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Legend 29. 捕らわれたハル
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「ハル...」
時間は戻ってツィアが眠りに落ちた時。
「ツィ、ツィアさん!!...ダメです!!...こんなみんなの見ているところで...」
ハルは周りを見回しながら、真っ赤になっていた。
見ると、ツィアはハルの胸に顔を突っ込み、目を閉じている。
「ふふふ!ツィア様は眠っているだけですよ!」
その様子を見たセイレーンが笑う。
「えっ?眠って?...ツィアさん!ツィアさん!寝るならもっと楽な場所で...」
ハルがツィアを起こそうとするが、起きる気配はない。
「もう!ツィアさんったら!」
いかにも『仕方がない』というニュアンスでそう言ったハルは、そっとツィアを膝枕してあげた。すると、
「随分、仲がよろしいようですね!...もしかして深い関係で?」
そんなことをセイレーンが聞いてくる。
「ふ、ふ、深い関係って...私たちは...そんな...」
ハルが真っ赤な顔で俯いてしまうと、
「ふふふ!春の精霊様はツィア様とずっと、ご一緒にいたいのでしょう?」
セイレーンはにっこり笑ってそう言う。
「そ、それは...」
ハルが言葉を濁していると、その態度を肯定と受け取ったセイレーンが口にする。
「その望み、叶えて差し上げますわ!」
「えっ?!」
思わずハルが上げた声に、興味の色を感じたセイレーンは、
「ふふふ!ツィア様のその水中用マスク...取り上げてしまえば、ツィア様は二度とここから出られません...」
そうハルに説明した。そして、
「後は春の精霊様のお好きなように...」
悪い顔で笑うと、甘い言葉で誘う。
「そんなこと!!...ダメです!!私が許しません!!」
しかし、ハルは強い言葉でその誘いを断った。
「どうしてですか?そうすれば、ツィア様は春の精霊様の思いのままだというのに...」
セイレーンが更に誘惑してくるが、
「私はそんなこと望んでいません!私が望むのは...ツィアさんが...自発的に私を求めてくれること!」
顔を真っ赤に染めながらも、ハルはまっすぐな目でそう言う。
「でしたら、ここでそれを待てばよろしいのでは?」
セイレーンの問いに、
「ツィアさんがそれを望むのならそうします!...でも、ツィアさんはきっとそれを望まない!広い大地で一緒に旅することを望むはずです!!」
ハルはそう言い切った。
ハルの意志が固いことを知ったセイレーンは、
「そうですか...でしたら...主の許しが必要ですね...」
残念そうに口にした。
「主?」
ハルが問うと、
「一緒に来ていただけますか?ツィア様を解放していいかどうか、主にお伺いを立てましょう!」
セイレーンはそう答える。
「...その主様が許してくださったら、私たちは陸上へ帰れるのですね?」
ハルが念を押す。
「もちろんです!...では私がご案内いたします...こちらへ...」
「・・・」
セイレーンの言葉にハルはその後をついていくのだった。
☆彡彡彡
「リヴァイアサン!!」
岩礁に隠れている、一際、大きな空間に案内されたハル。
そこでハルは驚きの声を上げていた。
「おお!春の精霊ではないか!...こんなところで何をしておる!早く魔界に帰った方が良いのではないか?」
リヴァイアサンはそんなハルに、そう声をかけた。
リヴァイアサンは巨大な竜か蛇のような姿をした中ボス級の魔物で、春の精霊に負けず劣らず強い。
また、海の水を自在に操る能力を持っており、海中では『リヴァイアサンに勝てる魔物は魔王しかいない』と言われるほどの無敵ぶりを誇っている。
「あなたがここの主...」
ハルはその事実を知り、何やら考え込んでいる。
「で、用というのはなんだ?」
リヴァイアサンが聞いてくる。
「それは...」
・・・
ハルはこれまでの経緯と自分たちの望みを話した。
「ふむ...」
少し考え込んだリヴァイアサンだったが、
「まず、我が一族の者を助けてくれたことには感謝しよう...しかし、お前の連れの人間を陸上に戻すことはできぬ!」
ハルの要求を拒否する。
「なぜですか?ツィアさんはこれまで、何体もの魔物を助けてきました!あなたたちの悪いようには決してしません!」
ハルが食い下がるが、
「そのツィアという人間が善良であったとしても、この場所の平安が守られるとは限らぬ!それは歴史が証明しておる!」
リヴァイアサンは耳を貸さない。
「どういうことですか?」
ハルが問いかけると、
「セイレーンよ!あの話をしてやれ!」
「はっ!」
リヴァイアサンの言葉にセイレーンが了承の声を上げた。
「あれは百年ほど前の話です...」
セイレーンの昔話が始まった。
〇・〇・〇
一人の人魚と一人の人間が恋に落ちた。
二人は陸上で逢瀬を重ねていたが、人魚は自分の住処にもその男を案内したいと願った。
幸いにも、その人魚の家系は魔道具を扱うのに長けていたので、その人魚は研究を重ねた。
その結果、魔力を使って水を空気に変える膜を作り出すことに成功した。
喜んだ人魚は男を人魚の住処に誘うことにした。
そのため、海中に陸上のような空間を作ると、男には水中でも息ができるようにマスク状に加工して渡した。
男がやってくると、他の人魚たちも二人を祝福した。
二人は結婚をして、仲睦まじく、陸上と水中を行き来しながら過ごした。
しかし、悲劇は男の死後に訪れた。
なんと冒険者の一団が人魚の住処を襲いにやってきたのだ。
彼らは水中用マスクをつけていた。男が陸上に残したものを手に入れたのだろう。
また、この場所は男がどこかに残した記録か何かで知ったと考えられた。
人魚たちは彼らを撃退することに成功したが、今後の安全を考えると、住み慣れた場所を捨てる決断をせざるを得なかった。
人魚たちは海底深くに住処を移し、水を空気に変える膜は一族だけの秘密とした。
そして、『人間は決して、ここには入れない。もし知られたら、生かしては帰さない』という掟を作った。
〇・〇・〇
「というわけなのです...」
セイレーンが話を締めくくる。
「・・・」
無言で聞いていたハル。そんなハルにリヴァイアサンが言った。
「分かったかね?我々は二度と同じ過ちは繰り返さない...あの人間はこの場所で何不自由なく暮らせるように努力はしよう...しかし、陸上に帰すわけにはいかぬ!」
しかし、ハルはそんなリヴァイアサンに詰め寄る。
「あんな場所に閉じ込めておいて、『何不自由なく暮らせる』ですって?!...そんなの私が許しません!!絶対に連れて帰ります!!」
するとリヴァイアサンは、
「残念だな...」
一つ、つぶやいた。
「争いごとは好みませんが、行きます!」
ハルが襲いかかろうとするが、
<ガンッ!>
見えない壁にぶつかる。
「なんですか?これは?」
戸惑うハル。
「知っておるだろう...我は海の水を自在に操る能力を持っておる...お前の周りの水を高圧で鉄よりも頑丈にした...お前はそこから一歩も動けぬ!」
リヴァイアサンの言葉に、
「なら!...来たれ!我が眷属!」
植物系の魔物を召喚するが、
<ブクブク...>
水でふやけて沈んでいってしまう。
「くっ!」
召喚した魔物を帰したハルが、それならと魔法を使う。
「エクスプロージョン!」
<ボフッ!>
爆発系の魔法だが、水中では不発に終わってしまう。
(くっ!水系の魔法では勝てません...雷系は有効ですが、水中では私までダメージを...)
得意の魔法を封じられたハルは、
「うふっ!」
魅惑的な顔でウインクをする。しかし、
「私に魅了が効くと思っているのか!馬鹿者め!」
ハルに為す術はないのだった。
時間は戻ってツィアが眠りに落ちた時。
「ツィ、ツィアさん!!...ダメです!!...こんなみんなの見ているところで...」
ハルは周りを見回しながら、真っ赤になっていた。
見ると、ツィアはハルの胸に顔を突っ込み、目を閉じている。
「ふふふ!ツィア様は眠っているだけですよ!」
その様子を見たセイレーンが笑う。
「えっ?眠って?...ツィアさん!ツィアさん!寝るならもっと楽な場所で...」
ハルがツィアを起こそうとするが、起きる気配はない。
「もう!ツィアさんったら!」
いかにも『仕方がない』というニュアンスでそう言ったハルは、そっとツィアを膝枕してあげた。すると、
「随分、仲がよろしいようですね!...もしかして深い関係で?」
そんなことをセイレーンが聞いてくる。
「ふ、ふ、深い関係って...私たちは...そんな...」
ハルが真っ赤な顔で俯いてしまうと、
「ふふふ!春の精霊様はツィア様とずっと、ご一緒にいたいのでしょう?」
セイレーンはにっこり笑ってそう言う。
「そ、それは...」
ハルが言葉を濁していると、その態度を肯定と受け取ったセイレーンが口にする。
「その望み、叶えて差し上げますわ!」
「えっ?!」
思わずハルが上げた声に、興味の色を感じたセイレーンは、
「ふふふ!ツィア様のその水中用マスク...取り上げてしまえば、ツィア様は二度とここから出られません...」
そうハルに説明した。そして、
「後は春の精霊様のお好きなように...」
悪い顔で笑うと、甘い言葉で誘う。
「そんなこと!!...ダメです!!私が許しません!!」
しかし、ハルは強い言葉でその誘いを断った。
「どうしてですか?そうすれば、ツィア様は春の精霊様の思いのままだというのに...」
セイレーンが更に誘惑してくるが、
「私はそんなこと望んでいません!私が望むのは...ツィアさんが...自発的に私を求めてくれること!」
顔を真っ赤に染めながらも、ハルはまっすぐな目でそう言う。
「でしたら、ここでそれを待てばよろしいのでは?」
セイレーンの問いに、
「ツィアさんがそれを望むのならそうします!...でも、ツィアさんはきっとそれを望まない!広い大地で一緒に旅することを望むはずです!!」
ハルはそう言い切った。
ハルの意志が固いことを知ったセイレーンは、
「そうですか...でしたら...主の許しが必要ですね...」
残念そうに口にした。
「主?」
ハルが問うと、
「一緒に来ていただけますか?ツィア様を解放していいかどうか、主にお伺いを立てましょう!」
セイレーンはそう答える。
「...その主様が許してくださったら、私たちは陸上へ帰れるのですね?」
ハルが念を押す。
「もちろんです!...では私がご案内いたします...こちらへ...」
「・・・」
セイレーンの言葉にハルはその後をついていくのだった。
☆彡彡彡
「リヴァイアサン!!」
岩礁に隠れている、一際、大きな空間に案内されたハル。
そこでハルは驚きの声を上げていた。
「おお!春の精霊ではないか!...こんなところで何をしておる!早く魔界に帰った方が良いのではないか?」
リヴァイアサンはそんなハルに、そう声をかけた。
リヴァイアサンは巨大な竜か蛇のような姿をした中ボス級の魔物で、春の精霊に負けず劣らず強い。
また、海の水を自在に操る能力を持っており、海中では『リヴァイアサンに勝てる魔物は魔王しかいない』と言われるほどの無敵ぶりを誇っている。
「あなたがここの主...」
ハルはその事実を知り、何やら考え込んでいる。
「で、用というのはなんだ?」
リヴァイアサンが聞いてくる。
「それは...」
・・・
ハルはこれまでの経緯と自分たちの望みを話した。
「ふむ...」
少し考え込んだリヴァイアサンだったが、
「まず、我が一族の者を助けてくれたことには感謝しよう...しかし、お前の連れの人間を陸上に戻すことはできぬ!」
ハルの要求を拒否する。
「なぜですか?ツィアさんはこれまで、何体もの魔物を助けてきました!あなたたちの悪いようには決してしません!」
ハルが食い下がるが、
「そのツィアという人間が善良であったとしても、この場所の平安が守られるとは限らぬ!それは歴史が証明しておる!」
リヴァイアサンは耳を貸さない。
「どういうことですか?」
ハルが問いかけると、
「セイレーンよ!あの話をしてやれ!」
「はっ!」
リヴァイアサンの言葉にセイレーンが了承の声を上げた。
「あれは百年ほど前の話です...」
セイレーンの昔話が始まった。
〇・〇・〇
一人の人魚と一人の人間が恋に落ちた。
二人は陸上で逢瀬を重ねていたが、人魚は自分の住処にもその男を案内したいと願った。
幸いにも、その人魚の家系は魔道具を扱うのに長けていたので、その人魚は研究を重ねた。
その結果、魔力を使って水を空気に変える膜を作り出すことに成功した。
喜んだ人魚は男を人魚の住処に誘うことにした。
そのため、海中に陸上のような空間を作ると、男には水中でも息ができるようにマスク状に加工して渡した。
男がやってくると、他の人魚たちも二人を祝福した。
二人は結婚をして、仲睦まじく、陸上と水中を行き来しながら過ごした。
しかし、悲劇は男の死後に訪れた。
なんと冒険者の一団が人魚の住処を襲いにやってきたのだ。
彼らは水中用マスクをつけていた。男が陸上に残したものを手に入れたのだろう。
また、この場所は男がどこかに残した記録か何かで知ったと考えられた。
人魚たちは彼らを撃退することに成功したが、今後の安全を考えると、住み慣れた場所を捨てる決断をせざるを得なかった。
人魚たちは海底深くに住処を移し、水を空気に変える膜は一族だけの秘密とした。
そして、『人間は決して、ここには入れない。もし知られたら、生かしては帰さない』という掟を作った。
〇・〇・〇
「というわけなのです...」
セイレーンが話を締めくくる。
「・・・」
無言で聞いていたハル。そんなハルにリヴァイアサンが言った。
「分かったかね?我々は二度と同じ過ちは繰り返さない...あの人間はこの場所で何不自由なく暮らせるように努力はしよう...しかし、陸上に帰すわけにはいかぬ!」
しかし、ハルはそんなリヴァイアサンに詰め寄る。
「あんな場所に閉じ込めておいて、『何不自由なく暮らせる』ですって?!...そんなの私が許しません!!絶対に連れて帰ります!!」
するとリヴァイアサンは、
「残念だな...」
一つ、つぶやいた。
「争いごとは好みませんが、行きます!」
ハルが襲いかかろうとするが、
<ガンッ!>
見えない壁にぶつかる。
「なんですか?これは?」
戸惑うハル。
「知っておるだろう...我は海の水を自在に操る能力を持っておる...お前の周りの水を高圧で鉄よりも頑丈にした...お前はそこから一歩も動けぬ!」
リヴァイアサンの言葉に、
「なら!...来たれ!我が眷属!」
植物系の魔物を召喚するが、
<ブクブク...>
水でふやけて沈んでいってしまう。
「くっ!」
召喚した魔物を帰したハルが、それならと魔法を使う。
「エクスプロージョン!」
<ボフッ!>
爆発系の魔法だが、水中では不発に終わってしまう。
(くっ!水系の魔法では勝てません...雷系は有効ですが、水中では私までダメージを...)
得意の魔法を封じられたハルは、
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魅惑的な顔でウインクをする。しかし、
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