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【第四章】残酷な世界
この世の終わり
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花火が終わり、空に静けさと闇が戻ってきても、可琳は来なかった。
僕は重たい足を引きずり、可琳の家の前まで歩いた。
玄関の電気はついておらず、窓からも明かりは漏れていない。人がいる気配もない。
インターフォンを押しても反応がなく、「すみません」と声をあげてみたが返事はない。
胸の奥に嫌な予感が広がる。僕は扉に手をかけた。鍵はかかっていなかった。
静まり返った家の中に足を踏み入れた僕は、躊躇しながら玄関のスイッチを押した。明かりが灯り、僕は叫ぶ。
「可琳! いるなら返事して!」
リビングに入った瞬間、僕は息を呑んだ。
そこには、まるでモデルルームみたいに、生活感の欠片もない部屋が広がっていた。
部屋には最低限の家具しか無く、そこに住む人の気配というものがまったく感じられない。
キッチンのシンクはピカピカに磨かれていて、テーブルの上には何一つ物が置かれていない。
洋室、そして階段をあがって、上にある二部屋も確認してみたけれど、どこも同じように、無機質な空間があるだけだった。
「どういう、ことなんだよ……」
呆然と呟く僕の声だけが、空っぽの家に虚しく響いた。
まるで最初から誰もここにはいなかったかのようなその空間は、僕の頭を混乱させた。
あの夏の日みたいに、可琳は再び、僕の前から突然消えてしまった。
*
僕は自宅に戻ると、「ごはんは食べてきたの?」という母さんの問いかけにもおざなりに答え、自室に入るとそのままベッドに身を放りだした。
何度も可琳に送ったメッセージを確認したけれど、既読にすらならない。
電話をかけてもつながらない。
僕はスマホを放り投げ、天井をじっと見つめた。
遠くから微かに笑い声が聴こえる。母さんがリビングで見ているテレビの音だろう。
いたって普通の、いつも通りの夜。なのに、僕だけが一人、この世界に取り残されているみたいだ。
もしかしたら、また母親に無理やり引っ越しさせられたのかもしれない。
あの夏の日みたいに、何も言わず、突然に――
いや、違う。
僕たちはもう、あの頃のように何もできなかった子どもじゃない。
それなら僕は……ふられたのか。
だったらなんで、僕の告白を受け入れてくれたんだ!
僕の胸に苛立ちが渦巻く。
結局僕は、からかわれていただけなのか?
いや、可琳はそんな子じゃない。
頭を思い切り振ると、ほんの少しだけ冷静になれた。
そもそも僕は、可琳のことをどれだけ知っていたのだろう?
僕たちは五年生まで同じクラスだった。
そう、ずっと一緒だったはずなのに、なんで僕の中の可琳の記憶は、ほんの1ヶ月ほどしかないんだろう。
その一ヶ月間の出来事は、とても鮮明に覚えている。けれど、それ以外の記憶は欠片すら残っていない。
僕が可琳を意識していなかっただけなのか? それにしたって五年も一緒にいれば、少しの思い出くらい残っていても、おかしくないはずだろう。
「ああもう……」
天井を仰いだまま、僕は大きく息を吐いた。
何もかも、どうでもよくなってきた。
結局ここも、僕の居場所じゃなかったんだ。
脳裏にふと、可琳の声が響いた。
――ハチ、よかったね。
「何がだよ」
思わず声が漏れた。僕はこんなに苦しんでいるのに。君がいなくなって、いいことなんかあるわけないじゃないか!
――今までありがとう。さようなら。
「なにがさようならだよ!」
これから始まるんだろ? 僕たちは、これから――!
脳内に浮かぶ可琳の姿は、相変わらず穏やかな笑顔を浮かべている。
何がいけなかったんだよ。僕のどこがいけなかった?
教えてくれよ、可琳。
僕はもう、君がいない世界なんて、考えられないんだ。
目を閉じたままの僕の耳に、やたらと騒がしい音が響いてくる。母さんが観てるテレビの音? いや、この音は、頭の中で鳴っている。
うるさい……黙れ。もう、ほっといてくれ。
しかし、その声は徐々に明確な言葉を帯び始めた。かすれた囁きが次第に力強くなり、何かを伝えようと僕を呼び続ける。
耐えきれず、僕はゆっくりと目を開けた――。
僕は重たい足を引きずり、可琳の家の前まで歩いた。
玄関の電気はついておらず、窓からも明かりは漏れていない。人がいる気配もない。
インターフォンを押しても反応がなく、「すみません」と声をあげてみたが返事はない。
胸の奥に嫌な予感が広がる。僕は扉に手をかけた。鍵はかかっていなかった。
静まり返った家の中に足を踏み入れた僕は、躊躇しながら玄関のスイッチを押した。明かりが灯り、僕は叫ぶ。
「可琳! いるなら返事して!」
リビングに入った瞬間、僕は息を呑んだ。
そこには、まるでモデルルームみたいに、生活感の欠片もない部屋が広がっていた。
部屋には最低限の家具しか無く、そこに住む人の気配というものがまったく感じられない。
キッチンのシンクはピカピカに磨かれていて、テーブルの上には何一つ物が置かれていない。
洋室、そして階段をあがって、上にある二部屋も確認してみたけれど、どこも同じように、無機質な空間があるだけだった。
「どういう、ことなんだよ……」
呆然と呟く僕の声だけが、空っぽの家に虚しく響いた。
まるで最初から誰もここにはいなかったかのようなその空間は、僕の頭を混乱させた。
あの夏の日みたいに、可琳は再び、僕の前から突然消えてしまった。
*
僕は自宅に戻ると、「ごはんは食べてきたの?」という母さんの問いかけにもおざなりに答え、自室に入るとそのままベッドに身を放りだした。
何度も可琳に送ったメッセージを確認したけれど、既読にすらならない。
電話をかけてもつながらない。
僕はスマホを放り投げ、天井をじっと見つめた。
遠くから微かに笑い声が聴こえる。母さんがリビングで見ているテレビの音だろう。
いたって普通の、いつも通りの夜。なのに、僕だけが一人、この世界に取り残されているみたいだ。
もしかしたら、また母親に無理やり引っ越しさせられたのかもしれない。
あの夏の日みたいに、何も言わず、突然に――
いや、違う。
僕たちはもう、あの頃のように何もできなかった子どもじゃない。
それなら僕は……ふられたのか。
だったらなんで、僕の告白を受け入れてくれたんだ!
僕の胸に苛立ちが渦巻く。
結局僕は、からかわれていただけなのか?
いや、可琳はそんな子じゃない。
頭を思い切り振ると、ほんの少しだけ冷静になれた。
そもそも僕は、可琳のことをどれだけ知っていたのだろう?
僕たちは五年生まで同じクラスだった。
そう、ずっと一緒だったはずなのに、なんで僕の中の可琳の記憶は、ほんの1ヶ月ほどしかないんだろう。
その一ヶ月間の出来事は、とても鮮明に覚えている。けれど、それ以外の記憶は欠片すら残っていない。
僕が可琳を意識していなかっただけなのか? それにしたって五年も一緒にいれば、少しの思い出くらい残っていても、おかしくないはずだろう。
「ああもう……」
天井を仰いだまま、僕は大きく息を吐いた。
何もかも、どうでもよくなってきた。
結局ここも、僕の居場所じゃなかったんだ。
脳裏にふと、可琳の声が響いた。
――ハチ、よかったね。
「何がだよ」
思わず声が漏れた。僕はこんなに苦しんでいるのに。君がいなくなって、いいことなんかあるわけないじゃないか!
――今までありがとう。さようなら。
「なにがさようならだよ!」
これから始まるんだろ? 僕たちは、これから――!
脳内に浮かぶ可琳の姿は、相変わらず穏やかな笑顔を浮かべている。
何がいけなかったんだよ。僕のどこがいけなかった?
教えてくれよ、可琳。
僕はもう、君がいない世界なんて、考えられないんだ。
目を閉じたままの僕の耳に、やたらと騒がしい音が響いてくる。母さんが観てるテレビの音? いや、この音は、頭の中で鳴っている。
うるさい……黙れ。もう、ほっといてくれ。
しかし、その声は徐々に明確な言葉を帯び始めた。かすれた囁きが次第に力強くなり、何かを伝えようと僕を呼び続ける。
耐えきれず、僕はゆっくりと目を開けた――。
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