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蒼の皇国 編
蒼龍皇からの依頼
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「今日と云う今日は許さない」
「違う違う違うちーがーう。私、知らないよ!」
アヴァロンの遥か上空。成層圏に位置する場所で蒼い光と黒い光が飛び回る。
黒い光――漆黒の霊装に身を包み、二本の夜空色の短剣を握るアイリスが涙を流して後方から猛追してくる蒼い光――生気を感じられない半目をしたアオから全力で逃げ回っている。
アオが放つ本気の殺傷能力のある魔力球をアイリスは短剣で捌きつつ、ただひたすらに原因不明のアオの怒りに対して謝り続けていた。
「いつもはそうだけど! 今日だけはホントに違う!? 絶対に違う! 神様に誓って違う!」
「やっぱり、いつもはそうなんだ」
「はっ!? まさか、今回のはお姉ちゃんの自作自演!?」
「一度、痛い目見る?」
サァー、とアイリスの全身から血の気が引いた。普段からアオとレナーテに力の制御の鍛錬だと言われて痛い目に遭わされている。しかし、それは確かな手加減をされているのを知っている。
今のアオは本気だ。手加減なしで来ようとしているのが全身に伝わってくる。
例え濡れ衣だとしても生きてさえいれば犯人探しは後で幾らでも出来る。だから、今は戦って生き延びることだけを考えよう!
アイリスは両手の短剣を握り直し、空を蹴って急反転して攻勢へと転じた。
「私はアオお姉ちゃんのプリンなんて食べてない!?」
アヴァロンを滅ぼそうとした者と救った者、そしてその2人を助けた者との奇妙な共同生活が始まって、気づけば半年が経とうとしていた。
感覚というのは不思議なもので、リビングのソファで滅ぼそうとした者ーーメギド・レナーテがコーヒーカップを片手に新聞を読んでいても違和感が全くないのだ。
その隣ではハクがホットミルクを飲みながら、アイちゃんがアメノマ経由でリビングの中央に表示してくれてる遠隔モニターでアイリスとアオの朝の鍛錬ーー喧嘩を眺めている。
「ねえ、昨日アイリスが寝た後も冷蔵庫にアオのプリンあったよね」
「我が深夜に晩酌の酒を取りに来たときもあったぞ。ヤツが買ってきておった鶏卵堂の1日10個限定、お一人様購入制限1個、素材を厳選に厳選をして作った特製絹ごし滑らかクリームプリン~朝食に最適な甘さ控えめバージョン~」
「よく正確な名前覚えてるね」
「毎日見ていれば嫌でも覚えるというものだ」
物凄く長い名前の限定プリンはアオが朝食後の日課として楽しみにしているものだ。
この家では誰もが知っている常識であり、手を出してはいけないものの代名詞でもある。
あのアオの大切な物奪うという恐れ多い行為をした不届き者には死の制裁が待っているのは当然至極。
メアリはキッチンで朝食の準備をしながら、リビングの方に見える4人の朝の光景に苦笑する。
しかし、こんな馬鹿なことをした者は一体誰か?
少なくともこの家の住人で、そんな恐れ多い行為に及ぶ者はいないはずだ。となると外部の者による犯行かアオが寝ぼけて食べてしまった説だ。
この家のセキュリティと暮らしている化け物達のことを考えると前者の犯行というのは考えにくい。
後者の場合もあのアオに限ってはないと思われる。
いつもならアイリスがこっそり食べていることが多く、自業自得と言った感じで今回のような状態に発展している。
けれど、今回に限って言えばアイリスの表情的に違う気がする。
2人の戦いがヒートアップしてきた頃、朝早くから何処かに出かけていたコウイチが帰ってきた。
「あれ、今日はみんな早くね? いつもは昼まで寝てるのに」
一家全員が起きていることにコウイチが目を丸くして驚いていた。
コウイチが驚くのも無理がない。
まずこの家の住人の中で定職についているのはメアリだけだ。
コウイチは新型の魔力融合炉の建造に駆り出されていて扱い的には臨時職員といった感じで、そっちが落ち着けば仕事が無くなる。その後は自宅の一階部分にある工房で店を開くつもりで行動している様子だ。
他のメンバーは子供、ニート、自宅警備員、番犬ならぬ番狼で基本的にずっと家にいる。各人、稀に数日家に帰ってこない日もあるけれど、仕事に行っているという訳ではなさそう。また長い年月を生きて来た彼女たちにとって時間という感覚は勿論、朝や夜といった感覚も乏しく、昼夜逆転の生活をしていることもザラにあるくらいだ。
こうなってしまったのはコウイチがアヴァロンから莫大な給与を貰っていることもあって、10人でも20人でも養う穀潰しが増えても困らないと言うのが原因だとメアリは思っている。
お金があり過ぎるというのもある意味では困ったものなのかもしれない。
「あそこの2人はどうして起きてきたのか分かりませんが……空の上で喧嘩して方はプリンが無くなったから見たいですよ」
「あー、やっぱり?」
その場にいた全員がコウイチの方を見た。不穏な言葉を口にしたコウイチの手には白いビニール袋が下げられていた。
================================
アオが振り下ろした杖をアイリスは二本の短剣を交差させて受け止める。
「ホントに今日は私じゃないんだってば!?」
「今日のは仮にそうだったとしても、それまでのは夜天が嘘を付いていた」
「う゛っ、そ、それは……その罰は毎回もう受け終わってるから無しだよ! ノーカンだよ!」
「食べたことと嘘付いたことは別。大人しく制裁を受ける」
「絶対に、ヤダ!?」
アイリスは力任せにアオの杖を弾き飛ばすと一気に下方へと距離を取り、二本の短剣を重ね合わせて一振りの剣へと構築し直す。
黒剣:夜天。元はクロと呼ばれた精霊の魔石から作られた剣だが、今はアイリスと完全に同化し、アイリスの全てだと言って良い。
杖を弾かれ態勢を崩しているアオを目掛けて上方に剣を振り上げた。
「断界」
空間を断ち切る斬撃ならば幾らでもアオでも堪えるはずだ。
斬撃はアオの身体を捉え、綺麗に両断してし、天へと登って行く。
「えっーー」
予想外な結果にアイリスの感情が急激に落ち込む。
殺すつもりなんてなかったのにーー刹那、アイリスは自分の身体の異変に気付いた。
「な、んで!?」
手足が凍って動かなくたっていた。
それが何なのかアイリスは知っている。以前にアオが大切にとっておいたクッキーを盗み食いをした時に使われたヤバイ魔法だ。
アイリスの目の前にゆらりとアオが姿を現せる。先ほどアイリスが切り伏せたのはアオが氷で作った偽物だ。彼女は冷たい目で杖を振りかざし、
「アブソリュート」
「アオお姉ちゃんちゃん、それは止めて! それだけはーーーー」
「ゼロ!」
絶対零度は絶対凍結の封印魔法だ。生物だろうが精霊だろうが関係なく、絶対零度の氷塊に閉じ込めるアオの最強の魔法。
アオが魔法を発動させた事でアイリスは氷塊の中に閉じ込められてしまう。
この魔法の恐ろしいところは、意識と視界だけは閉じることが出来ないところだ。
ずっと目の前の景色を見続けなければならない地獄の始まりだ。
================================
リビングのど真ん中に置かれたアイリスが入った氷塊の前にコウイチは正座させられていた。
当然、正座をさせているのはアオだ。
コウイチの胸の前にはクリップボードがあり、そこには「私がプリンを食べました」と書かれていて、それを見た氷の中のアイリスは生気の感じられない蔑んだ目でコウイチを見下ろしている。
「食べちゃったのを悪いと思ったから朝から買いに行った訳ですよ」
コウイチは今朝早く第三工房での重労働を終えて疲労困憊で帰ってきた。仕事中は忙し過ぎてちゃんとした食事を摂る暇もなく、お腹ペコちゃんで帰宅したコウイチは冷蔵庫を開けた瞬間に“アオの”と可愛らしい文字で書かれていたプリンの誘惑に負けて食べてしまったのだ。それがアオが楽しみにしているプリンだと知っていながら、だ。
「それは聞いた。でも、これはなに?」
アオはコウイチが買ってきたモノのラベルを並べて見せつける。
鶏卵堂。メーカーは合ってるな、よし!
監修。あれ、ちょっとおかしいか?
不四家。おっとメーカー名が二つ目だと!? 雲行き怪しいぜ!
甘さ控えめ。確か食べちゃったやつはそんな感じだったはず!
クリームブリュレ。
「……ブリュレってプリンっすよね?」
ゴツン、とアオの杖が頭部に落ちた。
「知らない。仮にプリンだったとしてもわたしが買っておいたヤツじゃないし、これは4個で300エンの工場量産品。わたしが買っておいたのは1個600エンの手作りプリン。似てすらない非なるもの」
ゴツン、ゴツン、ゴツンと何度も杖で頭を叩かれ、ポコ、ポコ、ポコと次々にタンコブが出来上がっていく。
数時間にも及ぶ説教の後、アオは一通の封筒をコウイチに差し出した。
更なる罰かと身構えるコウイチにアオはクリームブリュレを食べながら早く開けるように促した。
コウイチは封筒の頭を破って中身を取り出す。
差出人は蒼龍皇からだった。
文面を斜め読みしてみるが、ちょっとよく分からない。
要約すると地質を浄化する道具を作って欲しい、という感じだ。
「新しいものを作って欲しいみたいな感じだけど……ちょっとよく分からないんですが」
「土地を綺麗にする道具を作って欲しい」
「あの、俺鍛冶スキルは持ってるけど、科学者じゃないし、ロ〇ナ先生みたいな錬金術が使える訳ではないんですけど……頼む人間違ってる気が」
ロ〇ナ先生とか、ト〇リお姉ちゃんとか、メ〇ル姫とか、ソ〇ィー先生とか、フィ〇スちゃんとか、あの辺の人に頼めばパイ作る要領で作ってくれるはず。そう言えば最新作だと次元というか時間軸というか……事象を固定してしまう道具まで作っちゃったよね。
……あれ、もしかして俺。空間に干渉する道具とか最終的に作らされたりしないよな?
「間違っていない。貴方なら出来る。それに今回は他人に力を借りてもいい。期間は決めてないけど出来るだけ早く」
「俺なら出来るって……過大評価にも程がある。でも、そもそも俺が蒼龍皇の依頼を受けなきゃいけない理由が無い」
「ある」
とアオが即答で断言した。
「貴方は蒼龍皇と契約した」
「確かにアイリスを狭間から助ける代わりに契約したよ。それは浄水フィルターを完成させたことで達成されてるじゃん?」
「何か勘違いしている?」
「?」
「貴方がわたしの為に力を使ってくれるのなら、わたしが彼女を迎えに行ってあげる。この契約には回数も期間も定めていない」
「え、マジ?」
「だから、貴方は生涯、わたしの為に力を使わないといけない。これは他を差し置いてでもすべき最優先事項」
「詐欺だぁぁぁぁぁ!?」
ん? あれ……なんか言葉に違和感を感じる。
違和感を感じながらもコウイチはその正体に気づけないまま、アオに詳しい話を蒼龍皇の所ですると引き摺られていった。
「違う違う違うちーがーう。私、知らないよ!」
アヴァロンの遥か上空。成層圏に位置する場所で蒼い光と黒い光が飛び回る。
黒い光――漆黒の霊装に身を包み、二本の夜空色の短剣を握るアイリスが涙を流して後方から猛追してくる蒼い光――生気を感じられない半目をしたアオから全力で逃げ回っている。
アオが放つ本気の殺傷能力のある魔力球をアイリスは短剣で捌きつつ、ただひたすらに原因不明のアオの怒りに対して謝り続けていた。
「いつもはそうだけど! 今日だけはホントに違う!? 絶対に違う! 神様に誓って違う!」
「やっぱり、いつもはそうなんだ」
「はっ!? まさか、今回のはお姉ちゃんの自作自演!?」
「一度、痛い目見る?」
サァー、とアイリスの全身から血の気が引いた。普段からアオとレナーテに力の制御の鍛錬だと言われて痛い目に遭わされている。しかし、それは確かな手加減をされているのを知っている。
今のアオは本気だ。手加減なしで来ようとしているのが全身に伝わってくる。
例え濡れ衣だとしても生きてさえいれば犯人探しは後で幾らでも出来る。だから、今は戦って生き延びることだけを考えよう!
アイリスは両手の短剣を握り直し、空を蹴って急反転して攻勢へと転じた。
「私はアオお姉ちゃんのプリンなんて食べてない!?」
アヴァロンを滅ぼそうとした者と救った者、そしてその2人を助けた者との奇妙な共同生活が始まって、気づけば半年が経とうとしていた。
感覚というのは不思議なもので、リビングのソファで滅ぼそうとした者ーーメギド・レナーテがコーヒーカップを片手に新聞を読んでいても違和感が全くないのだ。
その隣ではハクがホットミルクを飲みながら、アイちゃんがアメノマ経由でリビングの中央に表示してくれてる遠隔モニターでアイリスとアオの朝の鍛錬ーー喧嘩を眺めている。
「ねえ、昨日アイリスが寝た後も冷蔵庫にアオのプリンあったよね」
「我が深夜に晩酌の酒を取りに来たときもあったぞ。ヤツが買ってきておった鶏卵堂の1日10個限定、お一人様購入制限1個、素材を厳選に厳選をして作った特製絹ごし滑らかクリームプリン~朝食に最適な甘さ控えめバージョン~」
「よく正確な名前覚えてるね」
「毎日見ていれば嫌でも覚えるというものだ」
物凄く長い名前の限定プリンはアオが朝食後の日課として楽しみにしているものだ。
この家では誰もが知っている常識であり、手を出してはいけないものの代名詞でもある。
あのアオの大切な物奪うという恐れ多い行為をした不届き者には死の制裁が待っているのは当然至極。
メアリはキッチンで朝食の準備をしながら、リビングの方に見える4人の朝の光景に苦笑する。
しかし、こんな馬鹿なことをした者は一体誰か?
少なくともこの家の住人で、そんな恐れ多い行為に及ぶ者はいないはずだ。となると外部の者による犯行かアオが寝ぼけて食べてしまった説だ。
この家のセキュリティと暮らしている化け物達のことを考えると前者の犯行というのは考えにくい。
後者の場合もあのアオに限ってはないと思われる。
いつもならアイリスがこっそり食べていることが多く、自業自得と言った感じで今回のような状態に発展している。
けれど、今回に限って言えばアイリスの表情的に違う気がする。
2人の戦いがヒートアップしてきた頃、朝早くから何処かに出かけていたコウイチが帰ってきた。
「あれ、今日はみんな早くね? いつもは昼まで寝てるのに」
一家全員が起きていることにコウイチが目を丸くして驚いていた。
コウイチが驚くのも無理がない。
まずこの家の住人の中で定職についているのはメアリだけだ。
コウイチは新型の魔力融合炉の建造に駆り出されていて扱い的には臨時職員といった感じで、そっちが落ち着けば仕事が無くなる。その後は自宅の一階部分にある工房で店を開くつもりで行動している様子だ。
他のメンバーは子供、ニート、自宅警備員、番犬ならぬ番狼で基本的にずっと家にいる。各人、稀に数日家に帰ってこない日もあるけれど、仕事に行っているという訳ではなさそう。また長い年月を生きて来た彼女たちにとって時間という感覚は勿論、朝や夜といった感覚も乏しく、昼夜逆転の生活をしていることもザラにあるくらいだ。
こうなってしまったのはコウイチがアヴァロンから莫大な給与を貰っていることもあって、10人でも20人でも養う穀潰しが増えても困らないと言うのが原因だとメアリは思っている。
お金があり過ぎるというのもある意味では困ったものなのかもしれない。
「あそこの2人はどうして起きてきたのか分かりませんが……空の上で喧嘩して方はプリンが無くなったから見たいですよ」
「あー、やっぱり?」
その場にいた全員がコウイチの方を見た。不穏な言葉を口にしたコウイチの手には白いビニール袋が下げられていた。
================================
アオが振り下ろした杖をアイリスは二本の短剣を交差させて受け止める。
「ホントに今日は私じゃないんだってば!?」
「今日のは仮にそうだったとしても、それまでのは夜天が嘘を付いていた」
「う゛っ、そ、それは……その罰は毎回もう受け終わってるから無しだよ! ノーカンだよ!」
「食べたことと嘘付いたことは別。大人しく制裁を受ける」
「絶対に、ヤダ!?」
アイリスは力任せにアオの杖を弾き飛ばすと一気に下方へと距離を取り、二本の短剣を重ね合わせて一振りの剣へと構築し直す。
黒剣:夜天。元はクロと呼ばれた精霊の魔石から作られた剣だが、今はアイリスと完全に同化し、アイリスの全てだと言って良い。
杖を弾かれ態勢を崩しているアオを目掛けて上方に剣を振り上げた。
「断界」
空間を断ち切る斬撃ならば幾らでもアオでも堪えるはずだ。
斬撃はアオの身体を捉え、綺麗に両断してし、天へと登って行く。
「えっーー」
予想外な結果にアイリスの感情が急激に落ち込む。
殺すつもりなんてなかったのにーー刹那、アイリスは自分の身体の異変に気付いた。
「な、んで!?」
手足が凍って動かなくたっていた。
それが何なのかアイリスは知っている。以前にアオが大切にとっておいたクッキーを盗み食いをした時に使われたヤバイ魔法だ。
アイリスの目の前にゆらりとアオが姿を現せる。先ほどアイリスが切り伏せたのはアオが氷で作った偽物だ。彼女は冷たい目で杖を振りかざし、
「アブソリュート」
「アオお姉ちゃんちゃん、それは止めて! それだけはーーーー」
「ゼロ!」
絶対零度は絶対凍結の封印魔法だ。生物だろうが精霊だろうが関係なく、絶対零度の氷塊に閉じ込めるアオの最強の魔法。
アオが魔法を発動させた事でアイリスは氷塊の中に閉じ込められてしまう。
この魔法の恐ろしいところは、意識と視界だけは閉じることが出来ないところだ。
ずっと目の前の景色を見続けなければならない地獄の始まりだ。
================================
リビングのど真ん中に置かれたアイリスが入った氷塊の前にコウイチは正座させられていた。
当然、正座をさせているのはアオだ。
コウイチの胸の前にはクリップボードがあり、そこには「私がプリンを食べました」と書かれていて、それを見た氷の中のアイリスは生気の感じられない蔑んだ目でコウイチを見下ろしている。
「食べちゃったのを悪いと思ったから朝から買いに行った訳ですよ」
コウイチは今朝早く第三工房での重労働を終えて疲労困憊で帰ってきた。仕事中は忙し過ぎてちゃんとした食事を摂る暇もなく、お腹ペコちゃんで帰宅したコウイチは冷蔵庫を開けた瞬間に“アオの”と可愛らしい文字で書かれていたプリンの誘惑に負けて食べてしまったのだ。それがアオが楽しみにしているプリンだと知っていながら、だ。
「それは聞いた。でも、これはなに?」
アオはコウイチが買ってきたモノのラベルを並べて見せつける。
鶏卵堂。メーカーは合ってるな、よし!
監修。あれ、ちょっとおかしいか?
不四家。おっとメーカー名が二つ目だと!? 雲行き怪しいぜ!
甘さ控えめ。確か食べちゃったやつはそんな感じだったはず!
クリームブリュレ。
「……ブリュレってプリンっすよね?」
ゴツン、とアオの杖が頭部に落ちた。
「知らない。仮にプリンだったとしてもわたしが買っておいたヤツじゃないし、これは4個で300エンの工場量産品。わたしが買っておいたのは1個600エンの手作りプリン。似てすらない非なるもの」
ゴツン、ゴツン、ゴツンと何度も杖で頭を叩かれ、ポコ、ポコ、ポコと次々にタンコブが出来上がっていく。
数時間にも及ぶ説教の後、アオは一通の封筒をコウイチに差し出した。
更なる罰かと身構えるコウイチにアオはクリームブリュレを食べながら早く開けるように促した。
コウイチは封筒の頭を破って中身を取り出す。
差出人は蒼龍皇からだった。
文面を斜め読みしてみるが、ちょっとよく分からない。
要約すると地質を浄化する道具を作って欲しい、という感じだ。
「新しいものを作って欲しいみたいな感じだけど……ちょっとよく分からないんですが」
「土地を綺麗にする道具を作って欲しい」
「あの、俺鍛冶スキルは持ってるけど、科学者じゃないし、ロ〇ナ先生みたいな錬金術が使える訳ではないんですけど……頼む人間違ってる気が」
ロ〇ナ先生とか、ト〇リお姉ちゃんとか、メ〇ル姫とか、ソ〇ィー先生とか、フィ〇スちゃんとか、あの辺の人に頼めばパイ作る要領で作ってくれるはず。そう言えば最新作だと次元というか時間軸というか……事象を固定してしまう道具まで作っちゃったよね。
……あれ、もしかして俺。空間に干渉する道具とか最終的に作らされたりしないよな?
「間違っていない。貴方なら出来る。それに今回は他人に力を借りてもいい。期間は決めてないけど出来るだけ早く」
「俺なら出来るって……過大評価にも程がある。でも、そもそも俺が蒼龍皇の依頼を受けなきゃいけない理由が無い」
「ある」
とアオが即答で断言した。
「貴方は蒼龍皇と契約した」
「確かにアイリスを狭間から助ける代わりに契約したよ。それは浄水フィルターを完成させたことで達成されてるじゃん?」
「何か勘違いしている?」
「?」
「貴方がわたしの為に力を使ってくれるのなら、わたしが彼女を迎えに行ってあげる。この契約には回数も期間も定めていない」
「え、マジ?」
「だから、貴方は生涯、わたしの為に力を使わないといけない。これは他を差し置いてでもすべき最優先事項」
「詐欺だぁぁぁぁぁ!?」
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