【9話完結】魔王の幼馴染

降魔 鬼灯

文字の大きさ
8 / 9

しおりを挟む
 体調が戻るまで一月近くかかってしまった。


 この一月で城内は魔王の結婚の話で持ちきりだったようだ。歩く度に結婚の話が各方面で囁かれており、式の支度で慌ただしい雰囲気だ。

「魔王様が月の君様といよいよご結婚されるらしいわね。」
「お子様もお産まれになるとか。めでたい話だ。」

 
 口々に噂が飛び交うものの。俺には情報が入ってこない。
 
 俺が通りかかると、噂話がピタっと止まるからだ。はぶかれているみたいで辛い。
 俺に情報をくれた同僚ものらりくらりと魔王の結婚について教えてくれない。


 そして極めつけはこれだ。
「この度はおめでとうございます。どうぞ魔王様によろしくお伝え下さい。」
 俺だけが詳細がわからないまま、魔王様への伝言係に使われる始末。

 こわばりそうになる顔をなんとか笑顔を貼り付け誤魔化し続ける。

 めでたくなんかないさ。

 アズランに意を決して結婚の件を聞いた時。

「我が口からちゃんと話そうと思っていたのだが……。他から話が入ったのか。すまない。式の準備はこちらでするから、ルシアは養生せよ。」とだけ言われたきりで、相手のことすら聞けていないのだ。

 しかも、その時のアズランの気恥ずかしげながらどこか幸せそうな表情といったら。
 いつものアズランのように醒めた目で、式なんてどうでも良いと言ってくれると思っていたのに。
 あの張り切りようを見て、アズランが本気なのを悟ってしまった。
 
 ダメ押しのように「ルシアは喜んではくれぬのか」と悲しげな顔で聞かれ、ルシアはなんとか笑顔を作らざるを得なかった。

「アズランの幸せはルシアの幸せでございます。」
 とびきりの笑顔を作りながら心は泣いていた。


 細切れに聞こえてくる噂で、相手は大層美しいと聞こえてきた。
 魔王が城の奥深くに隠している方で、月の君と呼ばれているらしいこと。
 ルシアが知り得た情報はそれだけだった。



 魔王と月の君の結婚は俺が休んでいる間に着々と進んでいる。俺は結婚式の準備担当から外され、全く情報が入ってこない。

 それどころか、今までやっていた仕事も気がつくと別のものへと引き継がれている始末。

 2人だけの執務室はいつしか大勢の者たちが出入りする場に変わっていた。

 今まで努力して築き上げたものはなんだったんたと虚しさだけがそこに残った。



 俺の代わりなんていくらでもいるんだ。

 結婚して新たな世界を持つ魔王に、腐れ縁の寄生虫のような俺なんて必要ないよな。

 アズランの結婚を機に城から出るか。

 今まで貯めた給料があれば生活には困らない筈だった。
 だが、俺は魔力を自力で取れない。アズランに俺が誰かに魔力を強請る姿など見られたくないな。


「遠くに行きたいな」
 アズランの横に誰かが立つのを見たくない。


「おやっ、可愛い子ちゃん。どうしたの?マリッジブルー?」
 魔王が結婚することでのマリッジブルーだが……。その艶めいた低い声に振り返った。

「アスタロト」

 そこにはアズランと魔王の座をかけて死闘を繰り広げた魔界辺境伯アスタロトがいた。

 漆黒の翼に艷やかな黒髪、筋肉質の褐色の肌、血のような深紅の瞳にはモノクルが嵌められている。

 魔族には珍しいタイプの知的なインテリ悪魔だが、なんだかイケナイ性的魅力あふれるエロ悪魔でもある。
 アズランを普段から見慣れていなければ、俺もその色気に殺られていただろう。

「遠くに行きたいなら、我が城に来るかい?」

 色っぽい眼差し、差し出されたその手を魅了されたようにフラフラと取りそうになるのは淫魔の性か。



 彼との出会いは俺が魔王城で働き始めた頃、道に迷っていた俺をアスタロトが親切に案内してくれた時だった。
 たまに仕事の合間に他愛のない話をした。親切にしてくれるのは昔、アスタロトが運命を感じた相手に俺が少し似ているんだとか。

 そんなに焦がれる相手がいるのなら、他の悪魔みたいに攫ってしまえば良いのに。
 彼の魅力を考えれば相手を堕とすのも容易いと思い、そう口に出した俺に彼は悲しげに笑った。
 その笑顔を見て、相手が既に亡くなっているのだと悟った。
 今も想っていると天を見上げたその姿が印象的だった。

 そんな優しいアスタロトの側なら穏やかに過ごせそうだ。

「アスタロトの城か……。」
 


 その瞬間、ぐいっと手を引かれた。

「ルシア。」

 眉間にくっきりと縦皺が寄った不機嫌極まりない顔をしたアズランがアスタロトを睨みつけていた。      
 俺はどういうわけかアズランの腕の中にすっぽりくるまれていた。

「アズランどうしたの?」

 険悪なふたりの睨み合いに縮まる。

「なかなか帰ってこないから心配で探しに来た。もうすぐ腹が空く頃だろうと慌てて探しに来て見れば。アスタロト、魔王城に近付かないと約束したであろう。」
 
 憮然とした表情でアズランがアスタロトに言い放った。
 しかし、アスタロトは気にすることなくアズランに言い返した。
 
「お前が月の君と結婚すると聞いたから、壽ぎにきてやっただけだ。そしたら、遠くへ行きたいという声が聞こえたのでな。遠くならば我が城に連れ帰ってやるかと思ったまでよ。」

 魔界のトップふたりの睨み合いの迫力に身が竦む。

「そうか。アスタロトよ。痛み入る。だが、心配は無用だ。壽ぎは受け取った。ルシアが怯えているので、帰ってくれ。」

「いや、危急の用がある。魔王よ、後で話したい。」

 珍しく食い下がる魔界No.2のアスタロトの言を無視できないのかアズランは後でと頷くとルシアを抱えて自室へと戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

恋と脅しは使いよう

makase
BL
恋に破れ、やけ酒の末酔いつぶれた賢一。気が付けば酔っぱらいの戯言を弱みとして握られてしまう……

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい

マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。 しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。 社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。 新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で…… あの夏の日々が蘇る。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

処理中です...