ローズマリーの冒険

世々良木夜風

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Episode 54. 二人の二つ名

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「まずは、マリー様の二つ名は...」
担当官がマリーの二つ名を聞く。
「え、えっと...」
ローズが必死に頭を回転させる。
(マリーといえば...)
頭に思い浮かんだのは、ドラゴンを倒した後に、生まれたままの姿になったマリー。
(綺麗だったなぁ...まるで女神様みたいで...)
そんな事を考えていると、
「...女神...」
ローズはそう声に出してしまう。
「女神??」
担当官が不思議そうに復唱すると、
「え、えっと...『幸運の女神』...そう『幸運の女神』です!!」
ローズは咄嗟にそう言った。
「め、女神なんて...」
マリーが恥ずかしそうに頬を染めるが、
「おお!これはいい二つ名だ!!その美貌と、的確なサポートでアタッカーの能力を何倍にも引き出すその力!!まさに『幸運の女神』!!」
担当官は納得とばかりに頷いていた。
「うん!いい名だね!!さすが共に行動しているローズ君!!」
ジークにも好評のようだった。

「それでは、マリー様の二つ名は『幸運の女神』で...」
そう言って担当官が書類にその名を書き留めた。次いで、
「では、ローズ様の二つ名は?」
今度はローズの二つ名を聞く。
「え、えっと...」
今度はマリーが必死に頭を回転させる。
(ローズちゃんといえば...)
頭に思い浮かんだのは、戦闘で激しく動いても下着が見えないローズ。
(ローズちゃん、あんなに裾が短いのになんで見えないんだろ?...ちょっと残念...って私以外に見られたら大変!!これでいいんだよ!!)
そんな事を考えていると、
「...見えない...」
マリーはそう声に出してしまう。
「見えない??」
また、担当官が不思議そうに繰り返す。
「え、えっと...見えない...見えない...視るのが不可能だから...『不可視』!!」
マリーは何とかそれっぽい単語に思い当たった。
「不可視??何が?」
ローズが不思議そうな顔をするが、
「なるほど!この二つ名も素晴らしい!!ローズ様といえば、その圧倒的な敏捷性と剣捌き!!まさに見ることあたわず!『不可視』!!」
担当官は何度も頷いている。
「ほう!これもいい名だ!!仲間の長所を知り尽くしているとは...さすがマリー君!!」
ジークも納得の二つ名だった。

「それでは、ローズ様の二つ名は『不可視』で...」
担当官が言うと、
「『不可視』って...マリーったら大袈裟なんだから...」
ローズは恥ずかしいのか赤くなっている。
「ローズちゃんだって!!...『幸運の女神』だなんて、言われただけで顔から火が出そう...」
マリーの顔も負けずに赤くなっていた。
そして内心、
((ナイス!!担当官!!...本当の意味を知られたら...きっと口もきいてくれなくなる!!))
マリーとローズの目が合う。
「「へへっ!!」」
二人は愛想笑いを浮かべ合うのだった。

☆彡彡彡

「き、緊張するなぁ...」
「えぇ、あたしもよ!...王様ってサタンよりも怖かったのね...」
マリーとローズが大きな扉の前で硬い顔をしている。
あの後、二人は国王への謁見の作法を徹底的に叩き込まれた。
イレギュラーはないと思われるので、習った通りに動き、習った通りに話すだけである。
しかし、それがこんなに怖いものだと二人は初めて知ったのだった。
「私は残念ながら一緒には行けない...緊張は仕方がない。そういうものだと思って何とか乗り切ってくれ!」
ジークも心配そうな顔で見ている。その時、
「開門!!」
衛兵の声が聞こえる。
二人の顔が凍り付いた。

<コツコツ...>
二人の歩く音が大きな広間に響く。
両脇には側近らしい高級貴族が、そのずっと後ろには近衛兵らしい兵士が一糸乱れず並んでいた。
やがて、豪華な玉座に座った国王と王妃が見えてくる。
その衣装や装飾品も豪華でシャンデリアの光を受け、まばゆいばかりに輝いていた。
チラッと王妃の姿を見たマリーが思ったのは...
(黒髪...黒目...ローズちゃんと同じ...それに...なんて愛おしそうな目でローズちゃんを見てるの?)
やがて、何度も練習した指定の位置で立ち止まり、二人は跪く。
「こ、こ、国王陛下におかれましては...」
ローズがぎこちない挨拶を始めた。

それから後の事は二人はよく覚えていない。
気がつけば、元の部屋に戻ってきていて、机にうっ伏していた。
「あたしたち、大丈夫だった?失礼はしてない?」
ローズがジークに聞く。
何をし、何をしゃべったのか、記憶が曖昧だった。
「ああ!二人が出てきた時の中の様子を見るに、特に問題はなかったんじゃないかな!ご苦労さん!!」
ジークが労いの言葉をかける。
「...でも、王妃様...」
マリーが呟くと、
「えっ?!あたし、王妃様に何かした??」
ローズが慌ててマリーの肩に手を置くと、くっつきそうなほど顔を近づける。
「ちょ、ちょっと!そんなに顔を近づけたら...」
赤くなっているマリーを見てローズはパッと離れる。
「ゴ、ゴメン...つい...」
その顔はマリー以上に真っ赤だった。
「何もしてないよ!!ただ、ちょっと気になっただけ!」
マリーが言うと、
「何が?」
「・・・」
ローズの問いにマリーは答えなかった。
「さて!少し休んだら城の皆にお披露目だ!!紅茶でも飲んで神経を休めなさい!!」
そんなマリーを助けるかのようにジークが二人に紅茶を勧めたのだった。

☆彡彡彡

「行くわよ!!」
「う、うん...」
ローズはマリーに声をかけると二人で大ホールのお披露目口へと進む。
「わぁぁぁ~~~~~!!!」
二人が出てきた途端、ホールの下の階に集まった貴族、官僚、高級将校などが大歓声を上げた。
二人が2階から皆の前に姿を見せる。
「不可視様~~~~!!」
「幸運の女神様~~~~!!」
皆が二人の二つ名を呼んで歓迎する。
ローズは不敵な笑顔で、マリーはぎこちなく笑って、そんな観衆へと手を振るのだった。

下の階では、
「なあ!あの剣士、なかなかの美人じゃないか?」
「でも、気が強そうだな!俺はあっちの魔法使いが好みだな!」
「確かに...自信がなさそうだったから気づかなかったが、可愛い顔をしている...それにスタイルも...」
「ああ!...それに恥ずかしそうな顔もなかなか...」
「側室に欲しいな...親父に頼んでみようかな?」
「ちょっと待て!!俺が先に目をつけたんだぞ!!」
若い男性にマリーは大人気だった。

その様子を見ながら、
(全く!!イヤらしいわね!!あんなのにマリーは渡せない!!やっぱりあたしが...ってあたしが奪ってどうするのよ!!...でも、とりあえずこれでマリーの美貌が貴族の間で広まるわ!!後はゆっくりいい人を選んで...)
ローズはそう思いながらも、どこか寂しく思っている自分に気づいていた。


やがて、奥に戻ってきた二人は、
「ふう!緊張した!!」
そう言って胸を撫で下ろすマリーに、
「マリー、大人気だったわよ!!この分だと将来は安泰ね!!」
ローズがそう声をかける。しかし、マリーは、
「これはローズちゃんのお披露目じゃない!!私はオマケ!!ローズちゃんの雄姿が国中に広まればいいなぁ...」
そう言って、うっとりとしていた。
「もう!!あたしは好きに冒険するからいいのよ!!マリーは本当に自分の価値を知らないんだから!!」
「??」
そう言って怒り出したローズに、マリーは不思議そうに首を傾げるのだった。


そして、馬車による王都の一般市民へのお披露目。
バルコニーから見えた大きな通りを、幌を外した馬車でゆっくりと進んでいく。
「不可視様~~~~!!」
「幸運の女神様~~~~!!」
あちらこちらから二人を称える声が聞こえる。
「すごい人だね...どこから集まってくるんだろう...」
「ホントね!王都か...いつかまた来ましょうね!」
「うん!」
そんな会話をしながら時折、皆に手を振る。
すると、その度に大きな歓声が上がった。
「ふふふ!これでローズちゃんの名前が国中に轟くね!!」
うれしそうなマリー。
「あら、マリーだって!」
ローズは言うが、
「私はいいの!」
そう言って、にっこり笑うマリーだった。
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