バスト・バースト!

世々良木夜風

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Burst 3. オトメの試験

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「後、一週間かぁ...」
オトメが分厚い本と格闘していた。
「なになに、魔物は恵まれなかった女性の大きな胸に対する嫉妬から生まれるという説がある...」
「そ、そんなことないと思うな!私、オッキナちゃんの胸がうらやましいとか思ったこととかないし...」
オトメが独り言を言いながら続きを読み始める。
「その証拠に魔物は大きな胸の女性にいやがらせをする以外の害をもたらさない...」
「ぐ、偶然じゃない?!そ、そうだ、男の子の胸に対する興味がそうさせるとか...」
言い訳をしながらオトメの音読は続く。
「魔物は大きな胸の女性から漏れ出るバースト・パワーをその力の源にしている。しかし、大きすぎるバースト・パワーは魔物の体を消滅させる」
「不思議よねぇ。ご飯を食べないと死ぬけど、食べすぎると病気になるみたいなものなのかな...」
更に読み進んでいく。
「魔物はバースト・パワーに引き寄せられるので、胸の大きな女性ほど遭遇率は高い。Cカップ以上の遭遇率は図の通りである。Bカップの遭遇例は非常に少ない。また、Aカップの遭遇例は今のところ報告されていない」
「アンダーAは?調べる価値もないってこと?!」
オトメは憤りを感じていた。Aですらないのだから、アンダーAは考えるまでもないだろうに...
「バースト・パワーは魔物にのみ影響を与える。また、魔物はバースト・パワー以外でダメージを与えることはできない」
「バースト・ボールって人や物に当たっても素通りしちゃうのよね。どうなってるのかな...一応、理論があるらしいんだけど、さっぱり分からなかった...試験に関係ないからいいけど」

オトメが勉強しているのには訳がある。
一週間後に国家試験『冒険者検定一級』があるのだ。
別に試験を受けなくても冒険者はできる。魔物を倒すのは自由だし、みんなに喜ばれるからだ。
しかし、資格を取っておくと、『護衛依頼』や『退治依頼』などの受注や報酬に有利になるばかりでなく、ごく僅かだが、有資格者しか入れない区画に入れたりする。
ただ、オトメがこの資格、特に最も難しいとされる『一級』が欲しかったのは、魔物の退治数に合わせて報酬が支払われるからだ。
オーパイへの旅にはお金が必要だ。しかし、RPGと違い、魔物はお金を落とさない。
その為、魔物退治に対する報酬は絶対不可欠であった。
しかし、魔物は退治すると完全に消え去るので証拠が残らない。
その為、移動距離を基にした報酬システムが採用された。
移動距離は各地に設置された端末にカードをタッチすることで計算される。
『一級』だと街の外の移動距離に比例して固定報酬が支払われる。
『二級』以下だと、移動距離に応じた報酬率は、胸の大きさによって変わる。
オトメのようなアンダーAはゼロだ。報酬をもらう為には依頼をこなすしかない。
胸の大きな冒険者とパーティを組むとよいのだが、オトメとパーティを組んでくれる人などいないだろう。
それに、オーパイには最短で向かいたい。
オトメにはどんなに難しくとも『一級』に合格するしか道はなかった。

「ここが大変なんだよね...」
本の最後には魔物の生態が書かれた章があった。
約百種類の魔物の行動傾向や生息域、効果的な退治法などを暗記しなくてはいけなかった。

「なになに、最弱の魔物『ツキマト』。女性の後をつけて漏れ出るバースト・パワーを吸い取る。非常に非力なため、見つからないように行動する。自然と女性とは距離ができるのでDカップ以上の女性しか狙わない。倒すのは簡単だが、遭遇に気づかないことも多い」
「う~~~ん。倒す必要あるんだろうか?この魔物...」

「次は、『ブラトリ』。女性の荷物からブラジャーをこっそり盗む。水浴びをしている所を狙われることも多い。ブラジャーに付着したバースト・パワーで生きている。その為、バースト・パワーの強いDカップ以上の女性しか狙わない。ブラジャーには常に気をつけておくこと」
「地味に迷惑だよね。全部盗まれちゃったら、つけないで移動ってこと?恥ずかしい~~」
オトメはブラをつけていないにも拘らず、一人赤くなっていた。

「『ガラワリーナ』。女性に対し、いやらしい発言をする、代表的なものは『よーよー、ねーちゃん。いい乳してまんなぁー』。女性は恥ずかしい思いをすると漏れ出るバースト・パワーが増えるため、より多くのバースト・パワーを吸収できる。しかしCカップの女性を狙うことはまれ」
「そ、そんなに悪い魔物じゃないんじゃないかな?私の胸も褒めてくれたりして...キャッ!」
だから基本、Dカップ以上しか狙わないというのに...

そのうち、中級クラスの魔物の説明に入る。このクラスは82種類とほとんどを占める。
こちらは女性の胸に服の上から触ることでバースト・パワーを手に入れるタイプだ。
「嫌だなぁ~、魔物に触られるなんて、バッチいな...」
オトメは必要のない心配をしていた。
このクラスは茂みに隠れるタイプ。上空から狙うタイプ。地中から現れるタイプ。高速で走るタイプなど実に様々だ。
また、得られるバースト・パワーも多いので、Cカップの女性も普通に狙ってくるようだ。

最後に上級クラスの魔物の説明がある。これはそんなに多くない。
これは女性の衣服を何らかの方法で取り除き、露わになった胸に直接触るタイプだ。
得られるバースト・パワーも中級以下とは比較にならない。
「わぁ~~、これはシャレにならない...お嫁に行けなくなっちゃうかも...」
服を切り裂くタイプ。溶かすタイプ。手をつっこむタイプなどこれもいろいろいる。
水中で水浴びに来る女性を狙う、待ち伏せタイプもいるようだ。

「最上位の魔物はと...」
オトメは最後にページに行きつく。
「『イケメンモドキ』。人間に擬態し、女性をベッドに誘う。胸を触れるだけ触って、いなくなってしまう。見分けるにはキスを求めればよい。この魔物は人間の唾液を嫌う」
「これは...どうなのかな...気づかない方が幸せなパターンかも...それに見分けるのにキスって...この本の作者、バカ?そうなる前に気づかなきゃ意味ないじゃない!」

オトメは必死で勉強をした。
また、同時にバースト・ボールを安定して出せるように、特訓も欠かさなかった。
オトメはとある妄想をするとバースト・ボールが安定して出ることに気づいた。それは...

「わぁ~、きれいな胸」
オトメの友達が胸の自慢をしている。
Bカップ、Cカップの子が次々と自慢げに見せる。
やがて、一人の女の子が胸を露わにする。
「わぁ~~!やっぱり、オッキナちゃんが一番だね!Dカップだっけ?」
その後、友達たちが言う。
「オトメちゃんは?」
オトメはシャツのボタンを外しながら、胸が大きくなるイメージをする。すると...
「すご~~~い!オトメちゃんってこんな大きかったんだ~~!」
みんなが羨望の眼差しでオトメの胸を見る。
「ふふふ。私なんてまだまだだよ!みんなのもきれいだったよ!」
「さすがオトメちゃん!謙虚だね!でもオトメちゃんの胸は世界一だよ!」

ドヤ顔になってしまうのが弱点だが、この妄想なら100パーセント、バースト・ボールが出せる。
オトメは出したバースト・ボールを空高く打ち上げる。
今のままでは巨大なバースト・パワーに引かれて魔物がやってくるのでそれを防ぐためだ。
すると、
「キャ~~~!!」
街中から女性の叫び声が上がった。
と同時に上空でバースト・パワーに引き寄せられた魔物が無と消える。
どうやら『イケメンモドキ』が一匹いたようだ。
オトメはこの街から脅威を一つ取り除いた。

・・・

そして試験当日。

筆記試験は98点だった。
・魔物は恵まれなかった女性の大きな胸に対する嫉妬から生まれる
という設問にバツをつけたのが唯一の間違いだった。

バースト・パワーの測定は会場が騒然となった。
剣や杖などの道具を媒介せず、直接、生のバースト・パワーを取り出したのだから当然だ。
正に前代未聞の出来事だった。
しかも、オトメの出したバースト・パワーの測定値は、ダントツ一位と思われていたGカップの少女を凌駕していた。
昔、Hカップの女性が出した記録に次ぐ、歴代二位の記録であった。

最後は実戦形式で行われた。
魔物の動きを再現した的を攻撃する。
しかし、オトメがバースト・ボールを出した後、外部から魔物が引き寄せられてきて会場が大混乱になった。
が、オトメが全てかき消したので、加算点が恐ろしいほどついた。

結果は見事に合格。しかも、もう二度と更新されないだろうというような新記録を打ち立てた。
こうして無事、『冒険者検定一級』のライセンスカードをもらったオトメは、オーパイへの旅立ちの準備を始めるのだった。
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