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17.偽りのジョーカー
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「姉さん。起こしてきた……」
「しっかりして! 大丈夫ですか!?」
コールを連れて戻ってくると、血相を変えて慌てる姉さんが目に入った。
「ああ、ディース、大変なんです」
「大変って、何が……?」
困惑して、姉さんの側に歩み寄る。
その向こう側に、誰かが座り込んでいた。木の幹に凭れ掛かって、ぐったりしている。
どこで何をやらかしたのか知らないが、身体中もの凄い傷だらけで、満身創痍といった感じだ。
それだけならば、その身を心配したり介抱するのに、なんの抵抗もない。
だが、その人物が身に纏っている赤い服、肩を覆いながら乱れて流れる黒い髪が、僕の中にあった恐怖の記憶を呼び覚ます。
「離れて、姉さん!」
僕は姉さんの肩を引っ掴んで、〝そいつ〟から遠ざけた。
「どうしたんです? ディース!」
「こいつ、ジョーカーだ。近付いちゃ駄目だ!」
姉さんは驚きの表情を浮かべる。
そう、こいつはジョーカーだ。
ジーンを追いかけ回していた、あのジョーカーなのだ。
一度は撃退したが、懲りずに再度、ジーンに奇襲を仕掛けてきたのは記憶に新しい。
その後どうなったのか、コールと二人で逃げた僕には分からなかったけれど。
ここまで傷だらけになっているところを見ると、ジーンと激しくやりあったのは間違いないが――。
ジーンは、どうなったのだろう。
心配だが、今は目の前にいる、このジョーカーを何とかしなければ。
ろくに動けなさそうな今なら、僕でも倒せるだろうか?
必死で思考を巡らせていると、奴は僕を見て鼻で笑った。
「誰かと思えば、昨日私を蹴り飛ばして崖に落としてくれた小僧じゃないか。その上、私をジョーカー扱いか。いい度胸だ」
余裕に満ちた台詞。
自分が危険にさらされているとは、微塵も感じていない態度だ。
急に立場が逆転して、僕が気圧されてしまう。
「な、なんだよ、元はと言えばお前が……!」
その物言いにカチンときて、僕はジョーカーに食ってかかった。
だが、すぐに姉さんの怒鳴り声に制止される。
「やめなさい、ディース! 彼女はミーシャ。私の友人であり、あなたが森の入り口で落ち合うはずだった、ダイア村のギフト責任者です」
「な……?」
一瞬、僕の頭が真っ白になる。
「ミーシャ。この子が話をしていた、私の弟、ディースです」
「ふん、ガキだとは聞いていたが、ここまで礼儀のなっていない奴だとはな」
僕がジョーカーだと思っていた女――ダイア村のギフト、ミーシャは僕の顔を見上げて、嘲笑した。
我に返った僕は、怒りがおさまらずに、一気にまくし立てた。
「お前がギフト? だったら、だったらどうしてジーンを追いかけ回したり、攻撃を仕掛けたりしたんだ!」
「どうしてもこうしても、それが私の仕事だからだ」
「何でだよ、今回の仕事は、家出した女の子を捜し出すことだろう!?」
「そうだ、とっ捕まえて、村に連れ戻さなければ」
「だから、だったらどうしてジーンを……」
僕の物言いに疑問でも浮かんだらしく、ミーシャは訝しげに眉を顰めた。
「お前、昨日ジーンと一緒にいたんじゃないのか?」
「いたさ。だから分からない。ジーンは旅人だし、第一、女の子じゃないだろう?」
するとミーシャは、大声で笑い始めた。
「何だよ、何がおかしい!」
「お前、気付いていないのか」
さも苦しそうに、ミーシャは腹を抱える。笑うと傷が痛むらしいが、堪えられず、どうしようもない、といった様子だ。
ひとしきり笑った後、僕の顔を見て、表情を真剣なものにした。
「なら教えてやろう、ジーンは、れっきとした女だ。ダイア村に住んでいた、男勝りな小娘だよ」
「う、嘘だ……! だって、ジーンはジョーカーを倒す修行をしながら旅をしていて、僕たちのことも助けてくれて……」
「嘘じゃないさ。私は、あいつが赤ん坊の頃から知っている。少なくとも、あいつは男ではないし、数日前まではあの村にいたんだよ」
「お……お前の言葉なんか、信じられるか……」
何とか気力を振り絞って、虚勢を張る。
だが虚勢なんて、こんな動揺しているときに張って見せたって、何の効果もない。
「なら聞こう。私がジョーカーであると教えたのは、ジーンなんだろう? なぜ奴は、お前にそんな嘘を教えたのだ」
「そ、それは……」
「答えは明快だろう。捕まりたくなかったからさ。私がギフトであり、その私に自分が追われている。その事実が他の人間に知られたら、理由なんてお構いなしに、そいつらはギフトに加勢するだろう。そう考え、それを恐れたジーンは、お前に嘘をついたのだ」
ミーシャは少し同情めいた、かつ、嘲りの笑みを浮かべる。
「騙されていたんだよ、お前は」
僕は、愕然とした。
僕は、ジーンに信用されていなかったのか?
確かに、僕は自分がギフトの見習いだと名乗ったし、自分の任務についても話をした。
ジーンがその標的だったなんて、全く知らずに。
それで、ジーンが警戒したというのなら、分からなくもない。
でも、ジーンが僕に嘘をついたのは、僕が自分の素性を名乗るよりも、前だった。
最初から、僕はそういう目で見られていたんだろうか。
「まあ、災難だったな。家出娘に振り回されて」
呆れたように、ミーシャは鼻を鳴らす。
分かっていることとはいえ、本当のこととはいえ、こいつに言われると腹が立ってしょうがない。
「でも、お前は、ジーンと戦ったんだろう?」
僕は言い返してやろうと決心した。
僕たちとジーンが別れたとき。こいつが、ジーンに奇襲を仕掛けたときだ。
「ジーンが家出した女の子だっていうなら、何でお前はそんなボロボロになってるんだよ! ファーメリーも連れていない、ただの女の子に、そんなにコテンパンにされるわけないだろ!」
「……!」
僕の指摘は、かなり的を射たものだったらしい。
ミーシャは口を噤み、憎々しげに僕を睨み上げてきた。
ここまで満身創痍になったのには、何か理由があったのかもしれない。だが、それを口に出すことは言い訳になってしまう。そう思って、何も言い返さなかったのだろう。
見るからにプライドの高そうな女だ、その反応は、意外と予想通りだった。
「しっかりして! 大丈夫ですか!?」
コールを連れて戻ってくると、血相を変えて慌てる姉さんが目に入った。
「ああ、ディース、大変なんです」
「大変って、何が……?」
困惑して、姉さんの側に歩み寄る。
その向こう側に、誰かが座り込んでいた。木の幹に凭れ掛かって、ぐったりしている。
どこで何をやらかしたのか知らないが、身体中もの凄い傷だらけで、満身創痍といった感じだ。
それだけならば、その身を心配したり介抱するのに、なんの抵抗もない。
だが、その人物が身に纏っている赤い服、肩を覆いながら乱れて流れる黒い髪が、僕の中にあった恐怖の記憶を呼び覚ます。
「離れて、姉さん!」
僕は姉さんの肩を引っ掴んで、〝そいつ〟から遠ざけた。
「どうしたんです? ディース!」
「こいつ、ジョーカーだ。近付いちゃ駄目だ!」
姉さんは驚きの表情を浮かべる。
そう、こいつはジョーカーだ。
ジーンを追いかけ回していた、あのジョーカーなのだ。
一度は撃退したが、懲りずに再度、ジーンに奇襲を仕掛けてきたのは記憶に新しい。
その後どうなったのか、コールと二人で逃げた僕には分からなかったけれど。
ここまで傷だらけになっているところを見ると、ジーンと激しくやりあったのは間違いないが――。
ジーンは、どうなったのだろう。
心配だが、今は目の前にいる、このジョーカーを何とかしなければ。
ろくに動けなさそうな今なら、僕でも倒せるだろうか?
必死で思考を巡らせていると、奴は僕を見て鼻で笑った。
「誰かと思えば、昨日私を蹴り飛ばして崖に落としてくれた小僧じゃないか。その上、私をジョーカー扱いか。いい度胸だ」
余裕に満ちた台詞。
自分が危険にさらされているとは、微塵も感じていない態度だ。
急に立場が逆転して、僕が気圧されてしまう。
「な、なんだよ、元はと言えばお前が……!」
その物言いにカチンときて、僕はジョーカーに食ってかかった。
だが、すぐに姉さんの怒鳴り声に制止される。
「やめなさい、ディース! 彼女はミーシャ。私の友人であり、あなたが森の入り口で落ち合うはずだった、ダイア村のギフト責任者です」
「な……?」
一瞬、僕の頭が真っ白になる。
「ミーシャ。この子が話をしていた、私の弟、ディースです」
「ふん、ガキだとは聞いていたが、ここまで礼儀のなっていない奴だとはな」
僕がジョーカーだと思っていた女――ダイア村のギフト、ミーシャは僕の顔を見上げて、嘲笑した。
我に返った僕は、怒りがおさまらずに、一気にまくし立てた。
「お前がギフト? だったら、だったらどうしてジーンを追いかけ回したり、攻撃を仕掛けたりしたんだ!」
「どうしてもこうしても、それが私の仕事だからだ」
「何でだよ、今回の仕事は、家出した女の子を捜し出すことだろう!?」
「そうだ、とっ捕まえて、村に連れ戻さなければ」
「だから、だったらどうしてジーンを……」
僕の物言いに疑問でも浮かんだらしく、ミーシャは訝しげに眉を顰めた。
「お前、昨日ジーンと一緒にいたんじゃないのか?」
「いたさ。だから分からない。ジーンは旅人だし、第一、女の子じゃないだろう?」
するとミーシャは、大声で笑い始めた。
「何だよ、何がおかしい!」
「お前、気付いていないのか」
さも苦しそうに、ミーシャは腹を抱える。笑うと傷が痛むらしいが、堪えられず、どうしようもない、といった様子だ。
ひとしきり笑った後、僕の顔を見て、表情を真剣なものにした。
「なら教えてやろう、ジーンは、れっきとした女だ。ダイア村に住んでいた、男勝りな小娘だよ」
「う、嘘だ……! だって、ジーンはジョーカーを倒す修行をしながら旅をしていて、僕たちのことも助けてくれて……」
「嘘じゃないさ。私は、あいつが赤ん坊の頃から知っている。少なくとも、あいつは男ではないし、数日前まではあの村にいたんだよ」
「お……お前の言葉なんか、信じられるか……」
何とか気力を振り絞って、虚勢を張る。
だが虚勢なんて、こんな動揺しているときに張って見せたって、何の効果もない。
「なら聞こう。私がジョーカーであると教えたのは、ジーンなんだろう? なぜ奴は、お前にそんな嘘を教えたのだ」
「そ、それは……」
「答えは明快だろう。捕まりたくなかったからさ。私がギフトであり、その私に自分が追われている。その事実が他の人間に知られたら、理由なんてお構いなしに、そいつらはギフトに加勢するだろう。そう考え、それを恐れたジーンは、お前に嘘をついたのだ」
ミーシャは少し同情めいた、かつ、嘲りの笑みを浮かべる。
「騙されていたんだよ、お前は」
僕は、愕然とした。
僕は、ジーンに信用されていなかったのか?
確かに、僕は自分がギフトの見習いだと名乗ったし、自分の任務についても話をした。
ジーンがその標的だったなんて、全く知らずに。
それで、ジーンが警戒したというのなら、分からなくもない。
でも、ジーンが僕に嘘をついたのは、僕が自分の素性を名乗るよりも、前だった。
最初から、僕はそういう目で見られていたんだろうか。
「まあ、災難だったな。家出娘に振り回されて」
呆れたように、ミーシャは鼻を鳴らす。
分かっていることとはいえ、本当のこととはいえ、こいつに言われると腹が立ってしょうがない。
「でも、お前は、ジーンと戦ったんだろう?」
僕は言い返してやろうと決心した。
僕たちとジーンが別れたとき。こいつが、ジーンに奇襲を仕掛けたときだ。
「ジーンが家出した女の子だっていうなら、何でお前はそんなボロボロになってるんだよ! ファーメリーも連れていない、ただの女の子に、そんなにコテンパンにされるわけないだろ!」
「……!」
僕の指摘は、かなり的を射たものだったらしい。
ミーシャは口を噤み、憎々しげに僕を睨み上げてきた。
ここまで満身創痍になったのには、何か理由があったのかもしれない。だが、それを口に出すことは言い訳になってしまう。そう思って、何も言い返さなかったのだろう。
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