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夜天の主 編
コウイチ、悩む。そして混沌への予兆
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コウイチのハクが異世界に降り立ち、気づけば二ヶ月が過ぎた。
開幕早々からの黒龍との出会い、アイリスとメアリとの出会い、突然現れたかと思ったら不穏な言葉を残して消えた蠢く何か達、そして冒険者として生活気付くまでのアイリスとの同棲生活スタート!
アヴァロンでの生活が始まってからは、今後のことも考えてアイリスに戦いの稽古をつけてもらったり、アイリスのお風呂を覗こうとして吊るし上げられたり、コウイチのスキルが晶石以外にも鉱石・鉱物の加工も行える(不純物が取り除け品質が向上させられる)という新事実から【鉱石加工】のスキル保有とメアリに書類を捏造して頂き、鍛冶場や貿易商を紹介してもらい鉱石・鉱物加工の仕事を始めたり、その代金としてメアリとデート(人生初の女の子とのデート!)をしてハクが迎えに来てくれなかったら力づくでお持ち帰りされかけたり、と大きな事件もなく瞬く間に日々は過ぎて行った。
そんなある朝、ストレインの甲板でハクとアイリスが実戦形式の模擬戦で激戦を繰り広げている姿を頭頂部に出来たタンコブに氷嚢を乗せて微笑ましく見守る。
ハクはよく食べ、よく遊び、よく寝る、良い子ですくすくと育って行った。二か月前は膝丈くらいまでしかなかったのに、今ではゴールデンレトリーバーの成犬ほどにまで成長してしまった。幸いなことに人型モードは変わらず小さなハクのままなので戦う時以外は人型モードでいるようにお願いした。
尤も、力は狼モードの方が出しやすいが人型モードの方が動きやすいという事で必要でない限りは好んで人型でいるようだ。
アイリスに叩きのめされズキズキと痛む頭を撫でながら、コウイチは自分の能力ーー晶石鍛治EXについてふと考えていた。
直接手で触れて、作りたいものをイメージするだけで加工できる。
「これって”鍛冶”とはちょっと違うよなぁ」
形状を変化させているだけ。それが凄い凄いと持て囃されて、何の疑いもなく時間だけが過ぎて行ったが……もっと早くに気づくべきではなかっただろうか?
「にゃぁぁあぁっ!? ぐぬぬぬ、にゅ~」
相変わらず、猫のような声を上げてハクが甲板を転がっていく。まだまだ、と立ち上がろうと試みるも、がくんと足の力が抜けてそのまま目を回して気を失ってしまった。
「はぁはぁ……まだまだね」
肩で大きく息をしながらアイリスが勝ち誇ったようなセリフを吐く。まだまだ、と言いつつもギリギリ勝った感が半端ない。が、開幕三十秒でノックアウトされた身としては口が裂けても煽れない。
傍に置いてあったドリンクボトルをアイリスに投げる。こちらを視ずにキャッチする。
「……ありがと」
水分を補給して一息ついたアイリスが半目になって言う。
「ねえ、半信半疑だったんだけど……この子、神獣ってホントっぽい?」
「噂ではそうらしいぞ。一応、闇以外の全属性魔法が使えるらしいし? いや、ホントかは知らんけど」
「何その規格外……そろそろ木刀一本で相手をするのは限界ね。補助装備くらいは使わせてもらわないと」
今まで木刀一本で相手をしていた時点で十分にアイリスの凄さが理解できる。
「ま、私も鍛錬になるからいいんだけどね。それより、何が違うの?」
「え?」
「さっき、ちょっと違うとか言ってなかった?」
「地獄耳だな。……まあ、大したことじゃないよ。ただ、俺の能力って何か使い方が違うんじゃないかなってな」
「うーん、そういうことね。その手のことは私は管轄外だし……メアリに相談してみたら? モノの扱い方に関してはあの子上手だから」
……メアリ、さんにですか。
「確かにモノの扱い方は上手そうですよね」
「どうして、そんなに遠い目してるの?」
「いえ、何でもないです」
次は絶対に食べられてしまう。何がとは言わないが!?
強引な、積極的な女の子は多分嫌いじゃない。女の子と付き合ったことがないし、そういった経験もゼロで……でも、男の子的には女の子に引っ張られるだけというのはプライドが許さない。プライドなんて無いだろ、と言われたらガラスのハートが砕け散るので静かにすること!
メアリのことは嫌いじゃないし、むしろ、童顔金髪碧眼エルフっ娘で大好きなんだけど、御馳走にしか見えないんだけど、積極的に来られすぎて苦手意識が若干強いのだ。
考えていても仕方がない。
苦手意識で嫌厭していても始まらない。
何よりも我が家には食費の掛かる可愛い子がいるのでお金を稼がないといけない! 最近のハクさんの食費は一週間で十万エン(”エン”はこの世界の通貨で、貨幣・紙幣も日本と同じ。分かりやすい!)と家計を非常に圧迫していらっしゃるのです。このままどんどん大きくなると想像するだけで背筋が凍りそうだった。
ギルド本部の受付窓口の一つにいつも通りのにこやかなメアリの姿があった。
「こんにちは、メアリさん」
「あらコウイチさん。ギルドに顔を出すなんて珍しいですね。依頼を受けに?」
最近はメアリに紹介してもらった貿易商さんと直接取引をしているのでギルドに顔を出したのは一ヵ月ぶりくらいだろうか。冒険者になったといってもノルマなどは一切ないので、別段、他で仕事があるなら顔を出す必要があまりないのだ。
「今日は折り入って相談したいことがあって……個室が空いてると嬉しいんですけど」
「あらあら、ついに! では、すぐにホテ――」
明らかにおかしな方向の単語が飛び出かけたので口を塞いで止める。
「真昼間から何を口走ろうとしているんですか」
そういう方向で積極的なメアリだが、アイリス曰く、メアリがここまで積極的になったのは初めてだそうだ。今まで色恋沙汰なんて毛ほどもなく。そういう経験はないはずらしく、親友であるアイリスからしてもどこまでが本気なのかが分からないという。
「面白くないですね。では、どういったご用件でしょうか? わたし、忙しいんです」
ホテーーとか口走った口はどれですか?
「俺のスキルのことで相談なんです」
「そういう事なら仕方ありませんね。料金はデート一回で許してあげます」
「ハク同伴可!」
「同伴不可。二人っきり以外認めません」
「ハクお迎え!」
「わたしが船まで送るのでいりません」
「零時までにはお家に返してください!」
「安心してください。零時までには送ります」
妥協に妥協を重ねて取引成立。
コウイチはメアリの後に続いて奥の個室へと向かう。
「何時の零時かは分かりませんけどね」
ふふふ、メアリが不敵に微笑むのであった。
頑張って、約束は反故にしよう。
そんなこんなで危険な決算手形(当然のように血判での契約書を書かされました)を支払ったコウイチだったが、相談の結果、実際に鍛冶場の見学をしてみれば何かが掴めるかもしれないとメアリからギルド所属の鍛冶場を紹介して貰えた。
その鍛冶場はアヴァロン内でも特別な場所にあり、一般人は立ち入れず、冒険者でもギルドからの紹介がなければ立ち入り禁止というセキュリティが高く設定されている。
鍛冶場のある場所――アヴァロン北区画地下51層:最深部。アヴァロンの生命線とも言える魔力融合炉の一つと隣接されているのだった。
エレベーターに乗り込み一般解放されている地下10階まで降りる。その後は地下下層専用エレベーターにメアリから貰った認証カードキーを差し込んでやってきたエレベーターに一人で乗り込み51層へ一直線。
チンッ、と安っぽい音が鳴り、エレベーターの扉が開く。照明でライトアップされた明るい空間が広がっていた。左右の壁に扉があり、正面には更に奥へと繋がっている通路が見える。
「そこの少年、少々良いか?」
エレベーターから降りた所でコウイチは鈴の音のような綺麗な声に呼び止められる。振り向いた先には――小麦色の長い髪の艶やかな着物姿の女性が番傘を差して立っていた。
どくん、とコウイチの心臓が高鳴った。
その女性が艶やかな着物を圧倒するほどの美貌の持主であったこともあるが、それ以上に纏う異質な雰囲気と地下なのに番傘を差しているシチュエーションが本能的に警戒させたのだった。
開幕早々からの黒龍との出会い、アイリスとメアリとの出会い、突然現れたかと思ったら不穏な言葉を残して消えた蠢く何か達、そして冒険者として生活気付くまでのアイリスとの同棲生活スタート!
アヴァロンでの生活が始まってからは、今後のことも考えてアイリスに戦いの稽古をつけてもらったり、アイリスのお風呂を覗こうとして吊るし上げられたり、コウイチのスキルが晶石以外にも鉱石・鉱物の加工も行える(不純物が取り除け品質が向上させられる)という新事実から【鉱石加工】のスキル保有とメアリに書類を捏造して頂き、鍛冶場や貿易商を紹介してもらい鉱石・鉱物加工の仕事を始めたり、その代金としてメアリとデート(人生初の女の子とのデート!)をしてハクが迎えに来てくれなかったら力づくでお持ち帰りされかけたり、と大きな事件もなく瞬く間に日々は過ぎて行った。
そんなある朝、ストレインの甲板でハクとアイリスが実戦形式の模擬戦で激戦を繰り広げている姿を頭頂部に出来たタンコブに氷嚢を乗せて微笑ましく見守る。
ハクはよく食べ、よく遊び、よく寝る、良い子ですくすくと育って行った。二か月前は膝丈くらいまでしかなかったのに、今ではゴールデンレトリーバーの成犬ほどにまで成長してしまった。幸いなことに人型モードは変わらず小さなハクのままなので戦う時以外は人型モードでいるようにお願いした。
尤も、力は狼モードの方が出しやすいが人型モードの方が動きやすいという事で必要でない限りは好んで人型でいるようだ。
アイリスに叩きのめされズキズキと痛む頭を撫でながら、コウイチは自分の能力ーー晶石鍛治EXについてふと考えていた。
直接手で触れて、作りたいものをイメージするだけで加工できる。
「これって”鍛冶”とはちょっと違うよなぁ」
形状を変化させているだけ。それが凄い凄いと持て囃されて、何の疑いもなく時間だけが過ぎて行ったが……もっと早くに気づくべきではなかっただろうか?
「にゃぁぁあぁっ!? ぐぬぬぬ、にゅ~」
相変わらず、猫のような声を上げてハクが甲板を転がっていく。まだまだ、と立ち上がろうと試みるも、がくんと足の力が抜けてそのまま目を回して気を失ってしまった。
「はぁはぁ……まだまだね」
肩で大きく息をしながらアイリスが勝ち誇ったようなセリフを吐く。まだまだ、と言いつつもギリギリ勝った感が半端ない。が、開幕三十秒でノックアウトされた身としては口が裂けても煽れない。
傍に置いてあったドリンクボトルをアイリスに投げる。こちらを視ずにキャッチする。
「……ありがと」
水分を補給して一息ついたアイリスが半目になって言う。
「ねえ、半信半疑だったんだけど……この子、神獣ってホントっぽい?」
「噂ではそうらしいぞ。一応、闇以外の全属性魔法が使えるらしいし? いや、ホントかは知らんけど」
「何その規格外……そろそろ木刀一本で相手をするのは限界ね。補助装備くらいは使わせてもらわないと」
今まで木刀一本で相手をしていた時点で十分にアイリスの凄さが理解できる。
「ま、私も鍛錬になるからいいんだけどね。それより、何が違うの?」
「え?」
「さっき、ちょっと違うとか言ってなかった?」
「地獄耳だな。……まあ、大したことじゃないよ。ただ、俺の能力って何か使い方が違うんじゃないかなってな」
「うーん、そういうことね。その手のことは私は管轄外だし……メアリに相談してみたら? モノの扱い方に関してはあの子上手だから」
……メアリ、さんにですか。
「確かにモノの扱い方は上手そうですよね」
「どうして、そんなに遠い目してるの?」
「いえ、何でもないです」
次は絶対に食べられてしまう。何がとは言わないが!?
強引な、積極的な女の子は多分嫌いじゃない。女の子と付き合ったことがないし、そういった経験もゼロで……でも、男の子的には女の子に引っ張られるだけというのはプライドが許さない。プライドなんて無いだろ、と言われたらガラスのハートが砕け散るので静かにすること!
メアリのことは嫌いじゃないし、むしろ、童顔金髪碧眼エルフっ娘で大好きなんだけど、御馳走にしか見えないんだけど、積極的に来られすぎて苦手意識が若干強いのだ。
考えていても仕方がない。
苦手意識で嫌厭していても始まらない。
何よりも我が家には食費の掛かる可愛い子がいるのでお金を稼がないといけない! 最近のハクさんの食費は一週間で十万エン(”エン”はこの世界の通貨で、貨幣・紙幣も日本と同じ。分かりやすい!)と家計を非常に圧迫していらっしゃるのです。このままどんどん大きくなると想像するだけで背筋が凍りそうだった。
ギルド本部の受付窓口の一つにいつも通りのにこやかなメアリの姿があった。
「こんにちは、メアリさん」
「あらコウイチさん。ギルドに顔を出すなんて珍しいですね。依頼を受けに?」
最近はメアリに紹介してもらった貿易商さんと直接取引をしているのでギルドに顔を出したのは一ヵ月ぶりくらいだろうか。冒険者になったといってもノルマなどは一切ないので、別段、他で仕事があるなら顔を出す必要があまりないのだ。
「今日は折り入って相談したいことがあって……個室が空いてると嬉しいんですけど」
「あらあら、ついに! では、すぐにホテ――」
明らかにおかしな方向の単語が飛び出かけたので口を塞いで止める。
「真昼間から何を口走ろうとしているんですか」
そういう方向で積極的なメアリだが、アイリス曰く、メアリがここまで積極的になったのは初めてだそうだ。今まで色恋沙汰なんて毛ほどもなく。そういう経験はないはずらしく、親友であるアイリスからしてもどこまでが本気なのかが分からないという。
「面白くないですね。では、どういったご用件でしょうか? わたし、忙しいんです」
ホテーーとか口走った口はどれですか?
「俺のスキルのことで相談なんです」
「そういう事なら仕方ありませんね。料金はデート一回で許してあげます」
「ハク同伴可!」
「同伴不可。二人っきり以外認めません」
「ハクお迎え!」
「わたしが船まで送るのでいりません」
「零時までにはお家に返してください!」
「安心してください。零時までには送ります」
妥協に妥協を重ねて取引成立。
コウイチはメアリの後に続いて奥の個室へと向かう。
「何時の零時かは分かりませんけどね」
ふふふ、メアリが不敵に微笑むのであった。
頑張って、約束は反故にしよう。
そんなこんなで危険な決算手形(当然のように血判での契約書を書かされました)を支払ったコウイチだったが、相談の結果、実際に鍛冶場の見学をしてみれば何かが掴めるかもしれないとメアリからギルド所属の鍛冶場を紹介して貰えた。
その鍛冶場はアヴァロン内でも特別な場所にあり、一般人は立ち入れず、冒険者でもギルドからの紹介がなければ立ち入り禁止というセキュリティが高く設定されている。
鍛冶場のある場所――アヴァロン北区画地下51層:最深部。アヴァロンの生命線とも言える魔力融合炉の一つと隣接されているのだった。
エレベーターに乗り込み一般解放されている地下10階まで降りる。その後は地下下層専用エレベーターにメアリから貰った認証カードキーを差し込んでやってきたエレベーターに一人で乗り込み51層へ一直線。
チンッ、と安っぽい音が鳴り、エレベーターの扉が開く。照明でライトアップされた明るい空間が広がっていた。左右の壁に扉があり、正面には更に奥へと繋がっている通路が見える。
「そこの少年、少々良いか?」
エレベーターから降りた所でコウイチは鈴の音のような綺麗な声に呼び止められる。振り向いた先には――小麦色の長い髪の艶やかな着物姿の女性が番傘を差して立っていた。
どくん、とコウイチの心臓が高鳴った。
その女性が艶やかな着物を圧倒するほどの美貌の持主であったこともあるが、それ以上に纏う異質な雰囲気と地下なのに番傘を差しているシチュエーションが本能的に警戒させたのだった。
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