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蒼の皇国 編
地質改善に向けて
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「次こそは絶対に勝つ! コウイチの為に!?」
「ハクお姉ちゃん、コウイチお兄ちゃんの為にアイリスも頑張る!?」
ハクとアイリスが救急箱を挟んで互いの傷を手当し合いながら励まし合う。
二人が怪我をしている原因はレナーテにボコボコにされたことだが、二人がボコボコにされても挫けずに頑張っているのはコウイチの為である。
地質再生の為のヒントとしてコウイチがレナーテに協力を求めた際に即答で一蹴された訳だが……面倒事を押し付けられたとは言え、蒼龍皇に狭間から救い出された恩があるレナーテは、最大限の譲歩としてハクとアイリスが自分に勝てたら協力すると約束したのだ。
それから毎日のように二人はレナーテに戦いを挑んではボコボコにされている。
因みに戦いにおける条件が三つばかしある。
1.二人で挑んでくること
2.1日1戦のみ
3.他者を巻き込まないこと
一つ目の条件は単体では圧倒的な力量差がある為、勝負にならないからだ。
二つ目の条件は一日に何度も戦うのは面倒というレナーテの都合。
三つ目の条件は個人の問題に他人を巻き込まないのは当然のこと。
ついでに敗北条件は単純明快で、敗北を認めるか地面に伏して三秒立ち上がれなかった時だ。
コウイチは二人にあまり無理はするなと伝えてはいるが、普段何もしていなかったことを内心では後ろめたく思っていたらしく、今自分たちにしか出来ないことが目の前に転がって来たことでやる気満々みたいだ。
「これで二十日連続か。頑張る二人もそうだけどさ、それに付き合ってるレナーテも凄いな」
「私も一週間もせずに飽きると思っていたんですけどね」
メアリが淹れてくれたコーヒーを飲みつつ、コウイチはタブレット型の端末の画面を指でスクロールさせて頭を悩ませる。
現状、レナーテの協力が得られない以上は他の道を探さないといけない。
「そのような板で情報収集が出来るとはな。人間の科学技術も進歩したものだ」
そこに買い物から帰って来たレナーテが机の上に荷物を置きながらコウイチが手にしているタブレットを怪訝そうな顔でみた。
自宅警備員のレナーテさんでも買い物くらいは行ってくれます。
「レナーテさん、買い物ありがとうございます。コーヒー淹れましたからゆっくりしてください」
「うむ、頂こう。其方の淹れるコーヒーは美味であるからな」
「ありがとうございます」
メアリは微笑みながら家族六人分の食材が入った荷物をキッチンの方に運んでいく。
「俺も手伝お――」
「コウイチ”さん”は座っててください」
「はい」
普段は呼び捨てでコウイチを呼ぶメアリが、額に怒りマークを浮かばせてこちらを睨んでくる。
前に買い物した食材を冷蔵庫にしまうのを手伝って以来、頑なに手伝いを拒否されるようになった。特に何かをした記憶はないのだが……そういえば手伝った日の夜、メアリが発狂して冷蔵庫を掃除していたような気がする。その時、ゴミ箱に卵の殻が大量に捨ててあった気がするな。
「出来ない者は何もしないのが一番良い」
「……くっ」
「蒼いのからの依頼もな」
===================================
みんな忘れているかもしれないが、蒼龍皇からの依頼と同時進行でコウイチには新造魔力動力炉建造の仕事もある。尤も、こちらの建造はほぼ完成しており、今はゲンジ達による最終調整の段階だ。それが終われば頃合いを見て新動力への切り替え作業が始まる。
コウイチは地下第三工房から届いだ報告書に目を通して、工房で必要な部品の製作を始める。
今回依頼されたのは神鉄製の六角ボルト30本だ。
神鉄の製作及び加工はコウイチにしか出来ない。将来的には神鉄の製作や加工も誰でも出来る方法を確立しなければならず、それに関しても同時進行で方法を模索中だ。
「さて、始めますか」
コウイチは工房の隅に積み上げてある神鉄のインゴットを何個か机の上に持って来ると、その一つを手に取って形状を変化させ始める。
鍛冶スキルEX。この能力は大きく分けると二つだ。素材の形状変化と素材の性質変化。
素材の形状変化は簡単に言えば”作る”という能力。これは手で触れていなくてもある程度は作業が可能だが、繊細な作業になると手で触れていないと難しい。
素材の性質変化は複数の素材を一つに混ぜたり、不必要な素材を取り除いたりすることが出来る。これは直接か間接かで触れていないと出来ない。また精度を上げるにはハンマーで叩く必要もある。
どちらも鍛冶っぽいところもあるが、イメージ的には錬金術の方が合っている気がする。
コウイチは次々に六角ボルトを作り、一通り完成してからマイクロメーターを使って大きさを計測していく。誤差0.05mm以内から外れていたらその都度、修正していく。
ふと、自分の能力を思い浮かべ気づいた。
「素材の性質変化って不要な素材を分離させたりできるよな。土壌汚染ってことは、土に異物が混じってるってことだよな……」
コウイチは思い浮かべた方法は恐らくは可能であると思われる。
しかし、その効果範囲は四方2メートルほどだ。この2メートルというのは今までにコウイチが作った最も大きい部品で、そのあとぶっ倒れて丸一日眠り続けた苦い思い出がある。つまり、それ以上の大きさに効果を及ぼすのが不可能であるということであり、同時にヒュレイン大樹海のような広大な土地をコウイチの能力で再生させるのも不可能だということだ。
一度、状況を整理しよう。
蒼龍皇が地質改善を要求してきた理由は、水質は改善したが地質は汚染されたままなので根本的な改善には成っていない為、次なる改善を要求してきたのだ。確かに三皇が最初に提示したのは『世界を救う』ことなのだから当然といえば当然だ。
浄水フィルターという水質汚染を改善せしめた装置。これは緑葉石が魔力を得る事によって化学反応を起こして水の性質を変化させているものだ。
今回の土壌汚染も同様の方法を取れたら一番良いのだが、切っ掛けとなる素材がないので難しい。液体と固体の差もかなり大きい。
ただ、発想の方向性としては間違っていないはずだ。
性質を変化させる方法か……それがレナーテの毒なのだろう。
「こんなファンタジックな世界なんだから他にも何かあるだろう」
「ハクお姉ちゃん、コウイチお兄ちゃんの為にアイリスも頑張る!?」
ハクとアイリスが救急箱を挟んで互いの傷を手当し合いながら励まし合う。
二人が怪我をしている原因はレナーテにボコボコにされたことだが、二人がボコボコにされても挫けずに頑張っているのはコウイチの為である。
地質再生の為のヒントとしてコウイチがレナーテに協力を求めた際に即答で一蹴された訳だが……面倒事を押し付けられたとは言え、蒼龍皇に狭間から救い出された恩があるレナーテは、最大限の譲歩としてハクとアイリスが自分に勝てたら協力すると約束したのだ。
それから毎日のように二人はレナーテに戦いを挑んではボコボコにされている。
因みに戦いにおける条件が三つばかしある。
1.二人で挑んでくること
2.1日1戦のみ
3.他者を巻き込まないこと
一つ目の条件は単体では圧倒的な力量差がある為、勝負にならないからだ。
二つ目の条件は一日に何度も戦うのは面倒というレナーテの都合。
三つ目の条件は個人の問題に他人を巻き込まないのは当然のこと。
ついでに敗北条件は単純明快で、敗北を認めるか地面に伏して三秒立ち上がれなかった時だ。
コウイチは二人にあまり無理はするなと伝えてはいるが、普段何もしていなかったことを内心では後ろめたく思っていたらしく、今自分たちにしか出来ないことが目の前に転がって来たことでやる気満々みたいだ。
「これで二十日連続か。頑張る二人もそうだけどさ、それに付き合ってるレナーテも凄いな」
「私も一週間もせずに飽きると思っていたんですけどね」
メアリが淹れてくれたコーヒーを飲みつつ、コウイチはタブレット型の端末の画面を指でスクロールさせて頭を悩ませる。
現状、レナーテの協力が得られない以上は他の道を探さないといけない。
「そのような板で情報収集が出来るとはな。人間の科学技術も進歩したものだ」
そこに買い物から帰って来たレナーテが机の上に荷物を置きながらコウイチが手にしているタブレットを怪訝そうな顔でみた。
自宅警備員のレナーテさんでも買い物くらいは行ってくれます。
「レナーテさん、買い物ありがとうございます。コーヒー淹れましたからゆっくりしてください」
「うむ、頂こう。其方の淹れるコーヒーは美味であるからな」
「ありがとうございます」
メアリは微笑みながら家族六人分の食材が入った荷物をキッチンの方に運んでいく。
「俺も手伝お――」
「コウイチ”さん”は座っててください」
「はい」
普段は呼び捨てでコウイチを呼ぶメアリが、額に怒りマークを浮かばせてこちらを睨んでくる。
前に買い物した食材を冷蔵庫にしまうのを手伝って以来、頑なに手伝いを拒否されるようになった。特に何かをした記憶はないのだが……そういえば手伝った日の夜、メアリが発狂して冷蔵庫を掃除していたような気がする。その時、ゴミ箱に卵の殻が大量に捨ててあった気がするな。
「出来ない者は何もしないのが一番良い」
「……くっ」
「蒼いのからの依頼もな」
===================================
みんな忘れているかもしれないが、蒼龍皇からの依頼と同時進行でコウイチには新造魔力動力炉建造の仕事もある。尤も、こちらの建造はほぼ完成しており、今はゲンジ達による最終調整の段階だ。それが終われば頃合いを見て新動力への切り替え作業が始まる。
コウイチは地下第三工房から届いだ報告書に目を通して、工房で必要な部品の製作を始める。
今回依頼されたのは神鉄製の六角ボルト30本だ。
神鉄の製作及び加工はコウイチにしか出来ない。将来的には神鉄の製作や加工も誰でも出来る方法を確立しなければならず、それに関しても同時進行で方法を模索中だ。
「さて、始めますか」
コウイチは工房の隅に積み上げてある神鉄のインゴットを何個か机の上に持って来ると、その一つを手に取って形状を変化させ始める。
鍛冶スキルEX。この能力は大きく分けると二つだ。素材の形状変化と素材の性質変化。
素材の形状変化は簡単に言えば”作る”という能力。これは手で触れていなくてもある程度は作業が可能だが、繊細な作業になると手で触れていないと難しい。
素材の性質変化は複数の素材を一つに混ぜたり、不必要な素材を取り除いたりすることが出来る。これは直接か間接かで触れていないと出来ない。また精度を上げるにはハンマーで叩く必要もある。
どちらも鍛冶っぽいところもあるが、イメージ的には錬金術の方が合っている気がする。
コウイチは次々に六角ボルトを作り、一通り完成してからマイクロメーターを使って大きさを計測していく。誤差0.05mm以内から外れていたらその都度、修正していく。
ふと、自分の能力を思い浮かべ気づいた。
「素材の性質変化って不要な素材を分離させたりできるよな。土壌汚染ってことは、土に異物が混じってるってことだよな……」
コウイチは思い浮かべた方法は恐らくは可能であると思われる。
しかし、その効果範囲は四方2メートルほどだ。この2メートルというのは今までにコウイチが作った最も大きい部品で、そのあとぶっ倒れて丸一日眠り続けた苦い思い出がある。つまり、それ以上の大きさに効果を及ぼすのが不可能であるということであり、同時にヒュレイン大樹海のような広大な土地をコウイチの能力で再生させるのも不可能だということだ。
一度、状況を整理しよう。
蒼龍皇が地質改善を要求してきた理由は、水質は改善したが地質は汚染されたままなので根本的な改善には成っていない為、次なる改善を要求してきたのだ。確かに三皇が最初に提示したのは『世界を救う』ことなのだから当然といえば当然だ。
浄水フィルターという水質汚染を改善せしめた装置。これは緑葉石が魔力を得る事によって化学反応を起こして水の性質を変化させているものだ。
今回の土壌汚染も同様の方法を取れたら一番良いのだが、切っ掛けとなる素材がないので難しい。液体と固体の差もかなり大きい。
ただ、発想の方向性としては間違っていないはずだ。
性質を変化させる方法か……それがレナーテの毒なのだろう。
「こんなファンタジックな世界なんだから他にも何かあるだろう」
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