伝説の後始末

世々良木夜風

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Legend 42. ハルの覚悟

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「ところで結論は出たか?」
すっかり回復したドラゴンがハルに尋ねる。
「...はい...覚悟は...決めました!」
ハルが真剣な顔で答えると、
「...そうか...助かる...」
ドラゴンはなんともいえない微妙な顔をする。
「ねえ!なんの話?!」
ツィアが話に割って入るが、
「なんでもありません!こっちの話です!」
ハルはそう言ってそれ以上、話を進めさせようとはしない。
「でも...」
ツィアが何か言いたそうにハルの顔を見つめると、
「・・・」
そっと目を逸らすハル。
「・・・」
その様子を黙って見ていたドラゴンだったが、
「それでは事態は急を要する!私と共に魔界へ!」
ハルを助けるように口を開くと、そんなことを言う。
そして、ハルを乗せようと体を伏せるが、
「ごめんなさい...魔界へはツィアさんと行きます!ドラゴンさんは魔界の入口で待っていてください!」
ハルはそう言って頭を下げた。
「...そうか...その人間はお前にとって大事な存在なのだな?...いいだろう...私は魔界で待っている!」
それを聞いたドラゴンはそう言い残すと、山頂の方へと飛んでいってしまった。

「・・・」
「・・・」
その場でしばらく黙り込んでいるツィアとハル。
しかし、やがてハルが口を開いた。
「ツィアさん!私を魔界への扉まで連れていっていただけますか?」
「分かった!...でも...アラブルを倒したら帰ってくるのよね!」
ツィアはハルに念を押す。
それは昨日からずっとハルに聞きたかったことだった。
「...はい...」
「ならいいけど...」
一拍遅れたハルの返事に、ツィアは不安を拭い切れないでいた。

☆彡彡彡

それから二人は山の頂上を目指した。
会話も少なく、ほぼ無言で歩いていく。
ただハルはぴったりとツィアにくっつき、ツィアもそれに対して何か言うことはなかった。

そして次の日には、魔界へと続くダンジョンの入口に来ていた。
「どうする?急ぐのなら、今から潜るけど...」
ツィアがそう問いかけると、
「...明日の朝、出発しましょう...」
ハルはただ、それだけ答える。
「そうね!それがいいと思うわ!」
ツィアは少しホッとした様子でそう言った。

☆彡彡彡

「ハル...ホントに戻ってくるのかしら...」
いつものごとく、浴槽で物思いにふけるツィア。
どうしても『ハルがいなくなってしまうのでは』という思いが拭い去れない。
「でもよく考えたら、私の仕事はハルを魔界に送り届けること...逆に言えば、それが達成されることになってしまう...」
ツィアは今更ながら、当然の事実に気づく。
「ま、まさか、それで『さよなら』なんてことは...ううん!ハルは『帰ってくる』って約束したわ!!」
ツィアは必死でハルの言葉を信じようとしていた。
「大丈夫!...大丈夫!...」
ツィアはただ、そう唱えていたのだった。

☆彡彡彡

「ふ~~~!いいお湯だった!」
ツィアがリビングに戻ってくると、
「今日はツィアさんの大好きなビーフシチューですよ!」
ハルが笑顔で出迎える。
「ホント?!うれしい!!」
ツィアの目が輝くが、
(これって最後の晩餐?)
一瞬、心の中にイヤな予感が浮かぶ。
(ううん!そんなことないわ!気のせいよ!)
ツィアは首を横に振ると、席に着いた。すると、
「あ~~~~ん!」
ハルがいつも通り、ツィアの膝に座ると、自らスプーンを持ってシチューを口に運んできた。
「ハ、ハル!...自分でできるから!!」
ツィアが顔を真っ赤にしながら言うが、
「私じゃ...イヤですか?」
ハルは悲しそうな顔で聞いてきた。
「そ、そんなことないけど...」
ツィアが答えると、
「じゃあ...あ~~~ん!」
ハルがまたシチューを運んでくる。
「あ~~~~ん!」
ツィアはギュッと目を閉じると、真っ赤な顔でそれを口にするのだった。
「どうですか?」
ハルが感想を聞いてくる。
「うん!とっても美味しいわ!...ハルの料理が一番ね!」
ツィアが笑顔でそう言うと、
「良かった...です...」
頬を染めたハルは、この日、ずっと食事の世話を続けたのだった。


食べ終わると、
「ねぇ、ハルはいつ帰ってくるの?」
ツィアが気になっていることをハルに聞く。
するとハルは一瞬、考えた後、
「あ、明後日には...帰れると思います...」
そう答えた。
途端にツィアの顔が輝く。
「明後日にはまた会えるのね?!...良かった!」
心底、ホッとした顔。
「・・・」
しかし、その顔を見たハルは、そっと寂しげな顔をした。
(ん?)
ツィアはその様子に気づいたのか、ハルの顔を見つめる。すると、
「そ、そうだ!...料理のレシピがあるんです!...今後...というか、明日の参考に...」
ハルは誤魔化すようにそう言って、使い込まれたノートを持ってきた。
「何これ!!」
ツィアは驚く。
それには全ての料理の作り方が、材料の分量まで細かく記載されていた。
特に、調味料の分量は試行錯誤を重ねたらしく、何度も訂正されている。
「まさか、今までの料理全部?!」
ツィアが聞くと、
「はい...私、味が分からないので、書いておかないと分からなくなっちゃうんです...」
ハルが恥ずかしそうに答える。
(ハル...私のためにそんな努力を...)
改めてハルのことを好きだと自覚するツィアだった。


そして、恒例の膝枕。
「いい子!いい子!」
ハルが膝の上のツィアの頭を撫でる。
ツィアはというと、いつものように、ハルの太ももに頬をすりつけていた。
(明後日にはまた、してもらえるのよね...でも今日は直接が良かったな...)
そんなことを思っていると、
「えっ?!」
ハルがワンピースをめくり出した。
「ちょ、ちょっと!」
ツィアは慌てるが、
「...直接が...いいんですよね...大丈夫です...見えないようにしますから...」
ハルはワンピースをギリギリまでめくると、ツィアに頭をつけるように促す。
「う、うん...」
ツィアは真っ赤な顔をしながらも、ハルの太ももを堪能するのだった。
(やっぱり、柔らかいし、気持ちいい...)
うれしそうな顔で頬ずりするツィア。そして、
(で、でも...見えそう...)
目の前のワンピースの裾が気になって、目が離せないのだった。
「ふふふ!」
そんなツィアを愛おしそうに眺めるハル。
いつもよりずっと長い間、その幸福な時を楽しんでいた二人だった。

☆彡彡彡

やがて、寝る時間が来る。
「じゃあ、お休み!」
ツィアが布団に入ると、
「あ、あの!!」
ハルが思い切ったような声を上げた。
「なに?」
不思議そうに聞き返すツィア。
すると、ハルから出たのは思いもよらない言葉だった。
「よ、良かったらですけど...わ、私を...貰ってください!!」
ハルはそう口にすると顔を真っ赤に染め、ギュッと目をつむっている。
「も、貰うって...ど、どういう...」
ツィアがしどろもどろになっていると、
「私の...一番大切なものを貰って欲しいんです!!」
ハルは目を閉じたまま、しかし決意を込めた声でそう言う。
「な、な、なんで?明日は大事な戦いがあるんでしょ?」
ツィアは問いただすが、
「だからです!私が...後悔しないために!!」
ハルはそんな言葉を口にする。
「後悔って...」
ツィアが意味を探りあぐねていると、
「...こんなこと言われても困りますよね...でも...もし、イヤじゃなかったら...」
ハルは泣きそうな顔で訴えてくる。
「...明日の戦いに関係あるの?」
ツィアが真面目な顔で尋ねると、
「はい!」
ハルはしっかりとした声で返事をした。すると、
「...分かった...でも約束して!絶対、帰ってくるって!!」
ツィアはハルに迫る。
「はい...必ず...アラブルを...倒します!」
ハルはそう答えたのだった。
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