バスト・バースト!

世々良木夜風

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Burst14. 3対150の闘い

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「いっけ~~~!!」
結界の解除と同時にオトメのバースト・ボールが放たれる。
魔物たちは既に結界の近くに集まり、我先にと飛び出してきていた。
一発。二発。
時間差で放たれた二つの弾は密集していた魔物たちを消し飛ばす。
二つで十匹くらいは倒せただろうか。
「私もいきます!」
マリアの杖から光の弾が放たれる。
これは一発で一匹しか倒せないが、次々と杖の先から生み出され、確実に魔物の数を減らしていく。
「はぁ!」
息を強く吐く音と共に、グレースの姿が消える。
見ると、こちらに近づいていた、足の速い魔物を三匹、切り捨てていた。
近くに敵がいないとみると、魔物の群れに飛び込む。
一太刀で五匹の魔物を消し去っていた。

これは簡単に見えるがそうではない。
バースト・パワーには装備に充填するのに必要な時間がある。
刀などの近接タイプでは一秒に五、六回が限度だ。
グレースは充填速度を考え、一秒かけてきれいに五体を倒したのだ。
また、マリアのような魔法使いタイプではバースト・パワーを杖の上に実体化する必要がある為、一秒に一回が限度。
しかし、マリアも一秒に一体ずつ、確実に倒していた。

オトメはというと...
「あぁぁ~~~~~~!!!」
再びバースト・ボールを生み出す。
この速度だが、胸からボールが生まれる想像力を働かせなくてはいけない為、ある程度の時間がかかる。
ばらつきはあるが、何とか、五秒に一度くらいは出せていた。
ただし、破壊力は抜群!
今回のように魔物が密集しているパターンでは無類の強さを見せた。

最初はオトメたちが押している印象があった。
オトメが五、六秒おきに多くの魔物を消し去る。
マリアが一秒おきに近い魔物から順番に倒していく。
足の速い魔物や、すり抜けてきた魔物はグレースが確実に仕留めて、後ろの二人に近づかせない。
見事なコンビネーションであった。

結界が解除されてから15秒。
魔物の殲滅は順調であった。
既に全体の三分の一くらいは倒せている。
まもなく、オトメの四発目のバースト・ボールも生み出されようとしている。
しかし、グレースは心配をしていた。
(オトメとマリア師匠は長期戦に慣れていない。そろそろ集中力が切れてくるはず...それに...)
見ると、魔物の群れが近づいてきていた。
全ての魔物が一斉に襲ってきているわけではない。
そうしていたら、いくらオトメたちが強くても数の力で押し倒されていただろう。
弱い魔物や臆病な魔物は警戒をして、様子見をしている。
ただ、オトメのバースト・ボールは強力なバースト・パワーの塊だ。
自然と魔物を呼び寄せてしまう。
その結果、様子見の魔物の群れとの距離が少しずつ、縮まっていたのだ。
おそらく、こちらが隙を見せれば一斉に襲ってくるだろう。
(オトメの参戦が吉と出るか凶と出るか)

それから10秒。
グレースの心配は現実となっていた。
オトメとマリアの攻撃の間隔がのびてしまっていたのだ。
「あっ!」
マリアが攻撃を外す。
「大丈夫だ!」
グレースはマリアが狙っていた魔物を倒す。
グレースの負担はかなり大きくなっていた。
もう、相手の群れに飛び込む余裕はない。魔物が後ろの二人に向かっていくのを阻止するだけで精一杯だ。

一方、オトメはかなり頭を酷使していた。
(くっ!集中しないと!)
オトメのバースト・ボールの生成には想像力が必要とされる。
自分の胸が大きくなっていく様を具体的に想像するのだが、それだけでは足りない。
思わず恥ずかしい声をあげてしまうような感情の昂りが必要なのだ。
感情が理性を凌駕しなくてはならない。
その為に、オトメは友達に大きくなった胸を自慢する妄想をしていた。
友達の目線が自分の胸に集まる羞恥心。
いままで憐れんでいた友達が羨望の目で見つめてくる優越感。
そういうものが、オトメの感情を昂らせていた。
しかし、こうも短い時間に何度も妄想するとどうしても慣れてしまう。
頭では分かっていても、感情が昂らないのだ。
オトメは様々なアレンジを妄想に加え、何とか感情をコントロールしていた。
しかし、その限界が近づいているのが分かる。
今や、バースト・ボールを出すのに必要な時間は10秒に迫ろうとしていた。

それから10秒。まだ、魔物は半分近くが残っていた。
「あっっっ!!」
そしてついに限界がきた。オトメがバースト・ボールを出すのに失敗したのだ。
オトメのバースト・ボールは、二発で十匹近くの魔物を倒せる最大の攻撃力を持つ。
当然、警戒している魔物は多い。
それが失敗したとみるや、より多くの魔物が襲い掛かってくる。
「村長!結界は?!」
「後、20秒、いや15秒待っておくれ!」
村長も急いでいるようだが、まだ15秒闘わなくてはいけない。
グレースは魔物の動きを読み、後方のマリアを狙う敵を優先して倒す。しかし、
「キャ~~~!!」
ついに一匹の魔物がグレースをすり抜け、マリアに襲い掛かった。
「しまった!!」
魔物の鋭い爪がマリアの服を切り裂こうとする。
その爪がマリアの顔の前を通過したまさにその時、マリアの中で何かスイッチが入った音がした。
「プチッ!」
と共にマリアの絶叫が響き渡る。
「いや~~~~~~!!!」
すると、マリアの杖から縦横無尽にバースト・パワーの弾が打ち出される。
その数は一秒間に十を超えていた。
これはバースト・パワーの理論上ありえない。
もし、この場にバースト・パワーの専門家がいたら、理論の再構築を迫られただろう。
しかし、確かに、今、オトメたちの目の前ではそれだけの数の光の弾が打ち出されていた。

マリアを襲った魔物がまず消える。
次にマリアの前方、グレースに襲い掛かっていた魔物が全滅した。
目の前の脅威がなくなると、マリアの弾は上方に向かって打ち出される。
弾は空高く舞い上がり、そこからシャワーの様に、様子見している魔物の群れに降り注ぐ。
魔物が次々と消えていく。
魔物は逃げはしない。
何故ならバースト・パワーに引き寄せられる性質があるからだ。
むしろ、自ら光の弾のシャワーの中に飛び込んでいく。
マリアが壊れてから、約10秒。
最後の魔物が消滅した。

それと同時に倒れ込むマリア。
村長はカウントダウンに入っていた結界の構築を中止した。
「マリアちゃ~~ん!」
「師匠!大丈夫か?!」
オトメとグレースがマリアのもとへ駆け寄る。
「どうやら意識を失っておるようじゃ。わしの家へ運ぶがよい」
村長がゆっくりと近づきながら言った。

・・・

「マリアちゃん...」
オトメとグレースが心配げにマリアの様子を見ている。
マリアは『ふとん』と呼ばれる東の国のベッドで眠っていた。
あの後、村長がマリアの診察をしたが、極度の緊張で意識を失っただけで、しばらくすると戻るという。
「オトメさん...」
マリアがふと声を出す。
「マリアちゃん!起きたの?大丈夫?」
「・・・」
どうやら寝言のようだった。
「オトメさん、ダメです。そんなところ...」
まだ寝言は続く、どうやら何かの夢を見ているようだ。
「大丈夫かな?マリアちゃん...」
そう言うオトメにグレースがアドバイスをする。
「添い寝してやったらどうだ?」
「えっ!」
オトメが驚く。
「でも...そんなこと...」
オトメの顔が赤くなる。
「そっちの方が早く元気になるんじゃないか?」
グレースは更に勧める。
「それなら...」
オトメはそっとマリアの布団に入る。
「ほら、もっとくっついて」
「うん...」
オトメはマリアに抱きつくような形になる。
オトメの顔は真っ赤っ赤だ。すると、
「オトメさん、ダメです。私たちはまだ...えっ...責任は取る?...それなら...いいです...」
「何の夢見てるのかな?責任って?私、どうしたらいいの?」
「まず、服を脱がせて...」
グレースが説明をする。
「えっ、でも...」
「いいから、いいから」
「・・・」
オトメがそっとマリアのワンピースのボタンに手をかけた。ちょうどその時、
「ゴホン!」
突然、現れた村長が咳ばらいをした。
「わっ!」
慌ててオトメがマリアの布団から飛び出す。
「いいところだったのに...」
グレースが不満そうな顔をするが、村長は続けた。
「お主らに話がある。そのマリアとかいう女子おなごの事じゃ。こっちに来るがよい」
オトメとグレースはそっとマリアの側を離れていった。
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