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蒼の皇国 編
専属の職人
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アオはコウイチを引き摺って移動工房艦アメノマに乗り込み、破壊するぞと船のAIであるアイを脅して船を強行発進させ、全速力でメルト国際公園に向かい僅か数時間で到着し、国際公園の港を通り越してヒュレイン大樹海の奥地の荒廃した大地に胴体着陸させた。
『折角、修理が終わったばかりなのに……船底にキズが、キズが……』
真新しいボディに深く刻まれたキズに落ち込むアイのフォローを追って乗り込んで来た面々がフォローするのを横目にアオは蒼龍皇が居る泉へと向かう。
そして蒼く輝く泉に身を横たえて眠る蒼龍皇の前にロープとガムテープでぐるぐる巻きにしたミノムシ状態のコウイチを引き摺り出した。
ミノムシ状態にしたのはコウイチが五月蠅かったからだ。
コウイチの口に貼り付けたガムテープを剥がすとあーだこーだと抗議のような文句を垂れ始める。そんなことに興味のないアオは近くの木に背を預けて状況を傍観することにした。
コウイチは木に背を預けてこちらを見ているアオを恨みがましい目で睨んでみるが、彼女は微動だにせず、まだプリンを食べてしまったことを怒っているのか冷たい視線で無反応。
ふわり、と柔らかい風が泉の方から起こる。
蒼龍皇が目を覚まし、長い首を上げてただでさえ鋭い目を更に細くしてこちらを睨んで来た。
”呆れる。わたしとの契約を違えようとするなんて”
「ちょ、情報はやっ!? 違います! 誤解です!? 勘違いしていただけで別に契約を踏み倒すとかしないです!?」
敵意や殺意といった嫌な感じはしない一方で、確かな怒りを感じる。
目の前に居るのは空間の狭間に行くことが出来る――概念領域とやらに到達している最強の存在だ。コウイチのような希少なスキルは持っていても、あくまでも人間でしかない。蒼龍皇が意志一つで細胞一つ残さずに消滅させられても不思議ではないのだ。
言葉は慎重に選んで答える。
「勘違いをして申し訳ありませんでした。契約の件について、可能であれば詳しい内容を再度話し合う事は可能でしょうか?」
回数制限なし、契約期間が生涯というのは、アイリスの命を天秤にかければ等価以上とも言えなくはないが、譲歩できる部分を可能な限り模索しておきたい。
このままでは蒼龍皇の奴隷も同然だ。
”夜天の命の対価としては安いと思うけれど?”
「それを引き合いに出されると反論の余地もないんですが……」
”なら、この話はこれで終わり”
「いや、待ってください! このままだと奴隷みたいなものじゃないですか! どうか、何かしらの譲歩を!?」
コウイチは全力で土下座する。
”奴隷? 別に隷属させているつもりはない。わたしが欲しいものを依頼しなければ自由にしていればいい。対価は支払うし、必要なものがあれば入手を協力する。貴方達風に言えば専属の職人。わたしの認識はそれ”
専属の職人。
物は言いようと言ってしまえば元も子もないが、確かに蒼龍皇の言い分の解釈では奴隷という感じはしない。
「そういう事ならいいのか?」
”決めるのは貴方。もしそれでも足りないのなら――”
蒼龍皇がちらりとアオの方を一瞥し、
”アオを貴方にあげる”
「はっ?」
「なっ!?」
状況を傍観していたアオが蒼龍皇の突拍子もない発言につい声を漏らしてしまった。
アオが杖の先端を蒼龍皇に向けて睨みつけると、蒼龍皇は鋭い牙をにやりと見せて笑った。
「そこの駄龍、いきなり何を言い出す?」
”何の事か? プリン魔。自分ひとりで美味しい物ばかり食べて”
「食べたければ自分で買いに行けばいい。この怠惰龍」
”最近、少し丸くなったのではないか? アオマル”
バチバチと視線の火花を散らすアオと蒼龍皇。
アオが三つの魔力球を作って杖を構え直し、蒼龍皇は周囲に水の柱を立ち昇らせ翼を広げた。
一触即発の空気にコウイチは土下座したまま距離を取る。
幾らか事情を知っている一般人であるが一般人は一般でしかなく、彼女たち(同居してる女性陣全員)の争いに巻き込まれた間違いなく死ねる。
危険を感じたらすぐ逃げる。
これがこの半年でコウイチが身に付けた処世術だ。
だが、逃げようとした足に何かが巻き付いて身動きが取れなくなる。両足の方を見ると水の鎖が巻き付いていた。
「…………」
「なに逃げてるの?」
”わたしから逃げられると思っている?”
アオが杖に巻き付けた水の鎖を引っ張り、蒼龍皇が口に咥えた水の鎖を引っ張る。
喧嘩を始めようとしたはずの二人がタッグを組んでいました。
「そんなつもりはないんです! ごめんなさい!?」
尚、アオの所有権に関しては却下となった。
===================================
冷たい水の鎖で雁字搦めにされ、木に吊るされてこんこんと一人と一匹に説教をされつつ、蒼龍皇の依頼を説明される。
コウイチが作った浄水フィルターで水質の浄化が以前に比べて加速的に改善が見られていたが、地質の汚染が酷くヒュレイン大樹海の再生が暗礁に乗り上げてしまったらしい。そこで今回は地質を改善する道具を作って欲しいとのことだ。
「やっぱり、依頼先を間違えてません? この前のは緑葉石ってチート染みた便利素材があったから偶然なんとかなっただけで、俺は経験とか知識が無いんですよ」
”完全に糸口がないという訳ではない”
「というと?」
「その糸口は鉱石じゃなくて――液体」
『折角、修理が終わったばかりなのに……船底にキズが、キズが……』
真新しいボディに深く刻まれたキズに落ち込むアイのフォローを追って乗り込んで来た面々がフォローするのを横目にアオは蒼龍皇が居る泉へと向かう。
そして蒼く輝く泉に身を横たえて眠る蒼龍皇の前にロープとガムテープでぐるぐる巻きにしたミノムシ状態のコウイチを引き摺り出した。
ミノムシ状態にしたのはコウイチが五月蠅かったからだ。
コウイチの口に貼り付けたガムテープを剥がすとあーだこーだと抗議のような文句を垂れ始める。そんなことに興味のないアオは近くの木に背を預けて状況を傍観することにした。
コウイチは木に背を預けてこちらを見ているアオを恨みがましい目で睨んでみるが、彼女は微動だにせず、まだプリンを食べてしまったことを怒っているのか冷たい視線で無反応。
ふわり、と柔らかい風が泉の方から起こる。
蒼龍皇が目を覚まし、長い首を上げてただでさえ鋭い目を更に細くしてこちらを睨んで来た。
”呆れる。わたしとの契約を違えようとするなんて”
「ちょ、情報はやっ!? 違います! 誤解です!? 勘違いしていただけで別に契約を踏み倒すとかしないです!?」
敵意や殺意といった嫌な感じはしない一方で、確かな怒りを感じる。
目の前に居るのは空間の狭間に行くことが出来る――概念領域とやらに到達している最強の存在だ。コウイチのような希少なスキルは持っていても、あくまでも人間でしかない。蒼龍皇が意志一つで細胞一つ残さずに消滅させられても不思議ではないのだ。
言葉は慎重に選んで答える。
「勘違いをして申し訳ありませんでした。契約の件について、可能であれば詳しい内容を再度話し合う事は可能でしょうか?」
回数制限なし、契約期間が生涯というのは、アイリスの命を天秤にかければ等価以上とも言えなくはないが、譲歩できる部分を可能な限り模索しておきたい。
このままでは蒼龍皇の奴隷も同然だ。
”夜天の命の対価としては安いと思うけれど?”
「それを引き合いに出されると反論の余地もないんですが……」
”なら、この話はこれで終わり”
「いや、待ってください! このままだと奴隷みたいなものじゃないですか! どうか、何かしらの譲歩を!?」
コウイチは全力で土下座する。
”奴隷? 別に隷属させているつもりはない。わたしが欲しいものを依頼しなければ自由にしていればいい。対価は支払うし、必要なものがあれば入手を協力する。貴方達風に言えば専属の職人。わたしの認識はそれ”
専属の職人。
物は言いようと言ってしまえば元も子もないが、確かに蒼龍皇の言い分の解釈では奴隷という感じはしない。
「そういう事ならいいのか?」
”決めるのは貴方。もしそれでも足りないのなら――”
蒼龍皇がちらりとアオの方を一瞥し、
”アオを貴方にあげる”
「はっ?」
「なっ!?」
状況を傍観していたアオが蒼龍皇の突拍子もない発言につい声を漏らしてしまった。
アオが杖の先端を蒼龍皇に向けて睨みつけると、蒼龍皇は鋭い牙をにやりと見せて笑った。
「そこの駄龍、いきなり何を言い出す?」
”何の事か? プリン魔。自分ひとりで美味しい物ばかり食べて”
「食べたければ自分で買いに行けばいい。この怠惰龍」
”最近、少し丸くなったのではないか? アオマル”
バチバチと視線の火花を散らすアオと蒼龍皇。
アオが三つの魔力球を作って杖を構え直し、蒼龍皇は周囲に水の柱を立ち昇らせ翼を広げた。
一触即発の空気にコウイチは土下座したまま距離を取る。
幾らか事情を知っている一般人であるが一般人は一般でしかなく、彼女たち(同居してる女性陣全員)の争いに巻き込まれた間違いなく死ねる。
危険を感じたらすぐ逃げる。
これがこの半年でコウイチが身に付けた処世術だ。
だが、逃げようとした足に何かが巻き付いて身動きが取れなくなる。両足の方を見ると水の鎖が巻き付いていた。
「…………」
「なに逃げてるの?」
”わたしから逃げられると思っている?”
アオが杖に巻き付けた水の鎖を引っ張り、蒼龍皇が口に咥えた水の鎖を引っ張る。
喧嘩を始めようとしたはずの二人がタッグを組んでいました。
「そんなつもりはないんです! ごめんなさい!?」
尚、アオの所有権に関しては却下となった。
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冷たい水の鎖で雁字搦めにされ、木に吊るされてこんこんと一人と一匹に説教をされつつ、蒼龍皇の依頼を説明される。
コウイチが作った浄水フィルターで水質の浄化が以前に比べて加速的に改善が見られていたが、地質の汚染が酷くヒュレイン大樹海の再生が暗礁に乗り上げてしまったらしい。そこで今回は地質を改善する道具を作って欲しいとのことだ。
「やっぱり、依頼先を間違えてません? この前のは緑葉石ってチート染みた便利素材があったから偶然なんとかなっただけで、俺は経験とか知識が無いんですよ」
”完全に糸口がないという訳ではない”
「というと?」
「その糸口は鉱石じゃなくて――液体」
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