伝説の後始末

世々良木夜風

文字の大きさ
48 / 53

Legend 48. ツィア対アラブル

しおりを挟む
「ハル~~~~~~~~~!!」
聞きなれたその声に、ハルは特技の発動を止めてしまう。
(この声は...ツィアさん!!...どうして...)
次の瞬間、ハルは飛び込んできたツィアに抱きしめられた。
そのままアラブルから離れると、一緒に飛んでいく。そして、
<バン!!>
床に叩きつけられる音。
ハルはツィアに守られ、なんのダメージも受けない。
しかし、ツィアはさすがに痛かったようで、
「いてて...」
辛そうな声を上げながら立ち上がった。
「ツィアさん!!」
ハルがその姿を見て叫ぶ。そして、
「ツィアさ~~~~~ん!!...会いたかった...ツィアさん!!ツィアさん!!」
ツィアに抱きつき、声を上げて泣く。
「よしよし...」
そんなハルの頭を優しく撫でていたツィアだったが、
「いてて...」
強く打った場所を抱きしめられ、思わず顔をしかめてしまう。
「ごめんなさい!...大丈夫ですか?」
心配するハルに、
「このくらいなんともないわ!...それより、ハルこそひどい怪我...治してあげるわね!」
そう言うと、ツィアは回復魔法で自分とハルを癒やした。

「おい!大丈夫か?...『放り投げろ』って言ったのは嬢ちゃんだからな!」
窓からワイバーンが覗いている。
「大丈夫よ!これから面白いもの見せてあげるから、そこで見物してなさい!」
ツィアがそんなワイバーンに声をかける。すると、
「ああ!楽しみにしてるぜ!...そこの坊ちゃんが痛い目にあうのをよ!!」
<ギロッ!>
楽しそうにしているワイバーンをアラブルは睨みつけた。
「おお、こえぇ!!」
それを見たワイバーンは、窓から距離をとったのだった。

「ツィアさん...なんで...」
改めてツィアを見つめると、ハルがそう口にする。
「なんでって...ハルを助けに来たに決まってるでしょ!...ゴメンね...辛い思いさせて...」
ツィアは愛おしそうにハルの顔を撫でた。
「そ、そんなこと!!...でも、もうちょっとでアラブルを倒せたのに...」
ハルがアラブルを見ると、ホッとした顔でにやにやと笑っていた。
「いいのよ!ハルを泣かせるようなヤツは、私が全部、ぶっ飛ばしてやるから!!...それより...」
ツィアは一旦、アラブルを睨んだかと思うと、次はハルを睨む。
「な、なんですか?」
ハルが怯んでいると、
「『私から離れちゃダメ』って約束したでしょ!!なんでそんな勝手なことするの!!」
ツィアはお冠だ。
「だって!...だって!...」
ハルが泣きそうな顔で声を上げていると、ツィアはいきなりハルを抱きしめた。
「...私のことを思ってよ...ね!...分かってる...分かってるわ!...でも...本当に心配したんだから!!...間に合って...良かった...」
ツィアの目から一筋の涙が流れる。
「ツィアさん...」
ハルもつられて涙ぐんでいると、

「ふう...どこの誰だか知らんが助かった!礼を言っておこう...『人間にもいいヤツがいる』...あながちウソでもないな!」
アラブルはそう言うと、バカにしたような目でハルを見た。
「っっ!」
ハルはムッとした顔でアラブルを睨んでいる。そんなアラブルに対し、
「...あなたがアラブルね!...あなたのことは良く知らないけど、私の大事な人たちが、私があなたを倒すのを楽しみにしてるの!...悪いけど...死んでくれる?」
ツィアはにっこりと笑いかけながらも、その口調は恐ろしいほど冷淡だった。すると、
「ははは!笑わせる!...お前一人で僕を倒す?...確かにそれなりの魔力は持っているようだが、魔法使い一人で何ができる!」
そんなツィアを、アラブルは嘲笑した。しかし、
「ふん!所詮、頭でしか世界を理解してない人には分からないわ!...見せてあげる!本当の戦いってヤツを!」
ツィアも負けてはいない。そう言ってアラブルを挑発した。


<バッ!!>
同時に戦闘態勢に入る二人。
「「敏捷性強化ブーストアジリティ!」」
ツィアとアラブルが同時に魔法を詠唱する。
それを聞いた二人が、お互いを見やる。
この魔法を最初に唱えたということは、相手を強敵とみなしている証。
最初にスピードを上げ、行動回数を増やす。
これは格上の相手と戦う時の必須の行動だった。

「「アンチ魔法マジック障壁フィールド!」」
「「アンチ物理マテリアル障壁フィールド!」」
次に使う魔法も決まっている。
防御力の強化だ。
これは想定外の攻撃による一撃死を予防し、回復魔法の発動回数を減らすことで、結果的に攻撃回数を増やす。
アラブルも物理障壁を張ったのは、ドラゴンからの攻撃を想定してだろう。
魔力がなくても通常攻撃はできる。

「「魔力凝縮コンプレスマジック!」」
これは体内の魔力を濃縮する魔力バフだ。
一度に放出できる魔力量は人によって違うが、限界がある。
魔力強化ブーストマジック』という、魔力の放出量を増加させるバフがあるが、二人には必要ない。
なぜなら、二人とも限界までその量をコントロールできるからだ。
できるのは魔力を濃縮することで、同じ魔力量でより強力な効果を発揮する、この魔法を使うことだけだった。

一連の準備が終わったところで、二人は睨み合う。
体内の魔力量には限界がある。
どの魔法をどう使うか。それが勝敗を決めるのだった。


最初に動いたのはツィアだった。
「ホーリークロス!」
ツィアの目の前に、3mはあろうかという巨大な光り輝く十字架が現れる。
ツィアの溢れんばかりの魔力から生み出される、聖属性の最上級魔法だ。
その十字架がアラブルに叩きつけられる。
「ぐあっ!」
その威力にさすがのアラブルも悲鳴を上げてしまう。

「すごい!!」
「あれほどの威力とは...どれだけの魔力を一度に放出できるのだ...」
大喜びのハルと、その威力に愕然とするドラゴン。

『一度に放出できる魔力量は人によって違う』と述べたが、ツィアの量は格が違った。
普通は体内に取り込める魔力量に比例するのだが、それに比べても多い。
おそらく前魔王やアラブルよりも強力な攻撃が可能だろう。
「くそっ!これほどとは!」
アラブルも予想外といった顔をしていた。

「ホーリークロス!」
連続してもう一発の魔法がアラブルを襲った。
「ぐあっ!」
またしてもアラブルの声。

対してアラブルは、
「・・・」
無言で漆黒の剣を取り出す。
「食らえ!」
そして、それでツィアを斬りつけてきた。
「くっ!」
「ツィアさん!」
苦しそうなツィアの声に、ハルも心配する。しかし、
「大丈夫!これなら大したことないわ!」
ツィアはハルに向かってにっこり笑う。
「ツィアさん...」
本当に大きなダメージではなさそうなのを見て、ハルは安心するのだった。

ちなみに、アラブルの物理攻撃は魔法ほどではないが強力だ。
ただ、ツィアの大量の魔力を使って作った物理障壁によって、大幅に軽減されているのだ。
それがなければ、この程度では済まなかっただろう。

「ホーリークロス!」
「ぐあっ!」
「食らえ!」
「くっ!」

そんなやり取りがもう一度続き、

「ホーリークロス!」
ツィアの4度目の魔法の後に、アラブルは回復魔法を唱えた。
「パーフェクト・ヒール!」

「ああ...せっかくのダメージが...」
ハルがガッカリしていると、
「まずいな...」
ドラゴンは厳しい顔をした。

「どういうことですか?」
ハルが尋ねると、
「...なぜ、アラブルが物理攻撃をしているか分かるか...」
ドラゴンが逆に聞いてくる。
「さあ...なんででしょう?...魔法の方が圧倒的に強いのに...」
ハルは首を捻っている。
「簡単だ。魔力を節約するため!...このままツィアが攻撃魔法を使い続け、アラブルが数回に一回、回復をする。この状態が繰り返されるとどうなると思う!」
「あっ!」
ドラゴンの説明に、ハルがようやくアラブルの作戦に気づいた。
「そうだ!遠からずツィアの魔力は枯渇する!...後は、煮るなり焼くなり好きなようにだ!!」
「そんな...」

「ホーリークロス!」
そんなことなど気づいていないかのように、攻撃魔法を連発するツィアに、ハルの心配は増幅していくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...