【9話完結】魔王の幼馴染

降魔 鬼灯

文字の大きさ
9 / 9

最終話

しおりを挟む
 アスタロトとの話し合いを終えて帰ってきたアズランの顔色が青い。


 その日からアズランの寝室から1人で出歩けなくなった。

「ルシア、最近お腹が空きやすいのだろう。心配だからもう一人では出歩くな。」と厳命されて……。

 こういう時、自分は淫魔なのだと思い知らされる。他の悪魔から魔力を貰ったことなどないのに、アズランから信頼されていないのだなと悲しくなった。

 だが、アズランと日に何度も口付けを交わし、優しく抱き締められるたび、もっともっと欲しくなる。どうしょうもなく自分は淫魔なのだと思い知り、自分が嫌いになる。

 俺は狡い。淫魔なのが嫌だと思いながら、淫魔である性を利用して、アズランに当然のような顔をして魔力を強請る。

 だが、そんな生活ももう終わる。

 アズランが花嫁を迎えたならこんな歪な関係は終わらせねばならない。
 必要ならば俺を呼べと先日アスタロトから持たされた笛を握りしめた。

 ならば、最後にたくさん独占したい。

 ひっそりと己の欲求を充たすだけでなく一度で良いからアズランに抱かれてみたかった。
 上級魔族にとって淫魔を抱くのなんて暇つぶしの一つにすぎない。

 一介の低級淫魔だからこそ言える事。

「アズラン、お願い抱いて。」

 褥の中でアズランにすがりついた。だが、ルシアの身体を引き剥がしてアズランは寝台から出ていってしまった。

「駄目だ、ルシア。まだ体調が安定していないだろう。今宵からしばらく褥を分けよう。」

 最後の望みをかけて勇気を振り絞って告げたルシアの告白は砕け散った。アズランからの拒絶に今まで張り詰めていた糸が切れるのを感じた。

 心がパリンと壊れる音がする。

 ルシアの不用意な発言のせいで警戒したのか寝室すら分けられる始末。もう友人でさえいられないのか。

 アズランは月の君以外抱く気はないのだ。上級魔族にとって淫魔を抱くのは、とるに足らないことなのに。アズランが昔、言い寄ってきた魔族に言っていた事を思い出した。

『我には心に決めた唯一がいる。生涯愛するのはそのひとりのみ。その者以外は抱く気はない』

 その唯一こそが月の君なのか。ルシアは初めて他者を憎いと思った。自分からアズランを奪っていく月の君なんていなくなれば。

 醜い自分が惨めで情けなくて、ただはらはらと涙が頰を伝う。

「ルシア、泣くな。」
 こぼれる涙に戸惑ったように囁く、どこまでも優しいアズランにルシアはしくしく痛む心のままに口走る。

「アズラン、俺この城を出るよ。」
 もう友人ではいられない。

「ルシアはそんなに我が憎いのか?」
 昏い瞳のアズラン。そういう瞳もゾクゾクする俺は被虐主義者なのか。
 是。と答えれば瞬殺されそうな殺気の中。

「嫌いだよ。大嫌い。アズランの顔なんか見たくない。」
 他の誰かと並び立つお前なんか嫌いだ。惚気るお前なんか見たくない。
 殺せよ、アズラン。今、この瞬間お前の手にかかって死にたい。涙目でアズランを睨みつける。

 だが……。


「ルシア、愛してる。」 

 は?アズラン何を言ってる?

 殺気までの昏い瞳のアズランはどこへ行った?蕩けるような瞳でこちらを見るなよ。

「嘘つき。結婚するくせに。俺のことなんて邪魔になるに決まっている。」
 アズランの好きなのは、月の君だけだろ。俺は家族の愛は要らない。欲張りな俺が欲しいのは、アズランの全てだ。

「ルシア、誤解している。」
 俺の頰を流れる涙を拭う手が優しい。

「優しくするな。」
 お願いだから、優しくしないで。

「ルシア、きちんと言葉にしなくて誤解させた。すまない。我が伴侶となって欲しい。」
 嘘だ。嘘だよ。涙がこぼれる。

「アズラン、一生俺の面倒を見ろよ。絶対だからな。」
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

恋と脅しは使いよう

makase
BL
恋に破れ、やけ酒の末酔いつぶれた賢一。気が付けば酔っぱらいの戯言を弱みとして握られてしまう……

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい

マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。 しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。 社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。 新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で…… あの夏の日々が蘇る。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

処理中です...