ファーメリーズ・ギフト

幹谷セイ

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24.僕のファーメリー

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 側ではジーンが倒れていた。その首元から飛び出ているジョーカーも、昏倒していた。
 
 さっきの光に当てられたようだ。
 
 僕は光の源――コールのほうを見た。
 
 そして、目を奪われた。
 
 ソフィアに支えられたコールの姿が、変化している。
 
 ボロボロだった服は、しっかりとした衣服へと形を変え、その上から簡易な防具を身につけていた。腰には細身の剣がぶら下がっている。
 
 くすんで汚れていた灰色の髪は美しい銀髪になり、輝いていた。僕がつけてあげた髪飾りが映え、とても美しい。
 
 コール自身も、何が起こったのか分からないらしく、目をぱちくりさせていた。ソフィアから離れ、くるりと一回転する。
 
 その時に、見えた。
 
 コールの背中から生えた、透明な羽が。
 
 しかも、それは左右非対称であった。
 
 片方の羽が、根元で千切れたように、なかったのだ。
 
 あの失われた羽を、僕は見たことがある。
 
 村の、ギフトの事務室。
 
 金庫の中から姉さんが取り出して見せてくれた、僕のファーメリーの形見。
 
「……コール?」
 
 僕は、無意識に呼んでいた。
 
 僕が、自分のファーメリーのために、一生懸命考えた、名前を。
 
「あなたは、ファーメリーよ。長い間、ご主人様に会えなかったから、戦い方を知らなかっただけ。記憶と共に、本当の姿を失っていたのよ」
 
 ソフィアは笑って言った。
 
「でも、今の力の解放で、思い出せたはず。この子は、ディースのファーメリーよ」
 
 さっき、ソフィアがコールを見て顔を顰めたのは、彼女が宿敵であるジョーカーだったからではなかった。
 
 彼女が、自分と同じ種族であると、気付いたからだったんだ。
 
 コールは惚けた顔をして、僕を見た。
 
「ディースたん……!」
 
 そして、僕のところへ飛び寄って、抱きついてきた。
 
「やっと、やっと会えたです……!」
 
 コールの姿が、滲んだ。
 
「ファーメリー……。僕の……? コールが……」
 
「そ、そんな、もう十年も経ってるのよ、そんなに長い間、無事で……」
 
 姉さんの動揺する声が聞こえた。
 
 あり得ないことだ、確かに。
 
 もし、これが事実なら、コールは本当に、十年の年月を掛けて、長い道のりを歩いてきたことになる。
 
 僕が計算して、予測したとおりに。
 
「全部、思い出したです。十年前、ここへくる途中、ジョーカーに襲われたです。私を連れてきてくれた人、ジョーカーと戦って、その隙に私を逃がしてくれました。名前の入ったプレートをくれて、クラブ村のディースたんを探せと言ってくれました。探して、探して、そして必ず出会って、幸せになるようにと」
 
 ああ、あのプレートにはそんな意味と、想いがあったのか。
 
 どこかで拾ったわけでも、ジョーカーが獲物の指標として渡したわけでもない。
 
 正真正銘、僕のところへ来るための、唯一の片道切符だったのだ。
 
「そして、少し成長できたら、ジョーカーに見つからないように常に人の姿を保って、隠れて移動しなさいと。ファーメリーの気配を放っていれば、人間の姿で一人で歩いていても、ジョーカーは近寄ってこないからと。だから、人間でないことがばれないようにしなさいと。ジョーカーに気付かれたら、狩られてしまうから」
 
 あの寝言の真意も、僕が勘繰っていたものとは、かけ離れた意味があった。
 
 彼女は、ギフトに言われたことを忠実に守り、実行して、気の遠くなるような長い時間を生き抜いて、ここまでやってきたのだ。
 
 コールの姿が、よく見えない。
 
 こんなに近くにいるのに。もっと、ちゃんと顔が見たいのに。
 
 涙で、何も見えない。
 
 すぐ側で、僕に触れているコールの手は、震えていた。声も、震えていた。
 
「ずっと、ずっと歩いてきたです。寂しかったです。早く、早くディースたんに会いたかったのです」
 
 子供の頃。
 
 僕は自分のファーメリーが側にいなくて、とても寂しかった、怖かった、苦しかった。
 
 コールだって、そうだったのだろう。
 
 胸が張り裂けそうだった。
 
 コールの声は、大きな試練を乗り越えた達成感に満ちていた。僕にしがみつき、嬉しそうに泣いた。
 
「そんなに長い間、僕のことを探して……、ボロボロになって……」
 
 助けてくれるものなんて、ほとんどいなかっただろう。
 
 着の身着のまま、人気のない道を歩いて。
 
 口に入れられそうなものなら、何でも食べて。
 
 ジョーカーの陰に怯えながら、ここまで。
 
 辛かっただろうに。苦しかっただろうに。
 
「ごめん、僕、全然気付かなくて。ジョーカーの仲間じゃないかって、疑ったり……!」
 
「ディースたん、お優しいです。コールって、名前くれました、いろんな事、教えてくれました……守って、くれました」
 
 僕はコールを抱きしめた。
 
 僕の、僕だけのファーメリーだ。
 
「コールっ、コール!」
 
 何度も何度も、その名前を呼んだ。
 
「あい、ディースたん」
 
 その度に、暖かい、優しい返事がすぐにくる。
 
 こんな幸せが、他にあるだろうか。
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