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「私は私の未来の為に、貴方と対峙する事を決めました。理不尽な理由で私の人生を踏み躪られる謂れはないと。その結果が今に至るのです」

私の言葉を受けて何も言えず小さくなる男を見て、ここで本当の意味で婚約破棄をやりきったのだと感じた。
多くの可能性を考え、悩み、そして色んな人を巻き込んだこの婚約破棄。私が影でどんな事をしたのかダグラスは知らないだろう。とはいえ、私から彼に教えることは何一つ無い。
ただ私が動いた理由が彼に伝わればいいと思っていた。それがようやく伝わったのだから、それでいいと思う。

「伝えたい事は伝えました。これ以上、私はダグラス様との直接的の会話を望みません」

恐らく王太子が居るだろう場所へ向けて伝えると魔法が空気に溶けるように消えた。私とダグラスしか居なかった空間に、魔法が解ける前と同じ様にお父様達が変わらず座っていた。
手を組みながら私を見ている王太子から確認される。

「リアナ嬢、もう良いんだな?」
「はい。ダグラス様に私の気持ちを伝えられたのでこれで。婚約破棄の経緯はいずれ知る事が出来るでしょう。私はダグラス様へ説明する気持ちは持ち合わせていません」
「そうだな。本人が知りたいと思えばいつでも知る事は出来る」

王太子がパーシヴァル当主と夫人へ視線を向けると視線を受けた二人は小さく頷いた。その反応を受け、王太子は切り替えるように告げる。

「これから縁切りの誓約の儀を執り行う」

王太子の魔力を受けて神々しく光る誓約の書。まだ空白の書へ記載出来るよう王太子の手の内にペンが構築される。

「誓約内容を決めるのはリアナ嬢と伯爵だ。侯爵側は受け入れ難いもののみ異論を唱えるものとする。問題は無いか?」
「御座いません」

パーシヴァル当主の迷いのない返答にダグラスが反応するがそれだけ。夫人も小さく頷き微笑む。

「ではリアナ嬢。まずは貴女から聞かせてもらおうか」
「はい。私からの希望はーー」

元より縁切りの内容はお父様と決めてきている。
今回の婚約破棄によってかなりパーシヴァル家の風評は落ちているため、行き過ぎた制裁にならない様に内容を精査してきた。あくまでダグラスのみに対して、今まで受けた影響を差し引きして。

「ダグラスの接触禁止、またダグラスに頼まれた者からの接触禁止。リアナ嬢及びスティルマン家を陥れる行為の禁止、だね」
「基本ダグラス様に関する此方への干渉制限があれば問題ありません」
「では将来を見据えてリアナ嬢の結婚相手、子供、孫までの接触禁止だね。これは私の方から付け加えておこうか」
「将来、ですか?」
「そう、いつ何が起きるか分からないからね。有って困るものではないだろう?」

王太子の言葉に何故かお父様は顔を顰める。

「何かな伯爵」
「…いえ、何もありません」
「では今度は伯爵だな」

二人の会話に少し違和感を持ったが、お互い軽く流して次へ話が進んだ為、私は気に留め無かった。
そして、後々になって知る事になる。この時既に王太子とお父様は知っていたのだと。
何も知らない私は一仕事終えた事に安堵していた。

この日をもって私は、ダグラス・パーシヴァルとの婚約破棄を完全に終え、彼との縁を切る事となった。
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