ローズマリーの冒険

世々良木夜風

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Episode 2. まさかのお誘い

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「くそ~~~!この剣、高かったんだぞ!覚えてやがれ!!」
捨て台詞を吐いて男が去っていく。
「ふん!いい気味だわ!」
ローズはそう言うと、静かに剣を収めた。
「あ、あの...ありがとうございます...」
マリーが恥ずかしそうにローズに礼を言う。
珍しく相手の顔を見ている。誠意の表れのようだ。
「別にいいわよ!あのセクハラ男、前から気に入らなかったの!むしろ喧嘩の口実を作ってくれてうれしいくらいだわ!」
そう言って、ローズは去ろうとしたが、ふと立ち止まる。
そして、何か考えているようだった。
「この子、魔法使いか...この子ならうってつけなんじゃない??...それに大人しそうね...あたしの我が儘も聞いてくれるかも!...まっ、試してみるか!」
何か呟いていたが、マリーに向き直ると、
「ねっ!あなた新米冒険者よね?もうパーティは決まった?」
そう聞いてくる。
「ははは。私、能力が中途半端で...なかなか見つからないんです...」
マリーはそう言ってはにかむ。すると、
「それならちょうどいいわ!あたしとパーティを組まない?一人より二人の方が効率がいいでしょ!!」
ローズが思いがけない言葉をかけてきた。
「えっ!!私が...ローズさんとですか?!」
マリーは驚いて考えがまとまらない。
「そうと決まれば早速、手続きね!そこのあなた。お願い!!」
しかし、ローズはマリーの意見を聞くことなく、話を進めていた。
「はい!お任せ下さい!!」
ハンナはそう言って、マリーにウインクした。


そして、手続きを済ませて二人は表にでる。
「あっ、そういえば自己紹介がまだだったわね!あたしはローズ!剣士をしてるの!あなたは?」
「は、は、はい!!私はマリーっていいます!!魔法使いをしてます!」
ローズに聞かれ、マリーが緊張して返事をする。
「なんで敬語なの?お互い冒険者始めたばかりでしょ?普通にしゃべって!」
そう言うローズにマリーは答える。
「う、うん...でもローズちゃん、冒険者学校の頃から有名だったから...」
「ああ、マリーも一緒だったのね!ゴメン。覚えてないや」
悪びれもせずにそう言うローズ。
「そ、そんな!私なんて覚えてなくて当たり前の落ちこぼれなの!なのに同じパーティなんて...」
マリーは未だに信じられないといった様子だが、
「大丈夫!そんなの期待してないから!」
そう言ってローズが笑う。
「えっ?!」
呆けたようなマリーの態度に、
「あっ、え、えっと...そう!冒険にはいろいろな役目があるでしょ!『攻撃はあたしに任せて』って意味!!」
ローズはさすがにまずいと思ったのか適当に誤魔化す。
「じゃ、じゃあ私は何をすれば...」
マリーが困ったように答えると、
「そうね...とりあえずあたしのうちに来ない?それが手っ取り早いわ!!」
ローズがそう提案した。
「えっ!ローズちゃんの家に??...うれしい!!」
マリーはそう言って頬を染めた。
「ははは...」
その様子にローズが苦笑いをしていると、
「あっ!でもご両親にご挨拶しないと!!私、何も持ってない...」
マリーが慌て始めた。
「大丈夫!一人暮らしだから!!マリーって義理堅いのね!!」
そう言って、ローズが笑った。
「へぇ~!もう一人暮らししてるんだ...すごいなぁ!」
マリーが感心していると、
「それでいろいろ困ってるのよねぇ...助けてくれるとうれしいわ!」
そう言ってにっこりと笑ったローズが眩しくて、マリーは俯いてしまった。
「...うん...私にできることなら...」

そして...

「わぁ!ここがローズちゃんのおうち!立派!!」
そこは小さめの家だったが、まだ新しく、外観もモダンだった。
「入って!」
「お邪魔しま~~~す!!」
ローズの言葉にマリーが中に入ると、
「わぁ~~!ピカピカ!!綺麗にしてるのね!!」
中も新築のようにピカピカで、思わずマリーが感心の声を漏らす。
「それが今日、借りたばかりでまだ使ってないのよ。便利な魔道具が揃ってるんだけど、あたし、魔力少ないから...」
「今日?!」
ローズの言葉にマリーが驚きの声を上げる。
「そうそう。前のパーティ追い出されて住むところに困っていたら、偶然、裏組織の幹部に喧嘩、吹っかけられて...」
「裏組織?!それで大丈夫だったの??」
マリーは心配そうにローズを見ているが、
「ええ!ボロボロにしてやって、『この落とし前、どうしてくれるんだ!!』って言ったら、この物件、タダで貸してくれるって!!ラッキーだったわ!!」
「ははは...」
得意げに話すローズにマリーは苦笑いするしかないのであった。
「とりあえず、一通り見てもらえるかしら?最新の魔道具が揃っていてなかなか便利そうなのよね!」
そう言うローズに、
「いいの?」
とマリーが聞くが、
「あたしもどう使おうか迷ってるのよ!設備は全て調ってるから、すぐにでも住めると思うけど、魔力の問題がねぇ...」
「分かった!」
ローズの言葉にマリーは一部屋ずつ、チェックしていくのだった。

☆彡彡彡

「す、すごい...」
ローズの家の設備にマリーは声を失っていた。
「あたしも初めて見た時は何の道具だか分からなかったわ!まさかこんなに便利なものが揃っているなんて...」
ローズも感心しているようだ。
「台所には魔力を流すときれいな水の出る魔道具。それに加えて加熱することのできる魔道具...今までの苦労は一体...」
マリーは井戸まで水を汲みに行ったり、かまどに火を起こしたりする苦労を思い起こしていた。
「それに『水洗トイレ』?『バス』?そんな設備が常備されてるなんて...」
どちらも普通の家にはない。特に水浴びはなかなか機会がなく。体を濡れた布で拭くくらいだ。
いつも清潔にできるのは女性としてとてもうれしい事だった。
「そうでしょ!ただ、どれも魔力が必要なの。あたしのような剣士には辛くて...あなたのような魔法使いがいると助かるわ!!」
感心しきりのマリーにローズが声をかける。
「えっ!!それって...ローズちゃんと...」
思いもかけない言葉に戸惑っているマリーに、ローズは首を縦に振る。
「ええ!一緒に住んで家事をして欲しいの!!もちろん部屋もあるわよ!ベッドに机、タンスもあるから、身の回りの物だけ持ってきてもらえば、すぐに住めるわよ!」
「ローズちゃんと...同じ屋根の下...ご飯を作ってあげて...よ、夜も当然...」
何か呟きながら真っ赤になっているマリーに、ローズは言った。
「夜?もちろん、夜もいろいろとしてもらうわよ!とにかくここまで設備が調った家はそうないわ!マリーにとっても悪い話じゃないと思うけど...」
「いろいろ?!私が?!...で、できるかな...」
ローズの言葉にマリーは不安そうだ。その様子に、
「家事は得意なんでしょ?それで魔力もあって...」
とローズは言うが、
「で、でもそれとこれとは...私、経験ないし...」
未だにマリーは決心がつかないようだった。
(経験?なんのことかしら...魔道具を使った経験が無いとか?)
ローズはマリーの言葉の意味が分からなかったが、これ以上の人材はいないと思い、マリーを元気づけた。
「大丈夫!マリーならできるわ!!あたしの為に頑張って!!」
「...ローズちゃんの...為に...」
ローズの言葉を聞いてマリーの様子が変わった。
一つ頷くと、思い切ったような顔をする。そして、力強く答えた。
「分かった!私、ローズちゃんに喜んでもらえるよう頑張る!!うまく...できないかもしれないけど...きっと上手になるから!!」
「うん!お願いね!!」
ローズはマリーににっこりと笑いかけた。
マリーはその言葉にまたしても真っ赤になってしまうのだった。


それからマリーは一旦、家に帰り、身の回りの物や洋服を持って家を出た。
両親には、『今まで育ててくれてありがとう!私!幸せになります!』と言ってきたが、両親は何のことか分からず首を捻っていた。
後日、近所に住んでいるハンナから話を聞いて、
『あの子も一人前になって仲間と暮らすようになったのね!最初はどうなることかと思ったけど良かったわ!』
『そうだね!そんなに遠くない場所だし、またちょくちょく会う機会もあるだろう』
と言って安心してくれたようだ。
実際、台所道具や食材をもらいによくやって来たので、両親も寂しくないようだった。

こうやって、マリーとローズの同棲?が始まったのだった。
夜はマリーの予想と違っていたが...
「なに?!あたしは疲れてるの!マリーも明日の為に早く寝なさい!!」
ネグリジェ姿でやってきたマリーをローズは冷たく追い返した。
「なんで?!私、勇気出したのに!!」
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