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【第三章】君と色づく世界
心踊る夜
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「ラーメンおまたせ! それから生ビールな。なんだ、ふたりとも顔が赤いな! 時安はまだ呑んでないだろ?」
厨房から戻ってきた窪が、ラーメンの丼とビールをドンとテーブルに置きながらからかうように言った。
可琳が「えへへ」と照れくさそうに笑う。僕の方はすでに限界だ。そんな僕らを一瞥し、窪は小さくため息をつく。
「お前ら、もう付き合っちゃえよ!」
窪がサラリと言い放ったその一言が、僕の頭を真っ白にした。
「は、はあ?」
僕はうっかり大きな声を出してしまい、動揺しておろおろする。だが、その横で可琳は、少し首を傾げながら「付き合えたらいいけどねー。でもハチ、東京だからー……」なんて、軽く言うものだから、僕の動揺はさらに加速した。
「はあああああ?」
顔がますます熱くなり、僕の顔は今、ゆでダコのようになっているだろう。
一方の窪は、カウンターまで自分の分のラーメンを取りに行き、再びドンと丼をテーブルに置くと、追い打ちをかけるように言った。
「だってどう考えたって、お前ら両想いだろ? 時安もせっかくこっちに戻ってきたんだからさ、遠距離でもなんでも、一度付き合ってみればいい!」
ビールを豪快に飲み干したあと、ラーメンをすする窪。その無邪気さがむしろ恨めしい。
可琳が「でもさ」と、少しうつむきながらまつ毛を伏せる。
「東京に彼女いるかもしれないし」
「いないよ!」
僕は即答した。思いがけず大きな声が出てしまって恥ずかしい……。
なんだろう、この空気。僕は二人にからかわれているんだろうか。
「まあまあ、とりあえずラーメン、伸びる前にさっさと食え」
窪に促され、僕は顔を真っ赤にしたままラーメンをすする。懐かしい味が口いっぱいに広がる。昔とまったく変わらない味に、なんだかほっとした。
そして、この時すでに、僕の中で一つの答えが固まっていた。
ラーメンを食べ終えると、僕たちは窪の店をあとにした。
ラーメンのせいか、それとも可琳のせいかわからないけれど、火照った身体を夜風が優しく冷やしてくれる。街灯に照らされた可琳の横顔を盗み見た瞬間、胸がキュッと締めつけられた。
「明日、ハチの家まで迎えに行ってもいい?」
ふと可琳が言う。可琳の口調はとても自然だったけれど、僕は少しだけ戸惑いながら答えた。
「僕が迎えに行くよ。そういえば、可琳の家、なくなってたけど……今、どこに住んでるの?」
その言葉に、可琳は一瞬だけ沈黙する。そして少し茶目っ気のある表情で言った。
「……内緒! っていうか、私の家、見に来たんだ?」
その問いに、僕の心臓が跳ねる。恥ずかしくて思わず視線をそらす。
「いや、たまたま、たまたま通りかかっただけだよ」
そんな見え透いた嘘なんて、可琳には通じない。彼女は「ふふっ」とお見通しだと言わんばかりに微笑む。
「じゃあ、明日十時頃に迎えに行くね。それでいい?」
「ああ」
僕がそう答えると、可琳はあっさり「じゃあ、また明日」と手を振った。
僕に期待させるような言動をたくさんしておきながら、最後はやけにあっさりと帰ってしまった。やっぱり、窪と可琳に遊ばれてるだけなんだろうか。
そんな疑念が頭をよぎるけれど、どうしても彼女と再び会えたことへの喜びが勝ってしまう。
鼻歌交じりに、軽い足取りで帰路につく。こんなに楽しい気持ちになったのは、一体いつぶりだろう? 東京に出てから、少なくともこんなに心が踊ったことはない。
――いや、東京に出てからではなく、可琳がいなくなってからだ。
あの頃から、可琳のいない世界はどうしようもなく退屈で、何をしても心が満たされることはなかった。
厨房から戻ってきた窪が、ラーメンの丼とビールをドンとテーブルに置きながらからかうように言った。
可琳が「えへへ」と照れくさそうに笑う。僕の方はすでに限界だ。そんな僕らを一瞥し、窪は小さくため息をつく。
「お前ら、もう付き合っちゃえよ!」
窪がサラリと言い放ったその一言が、僕の頭を真っ白にした。
「は、はあ?」
僕はうっかり大きな声を出してしまい、動揺しておろおろする。だが、その横で可琳は、少し首を傾げながら「付き合えたらいいけどねー。でもハチ、東京だからー……」なんて、軽く言うものだから、僕の動揺はさらに加速した。
「はあああああ?」
顔がますます熱くなり、僕の顔は今、ゆでダコのようになっているだろう。
一方の窪は、カウンターまで自分の分のラーメンを取りに行き、再びドンと丼をテーブルに置くと、追い打ちをかけるように言った。
「だってどう考えたって、お前ら両想いだろ? 時安もせっかくこっちに戻ってきたんだからさ、遠距離でもなんでも、一度付き合ってみればいい!」
ビールを豪快に飲み干したあと、ラーメンをすする窪。その無邪気さがむしろ恨めしい。
可琳が「でもさ」と、少しうつむきながらまつ毛を伏せる。
「東京に彼女いるかもしれないし」
「いないよ!」
僕は即答した。思いがけず大きな声が出てしまって恥ずかしい……。
なんだろう、この空気。僕は二人にからかわれているんだろうか。
「まあまあ、とりあえずラーメン、伸びる前にさっさと食え」
窪に促され、僕は顔を真っ赤にしたままラーメンをすする。懐かしい味が口いっぱいに広がる。昔とまったく変わらない味に、なんだかほっとした。
そして、この時すでに、僕の中で一つの答えが固まっていた。
ラーメンを食べ終えると、僕たちは窪の店をあとにした。
ラーメンのせいか、それとも可琳のせいかわからないけれど、火照った身体を夜風が優しく冷やしてくれる。街灯に照らされた可琳の横顔を盗み見た瞬間、胸がキュッと締めつけられた。
「明日、ハチの家まで迎えに行ってもいい?」
ふと可琳が言う。可琳の口調はとても自然だったけれど、僕は少しだけ戸惑いながら答えた。
「僕が迎えに行くよ。そういえば、可琳の家、なくなってたけど……今、どこに住んでるの?」
その言葉に、可琳は一瞬だけ沈黙する。そして少し茶目っ気のある表情で言った。
「……内緒! っていうか、私の家、見に来たんだ?」
その問いに、僕の心臓が跳ねる。恥ずかしくて思わず視線をそらす。
「いや、たまたま、たまたま通りかかっただけだよ」
そんな見え透いた嘘なんて、可琳には通じない。彼女は「ふふっ」とお見通しだと言わんばかりに微笑む。
「じゃあ、明日十時頃に迎えに行くね。それでいい?」
「ああ」
僕がそう答えると、可琳はあっさり「じゃあ、また明日」と手を振った。
僕に期待させるような言動をたくさんしておきながら、最後はやけにあっさりと帰ってしまった。やっぱり、窪と可琳に遊ばれてるだけなんだろうか。
そんな疑念が頭をよぎるけれど、どうしても彼女と再び会えたことへの喜びが勝ってしまう。
鼻歌交じりに、軽い足取りで帰路につく。こんなに楽しい気持ちになったのは、一体いつぶりだろう? 東京に出てから、少なくともこんなに心が踊ったことはない。
――いや、東京に出てからではなく、可琳がいなくなってからだ。
あの頃から、可琳のいない世界はどうしようもなく退屈で、何をしても心が満たされることはなかった。
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