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14.悪夢
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「ディースたん、ディースたん」
「うん……コール?」
身体を揺り動かされ、僕は目を覚ました。
瞼をあげると、僕の顔を覗き込んで、コールが見下ろしている。
「ああ、もう朝か」
僕は目をこすり、上体を起こした。
村から逃げ出してきた僕たちは、再び森の中へ隠れた。陽も暮れかかってきたので、そのまま野宿になったのだった。
辺りを見回す。姉さんとギルバートの姿が見当たらない。
先に起きて、辺りの様子でも伺いに行ったのだろうか?
薄暗くてよく分からないが、もう夜は明けているようだ。僕も早く起きて、準備をしないと。
「さて、と。また家出娘の捜索は、振り出しに戻ったな。コールのことも、結局何も分からなかったし」
これからどうしようかと、のんびり考える。
丸一日使って、何も進展がなかったわけだけれど、僕は特に焦ってはいなかった。どちらかというと頭もすっきりしているし、前向きに考えていれば、きっと何でもうまく行くだろうと、それくらいは考えられるようになっていた。
「……ごめんなたい」
それとは裏腹に、コールは申し訳なさそうに僕に頭を下げてくる。
自分のせいで村を追い出されたと思って、責任を感じているのだろうか。
「あんなこと言われたの、気にしてるの? 安心しなよ、コールは、ジョーカーの手下なんかじゃないよ。謝る必要なんてないし、ちゃんと記憶が戻るまで、面倒見るからさ」
僕はコールを元気づけようと、笑ってそう言った。
「でも、やっぱり、ごめんなたい」
だが、コールはもう一度謝り、僕を押し倒した。
その骨ばった小さな手は、僕の首を握りしめていた。
「……こ、コール? 何を……」
この子のどこに、こんな力があったのだろう。とてつもない握力で、僕の首を絞めにかかる。
いったい、どうしたっていうんだ。
訳が分からず、手も足も出せずにいた。
コールの表情は、いつものようなボケーッとしたものではなく、影の差した、恐ろしい形相へと変わっていた。
「一晩、眠ったら、全部思い出しますた。わたし、わたし……」
そして、恐ろしいことを口にした。
「ジョーカーなんです。人間の姿に擬態して、あなたを捜していたんです」
「そ……な……」
そんな、と言おうとした。何かの間違いだと。
でも、声さえも出せないほど、僕の喉は圧迫されていた。
「あなたがファーメリーのいない子供だと言うことは、ずっと前から分かっていました。あなたが護衛のファーメリーから離れて、一人になる時を待っていたんです。運悪く記憶を失っていましたが、ようやく思い出すことができました」
コールは不気味に笑った。
「わたしは、あなたのファーメリーを殺し、食らい、そして、独りぼっちになったあなたを見つけて、攫さらうつもりだったのです。……ずいぶん時間がかかってしまいました」
「や、やめろ、コール……」
なんとか腹に力を入れ、声を出す。
蚊の鳴き声のような、か細い声しか出なかった。
その声はコールの耳には届いたが、心には届かなかった。
「わたしはコールではありません。わたしに名前なんてない、ただのジョーカーです」
コールは僕を見下ろして、ニヤリと笑った。
身体中が総毛立った。
「さあ、一緒に行きましょう、何も苦しむ必要のない、死の楽園へ!」
「う、うわあああああああ!!」
どうやって悲鳴を上げたのか分からない。
だが、自分でも驚くくらいの声を張り上げた瞬間、僕は落ちるように暗闇の中に沈んでいった。
* * *
「ディース、ディース!」
名前を呼ばれて、僕はハッと息を吸い込んだ。
「はっ、はあ、はあ……」
地面に横たわる僕は汗だくになって、息を切らしていた。
僕の顔を覗き込んで、心配そうな表情を見せているのは、姉さんだ。
「ずいぶん、魘れていましたよ。大丈夫ですか?」
その時、僕は自分が今まで眠っていたのだと気付いた。
さっきのあれは、夢だったのか。
だが、夢だとしても。
「ぼっ、僕は、なんて夢を……」
夢でも何でも、絶対に見ちゃいけないものだった。
コールが、人間に化けたジョーカーだなんて。
昨日のあの出来事が、僕にこんな夢を見せたんだ。
こんなに簡単に影響を受けてしまうなんて。
自分が嫌になりそうだった。
「うん……コール?」
身体を揺り動かされ、僕は目を覚ました。
瞼をあげると、僕の顔を覗き込んで、コールが見下ろしている。
「ああ、もう朝か」
僕は目をこすり、上体を起こした。
村から逃げ出してきた僕たちは、再び森の中へ隠れた。陽も暮れかかってきたので、そのまま野宿になったのだった。
辺りを見回す。姉さんとギルバートの姿が見当たらない。
先に起きて、辺りの様子でも伺いに行ったのだろうか?
薄暗くてよく分からないが、もう夜は明けているようだ。僕も早く起きて、準備をしないと。
「さて、と。また家出娘の捜索は、振り出しに戻ったな。コールのことも、結局何も分からなかったし」
これからどうしようかと、のんびり考える。
丸一日使って、何も進展がなかったわけだけれど、僕は特に焦ってはいなかった。どちらかというと頭もすっきりしているし、前向きに考えていれば、きっと何でもうまく行くだろうと、それくらいは考えられるようになっていた。
「……ごめんなたい」
それとは裏腹に、コールは申し訳なさそうに僕に頭を下げてくる。
自分のせいで村を追い出されたと思って、責任を感じているのだろうか。
「あんなこと言われたの、気にしてるの? 安心しなよ、コールは、ジョーカーの手下なんかじゃないよ。謝る必要なんてないし、ちゃんと記憶が戻るまで、面倒見るからさ」
僕はコールを元気づけようと、笑ってそう言った。
「でも、やっぱり、ごめんなたい」
だが、コールはもう一度謝り、僕を押し倒した。
その骨ばった小さな手は、僕の首を握りしめていた。
「……こ、コール? 何を……」
この子のどこに、こんな力があったのだろう。とてつもない握力で、僕の首を絞めにかかる。
いったい、どうしたっていうんだ。
訳が分からず、手も足も出せずにいた。
コールの表情は、いつものようなボケーッとしたものではなく、影の差した、恐ろしい形相へと変わっていた。
「一晩、眠ったら、全部思い出しますた。わたし、わたし……」
そして、恐ろしいことを口にした。
「ジョーカーなんです。人間の姿に擬態して、あなたを捜していたんです」
「そ……な……」
そんな、と言おうとした。何かの間違いだと。
でも、声さえも出せないほど、僕の喉は圧迫されていた。
「あなたがファーメリーのいない子供だと言うことは、ずっと前から分かっていました。あなたが護衛のファーメリーから離れて、一人になる時を待っていたんです。運悪く記憶を失っていましたが、ようやく思い出すことができました」
コールは不気味に笑った。
「わたしは、あなたのファーメリーを殺し、食らい、そして、独りぼっちになったあなたを見つけて、攫さらうつもりだったのです。……ずいぶん時間がかかってしまいました」
「や、やめろ、コール……」
なんとか腹に力を入れ、声を出す。
蚊の鳴き声のような、か細い声しか出なかった。
その声はコールの耳には届いたが、心には届かなかった。
「わたしはコールではありません。わたしに名前なんてない、ただのジョーカーです」
コールは僕を見下ろして、ニヤリと笑った。
身体中が総毛立った。
「さあ、一緒に行きましょう、何も苦しむ必要のない、死の楽園へ!」
「う、うわあああああああ!!」
どうやって悲鳴を上げたのか分からない。
だが、自分でも驚くくらいの声を張り上げた瞬間、僕は落ちるように暗闇の中に沈んでいった。
* * *
「ディース、ディース!」
名前を呼ばれて、僕はハッと息を吸い込んだ。
「はっ、はあ、はあ……」
地面に横たわる僕は汗だくになって、息を切らしていた。
僕の顔を覗き込んで、心配そうな表情を見せているのは、姉さんだ。
「ずいぶん、魘れていましたよ。大丈夫ですか?」
その時、僕は自分が今まで眠っていたのだと気付いた。
さっきのあれは、夢だったのか。
だが、夢だとしても。
「ぼっ、僕は、なんて夢を……」
夢でも何でも、絶対に見ちゃいけないものだった。
コールが、人間に化けたジョーカーだなんて。
昨日のあの出来事が、僕にこんな夢を見せたんだ。
こんなに簡単に影響を受けてしまうなんて。
自分が嫌になりそうだった。
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