バスト・バースト!

世々良木夜風

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Burst 4. オトメの旅立ち

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「私、オーパイへ行く!」
オトメは『冒険者検定一級』の合格パーティの場で高らかに宣言した。
一瞬、場が静まる。
家族一同、『相変わらず何言ってんだこの人』という顔をしている。
「オーパイって何?」
その後、代表して弟が尋ねてきた。
実は空気の読める人なのかもしれない。
「オーパイっていうのはね、伝説の街で、そこへ行くと胸の大きさを変えてもらうことができるの!」
また、場が静まる。
今度はお父さんが聞いてきた。
「そんな話、聞いたことがないが...誰に聞いたんだ?確かな話なんだろうな?」
そう言いながらもその顔はまともに受け取っていない。
「確かだよ!だって、街のお婆さんに聞いたんだもん。お婆さんはすごいんだよ!私に『内なるバースト・パワー』を教えてくれたお婆さんもいるの!」
三度、場が静まる。
「で、そのお婆さんはどこにいるんだ?」
お父さんが聞く。
「知らない。必要な人しか会うことができないんだって!」
今度は全員、頭をかかえてしまった。
「母さん。育て方を間違ったんじゃないか?」
お父さんがお母さんを問い詰める。
「まあ!私のせいだっていうの!大体、お父さんが甘やかすから...」
今度は夫婦げんかになってしまった。

「ふふふ。仲がいいね!じゃあ、私は準備があるから...」
席を立とうとするオトメをお父さんが止める。
「待てぃ!!」
「何?私、忙しいんだけど...」
そう言いながらも席につくオトメ。
「お前、旅がどんなに危険か分かっているのか?魔物だって出るんだぞ!」
「あぁ、それなら問題ないよ」
お父さんが警告するが、弟が大丈夫だという。
「どういうことだ?」
「ねぇちゃんはアンダーAだから魔物には絶対に狙われない。しかも『冒険者検定一級』を持ってるから、移動するだけでお金がもらえる。タダで旅がし放題だよ」
「そ、そんな上手い話が...」
「『冒険者検定』作った人が、想定してなかったんだろうね。『一級』なんてDでも落ちる人の方が多いんだから」
「・・・」
「問題はねぇちゃんがいつあきらめて帰ってくるかってこと!一年とか期限を決めて、それまでに見つからなかったら、大人しく家に帰ってきてもらうことにしたらいいんじゃない?」
「サトル、お前頭いいな...」
お父さんは弟がここまで『聡い』とは思っていなかったようだ。
っていうか、弟、名前あったんだ...
「よし!一年だけ旅を許す!それまでに見つからなかったら帰ってくること!いいな!」
「三年でお願いします!」
オトメが土下座する。
「お前...実は半信半疑なんじゃ...」
お父さんが怪しむが、サトルがアドバイスをする。
「いいんじゃない!その代わり、絶対に約束を破らないこと!それでいいよね!」
「しかし...」
納得しないお父さんにサトルが耳打ちする。
(「中途半端に言ってもまた勝手に出てくよ。本人の口から『三年』っていう言葉を出せたんだから、それで良しとしようよ」)
(「お前、誰に似たんだ...」)
お父さんは自分の家長としての立場が揺らいでいるのを感じていた。

「よし!でも絶対に三年経ったら帰ってくるんだぞ!約束だからな!」
「ありがとう!お父さん!」
「ただ、そうは言っても女の子の一人旅だ!準備はしっかりするんだぞ!」
「うん、分かってる!早速、明日おニューのドレス買いに行かなくちゃ!」
「お前、何しに行くんだ...」
心配事の減らないお父さんであった。
「ねぇちゃん、一応アドバイスしとくけど、街道が整備されてるとはいえ、服は汚れるよ。それに長旅になるから丈夫な服がいいかな。買い替えると余計なお金もかかるでしょ!何が起こるか分からないからお金には余裕を持たせないと...」
「でも、私、可愛い服がないと生きていけないの!」
「可愛い服を着るなとは言わないよ。ただ、必要最小限にしておけばいいだけの話さ」
「そ、そうだね!さとるん。たまにはいいこと言うじゃない!」
「その、『さとるん』止めてよ!もう14なんだからさぁ...」
「だって、そっちの方が可愛いんだもん!お爺さんになってもそう呼んであげるからね!」
「・・・」
「オトメにかかったらサトルも形無しね!学校じゃモテモテなのにね!」
「えっ、そうなの!」
お母さんの言葉にオトメはビックリする。
「そうよ。この顔に大人びた言動。頭もいいときたらモテない方がおかしいわ。もう三人もお嫁さん候補がいるのよ!」
「お母さん!」
サトルは赤くなって止めるが、オトメはショックだったようだ。
「さとるん、不潔よ~~~!え~~ん、さとるんが不良になった~~!」
泣きながら自分の部屋へと走っていった。
「お母さん、余計なこと言うから...」
サトルは恥ずかしげだ。
「ふふふ。自分の弟がモテるのは姉として複雑よねぇ~。オトメもこれで少しは大人になってくれたらいいんだけど...」
「サトル...お前、そんなにモテたんだ...」
ここにも一人、ショックを受けている男がいた。

・・・

そして、なんだかんだで旅立ちの日がきた。
「オトメ!気をつけるのよ!街を出たら何が起こるか分からないんだから...」
「オトメ!辛くなったらいつでも戻ってきていいんだぞ!父さん、ずっと待ってるからな!」
「ねぇちゃん、まぁ気が済むまでやっておいでよ。でもあまり長引いて婚期を逃さないようにね」
それぞれがオトメの身を案じて言葉をかける。
「大丈夫よ!きっとオーパイでおっきな胸を手に入れて、可愛い下着つけちゃうんだから!期待して待っててね!っと、男の子には刺激が強すぎたかな!」
パチッと可愛くウインクする。
「「「・・・」」」
相変わらずマイペースなオトメは、見つからずに帰ってくる可能性などこれっぽっちも考えていないようであった。

服装は丈夫な麻のワンピースだ。青色をしている。
みんなはパンツスタイルがいいと言ったのだが、スカートだけは譲れないようだった。
色も紺色を勧めたのだが、せめぎあいの結果、落ち着いた青になった。
靴はピンクのスニーカー。
きっと汚れて悲惨な色になるだろうが、これも本人が首を縦に振らなかった。
髪には赤のリボンをしている。
オトメはこの地方ではメジャーな黒髪で、肩まで伸びている。
リボンがあれば邪魔なら結べるだろう...というのは建前で、もう、このころにはダメ出しをする気力が家族にはなかった。
肩には大きめのリュックを背負っている。
中にはスペアの衣服。おしゃれ用の服。身の回りの小道具。携帯食料と水筒。それに懐中電灯だけだ。
基本的に舗装された街道を行くし、途中で休憩所や宿泊できる場所もある。
もし、必要ならレンタルすればいいので、わざわざ重い荷物を持っていく必要もない。
便利な世界だ。
このリュックスタイルも、一もめ二もめしたのだが、無理やり持たせた。
なぜなら、バッグだとどう考えても長旅には向かないし、戦闘になった時にも邪魔になる。
いくら狙われないといっても、冒険者である以上、その可能性は考慮すべきだろう。
何か、本人よりも周りの人間の方が真面目に冒険を考えている気がするが、何とかオトメに最低限の冒険者の格好をさせることができた...かもしれない。

「じゃあ、行くね!」
オトメは振り返って、歩き出した。
(私はもう振り返らない!前だけを見て歩き続けるの!)
「ねぇちゃん、カード!」
オトメは移動距離計測用の端末にカードをタッチするのを忘れていた。
決心して一秒、オトメは後ろを振り返るのだった。
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