ガーネットのキセキ

世々良木夜風

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Maid 76. 旅が終わって

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「汝、病める時も健やかなる時も、サファイアを妻として生涯愛し続けることを誓いますか?」

ここは王都の教会。
ガーネットと姫様の結婚式が行われている。

〇・〇・〇

ガーネットが新たな旅に出て、1年後、見事、再び『奇跡の雫』を手に入れたガーネットは、意気揚々と戻ってきた。
その後、二人は王様に結婚の報告に行ったのだが、

「メイドと結婚など、ならん!!」
「お父様!!それは話が違います!!お父様は『奇跡の雫を手に入れた者は誰であろうと結婚相手として認める』とおっしゃったではありませんか!!」

一悶着あったが、サンストーンのとりなしのもと、なんとか説得することができた。

「認めていただけないのであれば、私はガーネットとこの国を出ます!!」
と言った姫様の言葉が最後の決め手となったのだが...

とにかく、ガーネットを『奇跡の雫』を手に入れた功績で、貴族に叙し、最低限の体裁を整えることで決着した。
文句を言う貴族もいたが、1年前のトパーズ伯爵の件以来、王様の権威が相対的に上昇していたため、なんとか、不満を押さえ込めたのだった。

〇・〇・〇

「良かったね!」
「そうだね!」
来賓の席で二人を祝福しているアリーとサンストーン。

☆★☆★☆

サンストーンたちはその後、アリーが観察してきた情報をもとに、謎に包まれた『七色の奇跡の花』の生態についての論文を執筆している。

「えっとね!『藍の奇跡の花』は人が決して、立ち入ろうとしない、山の奥深くに...」
「ふむふむ...」

この論文は、その後の『奇跡の花』の研究のバイブルとなる。

☆彡彡彡

「あっ!来たっス!」
パールが声を上げる。
「おお!二人とも綺麗じゃないか!」
アメジストたちは二人のお披露目のパレードを見に来ていた。
「お幸せに...」
そっと目を閉じ、二人を祝福するヒスイ。

☆★☆★☆

数日前のこと。

「この金どうする?」
ヒスイが聞く。

アメジストたちは結局、この旅でも駆り出され、何度も死線をさまよったが、持ち前のしぶとさでなんとか生き残っていた。
彼女たちは大量の魔石を手に入れることができ、大金持ちになっていた。

「ふふん!あたしに考えがあるんだ!!」
ニンマリ笑うアメジスト。

アメジストはそのお金を国の最下層の人々に配った。

「何するんスか!!せっかくの金を!!」
パールは驚いていたが、

「ガーネットを見てなかったのか?!...物や金を与えれば、倍になって返ってくる...つまり、この金は...」
アメジストが笑う。
「そんなうまくいくかな...」
疑問に思うヒスイたちだったが...

「やっぱり、戻ってこないっスね!」
3年経っても、お金は返ってこなかった。

しかし、ある日、
<コンコン!>
アメジストたちの家のドアがノックされる。
「なんだ?」
アメジストが出ると、そこには裕福な商人がいた。
その商人いわく、
「私はアメジストさんがくれたお金のおかげで成功することができました!これは私が儲けたお金の一部です!是非、また貧しい人々に配ってあげてください!!」

そこには2倍どころか、10倍になったお金が!

「なっ!あたしの言った通りだろ!!」
「「おおぉぉ~~~~!!」」
目を丸くしているパールとヒスイ。
アメジストたちは再び、そのお金を貧者に配ることになる。

その後、彼女たちは、本人たちの思いとは裏腹に、『貧者の味方』として、国から勲章を授けられることになる...

☆彡彡彡

「ふう...疲れたわね!」
結婚の一連の儀式が終わり、自室に戻ってきた姫様とガーネット。

「お茶をお淹れします!!」
ガーネットが早速、紅茶の準備を始める。

「ガーネットはもう、貴族なんだから、メイドに任せればいいのよ!」
姫様は何度もそう言っているのだが、
「いえ!私は姫様のために何かしてさしあげるのが大好きなんです!」
ガーネットがいつもの返事をする。
「それに...」
ガーネットが続けた。
「姫様と二人だけのこの空間に、他の人に立ち入ってほしくないですから...」
頬を染めながら口にした言葉に、
「そ、そうね!」
姫様も顔が赤くなる。

「その服、イヤだったら替えてくれてもいいのよ!」
姫様がふと、声をかける。
ガーネットはいつものメイド服だ。
「いえ、この服、好きですから...」
ガーネットの答えに、
「そ、そう!」
姫様の顔は心なしかホッとして見えた。
(私が特注したメイド服...実は気に入ってるのよね!...ガーネットの体の曲線が良く分かるし、綺麗な足も...)
姫様がそんなことを考えていると、
「これ、お気に入りなんですよね?これを着てる時の姫様の顔...」
<ドキッ!>
ガーネットが自身の服を見下ろして口にした言葉に、姫様は心の中を読まれたようで、ドギマギしていると、
「...いえ!余計なことを言いました!これはのお気に入りなんです!」
(だって...姫様の笑顔が見れるから...)
ガーネットはニコッと笑いかけてくる。
「なら、いいわ!」
ちょっとだけ気まずそうに顔を染め、視線を外した姫様。

やがて、お茶が入り、二人でテーブルに座り、雑談を始める。
話題は、アメジストたちのうわさになった。
「知ってます?姫様!ちまたでは、『アメジストさんたちが、貧しい人たちに施しをしている』と有名なんですよ!」
ガーネットは得意げに、アメジストたちを褒めちぎっているが、
「...あいつら、何、企んでるのかしら...」
姫様は訝しむ。
「ふふふ!『貧しい人のいない世界』なんじゃないですか?」
しかし、ガーネットのうれしそうな顔を見ると、
「まっ、いっか!」
許してあげることにしたのだった。

「でも...」
姫様は一つだけ、許せないことがあった。
「なんですか?姫様?」
首を傾げるガーネット。
「それよ!!ガーネットは私の旦那さんなんだから、『サファイア』って呼んでくれないと!!」
口を尖らせる姫様。
「で、でも...」
まだ抵抗があるガーネットに、姫様は迫る。
「言ってみて!『サファイア』って!」
すると、ガーネットは、
「...サファイア...」
小さな声でささやいた。
「もっと、大きな声で!!」
姫様の要求に、
「サファイア!!」
思い切ったように大声を出したガーネット。すると、

「なあに?」
うれしそうに微笑んだ、姫様がガーネットの前に駆け寄る。
「どうされたので?」
ガーネットが不思議に思っていると、
「ほら!ガーネットも!」
姫様に催促されてしまう。
「...はい...」
促されるまま、立ち上がるガーネット。
「・・・」
「・・・」
しばらく見つめ合っていた二人だったが、
「・・・」
姫様がそっと目を閉じ、唇を軽く開く。
「サファイア...」
吸い込まれるように近づいていく、ガーネットの顔。そして...
「ん...ガーネット...」
二人は唇を重ねると、お互い、強く抱きしめ合うのだった。

いつまでも離れない二人。
そんな二人の周りを、綿毛のついた種がふわりと一周する。
種はそのまま浮かび上がると、植木鉢の一つに着地した。



数十年後、そこから『奇跡の花』が咲くことになる。
どんな色だったのか...それは記録には残っていない。
しかし、人を嫌う『奇跡の花』が人里で咲いたのは、長い歴史を見てもこの一回きりだ。

これがガーネットの起こした最後のキセキだった...
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