場を持たれてからは、貴族の婚約が如何に大事なのか痛い程身に染みたわ。きっとダグラスは人目の多い所で私を断罪して婚約破棄を突きつければ婚約破棄が出来ると思ってる。事実、今回の話し合いの場において何が問題となるか理解してなかったから来なかったんだと思う。ただ、パーシヴァル夫人は真面目な方だからダグラスに詳細は伝わってる、とも思うのよ」

けれど、と思う。ダグラスは私を容易に悪女に仕立て上げ、それを糧に愛を育む人だ。もしかしたら都合の悪い話は聞き流してしまったのかもしれない。
時々、情報収集のため苦痛と感じながらも耳にしてた彼等の計画は夢物語のようなものだった。
ヒーローが居て、ヒロインが居て、悪女が居る。そんなよく出来た夢物語都合の良いラブストーリー
だが、現実は物語のように簡単にいかない。

「無知は罪って言うけど、知らない事で身を滅ぼすことってあるのよね。特に私達貴族は普通の人よりも恩恵を受けてる。だから知らなかったと済ましてはいけない上に、努力を怠ってはいけないのよ」

貴族の問題に王家が深く関わる事はそれだけ重大である。決して都合良く、楽観視してはいけないのだ。

「彼は今回の件で、知らぬ間に王家に背いた者、というレッテルを貼られた事にいつ気がつくだろうな」
「…いつだろうね」

恐らくダグラスが事実を理解するのに多くの時間を要すると思う。
何故ルーシーとの関係が知られてるのか。何故ダグラスの計画していた婚約破棄が知られているのか。どうしてダグラスの有責で婚約破棄がされたのか。何故婚約破棄に王家が関わるのか。どうしてダグラスが王家に背いた者となっているのか。
何故、何故、何故、どうして……彼は問い続けるだろう。

「さて、そろそろ教室に戻ろうか。授業は無いけど、最終学年に上がるための準備があるからさ」
「最終学年か。私、将来どうしよう。何しようかな……うん、全然思いつかないわ」
「晴れて自由の身になったんだから、今はゆっくり考えればいいよ」
「それもそうね」

親の決めた家に嫁ぐ事を不幸と思った事はない。貴族だもの。それくらいは覚悟していた。けれど蔑ろにされる謂れはなかった。だから反抗したまで。
立ち上がるために自然と差し出されたケイトの手に、私は自分の手を重ねようとして、

「リアナ様!!一体どういうことですか!!」

ルーシーから張り上げられた声を受け、そっと手を下ろした。
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