【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯

文字の大きさ
2 / 9

カノン

しおりを挟む
 悠理の最後の望みを託して参加したコンクールの入賞者達を招いたパーティー。

 みんなの中心で輝く司と準優勝にも関わらず、誰にも見向きされずにそっと佇む悠理。

 あまりの違いに眼の前が暗くなる。この男さえいなければ……。憎しみに曇った眼で見ても、彼は充分に魅力的だった。

 光り輝く金のトロフィーを手に入れること。ずっと目標にしていた夢が潰えた。
 あとは、コンクールを見た人々の中にパトロンになっても良いという奇特な人がいれば、助かるのだが……。
 だが、衆目を集めるのは優勝者、東郷 司ただ一人。
 悠理は、その事実に打ちのめされまいと、必死で顔をあげた。

 しかし、そんな悠理の耳に入ってきたのは司を褒め称える人々の話。

「さすが、司様ね。」

「あの冷たい瞳が素敵。なのに演奏の時だけ見せる情熱的な表情ったら。あの方と付き合えたら素敵だわ。」

 さざめく波のように美しきドレスに身を包んだ女性達が口々に囁く。
 人々の関心はひとえに美しき優勝者にのみ向けられ、誰も地味な準優勝者には、誰も目もくれない。

 想像していたより残酷に人々の関心は東郷 司ただ一人に向けられていた。そんな時以外な発言が悠理の耳に届いた。

「あら、駄目よ。司様には心に決められた方がいらっしゃるのよ。」

 やはり、司には本命がいるのか。女にもオメガにも全く興味がなさそうだった司の本命が誰なのか悠理は気になって仕方なかった。
 姦しい女性陣たちもその情報が意外だったのかざわめいている。

「だったら、一夜でも良いから、抱かれてみたいわ。」
 一際美しい気の強そうな令嬢が、とんでもない発言を繰り出す。
 しかし、即座に側にいた令嬢が止める。

「そんなお誘いにも、一切応じられる事はないそうよ。実際に発情期のオメガですら、何人も撃沈しているってもっぱらの噂よ。」

 アルファは普通、発情期のオメガの誘惑には勝てないはずだ。それに、発情期のオメガに誘われたアルファはつまみ食いしたところで罪にはならない。
 だからこそ、それすらしない司の相手への深い想いに周りがざわめいた。

「そんなに司様に思われている方が羨ましいわ。やはりオメガなのかしら。」
 ため息とともに女性たちが同意している。

 そんな時、パーティー会場の視線を一身に集めるふわりと妖精のような少女が現れた。
 明るく柔らかな栗色の髪がくるくると美しいカーブを描く絵本の中に出てくるお姫様のような圧倒的存在感。

「司、おめでとう。」

 お姫様が司にふわりと抱きついた。お姫様と騎士のような対になる2人の存在感に周りが圧倒されたようにため息をつく。

「ありがとう、絢音。優勝できたのは、絢音の献身的なサポートのおかげだよ。」
 
 はにかむようなその笑顔に貴婦人達の興奮したようなさざめきが広がる。
 
 司はあの美少女の献身的なサポートを得て、優勝したのか。心にトゲが刺さったような苦い気分で悠理はふたりを見ていた。
 誰にも邪魔できない完璧な美しい世界。その世界を悠理はぶち壊したいという衝動にかられた。
 

 極上アルファ司に相応しい美しく品の良いオメガ。
 ただオメガというだけで発情期もなく地味でベータとしかみえない自分。しかも明日からは質の悪い発情剤を打たれて、オメガ専用娼館で狂って野垂れ死ぬのを待つだけの自分。

 同じオメガでも月とスッポンも良いところだな、悠理は自嘲した。


 輝くようなふたりが憎らしくて、悠理の心の奥底で悪魔が囁く。


 仲良く話すふたりの間を引き裂くように無神経を装い割り込んだ。

「司。素晴らしい演奏だったね。今日の演奏について少し話したいことがあるのだが、すこし良いかな?」

 準優勝者として同じ師匠に習った兄弟弟子として、優勝者の演奏を称えつつアドバイスを求める。

 普段はコンテスト終わりにはこうやって話しかけてくるのは司だ。
 もう、ピアノを弾くこともない悠理には必要のないことだが、教えてほしいというように迫る。
 今までのことや世間体を考えれば、ここで悠理を邪険にすることは出来ないはずだ。

 案の定、にこやかな笑顔で司が応じる。無遠慮にふたりの間に割り込んだ悠理の腰を引き寄せて大切な想い人から遠ざけたように見えた。
 安心しろ、お前の想い人には危害を加えたりしない。嵌めるのはお前だけだ、悠理は司に微笑みかけた。

「悠理、君のところへ行こうと思っていたんだ。君の演奏は本当に素晴らしかった。ここではなんだから、向こうに行こう。」

 司は絢音にまた後でと声をかけてパーティー会場をあとにした。

 ホールを抜けて人目がなくなったエレベーターホールで罵倒されるかと思いきや、司はにこやかに悠理を見つめた。

「ピアノがあったほうが良いよね。」

 想い人との逢瀬に無遠慮に割り込んだ敗北ピアニストを邪険にすることなく優しい気遣いを見せた司はエレベーターにカードキーを差した。

 パーティーも終盤とはいえ、主役である優勝者が会場から抜けて良いのだろうか?
 まあ、音楽業界から消える悠理には関係ないが……。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

やっぱり、すき。

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
ぼくとゆうちゃんは幼馴染みで、小さいときから両思いだった。そんなゆうちゃんは、やっぱりαだった。βのぼくがそばいいていい相手じゃない。だからぼくは逃げることにしたんだ――ゆうちゃんの未来のために、これ以上ぼく自身が傷つかないために。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

恋が始まる日

一ノ瀬麻紀
BL
幼い頃から決められていた結婚だから仕方がないけど、夫は僕のことを好きなのだろうか……。 だから僕は夫に「僕のどんな所が好き?」って聞いてみたくなったんだ。 オメガバースです。 アルファ×オメガの歳の差夫夫のお話。 ツイノベで書いたお話を少し直して載せました。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね

舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」 Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。 恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。 蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。 そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

処理中です...