伝説の後始末

世々良木夜風

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Legend 28. ツィアの夢

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「あれ?私、なにを...」
ふとツィアが気が付くと、頭の中が真っ白だった。
自分が今まで何をしていたのか思い出せない。
「ここは...」
<ガヤガヤ!>
周りを見るとそこは王都。
多くの人で賑わっていた。
そして、近くには見覚えのある人物が。
「エリザ!」
ツィアは笑顔になる。
(私の...好きな...人...)
そしてその隣には、
「サヨコも!」
パーティ仲間、サヨコの姿もあった。

「あっ、そっか!...私たち、ついに魔王を倒して...」
ツィアはようやく思い出す。
「どうしたんだ?ツィア」
そんなツィアに、エリザが不思議そうに問いかけてきた。
「なんでもない!ちょっとボ~~~ッとしちゃって!」
ツィアが照れ笑いをすると、
「ふふふ!ツィアったら!...でもこれから謁見なんだから...」
サヨコにも遠回しに注意されてしまった。
「そうよね!シャンとしないと!」
ツィアは気合を入れ直すと、二人と一緒に王城に入っていった。

〇〇〇

<ガヤガヤ>
その夜、王宮では祝いの宴が催されていた。
その席で、
「ツィア!ちょっといいかい?」
エリザに声をかけられる。
「なに?」
ツィアが答えると、
「少し、酔ったみたいだ...中庭まで一緒に来てくれないか?」
エリザの言葉に、
「うん...いいけど...」
(なんで私?...いつもこういう時はサヨコに頼むのに...)
ツィアは少し、戸惑いながらも、一緒に部屋を後にした。

「・・・」
中庭まで二人は無言で歩いていく。
ツィアは、
(ドキドキして...ない?...なんで?エリザと二人っきりなのに...)
妙に冷静な自分に戸惑っていた。

やがて中庭に着く。
すると徐にエリザが口を開いた。
「ツィアに好きな人はいるのかい?」
「えっ?!...別に...いないけど...」
そう答えながらもツィアは頭のどこかで引っかかるものを感じていた。
(何か...大切なことを忘れてるような...)
「私にはいる!」
そんな思考はエリザの言葉で遮られる。
「分かってるわ!サヨコでしょ!」
ツィアはそう言うが、
「...違うよ...ツィア...君だ...」
エリザは切れ長の凛々しい目でじっと見つめながらそんなセリフをはく。
「また!冗談ばっかり!」
ツィアは恥ずかしそうに目を逸らすが、エリザはツィアの肩をつかみ、自分の方を向かせると言った。
「ウソじゃない!...ずっと...君が好きだった...」
甘い、心の中まで響くような声がツィアの感情をくすぐる。しかし、
「...でも、旅の間だって、サヨコばっかり...」
そんな感情を振り払うかのように、そう口にするツィアだったが、
「サヨコはただの幼馴染だ!話しやすいからそうしていただけ...本当に...好きなのは...」
エリザの顔が近づいてくる。
「エリザ...」
そっと目を閉じるツィア。しかし、
(ツィアさん!)
誰かの可愛い声が頭に響いた。その瞬間、
「イヤ!!」
ツィアがエリザを突き放す。
「どうしたんだい?君だって私のことが...」
エリザは当惑しているようだ。そんなエリザにツィアは話し出す。
「確かにそうだった...でも今なら分かる!...それは恋に憧れていただけ!...私が...本当に好きなのは...」
(誰?忘れちゃいけない人が私にはいる!!...思い出さなきゃ!!...私が...好きなのは...)

☆彡彡彡

「ハル!!」
ツィアが大きな声を出して起き上がる。
見るとそこは宴が開かれていた空間だった。
しかし、今は誰もいない。
「ハル!...ハル!」
ツィアはハルを捜し回る。
しかし、どこにもいなかった。
「みんな外に!!」
広間の入口から外に出たツィア。しかし、
<ゴボッ!>
思いっきり水を吸い込んでしまった。
「ゲホッ!...ゲホッ!...」
広間に戻り、咳き込む。
「はぁ...はぁ...」
しばらくして落ち着いたツィアは、
「マスク!!」
大事なことを思い出した。
水中用マスクがないと溺れ死んでしまう。
「確か、自分の席に...」
一生懸命、捜すが、どこにもない。
「持ってかれた?...どうしよう...」
ツィアは途方に暮れてしまう。
「ハル!...ハル!」
ツィアはハルの名を呼び続けながら、意味もなく広間を歩き回る。
何かしていないと不安で仕方がないのだ。
(いない...なんで?今まで私から離れたことなんてなかったのに...私が嫌いになったの?...せっかく...本当の気持ちに気づいたのに!!)

「ハル!...ハル!...お願いだから戻ってきて!」
ツィアがそう叫んでいると、ふと人の気配を感じる。
「ハル!」
ツィアが急いで振り向くと、
「キャッ!」
その勢いに驚いていたのは、陸上で助けた人魚だった。
「あっ!ゴメン!...あなた、ハル...私と一緒にいた春の精霊を見なかった?」
ツィアは少し焦っていたのを反省し、一つ深呼吸をすると、そう尋ねた。
「春の精霊様なら...大丈夫です!...それよりこれを...」
人魚が水中用マスクを差し出す。
「あ、ありがとう...なんであなたがこれを?」
ツィアが聞くと、
「うちは代々、魔道具を扱う家系ですので...それより、逃げましょう!」
人魚はそう言ってくる。
「なんで?それよりハルはどこにいるの?」
ツィアが人魚に詰め寄るが、
「セイレーン様はあなたをここから一生、出さないつもりです!だから今のうちに早く!」
人魚はその質問には答えず、ひたすらツィアを急かす。
「逃げるってどこへ?」
ツィアがとりあえず、人魚の話に乗ると、
「陸上です!そこまで行けば私たちの手は届きません!私が案内しますので早く!」
人魚はそう答えた。
「あなた、体はもういいの?」
ツィアは人魚が衰弱していたことを思い出し、心配するが、
「大丈夫です!水中で休んだので完全とはいきませんが、普通に動けます!だから急いで!」
人魚はそう言って更にツィアを急かした。しかし、
「...あなたは私たちの味方のようね...なんで?あなたは人魚族でしょう?」
ツィアに動く気配はなく、そんなことを質問してきた。
「それはあなたたちが私の命の恩人だからです!それに...あなたをここに連れてきてしまったのは私のせいですし...」
人魚はその問いに、申し訳なさそうにつぶやいた。
「どういうこと?」
ツィアが聞くと、
「この住処の住人は、ここを人間に知られることを極度に恐れています!迷い込んだ人間は決して帰さないでしょう...それを分かっていながら、あなたをここに連れてきてしまった...」
人魚が後悔の表情を浮かべる。
「でも、それは私が魔物だと偽ったからで...」
ツィアはそう言うが、
「そうです...ですが冷静になって考えれば、あなたが人間なのは分かり切ったことだったはず...それに気づかなかったなんて...」
人魚は相変わらず自分を責めていた。
「あれだけ弱っていたんだもの...仕方ないわ!...それよりハルはどこ?!教えて!!」
そんな人魚を弁護しつつも、ツィアは強い調子でハルの居場所を聞いた。
「そこに行けば、あなたはきっと死んでしまいます...それでも?」
ツィアの真剣な表情に人魚はそう口にしてしまう。しかしツィアは、
「私が死ぬ?...そんなわけないでしょう?...私はハルを助けて一緒に陸上に帰る!!...それだけよ!」
不敵な顔で自信たっぷりにそう言うのだった。
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