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Legend 26. 人魚を助けてあげよう
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「誰...ですか?...魔物なら...助けてください!」
その声に二人を包んでいた雰囲気が変わる。
「誰の声かしら...なんか...苦しそう...」
「きっと困っている魔物がいるんです!...助けてあげましょう!」
そう言葉を交わし、声の方に走り出すツィアとハル。
「確か、こっちの方から...」
ツィアが岩場を覗き込むと、そこには大怪我をした人魚がいた。
「ひどい怪我...」
ツィアが息をのむとハルもやってきた。
「た、大変です!すぐに手当てしないと!」
すると、
「パーフェクト・ヒール!」
ツィアが最上級の回復魔法を唱えた。
途端に人魚の怪我が全回復する。
「大丈夫?!」
ツィアが話しかけると、
「あなたは...」
さっきまでぐったりしていた人魚が体を起こし、目を開けた。
「私が話します!」
「お願い!」
後ろにいたハルがそう言うと、ツィアの前に出てきた。
人間より魔物が話した方が安心するだろうとの配慮だ。
「私は春の精霊!この人は...私の仲間です!」
ハルはまず、自己紹介をする。
ツィアが人間だということはとりあえず伏せたようだ。すると、
「そうですか...助けていただいて、ありがとうございます...でもその格好は...」
お礼をした人魚だったが、二人の水着姿を見ていぶかしげな顔をする。
「こ、こ、これは...」
ハルは答えに窮するが、
「海の中に入ろうと思って人間の真似をしたのよ!」
ツィアがフォローをした。
「そうですか...でもなんのために?」
人魚の問いに、
「その...私たちは魔界への帰り道にここを通りかかったんだけど、綺麗な海だったから...魔界にはないから記念に泳いでいこうと思って...」
ツィアが咄嗟に理由を考え、口にした。
「そうですか...ここは魔物とその仲間しか入れないように結界が張ってあります!そういう用事にはちょうどいいでしょう...」
人魚はツィアの言葉を信じたようだ。そう答えた。
(それで誰もいなかったのね!)
ツィアが一人、納得していると、
「すごいです...ツィアさん...」
ハルの声が聞こえた。ツィアの機転に感心しているようだ。
ツィアはちょっと恥ずかしくなる。
「それであなたはどうしてこんな目に?」
その気持ちを誤魔化すかのように、ツィアが人魚に聞くと、
「人間に襲われたのです!...うっかり結界の外に出てしまって...」
人魚が口惜しそうに言った。
(良かった!私が人間だと言わなくて...今、言ったらこの子はきっと怖がってしまう!)
ツィアが安心していると、人魚が続けた。
「あの...こんなことを言うのは差し出がましいとは分かっているのですが、もう一つ、お願いしてもいいでしょうか?」
「なんですか?」
ハルがにこやかに聞くと、
「私を人魚の住処まで送って欲しいのです...体が...思うように動かなくて...」
人魚は弱々しい声でそう言った。
怪我は回復しても、衰弱してしまっているようだ。
「いいですよ!ねっ!ツィアさん!」
ハルがツィアに同意を求める。すると、
「『ツィア』?...そんな魔物、聞いたことがありませんが...」
人魚はいぶかしげにしている。
「私たちはお互いを『ハル』、『ツィア』って呼んでるの!人間って名前があるじゃない?便利だなと思って!」
そう答えながらもツィアはドキドキしていた。
(ちょっと苦しいかな...)
しかし、
「そうですか...あなたがたは随分と人間の文化に染まっていますね...でも悪い魔物ではなさそうです...お願いします...」
人魚はあっさり納得してくれたようだった。
しかし、どこか苦しげな口の利き方に、
(苦しそう...もしかして頭が良く働いてないのかも...早く連れていってあげなきゃ!)
そう思ったツィアは言う。
「分かったわ!あなたをその...『人魚の住処』とやらに連れてってあげる!道案内はよろしくね!」
「分かりました...ありがとうございます...」
頭を下げる人魚に、
「でもちょっと準備がいるから待ってて!すぐ、戻るから!」
そう言うと、ツィアは水中用マスクを取りにモンスターハウスに向かうのだった。
☆彡彡彡
<ブクブクブク...>
ツィアとハルは人魚を連れて海に沈んでいく。
ツィアは右手を、ハルは左手を引いて導いていた。
向かう方向は人魚が指示してくれる。
「方向は合ってます...そのまま...まっすぐ...」
「分かったわ!」
しばらく潜っていくと人魚がツィアの口元に気づく。
「おや?その透明な膜のような物はもしかして...」
人魚はそのマスクに心当たりがあるようだった。
水中用マスクはマスクといっても透明で薄い膜のような材質でできている。
濡れても湿ったりしないし、目立たないのでなかなか便利だ。
「ああ、これ?人間界で手に入れたんだけど面白くて使ってるの!...別になくてもいいんだけどね!」
ツィアはもう少し、騙しておくことにする。
人間だと知られたら逃げてしまうかもしれない。
そうしたら無事、人魚の住処に戻れるか心配だ。
人魚の住処に着くまでは内緒にすることにした。
「そうですか...それならいいのですが...」
人魚はつぶやきながら何か考え込んでいるようだ。
しかし、考えがまとまらないのか、再び、目を閉じ、頭と体を休めているようだった。
(やっぱり、どこかボ~~~~ッとしてる...今は余計な刺激は与えずに...)
ツィアのこの判断はこの時は正しかったのかもしれない。
しかし、これが後に大きな問題を引き起こすとは考えてもいなかった。
☆彡彡彡
「あっ!何か見えてきた!もしかしてあれが...」
ツィアが何かに気づき、声を上げる。
「そうです...あれが人魚の住処です...」
連れてきた人魚が答えた。
人魚の住処は海底深くにある。
水中用マスクなどの特別なアイテムがないと、人間は辿りつけないだろう。
岩やサンゴを上手に使い、休める空間や広間のようなものを作っているようだ。
遠くに岩礁に囲まれた、一際大きな空間が見えた。
ここの主が住んでいるのかもしれない。
近づくと中から銛のような武器を持った人魚が数体出てきた。
警戒していたのだろうか。
「誰?あなたたちは!」
その問いに、
「とにかくこの子を助けてあげて!詳しくは後で話すわ!」
ツィアは連れてきた人魚を見せるとそう答える。
「この子は...確かにうちの人魚ね...弱っているようね。とりあえずどこかで休ませてあげましょう!...あなたたちはついてきて!」
警戒兵はそう言うと、弱った人魚を他の警戒兵に任せ、ツィアたちを住処の隅の方へと導いた。
☆彡彡彡
「なるほど...」
ツィアたちの説明を聞いた警戒兵は納得する。
ここは住処の入口にある、検問所の様な場所だ。
「話につじつまが合っているわ。ウソではないでしょう...しかし...あなたは人間よね!」
ツィアを見ると睨んでくる。
「ツィ、ツィアさんはいい人間です!あの人魚さんもツィアさんが魔法で回復してあげたんです!」
ハルがツィアをかばうように言うと、
「それは感謝しています!また、春の精霊様が信頼しておられるのですから、悪い人間ではないのでしょう...しかし、人間である以上、そう簡単に解放するわけには...」
警戒兵はハルに対しては上位の魔物として敬意を払っているのだろうか?敬語で答える。
しかし、話は一筋縄では行かないようだった。
そうこうしているうちに、
「セイレーン様がおいでです!」
街の中から泳いできた人魚が警戒兵にそう告げた。
その声に二人を包んでいた雰囲気が変わる。
「誰の声かしら...なんか...苦しそう...」
「きっと困っている魔物がいるんです!...助けてあげましょう!」
そう言葉を交わし、声の方に走り出すツィアとハル。
「確か、こっちの方から...」
ツィアが岩場を覗き込むと、そこには大怪我をした人魚がいた。
「ひどい怪我...」
ツィアが息をのむとハルもやってきた。
「た、大変です!すぐに手当てしないと!」
すると、
「パーフェクト・ヒール!」
ツィアが最上級の回復魔法を唱えた。
途端に人魚の怪我が全回復する。
「大丈夫?!」
ツィアが話しかけると、
「あなたは...」
さっきまでぐったりしていた人魚が体を起こし、目を開けた。
「私が話します!」
「お願い!」
後ろにいたハルがそう言うと、ツィアの前に出てきた。
人間より魔物が話した方が安心するだろうとの配慮だ。
「私は春の精霊!この人は...私の仲間です!」
ハルはまず、自己紹介をする。
ツィアが人間だということはとりあえず伏せたようだ。すると、
「そうですか...助けていただいて、ありがとうございます...でもその格好は...」
お礼をした人魚だったが、二人の水着姿を見ていぶかしげな顔をする。
「こ、こ、これは...」
ハルは答えに窮するが、
「海の中に入ろうと思って人間の真似をしたのよ!」
ツィアがフォローをした。
「そうですか...でもなんのために?」
人魚の問いに、
「その...私たちは魔界への帰り道にここを通りかかったんだけど、綺麗な海だったから...魔界にはないから記念に泳いでいこうと思って...」
ツィアが咄嗟に理由を考え、口にした。
「そうですか...ここは魔物とその仲間しか入れないように結界が張ってあります!そういう用事にはちょうどいいでしょう...」
人魚はツィアの言葉を信じたようだ。そう答えた。
(それで誰もいなかったのね!)
ツィアが一人、納得していると、
「すごいです...ツィアさん...」
ハルの声が聞こえた。ツィアの機転に感心しているようだ。
ツィアはちょっと恥ずかしくなる。
「それであなたはどうしてこんな目に?」
その気持ちを誤魔化すかのように、ツィアが人魚に聞くと、
「人間に襲われたのです!...うっかり結界の外に出てしまって...」
人魚が口惜しそうに言った。
(良かった!私が人間だと言わなくて...今、言ったらこの子はきっと怖がってしまう!)
ツィアが安心していると、人魚が続けた。
「あの...こんなことを言うのは差し出がましいとは分かっているのですが、もう一つ、お願いしてもいいでしょうか?」
「なんですか?」
ハルがにこやかに聞くと、
「私を人魚の住処まで送って欲しいのです...体が...思うように動かなくて...」
人魚は弱々しい声でそう言った。
怪我は回復しても、衰弱してしまっているようだ。
「いいですよ!ねっ!ツィアさん!」
ハルがツィアに同意を求める。すると、
「『ツィア』?...そんな魔物、聞いたことがありませんが...」
人魚はいぶかしげにしている。
「私たちはお互いを『ハル』、『ツィア』って呼んでるの!人間って名前があるじゃない?便利だなと思って!」
そう答えながらもツィアはドキドキしていた。
(ちょっと苦しいかな...)
しかし、
「そうですか...あなたがたは随分と人間の文化に染まっていますね...でも悪い魔物ではなさそうです...お願いします...」
人魚はあっさり納得してくれたようだった。
しかし、どこか苦しげな口の利き方に、
(苦しそう...もしかして頭が良く働いてないのかも...早く連れていってあげなきゃ!)
そう思ったツィアは言う。
「分かったわ!あなたをその...『人魚の住処』とやらに連れてってあげる!道案内はよろしくね!」
「分かりました...ありがとうございます...」
頭を下げる人魚に、
「でもちょっと準備がいるから待ってて!すぐ、戻るから!」
そう言うと、ツィアは水中用マスクを取りにモンスターハウスに向かうのだった。
☆彡彡彡
<ブクブクブク...>
ツィアとハルは人魚を連れて海に沈んでいく。
ツィアは右手を、ハルは左手を引いて導いていた。
向かう方向は人魚が指示してくれる。
「方向は合ってます...そのまま...まっすぐ...」
「分かったわ!」
しばらく潜っていくと人魚がツィアの口元に気づく。
「おや?その透明な膜のような物はもしかして...」
人魚はそのマスクに心当たりがあるようだった。
水中用マスクはマスクといっても透明で薄い膜のような材質でできている。
濡れても湿ったりしないし、目立たないのでなかなか便利だ。
「ああ、これ?人間界で手に入れたんだけど面白くて使ってるの!...別になくてもいいんだけどね!」
ツィアはもう少し、騙しておくことにする。
人間だと知られたら逃げてしまうかもしれない。
そうしたら無事、人魚の住処に戻れるか心配だ。
人魚の住処に着くまでは内緒にすることにした。
「そうですか...それならいいのですが...」
人魚はつぶやきながら何か考え込んでいるようだ。
しかし、考えがまとまらないのか、再び、目を閉じ、頭と体を休めているようだった。
(やっぱり、どこかボ~~~~ッとしてる...今は余計な刺激は与えずに...)
ツィアのこの判断はこの時は正しかったのかもしれない。
しかし、これが後に大きな問題を引き起こすとは考えてもいなかった。
☆彡彡彡
「あっ!何か見えてきた!もしかしてあれが...」
ツィアが何かに気づき、声を上げる。
「そうです...あれが人魚の住処です...」
連れてきた人魚が答えた。
人魚の住処は海底深くにある。
水中用マスクなどの特別なアイテムがないと、人間は辿りつけないだろう。
岩やサンゴを上手に使い、休める空間や広間のようなものを作っているようだ。
遠くに岩礁に囲まれた、一際大きな空間が見えた。
ここの主が住んでいるのかもしれない。
近づくと中から銛のような武器を持った人魚が数体出てきた。
警戒していたのだろうか。
「誰?あなたたちは!」
その問いに、
「とにかくこの子を助けてあげて!詳しくは後で話すわ!」
ツィアは連れてきた人魚を見せるとそう答える。
「この子は...確かにうちの人魚ね...弱っているようね。とりあえずどこかで休ませてあげましょう!...あなたたちはついてきて!」
警戒兵はそう言うと、弱った人魚を他の警戒兵に任せ、ツィアたちを住処の隅の方へと導いた。
☆彡彡彡
「なるほど...」
ツィアたちの説明を聞いた警戒兵は納得する。
ここは住処の入口にある、検問所の様な場所だ。
「話につじつまが合っているわ。ウソではないでしょう...しかし...あなたは人間よね!」
ツィアを見ると睨んでくる。
「ツィ、ツィアさんはいい人間です!あの人魚さんもツィアさんが魔法で回復してあげたんです!」
ハルがツィアをかばうように言うと、
「それは感謝しています!また、春の精霊様が信頼しておられるのですから、悪い人間ではないのでしょう...しかし、人間である以上、そう簡単に解放するわけには...」
警戒兵はハルに対しては上位の魔物として敬意を払っているのだろうか?敬語で答える。
しかし、話は一筋縄では行かないようだった。
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